11ー14 秘密のお話 その三

 今日は、ベルム歴731年初春(月)の13日。

 長男のフェルディナンドを始め、子供達の5人が6歳になっている。


 数え年なんで、満年齢では4歳から5歳になるんだが、この世界の一年は480日だから、1年365日の地球世界で考えると、もう少し年齢が上だな。

 一番上のフェルディナンドが生まれて2271日、6歳では一番下のマキシミリアンで生まれて1964日経っているから、フェルディナンドで6.2歳、マキシミリアンで5.4歳というところだろうか。


 27番目の子で一番幼いディアナは、こちらの世界で一応3歳なんだが、生まれて五百日余りなので、地球世界で言えば1歳半にもなっていない。

 いずれにしろ俺の子供たちは、数えで3歳から6歳までに27人いるんだが、このうち6歳の子達5人は領都にある幼年学校にこの晩春から入ることになっている。


 幼年学校で教えられる初等教育の予習については、嫁s達にある程度任せていた。

 だが、こと魔法になると、嫁が教えるとなれば魔法の素養のあるフレデリカかリサが教えるしかない。


 他の者が全く使えないわけではないんだが、王族や貴族の嗜み程度や生活魔法が使えるぐらいなのである。

 貴族の子女で魔法の素質に優れた者は往々にして魔法師団に入るために王都にある魔法学院に入り研鑽を積むのだが、俺の嫁sで、フレデリカとリサ以外は左程の素質は無かったようで魔法学院に入っていないのだ。


 フレデリカはエルフであり、元々魔法に長けている一族だ。

 リサの場合は、元々素質があった上に、両親の自殺やメイドの裏切りも有って周囲への不信感や恨みからエクトプラズムとなって自力で魔力と魔法能力が発現した特異な例だ。


 フレデリカとリサは、ジェスタ王国の王宮魔導士の力量ぐらいはあるとみてよい。

 但し、その二人でも子供たちのメンター導師になるには役不足の感が拭えない。


 俺の子供たちは27人全員が魔力量でフレデリカとリサを上回っている。

 フェルディナンドで約4倍強、末っ子のディアナでさえ倍近い魔力を保有している。


 教師が生徒よりも弱くても教えることはできるんだが、限界はあるよな。

 教師役は子供たちを導いて行く力が無ければならないから、フレデリカやリサには酷な仕事になる。


 だから俺が子供たちの魔法教育をしようと思うのだが、その辺を嫁sに理解してもらうために現状をまず説明した。

 その上で、俺の作った亜空間の中で、他の世界に通じる通路を見つけたことを話した。


 俺が異世界を調査に出かけている間に、子供たちは俺が居ないのに気付いて、俺を追いかけて亜空間の中にまで自力でやって来た。

 自力でやって来たのは年長組の5人だけだったが、長男のフェルディナンド曰く、他にも同じことができる子がいることを教えてくれたことも話した。


「フェルディナンド、空間魔法が使える子は他にはだれが居るの?」


「えーっとねぇ、エミリアでしょう。

 セシリアにイスマエル、ロベルトにトリスタン、それにクリスティアも使えると思う。

 フィデル、イサク、セレスティア、ルイスの四人はもう少しのところまで来ているけれどまだ少し時間がかかると思う。

 それ以外の子はまだまだだよ。」


 空間魔法を使える子が11名、間もなく使えそうな子が4人いるようだ。

 フェルディナンドの情報で判断する限り、空間魔法を使えない子は産まれて1440日未満の子達だろうな。


 満年齢で3歳前後になると使えそうになるのかもしれない。

 これもフェルディナンドとアグネスが率先して教えているからだろう思う。


 うちの子は、とにかく面倒見が良いんだ。

 弟妹達のことは凄く可愛がるし、面倒を見ている。


 御付きのメイドが気づかないことにも気づいてしまうのは、兄弟姉妹同士で念話を使っているからだろう。

 だから下の子達も魔法の覚えが速いんだが・・・。


「俺は、空間魔法で造った亜空間に、ホブランド以外の異世界に通じる道ができたことは、おそらく偶然の産物だと思う。

 未だ試してはいないんだが、当該亜空間をいったん閉じて、再度開いた時に、同じ異世界につながる通路があるかどうかはわからない。

 仮につながったにしても、百回やって毎度同じ異世界に通じるとは限らない。

 そうして仮に子供たちが同じように亜空間を作った場合、そのような現象が起きない可能性もあるが、同時に全く別の異世界につながる可能性もある。

 更にそこが人の住める世界では無かった場合、そこに飛び込んだ子供は死ぬかもしれない。

 ウチの子供たちは総じて賢いから無茶はしないとは思うけれど、遊び感覚で安易に考えて飛び込むことも無いとは言い切れない。

 だからその危険性を子供たちに教えるに際して、母であるお前達にも情報を教えておこうと思ったのだ。

 俺は子供たちにそれなりの規制はしようと思うけれど、理不尽な禁止をするつもりはない。

 子供は日常の生活や遊びの中で様々な危険に遭遇し、必要な知識を覚えて行くものだ。

 火傷を知らずに育った子供は、たった一度の失敗で焼け死ぬかもしれないが、軽度の火傷を負った子供は火を恐れ熱を感じて避けようとするだろう。

 そのことが子供たち自身の命を助け、成長を促す。

 無理やり火傷をさせようとは思わないが、自然に危険を覚えることは大事だよ。

 で、今俺が亜空間の中に抱えている異世界への通路は、そのまま開いている状態で維持している。

 尤も、凄く小さい通路でね。

 水滴すらも潜り抜けられないほど小さいから、向こうの世界から怪物が侵入してくるようなことは無いだろうと思っている。

 俺は、向こうの世界を「セカンダリオ」と名付けて調査中だが、セカンダリオで魔法を使える者は居ないか居てもとてもとても少ない状況のようだ。

 その代わり、自然の摂理を利用した科学技術が発展している世界だ。

 その意味でホブランド世界とは異なるな。

 棲んでいる者達は、ホブランド世界の住民と似て非なる種族だ。

 仮にその習慣や掟などを知らないで訪れると、それこそ痛い目を見ることになるやもしれない。」


 嫁s達は目を丸くして驚いている。


「セカンダリオが安全だと分かれば、相応の手順を踏んでお前達も含めて異世界に連れて行っても良いと思っている。

 特に子供たちについては、これから1年間訓練と教育を施してから、当該世界、若しくは別の異世界をも発見した場合には、そちらにも連れて行こうと思っている。

 無論、俺が行けると判断した場合に限るし、連れて行くのは、俺が見て大丈夫だと判断した子だけで、最低限、誕生してから2400日を経た子でなければ連れて行かない。

 まぁ、そんな事を考えているわけなんだが、お母さんたちの意見を聞こう。」


 端的に言って、嫁sの意見は感情的なものが多く否定的な意見だった。

 そもそもそんな異世界に何故関わる必要があるとの意見が主だったな。


 思いもかけず、フェルディナンドとアグネスが反論したよ。

 フェルディナンドが言う。


「僕たちは、多分、普通の子じゃないと思う。」


 アグネスが続けた。


「だから将来大きくなって、お父さんやお母さんのように結婚する歳になって、困るのは私達にふさわしい相手が居るのかどうかということを心配しています。」


 フェルディナンドとアグネスが、示し合わせたように交互に語り掛け、質問を投げかける。


「このホブランドにも僕と同じぐらいの年齢の女の子はたくさんいるんだろうと思うけれど・・・・。

 僕は貴族だからと言って、お仕着せのお嫁さんを貰いたいとは思わない。」


「私も、貴族の家柄という身分を鼻にかけて傲慢な態度をとる、能力のない男の子を将来の旦那様に迎えたくはありません。」


「だから、僕らは自分の眼で見て、相応しい相手も見つけたいと思っています。」


「お母様たちは、それを許していただけますか?」


 嫁s達は焦った。

 まさか6歳の子にそんなことを問いかけられようとは思わなかったからだ。


 他の嫁達が中々言い出しにくそうにしているので、コレットが取り敢えず反応した。


「私たちはいつでもあなた方子供たちの幸せを願っています。

 でも将来の結婚の話は、貴方たちには如何にも早すぎるのではないかしら。」


「はい、その通りですけれど、少なくともこのジェスタ国には僕やアグネスに似合うような候補者はいませんでした。

 もし僕やアグネスが探すとしたなら、他の国を探すことになります。」


「ジェスタ王国って・・・。

 一体どうやって?」


「私とフェルディナンドは広範囲にわたって人を鑑定できますし、その人の能力をおよそ知ることができます。

そうして転移もできますので、お母様たちが知らない間に遠出して調べた結果です。」


 呆気にとられた嫁s達には気の毒だが、ウチの子供たちは、切磋琢磨しながら育っているから俺よりも能力の高い部分もありそうだ。

 広範囲の人の能力を探るという魔法は俺も試したことは無いが、それで確認したというなら間違いのないことなのだろう。


 彼らがそう判断する以上、俺の立場で婿や嫁を強要する気にはなれない。

 俺はその旨を告げた上で敢えて嫁sに言った。


「子供は親の元をいずれ離れて行くものだ。

 それが異国だろうと異世界だろうとかまわないじゃないか。

 ウチの子らは多少の距離が有っても行き来できるんだ。

 行きっぱなしにはならないよ。

 尤も、お母さんたちの強要を嫌がって、家出でもすれば別だけれどね。

 子供たちの行ける場所なら、多分、俺も行けるはずだ。

 だからそこがどこであろうと、俺がお母さんたちを連れて行ってあげるよ。

 タダね、27人もの子供の嫁さんと婿さんを見つけるのは大変だと思うぜ。

 うちの子は特に能力が低い相手は初っ端から無視すると思うぜ。

 それよりは他国や異世界の方が間違いなく候補者は増えるような気がするな。

 例えば、コレット、・・・。

 フェルディナンドのお相手に、眼が見えず、耳も聞こえず、しゃべれない見栄えの良い貴族の女の子がいたとして、その子をフェルディナンドの許嫁として認めるかい?」


「まさか、・・・。

 目も耳も不自由で、言葉も出せないような子は,人としての知識、能力に欠けるはず。

 そんな子をフェルディナンドの許嫁として認めるわけには行きません。」


「なるほど、まぁ、それが普通だろうね。

 俺もその子が人としての素養が無くって獣のように本能のままに生きているなら許嫁としては認められないだろうな。

 でも、その子が目で見えず、声も聞こえず、言葉では自分の意思を伝えられないとしても、特殊な能力があって、他の能力で補えるのであれば、そうして何よりもフェルディナンドがその子を認めるならば、許嫁として認めてあげても良いと思っている。

 コレットが問題にしたのは人としての一般的な能力だけれど、フェルディナンドやアグネスが求めているのも、自分たちを基準にした高い能力なんだ。

 その基準に劣る者をそうそう簡単に認めるわけにも行かないと思うぜ。

 俺の場合は、誰彼拒まずだったから嫁が増えちゃったけれど・・・。

 子供たちはしっかりと伴侶となる者を選ぶんじゃないかな。

 俺としては、子供たちの能力を認めてやってほしいし、そうして暖かくその将来を見守ってほしいな。

 それが此処に皆を集めた一番の理由だ。」


 その後もなんやかやと話はあったが、子供たちが得意な魔法能力を持っていること、その訓練を俺が始めること、俺の作った亜空間に異世界につながる通路があることを伝え、嫁達もそれを理解した。

 子供たちの嫁探しや婿探しについては嫁達が必ずしも納得はしていないので来るべき将来には一波乱が起きるかもしれないが、子供達が異国を含めて良い人を探してみることは取り敢えず認めてくれたようだ。


 俺の子供達は皆良い子だけれど、現状、嫁s達では子供たちの暴走を止めることもできないからね。

 子供たちが母親を大事に思ってくれていること、それだけが心の支えかも知れん。


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