11ー13 秘密のお話 その二

 俺が指示をすると、δデルタ001号が俺のすぐ脇に姿を現した。

 δ001号は、δ型ゴーレムの一号機ではあるんだが、同時に改良を行う際のパイロット機種にもなっている。


 もちろん一番大事な役目は、俺の家族を守る三桁の頭に「0」が付くゴーレムの取りまとめ役であることだ。

 俺の嫁の一人一人、子供たちの一人一人には必ず一体のδ型ゴーレムが付いている。


 彼らは24時間俺の家族についており、必要に応じて更なるサブ・ゴーレムやドローンを使うことができるようにもしている。

 そのδ001号が声を出す。


 人の声に似せてはいるが、魔道具で造った合成音だ。

 どちらかというと若い男の声なんだが、少し高い声なので中性的な声にも聞こえてしまう。


 このゴーレムの外見は、ヒト型ロボットのC-3POに近い体型で、リアルに近い表情を見せることができるようにしたはずなんだが、・・・。

 プログラムのバグかどうかわからないが、実際問題としては「笑わない」、「泣かない」、「怒らない」、そうして「笑わない」から表情の全く変わらない能面スタイルのアンドロイドだな。


 暇のある時に、地球からアンドロイド・プログラムをパクってこようとは思っているんだが、電気を使っているわけじゃないから、電気信号を魔法の動きに換えるのがかなり面倒なんだ。

 恐らく、それで不具合があって表情が変わらないのじゃないかと思っている。


 まぁ、ロボットなり、アンドロイドなりに感情表現を求める方が間違いなんだけれどな。

 地球世界では、ある意味で芝居になってしまうんだが、場合分けをしたルーチン化でそれらしく表情を見せられるアンドロイドが出現しているんだぜ。


 向こうは無数ともいえるプログラマーが居るのに俺の方は一人だからな。

 如何に知識習得の速いチート能力があったにしても追いつけないものはあるんだよ。


「私は、マスターによって作られたδ型ゴーレムの001号機です。

 皆様に面と向かってお会いするのは、初めてでございますが、私達はいつでも異なる時空間から皆様を見守っています。

 奥様方それにお子様方にお一人に一体、私の仲間が付いており、常時奥様方やお子様たちを守れるようについております。

 私たちが通常存在している時空間は、皆様方の眼で見ることはできません。

 しかしながら、お子様方の半数は私達の存在をどうやらかぎつけていらっしゃるようでございまして、時折私たちが居る空間へ向かって笑顔を向け、或いは、手を振ってくる場合がございます。

 私の役割は、皆様方についているゴーレムの取りまとめをして、マスターに定期的な報告を為すことです。

 これまでのところマスターに報告すべき緊急事態や特異事象は起きておりません。

 万が一、奥様達やお子様たちに危険が迫り、最悪の事態が予想される場合は、私達が私達の時空間を出て皆様をお守りします。

 従って、私と同じ出立いでたちのゴーレムが皆さまの目の前に突然出現するとすれば、私たちが危険と判断した場合、若しくはマスターに命じられた場合に限ります。

 危険と判断しない例を申し上げると、お子様たちが幼い時に、庭で遊んでいて転ばれても私たちは手助けをいたしません。

 転んでも多少の怪我であればすぐに治るものと承知しているからです。

 仮に相当の重症を負うような場合でも、マスターが間に合うならば手を出さないことになっています。

 但し、マスターがよんどころない事情でその場に来られない場合であって、他に誰も助ける者が傍にいない場合は私どもが救助します。

 同様に刺客が皆さまのお命を狙うような場合、それが避け得ぬ事態であれば我らは姿を現しても皆様をお救いします。

 その場合、刺客である者の命は確実に奪うことになります。

 ある意味で物騒なお話になりましたが、これが私どもの仕事でございます。

 普段は姿を現しませんが、姿を現したときは必要最小限度の時間にいたしますのでどうかご容赦くださいませ。

 マスター、以上でよろしいでしょうか?」


「あぁ、ありがとう。

 戻ってくれていいよ。」


 δ001号は瞬時に目の前から姿を消した。

 シレーヌが俺に訊いた。


「今のゴーレムは、別の時空間に居ると申していましたが、ゴーレムが空間魔法を使えるのですか?」


「ゴーレムが空間魔法を使えるわけではなくって、俺の作り上げた別の時空間に彼らが出入りできるようにしているだけのことだよ。

 彼らは必要に応じてその空間から僕らの今いる空間に出て来られる。

 彼らからこちらは見えるけれど、こちらからは本来彼らの存在が見えないはずだったんだが、子供たちはその存在に気づいてしまったようだ。

 これも子供たちが俺と同じ空間魔法を使える証拠のようなモノだろうな。」


 ケリーが恐る恐る聞いてきた。


「あの・・・。

 先ほどのゴーレムさんは、常時傍に付いていると言っていましたけれど、もしかするとお風呂やおトイレまでついてきているのですか?」


「うん、ケリーの心配通り、どんな場所にも必ずいるよ。

 僕らが夜の秘め事をしている時もしっかりと傍で見守っている。

 例外は一切ないね。

 申し訳ないが、その辺は諦めてくれというしかない。」


 嫁s全員の顔から一瞬表情が抜け落ちたように感じた。

 フレデリカがいち早く素顔に戻って尋ねて来た。


「その守護霊のようなゴーレムについては、私たちの付け人の誰も承知していないことなのでしょうか?」


「今ここにいる者以外で承知している者は誰も居ない。

 コレット、君のご両親や宰相も一切知らないことだ。」


 コレットが呆れたように言う。


「なんとまぁ、とんでもない警護の騎士をつけたものですね。

 して、その騎士ゴーレム達か或いは守護ゴーレム達かの力量はどうなのでしょうか?」


「そうだな、・・・。

 ゴーレム一体でもジェスタ王国の近衛騎士団を相手に負けはしないだろうな。

 魔法耐性も強いから王宮の魔法師団が総力でかかってきても、ゴーレムの張る結界は破れないだろう。

 そうして、余程のことが無い限り、第三者を傷つけないようにはしているんだが、護衛対象者に対して明確な殺意を持って攻撃してくるような相手には容赦がない。

 先ほども001号が言ったように、刺客はその命を以て罪を償う事になるだろう。

 その場合、刺客が生き残れる可能性は全くゼロだ。」


 コレットがさらに続けた。


「そんなに強いゴーレムがここにいる人数分も居るのですね。

 若しや、それだけで国を亡ぼせるのでは?」


「正直なところ、国を亡ぼすのに、ゴーレムの力は不要だけれど、させようと思えばできるだろうね。

 断っておくが俺にそんな野心は無いよ。」


 シレーヌが言った。


「因みに、ゴーレムはここにいる者達の護衛だけでしょうか?

 若しやもっと多数のゴーレムを従えているのではないのですか?」


「中々鋭いね。

 ここでは、必要な分だけ色々と配置していると言っておこう。

 その数や配備している場所それに役割などは教えてあげないよ。」


 リサが言った。


「子供に関する秘密というのは、それだけのことなのでしょうか?

 私達を陰ながら守っている存在を知らしめるだけのために、わざわざ皆を集めてこの地下シェルターに転移したとは思えないのですけれど。」


「あぁ、守護ゴーレムについての質問が無ければ次に移ろう。

 守護ゴーレムは単なる導入の話題にしか過ぎないんだ。

 次の話に移っていいかな?」


 若干不安げな表情を見せている嫁も居たが、嫁sが揃って頷いた。


「子供たちが空間魔法を使え若しくは使えるようになるだろうということは先ほど言ったのだが、空間魔法は色々と応用の効く魔法なんだ。

 単純な話、時間の流れが違う亜空間を生み出すことができる。

 δ001号が潜んでいる空間はディアトラゾ空間という名前を付けているが、俺が生み出した独特の空間だ。

 そこは、今我々が居る世界と百分の一秒遅れた時空間なんだ。

 だからお前さんたちを守っている守護ゴーレムは百分の一秒経ってからこっちの様子を見ることができている。

 だからこちらで起きていることがそのまま見れているわけじゃない。

但し、彼らの反応速度は非常に速いから何かの事象が起きてもその百分の二秒か三秒後には反応できているだろう。

 こちらから見ると瞬時に反応しているように見えるはずだ。

 例えば弓で射る矢の速さはものすごく速いんだが、百分の一秒の時間で言えば、腕の長さほどしか進まないものなんだ。

 仮に10身長分ほどの距離から弓を射られても、その矢をつかみ取るぐらいの芸当は十分にできるんだ。

 まぁ、その辺は置いといて、実はその時空間を百分の一秒遅らせるのじゃなくってこちらの時間の流れから見るとずっと遅くしたり、早めたりもできる。

 例えば、時間を早めた空間に植物を置いておけば、こちらの世界で半日ほどしか経たないのに、別の亜空間では五十年が過ぎているというようなことが起き得るんだ。

 無駄なことはそうそうはしないけれど、朝に種をまいたばかりの植物が、昼過ぎには大木に育ち、夕刻には枯れているというようなことも起きうる。

 その逆に、こちらでは1年が過ぎているのに、亜空間では一日しかたっていないということも起き得るんだ。

 前の例の場合は作物を育てたりするのに便利だし、後の例では新鮮な食物を長く保存するのに便利だよね。

 実際に、俺の場合は、発酵食品を作るのに時間を早める亜空間に入れて発酵を促進したりしているよ。

 まぁ、そんなことを俺がやっているとは言えないから人には内緒にしている。

 ここで知っておいてもらいたいのは、空間魔法では時間経過の異なる時空間を作ることもできるということを知っておいてくれ。」


 俺は少し間をおいて、その間に亜空間に用意しておいたお茶やクッキーを出して皆に配った。

 子供達にはミルクティーと柔らかめのふわふわ菓子を用意しておいた。


 普段は付いている筈のメイドや執事がやる仕事なんだが、今は誰も居ないから、俺がサービスしてやるしかない。


「ここからが大事な話になるんだが、子供たちの半分ほどは空間魔法が使えると言ったよね。

 その進度や練度も一律ではないんだろうが、子供たちの一部は自分の意思で空間転移ができるのだろうと思う。」

 

 子供たちも成長している。

 長男のフェルディナンドや長女のアグネス達は、数えで6歳になった。


 今年の晩春月には領内にある初等学院に入る年頃なんだが、ウチの子らの能力は同じ年頃の子に比べるとかなり頭抜けているからなぁ。

 学院での授業がつまらなく感じるかもしれん。


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