9ー7 黒龍アムールとの情報交換

 ファランド大陸で自立型ゴーレムのδタイプがイフリスの欠片らしきオーラを発見したことにより、δタイプが相互通信により、情報の共有化を図ったようだ。

 なぜなら、それから十日も経たずして他の三大陸からも相次いで発見の報告が入って来たのだ。


 ファランド大陸で発見されたものと大きさは多少異なっても同種のオーラが確認されている。

 しかも一つは大陸とは言いながら陸地ではなく海洋であるらしい。


 クルップ大陸西岸の海洋域で発見されたのは、ヒト型種族では無くてどうやら海龍であるようだ。

 ベルゼルト魔境と同様に海洋にも魔境域があるのかもしれない。


 俺は、情報交換のために黒龍のアムールに連絡を取ってみた。


「おう、リューマか。

 久しいのぉ。

 其方から連絡を入れるとは何かあったか?」


「アムールに尋ねたいことができたので連絡を取った。

 実はこのジェスタ王国の位置する大陸はアルバンド大陸と呼ばれている。

 アムールが住んでいる地域もそのアルバンド大陸の北部地域の一つになる。」


「ほうほう、この大きな島をアルバンドというのだな。

 それで?」


「このアルバンドの南東側に位置する大陸、まぁ、アムールの言う大きな島をクルップ大陸と称している。

 で、そのクルップ大陸の西岸で海龍が認められたのだが、アムールは海龍の存在を承知しているのか?」


「ほう?

 ここから南東に行くと海龍が居るという事だな?

 あるいは、我の知っているものかもしれぬが・・・・。

 それがどうした?」


「実はずいぶん昔に神と邪神が戦い、邪神が四分五裂して地上に降ったらしい。」


「ぬ?

 初めて聞く話じゃが・・・。

 何時頃の話じゃ?」


「今から少なくとも七千年ほど昔のことだ。

 その際、邪神も一応倒れたものの、神も地上で闘ったために力尽きたようだ。

 今居る神はその時に代わったと聞いている。

 今代の神とは情報交換ができるけれど、その時の詳しい様子をどうやら知らぬようだ。

 邪神は、確かに一旦は破壊されたが、邪神の欠片が五つに分かれて地上に降り注ぎ、大きな島のひとつずつに落ちたようだ。

 で、問題は先頃、その欠片の一つが人の身体の中に入って悪さをしたのだ。

 どちらかというと邪神の復活の序章といった感じかも知れない。

 幸いにして大事に至らぬうちにその欠片ごと封印できたが、実はほかの四つが未回収なのだ。

 この欠片を持つモノは仮に只人ただびとであっても強大な力を保有するようになるらしい。

 正直に言って、前回は私の力では退治できず、封印するのがやっとだった。」


「封印とな?

 封印はいずれ破れるものぞ。

 何故に封印に頼る。

 お主が死ねば間違いなく封印は解き放たれ、そのモノが蘇るではないか。」


「それが困るから一工夫はしている。

 アムールはこの星が丸いことを知っているか?」


「おお、確かに・・・。

 高所を飛べばこの大地が丸く見えるし、西なら西に向かって真っすぐ飛べば、やがて元の場所に戻って来るから、 この大地が大きな球状になっておるのは知っておるぞ。」


「では、この球状の大地を離れてほかの星に行ったことはあるか?」


「いや・・・。

 無いな。

 そもそも高く飛び上がれば我の吸う空気も魔素も無くなる。

 元々我の身体の耐性は強いが、それでも空気の無いところで二日は持たぬだろう。

 故に他の星に行ったことはない。」


 ホゥ、これはまた規格外の話だな。

 アムールなら真空中で少なくとも一日ぐらいは持つという事か。


 俺の得意な酸素奪取の魔法はアムールには効かんという事だな。


「この星の周囲には空気が取り巻いている。

 私を含め、生きとし生けるものはこの大地の周りに在る空気で守られ、生を営んでいるのだが、一方で、その空気がほとんどなくなる空間は真空と呼ばれ、宇宙の大部分を成している何も無い空間だ。

 この何も無い空間を突っ切って行くと様々な星と呼ばれる天体がたくさんある。

 空気を抱えている星もあるが数は少ないな。

 夜空に見える無数の星が、非常に遠くにある星の一つ一つだ。

 そうしてこの私とアムールのいる星が所属する星の群れは全体が巨大な球状にまとまっている。

 仮にアムールがその端から端に向かって全力で千万年単位で飛んだにしても、端には絶対に到達できないほど広い空間なのだ。

 その大きな球状の中心部にすべての重力が集まっている場所がある。

 私はそれを超ブラックホールと呼んでいるが、周囲の物を何でも吸い込む力を持っており、光でさえ曲がり、あるいはそこから出られなくなる場所だ。

 私は、封印した邪神の欠片の一つをそのブラックホールの周辺部に置いてきた。

 いずれ巨大なブラックホールの中心部へと吸い込まれるだろうが、実はその近傍では不思議なことが起こり得る。

 仮にそこでも生きていることができるとするならば、時間が引き延ばされるのだ。

 この世界で千年経っても、そこで生きる者によってはほんの一瞬でしかない。

 そうして形あるものはいずれ壊れるから、そのブラックホールとて悠久の先には崩壊するやもしれぬ。

 だから封印した邪神の欠片がその際にどうなるのかがわからないが、少なくともこの世界が続く間は戻って来ることはないだろうと思っている。」


「ふむ、その辺の理屈は我にはわからぬが・・・。

 其方、海龍もそこへ送り込むつもりか?」


「人であっても邪神に侵されれば正気を失う。

 海龍も同じく、今は問題なくても時間の問題でやがて邪神の欠片に支配されて正気を失うことになるだろう。

 人外の力と邪神の力が融合すれば前回のように封印できるとは限らないと判断している。

 そもそもが邪神の欠片を取り込んだ者には、私の魔法がほとんど通じなかった。

 重力魔法が僅かに効いたので、欠片ごと小さなブラックホールに閉じ込め、時間をかけて天空の中心まで運んだのだ。

 それ以外に取り敢えず排除する方法を思いつかなかった所為だが・・・。

 アムールならば何か良い方法を思いつけるか?」


「いや、先ほどの話しぶりでは神と相打ちになったほどの相手なのじゃろう?

 我とて神に立ち向かえるとは到底思えない。

 今代の神はどうなのじゃ?」


「今代の神は基本的に下界には手を出せぬ掟の様だ。

 それでも世界の破滅が迫ったならば相打ち覚悟で力を振るうと言っていた。」


「ふむ、当座の危機には間に合わぬという事じゃな。

 最後の最後になって出張って来ても、その前に世界の大部分は壊れてしまうやもしれぬぞ。」


「その通りだと思う。

 だから今代の神はそれまでの間のことを俺に託してきた。」


「何とも割の合わない仕事を押し付けられたな・・・。

 で、海龍がその邪神の欠片とやらを保有しているのは間違いないのか?」


「私も自分の目で確かめたわけでは無いが、私の手の者が信用できる者なのでほぼ間違いはない。」


「今一つ、その欠片に心が捉えられてしまうのは確実なのか?」


「確実かどうかは分からない。

 だが、アムールが復活した邪神に抵抗できないように、体内に欠片が入り込んだ時点で抵抗は無駄だろう。

 いずれ乗っ取られると思う。」


「ウムムムッ・・・。

 おそらくその海龍は我の知るモノだろう。

 我が空を統べる龍であるのに比べ、奴は海を統べる龍だ。

 他に大地を統べる龍もいるが、そ奴とは左程交流も無かった。

 だが、海龍は少なからず我と交流のあった仲間じゃ。

 少なくとも三千年ほど前には、そのような異常はなかったがのぉ。」


「私が封印した邪神の欠片が実際に支配力を得たのは精々ここ百年以内の話だ。

 実際に封印した人族の年齢は50歳前後だったからな。」


「ふむ、・・・。

 もし、仮に其方が海龍を封印するようなことになれば、海は荒れるだろうな。

 統べる者が居なければ混乱の極みが到来する。

 やがて海龍に代わるものが混乱を鎮めるだろうが・・・。

 短くても千年、・・・。

 海の魔物があちらこちらで暴れ出すようになるやもしれぬ。」


「何かそれを防ぐ手立てははないのか?」


「ん?

 無くもないな。

 其方が海龍の代わりに海を統べれば良い。」


「おいおい。

 アムール、私は人だぞ。

 魔物が人の言う事なんぞ聞くものか。」


「何、簡単な話よ。

 力こそ正義。

 力で押さえつけられれば、魔物とて否とは言わん。

 我や海龍が統べていたのは力による統治だ。

 言葉で説得したものではないのだぞ。

 お主ならできよう。」


「いや、できよう・・って、そんな無茶な。」


「ふん、海龍を封印しあるいは排除するならば、その代わりはそれを成すであろうお主の責任というだけの話だ。

 実に分かりやすい話ではないか。」


「私にそんなことができるとは到底思えないのだが・・・・。」


「我が見込んだヒトじゃぞ。

 聞けば其方は神と話ができる存在とのことでもあるし・・・。

 巫女でもそうそうは神とは話なんぞ出来まい。

 精々お告げを賜るだけの存在と聞いたが・・・。

 違うのか?」


「あぁ、まぁ、おそらくは神はその巫女とやらとは話をしては居まい。

 先ほども言ったが、神とは下界に干渉は出来ぬ掟らしい。

 それがお告げをして干渉したならば拙いだろう。

 だから巫女を名乗る者若しくはそれを利用したい者が勝手に産み出した偽物だろうな。

 尤も、巫女当人は自らの妄想を頭から信じ込んでいるやも知れぬが・・・。」


「ふん、まぁ、そうであろうな。

 なれば押し付けられたかどうかは別として、託された以上は其方が神の使徒じゃろう。

 うだうだ言わずにその任を果たせ。

 で、海龍のところに行くのであれば、我も連れて行ってくれぬか。

 古き友が如何様になっておるのか確認をしておきたい。」


「アムールも行くのか?

 アムールは転移ができるか?」


「転移?

 何じゃ?

 それは。」


「ある地点からある地点へと一瞬で移動する魔法だ。」


「それは知らぬな。

 我には翼があり、誰よりも早く飛べるでな。

 従って、そのような魔法は無用だった。

 で、リューマ、そなたはその転移とやらができるのか?」


「あぁ、できる。

 そうでもしなければ。ほかの大陸に監視の目など置くこともできまい。」


「なるほど、それもそうじゃな。

 然しながら、其方も大概に人外のものじゃな。

 そのような力を持つ者が出現するとは驚きじゃぞ。

 其方には確か子ができたはずじゃが・・・。

 或いはその子らにも其方の力が受け継がれるのか?」


「将来は分からぬ。

 が、私の子は魔力がいずれも多そうだ。

 だから、教えれば同じことができる子もいるやもしれぬ。」


「ほうほう、そなたとは精々一代限りかと思いきや、そなたの子孫とも付き合いができるやもしれぬな。

 そのうち我に其方らの子を見せてもらえぬか?」


「あぁ、それは構わぬが。

 アムールが龍の姿のままでは子供が怯える。

 せめて小さくなるなり、ヒト型になれよ。

 ならば子らに合わせても良い。」


「ふんふん、楽しみができたな。

 で、何時、海龍のところへ参るのだ。」


「今少し時間が欲しい。

 さっきも言ったが手立てを考えねば邪神の欠片には対抗できん。

 前回は重力魔法が多少なりとも効いたが、今回も効くとは限らん。

 下手をすれば返り討ちに遭うやもしれぬ。

 色々準備してから行くつもりだ。

 その準備ができたなら、アムールにも連絡しよう。」


「わかった。連絡を待っているぞ。

 では、またな。」


 うん、アムールに相談して、かえって拙い方向になったかも・・・。

 古き友かぁ。


 流石にその友を奴の目の前で封印とかは簡単にできなくなった。

 少なくとも海龍が狂気に陥っていることが証明できなければ難しいよな。


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