9ー8 Seal or Delete? (その一)
黒龍との情報交換を終えて、俺は思考の海に沈んだ。
海龍を含めて、邪神の欠片に対処しようとするならば、ブラックホール以外にも対抗策を立てておく必要があったからだ。
幸いにして、前回は顕現したイフリスの分身を亜空間に放り込み、次いでブラックホールに吸い込ませることができたが、奴が亜空間に閉じ込められなかった場合は、ブラックホールに吸い込ませることそのものが難しくなる。
通常空間でしかも地上でブラックホールを出現させれば、下手をすると世界が消滅する恐れもある。
従って、相手を亜空間に閉じ込められるかどうかがカギなのだ。
まぁ、重力そのものに抗することができる奴ならブラックホール自体が役に立たない可能性もある。
だから、それが使えないとなると全く別の手立てを考えなければならない。
一つは我身を護る防御方法、今一つは相手を倒すか無力化させる攻撃方法。
まぁ、相手が動けなくなれば亜空間に放り込むことも可能かもしれないのだが・・・。
拘束が可能であれば、それも一つの方策だな。
相手が空間魔法に熟知していたにしても、そこから転移できなくさせてしまえば閉じ込められる可能性もある。
空間魔法の封じ手か・・・。
俺は三日間色々な手法を模索し、ある方法を思いついた。
それは前世では解析できても、この世界ではおそらく誰もその存在を知らないはずのもの。
正直なところその特性は推測しかできないが、仮に俺がそこに入り込んだらおそらく抜け出せないだろうと思われるのだ。
邪神の欠片に通用するかどうかは分からないが一応の最適解ではあると思っている。
その後、続く10日ほどは、毎夜、俺のお勤め(嫁sに対する夫の義務)が済んでから、飛空艇研究所に通い詰めだ。
毎日二時間から三時間だけの話なのだが、これでは流石に身体が持たず、10日目には目の周りに隈を造って、嫁sに心配された。
なので、たまに地球世界に行って休憩して来ることを覚えた。
そうしているうちに地球世界に研究室の一部を転送することを思いついたのだ。
そうすれば、ホブランドで10分トイレに籠るだけで、3時間超ほど地球世界で休憩を兼ねて時間を過ごせるのだ。
人払いさせて工房に1時間籠れば、20時間ほどが自由に使える。
これは便利だった。
俺はその分嫁sや子供たちより歳を食ってしまうが、構わない。
実のところ、魔力の所為かそれとも進化なのか、俺の種族がいつしかヒト族からハイヒュームド(亜神?)に変わっていた。
幼女神様に聞いたが、ホブランドでは初めての種族だという。
で、寿命が長いんだそうだ。
幼女神様のお見立てでは最低でも寿命は500年以上になるそうな。
「お主も半分神じゃな。」
そう言われてしまったよ。
だから、地球世界との行き来で多少の歳を取ろうがあまり関係は無い。
時間があれば地球世界の研究室(アパラチア山脈の地下に新設した)に籠って、あれこれと実験をした。
出来上がったのが魔素をパージするEMP爆弾ならぬDMP(Deleting Magic Power)爆弾。
こいつは爆発すると物理的被害は皆無だが、爆心点から200m内の全ての魔素を消滅させる。
従って、その中では空気中の魔素を使い若しくは吸収することが全くできなくなる。
万が一俺がその爆発範囲に居ればMPが空になるだろう。
そうしてそれを防ぐための装備も必要だから、魔素を魔法エネルギーに変換するのを阻止するバリアを発生する人工結界を造ってみた。
本来は、魔法攻撃を無効化するためのバリアで、装置の周囲1m程度に結界を産み出し、そこに向けられた魔法攻撃を全て無効化する優れモノだ。
こいつが、DMP爆弾の消滅効果も無効化できるんだ。
そうして最終手段が、俺の魔法で生み出した特殊空間。
こいつは、まぁ説明は省いておこう。
正直なところ、今のところその効能が良くわからんから、余り説明もできんのだ。
これで万全とは必ずしも言えんのだが、一応の準備は整った。
海龍は最後にしようと思っているので、最初に人に入っている若しくは所持している邪神の欠片に対処することにしよう。
一人目は、
未だに
これまで特段の動きは見られない。
カルデナ神聖王国のケースでは、政治中枢に積極的に働きかけていたようなのだが、何故かそのような動きは見られないのだ。
但し、オーラの大きさからみていつでも顕現できるのではないかと思われる節もあり、無視はできない。
俺は全力で隠蔽をかけ、俺の目で奴を確かめようとした。
だが、奴は一瞬で俺の存在に気づいたようだ。
瞬時に奴を荒野に転移させ、重力魔法をかけてみた。
だが効果が打ち消され、奴の魔力が膨れ上がるのを感じた。
ために一挙に最終手段をとった。
奴を周辺の空間ごとi空間に放り込んだのだ。
少なくとも奴の気配は消滅した。
全ては、俺の存在が奴に気付かれてからわずかに1秒内外の出来事だった。
迅速に行動しなければ、奴に対抗策を採られ、若しくは俺が壊滅的な攻撃を受ける可能性もあったからだ。
奴の魔力は明らかに俺を上回っているんだろうと思われる。
で、i空間なんだが、いわゆる概念としての虚数空間だ。
俺たちの住んでいる居住区間を正の空間とすると、虚数空間は負の空間、そこでは正の空間の法則が成り立たない。
だからそこで魔法を発動しようとすると多分失敗する。
空気も普通じゃないから呼吸はできないだろう。
重力はひょっとして反重力になるのかな?
だからおそらくは宇宙空間に落ち込んで漂流することになるんじゃなかろうか。
奴がそこで何かをできるとは思えない。
この世界では想像もできない仮想数学の世界であり、本来はベクトルで表される世界だからだ。
俺は奴が消えた正にその地点を観測するようにδ539号に指示して、引き上げた。
毎日定時に
一応、グスタフ・マーランドがホブランド世界から邪神の欠片と共に消滅したものと判断した。
今のところ、他の三地点からの異常は報告されていない。
従って、邪神の欠片は相互に連絡を取っていないのではないかと考えている。
仮に連絡を取り合って、一体化すると俺でも対処できないかもしれないからな。
監視についている三地点のゴーレムには格段の注意力で監視を続けるよう指示をした。
◇◇◇◇
ファランド北大陸ベスタレッド連合国の商業自治都市ビアレド郊外100ケールほどの山地に深い洞窟があった。
その中ではいわゆる多数の魔物が主の指示を待っていた。
主は、時折、美味い餌をたくさん持って来てくれた。
餌はヒトと呼ばれる種族であり、か弱い生き物だった。
ちょっと力を入れただけで死ぬ。
然しながら、彼らにとっては餌であり、苗床でもあった。
できるだけ生かしつつ苗床として利用し、彼らは自らの種の数を増やしたのだった。
主の力は強大であり、どの魔物であれその力に逆らえなかった。
然しながら、彼らの前に姿を現す主は、実は本体の分身であり、百分の一ほどの力も発揮していないという。
その強大な主がある時言った。
「今少し待てばお前たちを地上に放してやろう。
お前たちの好きな餌が地上には無数に溢れているから食い放題になるぞ。
今少し力を貯めて数を増やしておけ。」
彼らは待った。
が、主が現れなくなって久しい。
彼らは大食漢であり、餌が無ければ弱体化するし、苗床が無ければ数も増やせない。
彼らに雌は極めて少ないのだ
だが洞窟の入り口は塞がれている。
主が勝手に出ないようにと塞いでしまったからだ。
彼らは主が指示をするまでひたすら待つしかなかったのだが、ついに限界点が訪れた。
常態的な飢餓は、そもそも不足気味の理性さえ奪って、彼らは生き残りをかけて共食いを始めたのだった。
最初に最も弱いゴブリン種やコボルト種が餌になった。
次いでウルフ種やオーク種が犠牲になった。
オーガ種も犠牲になり、さらなる上位種の多数のキメラが暴れ出し、相互に傷つけあって彼らは自滅した。
知られざる洞窟から魔物が消滅したのはグスタフが居なくなってから1年後のことであった。
因みに残された骨の類は総数で三万を超えていた。
この魔物の棲み処は後に瘴気を発し、
いずれも、人知れず処理された案件であった。
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3月16日、誤字脱字がありましたので修正いたしました。
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