8-9 非日常と見えざる敵
俺の日常は結構忙しい。
二つの新しい都市であるシタデレンスタッドとウィルマリティモの基盤整備、それにカラミガランダとランドフルトの産業振興だ。
俺の領地経営は今のところ非常に好調だ。
カラミガランダとランドフルト双方の農業政策も、五か年整備計画を官僚に立てさせ、実施しており治水・灌漑工事、作物の品種改良、農民教育と魔道具を使った農具利用などの方策が功を奏して年々収穫率が上がっている。
シタデレンスタッドにおけるダンジョンコア利用計画により、シタデレンスタッドの地下には大規模な農場が生まれて畜産が隆盛を迎えている。
ほとんどの仕事は部下に任せるようにしては居るので俺の仕事はかなり減ってはいるものの、どうしても最終的な管理者としての仕事はついて回っている。
俺の嫁sを教育して、俺の代わりに嫁sがかなりの分野の決済をできるようにはしているけれど、それでも俺の仕事はゼロにはならない。
のんびり異世界で悠々自適の生活を見込んでいた俺にとっては大分当てが外れたが、まぁ、仕方がないかと諦めてもいる。
ウィルマリティモで製塩業や造船業が始まってからは中々に家族サービスもできなかったのだが、練習船以外の交易船が既に4隻も就航し、海軍のフリゲート艦も四隻体制になって、今はほっと一息ついているところだ。
この時期を逃すとなかなか家族サービスができないから、俺は連続10日間の家族サービスデーを無理やり作った。
長男フェルディナンド、長女アグネスを筆頭に、8人の嫁sとの間に子供が全部で17名もいる。
あと一月もすれば、9人目の嫁で一番歳若の側室リサの第一子も生まれる予定だ。
まぁ、未だに言葉の通じない小さな子供も多いのだが、みんな可愛いぞ。
中でも年長組のフェルディナンドやアグネスたちは俺の顔を見ると寄って来て盛んに話しかけてくる。
「おとうしゃまぁ、僕ね、昨日おかあしゃまとお風呂に入ったの。
おかあしゃまと入れるお風呂がだいしゅき。
こんど、おとうしゃまもいっしょに入ろう?」
俺の膝の上で俺を見上げながらそう言って来るフェルディナンドの頭を撫でながら俺は言う。
「そうか、それは良かったな。
それと、今日は子供たちみんなを連れてお父様がお風呂に行くことにしているから、いつかお母様とフェルディナンドもお父様と一緒に入ろうね。」
「あい、やくしょくでちゅ。」
動ける子は、うっとおしいほどに俺に付きまとって来るけれど、俺と子供の普段は少ない触れ合いタイムなので、一人一人きちんと相手をしてあげるんだ。
今日も今日とて、庭にある遊具を使ってみんなで遊び倒している。
ようやく歩き始めて間もない子も、未だに這って移動する子もみんな集まってキャッキャッとはしゃぎながら泥まみれ砂まみれになりながら遊んでいる。
ハイハイもできない乳飲み子は、大きなベビーベッドの中に入って参加している。
嫁sも周囲に佇んで談笑しながら見守っており、そのお付きメイドも含めるとかなりの数が庭の一角に居ることになるんだ。
因みに嫁s達の仲は極めて宜しい。
但し、この触れ合いタイムでは、嫁sもメイドも滅多に手を出さない。
俺と子供たちの触れ合いタイムだと知っているから、子供に余程の危険が迫らないと動かないんだ。
因みに俺の子たちは、皆、結構な魔力持ちだ。
貴族の子は概ね魔力持ちが多いのだけれど、その中でも比較的優秀な子たちの平均を基準とすると俺の子は平均の7倍から10倍ほどの魔力を保有しており、俺の見るところ宮廷魔法師団の現役魔法師並みの魔力を持っているように思う。
魔力が余り多いと病気になる子も稀に居るのだけれど、俺の子たちは例外的に魔力耐性があるようで皆健康だ。
親としては非常に嬉しいことだ。
我が子たちが健康で人並みの知性を持った者に育ってくれれば何も言うことは無い。
10日間は余程の急ぎの用事が無い限り、家族サービスに努めた。
当然、嫁sとのデートもその中に入れている。
領内の視察を兼ねて半日だけの小旅行なのだが、意外に嫁sには好評だ。
どうやら俺に構ってもらえ、甘えられるその時間が嬉しいようだ。
夜の夫婦の営みとは別なんだが、普段は二人で色々話し、触れ合う機会がなかなか無い所為でもあるようなので、その点は反省しなければならないな。
ところでこの際だから子供たちの紹介をしておこうか。
コレットとの間に生まれた子は、長男フェルディナンド2歳(ホブランドでの2歳だよ)、三女エミリア1歳五か月、それに八男フィデル8か月の三人。
シレーヌとの間に生まれた子は、長女アグネス2歳、四男セシリオ1歳五か月、それに九男イサク8か月の三人。
マリアとの間に生まれた子は、次男サムエル1歳七か月、六男ロベルト12か月、七女イザベル1か月の三人。
ケリーとの間に生まれた子は、次女ビアンカ1歳七か月と七男トリスタン12か月の二人。
エリーゼとの間に生まれた子は、三男マクシミリアン1歳七か月と四女クリスティア12か月の二人。
カナリアとの間に生まれた子は五男イスマエル14か月、六女フランソワ3か月の二人。
ケイトとの間に生まれた子は十男ルイス六か月が一人。
フレデリカとの間に生まれた子は五女セレスティア14か月が一人。
そうしてまだ生まれてはいないが、リサの他に四人が懐妊しているので今後も子供が増えることになる。
将来的に俺の爵位を継げるのは一人だけだから、子供たちにはそれぞれ自活してもらうしかない。
自活の道を予め勘案しつつ子育てをしようとは思っているし、そろそろ子造りは打ち止めかなぁ。
俺ってホブランドに来てから3年半ほどだけれど、こっちの身体年齢では20歳を超えたばかりでまだまだ現役なんだけれどね。
仕方がないから地球産の避妊用具を用意しようと思っている。
◇◇◇◇
ところで俺はアルノス神をまつる教会に出向いた。
例の邪神の欠片のことを幼女神様に確認するためだ。
結論から言うと、幼女神様も詳細は知らないらしいが、邪神イフリスが出現したのはアルノス幼女神様が引き継ぐ前のことらしい。
アルノス幼女神様がこの世界を引き継いだのはおよそ七千年前のことであり、それ以前のことは幼女神様でも詳細がわからないのだ。
但し、この世界の神様の前任者は、どうも邪神と戦って相打ちになったようだ。
アルノス幼女神様は前任者が相打ちになって邪神も当然に滅びたものと思っていたようだが、今回イフリスの欠片がこの地上に残っていたことをかなり重要視している。
その上でアルノス幼女神様からお願いをされちゃったよ。
「仮に、イフリスが復活したならば、我が存在を賭けてでも排除するが、地上では力を制限されるでな。
前任者と同じく、おそらくは相打ちになるのが予測できる。
じゃから、欠片とはいえ、奇想天外な方法でお主がイフリスを封じ込めたことは驚嘆に値することじゃ。
儂も、我を任命した上位存在に報告するとともに、イフリスの欠片の行方を探してはみるが、・・・。
リューマもその力を使って欠片を探し当て、可能なれば封印するか永遠に消し去ってほしいのじゃ。
仮に儂が地上界で邪神と戦えば、大陸の半分も消し飛ぶか沈むことになるやもしれぬ。
あるいは、古代文明の遺跡の大半が海に没している原因はそこにあるのかもしれぬと今では思っているのじゃ。
飽くまでこれは儂からのお願いであって強制ではないのじゃが、そなたも嫁女を得て子だくさんにもなったようじゃから、家族を守るためにもイフリスが顕現したならば戦わねばならぬじゃろう。
邪神は地上に住む者の尊厳を認めようとはせぬ。
命ある全てのものを自らの道具としか考えておらぬ存在じゃ。
因みに其方と一緒に召喚された勇者達じゃが、あれはダメじゃな。
邪神どころか歴代最弱の魔王であっても敵わぬ
あ奴らはこれ以上は育たぬし、当てにはならぬ。
召喚した者たちもとうに諦めて見放して居るようじゃ。
召喚に巻き込まれただけのお主が、邪神の一部なりとも封印できるほどの力を得るとは正直思わなんだのぉ。
異世界人の能力と、儂の加護が余程相性が良かったのやも知れぬ。
それはともかく、ホブランドにある他の四大陸の内偵も進めておかねばのぉ。
今のところ不審に思える事象などは現れてはいないのじゃが・・・。
尤も、カルデナ神聖王国のように、表立っての活動ではなく陰で操作されるとなかなかに掴めぬのぉ。
儂も人の意識までも読むことはほとんどしない。
仮にしたにしても極々限定的じゃ。
地上人に対して余り力を籠めるとその精神が破壊されるでな。
余程のことが無い限りはしないのじゃ。
以前にも言うた様な気がするが、神を名乗ってはいても、地上にはほとんど干渉ができない我が身じゃ。
じゃからリューマよ。
お主を頼りにしている。」
すっかり幼女神様に当てにされてしまった俺だが、俺自身も神頼みじゃなく。自分で何とかすることも考えねばならぬようだな。
少なくとも地上で邪神と幼女神様が争う場面には遭遇したくない。
万が一そんなことが起きるようならば、地球に家族ごと逃げるしかないかもな。
いずれにしても幼女神様が動くのは最後の手段っぽいから、邪神対抗策を色々と考えておかねばならんかも・・・。
それに国王以下この国の重鎮にも、邪神の欠片のことは、何らかの形で伝えておく方がいいだろうと思っている。
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