8-8 海軍と交易
俺は、ウィルマリティモの造船を進展させた。
錬金術師、鍛冶師、木工師などから選り抜きの人材を集め、最初に交易船を建造させた。
三本マストの帆船構造を参考にしながら、魔石を動力源としたスターリング・タイプのロータリー式大型舶用エンジンを搭載する汽船である。
従って帆を揚げるマストは無いのだが、代わりに荷役用のデリック・マストとデリック・ウィンチを搭載している。
取り敢えず、交易船としては大小二つを考えており、比較的大きい方のA型は、長さ75 m、幅12 m、深さ7.2m、ハッチサイズ40.0m×9.5m×6.5mであり、小さい方のB型は、長さ56m、幅9.40m、深さ5.3m、ハッチサイズ30.0m×7.4m×5.0mである。
おそらく小さい方で400トン程度、大きな方で千トン程度の重量の貨物の輸送が可能なはずだ。
貨物艙の容量から言えば、A型で2470㎥、B型で1120㎥であり、密閉式のハッチがあるので少々の時化でも貨物が濡れることは無い。
問題は交易対象の外国の港湾であり、帆船が横付けして使えるような港湾はかなり少ない。
基本的に港湾の桟橋を使うと言うよりは、地球ではかなり昔に行われていた沖荷役をしなければならない。
そのために主として陸との交通に使う
港湾では
因みにウィルマリティモでは横付けも沖荷役も可能なようにしている。
このためにタグボートと港内専用の自航式簡易クレーン装備の台船を数隻用意して港湾管理組合に運用させるようにしている。
交易の拡大に応じてこれらの支援船も隻数を増やすことになるだろう。
乗組員は、保安面もあってかなり多い。
ご多分に漏れず、
動力船が本気で走れば、帆船や手漕ぎ船が海上で襲撃するのは難しいのだが、停泊時に夜陰に乗じて襲われると船は弱い。
海賊と言いながら、港に沖がかりでいる場合に砂浜から小舟でやって来たり、着桟しているときに陸上から襲撃する盗賊まがいの海賊もいる。
従って、多少の勢力の襲撃ならば跳ね返すぐらいの腕自慢の人員が必要なのだ。
一応、B型で12名、A形で24名の乗組員を予定している。
運航要員だけならば、訓練済みの船乗りであれば、B型で三名、A型でも6名もいれば十分なのだが、B型で概ね半日から一日の航海日数を、A型では7日間程度の航海を考えている。
それ以上の長期航海の場合は、安全性の保持の観点から、より大型の交易船が必要となるだろう。
地球で言えば6千トンから1万トンクラスの貨物船若しくは貨客船が必要になるだろう。
地球での大航海時代には千トンに満たない帆船が大洋を渡ったモノだが、俺としてはせっかく育て上げた船員を失うのは困る。
従って交易も安全第一で進めることにしている。
当初、木造船で外輪を推進機とする交易船を設計していたんだが、小型実験船の段階で、木造では外輪駆動軸に掛かる負荷(波による上下動負荷)に耐えられないこと、外輪部品が波浪によってしばしば損傷すること、外輪船が波浪のある外洋では著しく推進効率が低下すること等が判明したことから、外輪駆動方式を取りやめ、フリゲート艦と同様のスクリュータイプに変更した。
この変更に伴い主要構造材は木材から特殊な材料に変わったが、外見上は木造船に見えるよう工夫している。
交易船の主要構造材は、錬金術師と鍛冶師のスキルの組み合わせで生み出した有機物と金属の複合材料だ。
軽く強靭である。
但し、こいつは、当面ウィルマリティモの門外不出の技術にするつもりだ。
他国との差をつけるためには、建造技術で優位に立っている必要があるからだ。
ウィルマリティモ建設から1年目、海水からの製塩事業は軌道に乗った。
そうしてA、B両方の交易船の第一船が竣工した。
その第一船を使って、乗組員の訓練を行った。
この第一船はもともと航海訓練を目的として作っているから、搭乗定員はA型で48名、B型で24名である。
その代わり、本来の貨物艙が半分になっている。
取り敢えず教育実習船として稼働し、必要に応じて後に改造する予定だ。
因みに教育責任者は俺になっている。
ジェスタ王国で小型平底の川船経験者は居ても、海洋航海を知っている者は皆無である。
これまで海岸部が無かった国だから仕方がないことではあるのだが、手っ取り早く外国から乗組員を募集するという方法も本来はあるんだが、俺の信条で外国人は使わないことにしている。
国の存亡にもかかわる交易事業に外国人を噛ませるのは危険だからだ。
交易とは商業活動であると同時に国際的な外交活動でもある。
国の代表として相応の知識経験を持ち儀礼を承知している者でなければ船乗りにはできないと俺は考えている。
従ってそのための選抜も行ってエリートを乗せるつもりだ。
地球の中世でみられた髭面の飲んだくれを乗組員にするつもりはない。
その一方で俺は軍艦も準備していた。
取り敢えず、長さ60mのフリゲート艦二隻が稼働可能になったので騎士の中から海軍士官及び兵として取り立てた者をA型船で二か月教育してから、フリゲート艦に乗せている。
フリゲート艦は40名の定員で、一応レールガンを模倣した魔導砲を前後部に二門ずつ搭載している。
少なくとも艦船同士の海戦ではほぼ無敵になるだろう。
速力20ノット以上で走り回れる軍艦は、今のところ、どこの国にも存在しない。
他国の海軍艦艇は帆船であり、魔道具を使った攻撃兵器はあるが射程は精々200m程度のショボいものだ。
その点、俺の造ったフリゲート艦は千m以上離れたところから魔導弾を発射できる。
こいつは予め時限信管を作動させておけば、500m以上の任意の距離で放射状に火炎魔法を発することができるから、長距離の火炎放射器のように使える。
例えば発射後500mで作動させると、直径20mほどの炎の奔流となって船に襲い掛かる。
実験では700m先の木造船が一瞬で猛火に包まれ、わずかな時間で全焼した。
余りに威力が強すぎるので通常はスラッグ弾を使うように指示している。
スラッグ弾は主として鉛などの重金属だが、弾の後部円周を銅のベルトが巻いている。
わずかに40mmほどの径だが、これをレールガンで発射すると音速を越えて標的にぶち当たり、貫通する。
その際の超音速の衝撃で貫通孔周辺の構造材が数mに渡り破壊される。
従って、通常の戦闘では魔導弾を使う必要が無いのだ。
仮に使うとしたら、艦隊戦で見せしめのために先頭の戦列艦を叩くときに使うぐらいだろう。
普通ならそれだけで戦意を失うはずだが、それでも向かって来るなら殲滅するだけだな。
当面はウィルマリティモの港内警備を行い、徐々に沖合へと管轄海域を拡大してゆく予定だ。
少なくともウィルマリティモがあるベルゼルト魔境湾内は、実効支配する予定である。
対岸は一応オルテンシュタイン帝国領になるかもしれないんだが、帝国は峻険な山脈にと魔物の生息域に遮られてベルゼルト魔境湾にまで支配が及んでいない。
その意味では俺が対岸の領域を勝手に領有しても差し支えないかもしれないが、敢えてそこは放置しておく。
わざわざ紛争の種を拾う必要はない。
帝国が海岸まで進出してきたならその時点で対応を考えるつもりだが、おそらく魔境に入り込んでまで開拓するつもりはないとみている。
費用対効果の面で、俺が向こうにもう一人居ないと開発は無理だと思う。
俺はわずかに一年か二年でシタデレンスタッドとウィルマリティモを建設したけれど、普通の方法なら三十年かかっても果たしてできるかどうか怪しいもんだ。
そんな大事業にかける暇と金と人材があれば、別のことをやる方が余程得策だろう。
俺の下積もりでは、海軍のフリゲート艦は6隻体制にし、二次計画では全長が百mを超える大型艦も建造する予定だ。
現状のフリゲート艦は精々ベルゼルト魔境湾口までを活動範囲としておいた方が安全だろう。
何しろ大陸北部の海洋に面しているので波は荒いらしい。
他国の交易船も基本天候を見ながら運航しているようで時化に在って遭難する船もかなり多いようだ。
少なくとも地球での3000トン以上のクルーザータイプでないと外洋警備は難しいと判断している。
湾口の警備だけなら現状のフリゲート艦で十分なのだ。
因みに湾口付近には他国の帆船も入ってきているようだが暗礁があるために内部には入ってこないようだ。
ベルゼルト魔境湾のほとんどの海岸部は海から切り立っている上に、魔物の生息地だから安全な場所は無い。
従って海から魔境に乗り込んでくる愚か者は居ないのだ。
湾口からはウィルマリティモは見えない。
湾の中央付近まで侵入しないと岬の陰になって、ウィルマリティモは見えないんだ。
フリゲート艦の通常運用ができるようになったら、湾口近くの暗礁部分を整理して航路を作る予定でもある。
この分だと、半年後には可能になるかな。
やっぱり交易船が稼働できるようにならないと湾口を開けても意味がない。
当面の輸出品は砂糖と塩、それにワインやガラス工芸品、陶芸品などになるだろうな。
化粧品や下着は国内流通分だけで取り敢えず生産が追い付いていないから、もう少し増産体制の見込みがついてからの話になるだろう。
化粧品や下着はやっぱり女性からの需要がすごく高いんだ。
それに生理用品も隠れたベストセラー商品になっている。
今ではウチのメイドをやっていた才能ある女性に化粧品と生理用品の関連事業を任せている。
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1月11日及び2月12日、一部の字句修正を行いました。
8月7日、整合性を取るために一部の加筆をいたしました。
By @Sakura-shougen
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