8ー10 重鎮達の思惑

 俺は王都ジェスゴルドに赴いている。

 国王他重鎮に対する一連の邪神関連事件の報告のためである。


 今回については、宰相に対しての報告だけでは足りないと思い、最初から密書を送って、旧国王派の重鎮たちに集まってもらったのだ。

 宰相に報告すれば関係各位に要点は伝わるかもしれないが、事の重大性はどうしても人を介するほどインパクトが小さくなってしまう。

 

 その場合、得られるかもしれない関連情報を見逃す恐れもあるからだ。

 但し、関係者を呼び集めるのに少々時間を要することになったが、それは致し方ない。


 むしろ、既に邪神の欠片が動き出しているかもしれないことを考えるならば、多少の遅れを危ぶむよりも、他の大陸の情報を掴むため、関係者が同じ情報を共有し、考えを一つにして動いた方が良いのだ。

 出席者は、国王陛下にウェイド・ベルク・フォイッスラー宰相、マクレナン侯爵、ベッカム侯爵、リンダース侯爵の他にクレグランス辺境伯である。


 特に宰相と、ベッカム侯爵の存在は重要である。

 宰相は外国との折衝を行う立場にあり、ベッカム侯爵は陰の者を司る立場で情報の要なのである。


 遺憾ながら、このメンバーで他の大陸に関して詳細な情報を持っている者は極めて少ない。

 むしろ大手商会の会頭のほうが他大陸に関する情報は持っているだろう。


 いずれにせよ伝手を辿って各方面から情報を集めてもらわねば人手が足りないのが現状なのだ。

 俺自身も、既にこのジェスタ王国のあるアルバンド大陸以外の四大陸に足掛かりは作っている。


 アルバンド以外の四大陸とは、すなわち、アルバンド大陸の南東方にあるクルップ大陸、アルバンドの西方に位置するファランド北大陸、同じくファランド北大陸の南部に位置するファランド南大陸、アルバンド大陸の東に在ってダルファ地峡で陸路があるヴェザーレ大陸の四つである。

 クルップ大陸は獣人が大勢を占めるサバンナの高原が大半を占める大陸であり、文化程度はアルバンドに比べやや遅れている。


 その中でも華麗な王都を有するアデルバラード王国の宰相など数人に隠密ゴーレムを張り付けている。

他の大陸でも文化程度は多少違うモノの、これはと思った大陸でも優勢な勢力を誇る国の要人にゴーレムを張り付け監視をさせている。

 例によって百分の一秒遅れの次元に隠れて監視をさせているわけである。


 そのゴーレムが収集した情報は1週間おきに、俺が直接回収して回らねばならないのが難点ではあるが、まぁ、転移能力をもってすれば左程苦にはならない。

 できれば俺の部下に優秀な者が欲しいところだが、生憎と俺が持っている能力や秘密を打ち明けられるような部下はいないな。


 むしろ、我が子たちに期待をしている。

 今のところ幼い子供たちを危険な目に合わせるつもりはないが、その潜在能力は極めて高く、場合によっては知力や戦闘力において俺に匹敵するか勝っている可能性すらある。


 その意味で十数年後の将来が楽しみである。

 余分な話は置いておき、密会ではカルデナ神聖王国の動きを含め、かなり詳細に事件の経緯を説明した。


 特に、デ・ガルドの殲滅や、イフリスの迎撃について国外での活動についても誰が動いたかを不明確のままにして客観的な説明を行った。

 実は、宰相の元へはアレシボ皇国で発生した流れ星による地上衝突の破壊、ハワベル砂漠における魔神像の出現騒ぎの情報が届いており、ベッカム侯爵の元へはカルデナ神聖王国に起きた法王並びに有力な枢機卿の急死とそれに続くカルデナ神聖王国内外での混乱の情報がもたらされていた。


 それを裏付けるかのように正確な日付と人物名まで入った概況説明は居合わせた者を驚かせた。

 俺は、自分がやったとは言っていないが、ジェスタ王国への侵害が予想されたので先手を打って、手の者を含めて動いたとだけ説明し、俺の関与を明確にせずに結果だけを述べている。


 説明を聞いて誰しもが無言だったが、明らかに俺の直接関与を疑っていたようだった。

 但し、時系列的に移動距離と時間それに伝達手段などが頭の中では説明できないのだろう。


 そもそも、俺が国外に出るためには貴族院への報告等色々と手続きを経なければ出られないのだ。

 俺は外国へ移動する手続きを一切していないからな。


 もっとも、フレデリカの一件で俺が何らかの方法でシュルツブルドとジェスタ王国を往復していたことは皆が何となく推測していたはずだ。

 但し、隣国との関係で事前の通知が必要なためのシステムであったことから、隣国との間で支障が生じなければある意味で不要な制度でもあった。


 過去において隣国と国境を接している有力貴族が非公式に隣国の街へ出向いていたことも度々あり、お互いに暗黙の了解の上でのことか、あるいは全く知られない状況であれば、敢えて通知の必要も無いことではある。

 シュルツブルドの騒ぎはベッカム侯爵の手の者がそれなりに情報を集めてきていたから、ここに集まった幹部連中は皆それなりに承知しているはずだ。


 しかしながら、俺がいかにしてジェスタ王国を出たのかが不明なので追及もできないでいる。

 なにしろ、俺はずっとジェスタ王国から、いや、フレデリカの一件ではずっと王都別邸に居たことになっているんだ。


 シュルツブルドのハウザー名誉領事と何回か貴族院で会見するなどの公式記録もあって、王国の官僚も俺が王都を秘密裏に出ていたとの証明ができない。

 ましてや、片道3か月から4か月ほどもかかシュルツブルドまでの旅程をわずかに2、3日で往復したという事実はどうしても飲み込めないはずだ。


 但し、ここにきて、アレシボ皇国の原野で起きた流れ星の衝突と、アレシボ皇国とエシュラック王国に跨るハワベル砂漠での魔神出現の噂に俺が関与していたとなると、俺が何らかの移動手段を持っているのではないかと疑っている者もいたようだ。


 まぁ、疑われても仕方がない。

 そうしなければある意味で邪神の脅威が見えないからだ。


 そもそもがカルデナ神聖王国を陰で操っていた邪神の欠片を持つ男が、カルデナ神聖王国では左程要職ではない単なる侍祭であり、それが怒りまくって、いきなり空を飛んでジェスタ王国へ向かっていたことをどう説明する?

 結局の所、聞いた者が、信じようが信じまいが、事実を述べるしかない。


 最終的な判断は個人に任せるしかない。

 その上で俺は参加者に頼んだ。


 この大陸を含めて、他の四大陸からの情報をできるだけ集めてほしいと。

 兆候は何気ない事象に含まれているかもしれないから、その情報の軽重に関わらず伝えてもらえるとありがたいと。


 特に、イフリスの顕現は世界の破滅をもたらすかもしれないと脅しておいた。

 無論、イフリスが吐いた言葉も、俺に関する部分は除いて正確に伝えている。


 表面的には見えなかった一連の事件の推移が、俺の説明により一応の了解が得られ、各位の情報収集強化を誓って散会となった。


 ◇◇◇◇


 一室に、国王、宰相それにベッカム侯爵が集まっていた。

 国王が二人に声を掛けて集まったのだ。


「今回の報告におけるファンデンダルク辺境伯の関わりだが、二人はどのように見ているのかな?」


「最後まで自ら手を下したとは言っておりませんでしたが、カルデナ神聖王国を実質的に潰したのはファンデンダルク卿にほかならないでしょう。

 そのために陰の支配者であったイフリスの欠片を宿す男が、報復のために我が国に向かったというのが真実でしょう。

 その男の狙いはファンデンダルク卿であり、かつジェスタ王国であった筈。

 単なるホラ話の噂と思っていたら、思いもかけない裏話に少々驚いていますが、シュルツブルドの一件を含めてファンデンダルク卿には間違いなく秘密にしている移動手段がありそうですな。

 神話に出てくる飛空艇若しくは古代魔術の大魔導士が使えたという空間転移魔法が使えるのやも知れません。

 シュルツブルドの一件も此度の一件も、ファンデンダルク卿が王都別邸か若しくは領都本宅から長期間不在であった時期が無いのは間違いありません。

 半日やそこら工房に籠るのはファンデンダルク卿の常の様で、使用人も特段不思議には思っていないようです。

 ですから、ファンデンダルク卿がいかにしてか遠く離れたカルデナ神聖王国の内情を知り、黒い噂の絶えなかった神聖教団直属のデ・ガルドの主力を潰し、更に首謀者の法王とその取り巻きを一掃したということでしょうか。

 直接手を下したのがファンデンダルク卿かどうかは不明ですが、少なくとも法王と枢機卿14人を殺害したのはファンデンダルク卿の手の者かと存じます。

 彼らの死亡時期がほぼ一緒なので、一人の人物が実行するにはかなり難しいと存じます。

 それに激怒したエベステリオスなる邪神の欠片を持つ男を未明のハワベル砂漠で迎え撃ったのは、おそらくファンデンダルク卿本人でしょう。

 邪神と張り合えるほどの大魔法師が彼以外に居るとも思えません。

 ファンデンダルク卿は、その日の早朝に何食わぬ顔で嫁や側室と食事をしていたことは、潜り込ませたメイドからたまたま報告を受けています。

 邪神の欠片を抱く男が邪神に顕現できるなど初めて知りましたが、万全ではないにしてもその邪神を消滅、いや、彼の言葉では封印でしたか・・・。

 邪神を封印できる力など神であらねばできぬと思いますが・・・。

 ひょっとして彼は神の使徒なのでしょうか?」

 

 国王が言った。


「わからぬ。

 じゃが、彼が神の使徒であるにせよ無いにせよ、力ある者がジェスタ王国にいることは心強いものだな。

 儂は、ファンデンダルク卿に王位を譲った方が良いのかな?」


 それにこたえるように宰相が言った。


「ファンデンダルク卿の普段の言動からして、彼は王位を望んではいますまい。

 彼が望むのは、彼の愛する者たちとの平穏な生活だと思います。」


 その後もファンデンダルク卿について種々の話があり、幾分かの不安も抱えながら散会した。

 三人はそれぞれにファンデンダルク卿の強さを恐れ、一方で敬ってもいた。

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