7-7 エクソール公爵の悔悟
俺が帝都から密書を盗み出した日から5日後、「ダル・エグゾス」の連中が分散しつつ順次行商人等を装ってジェスタ国に入り始めた。
彼らが自由に動けるのは国境を超えた時点から半日の間だけだ。
その夜半には全員が宿から人知れず姿を消した。
俺が、工作員の連中を酸素不足にして昏倒させ、その間にベルゼルト魔境に造った隠れ家的な洞窟に送り届けたのだ。
すぐにも酸素は復旧させるから、意識はすぐに回復する。
彼らを送り込んだ洞窟はベルゼルト魔境の中でもかなり入り込んだところだ。
俺が作った城塞都市シタデレンスタッドからなら北へ百キロほども離れた場所にある。
洞窟内には多少のモンスターもいるが、本当に危険なのは洞窟の外にひしめいている。
彼らが屈強な戦士であることはわかっているが魔物相手のハンターではない。
洞窟内なら何とか生きていられるだろうが、外に出たなら半日と持たないだろうと思われるのだ。
残念ながら洞窟内には水も食糧も無い。
だからもって10日、それ以上は無理だろう。
彼らに状況判断ができるなら外に活路を見出すだろう。
だが、それは絶望しかない道なのだ。
4日間に俺は潜入工作員30名全員を洞窟内に送り込んだ。
そうして全ての工作員を洞窟に送り込んでから三日後、工作員全員がベルゼルト魔境で壮絶な戦いを繰り広げ、魔物の餌食になっていた。
定点監視衛星の情報によりセンサーから工作員全員の生命反応が消えたので、俺は王都へ参上して、宰相にダル・エグゾスの精鋭三十名の始末が済んだ旨報告しておいた。
この次王都へ参上する時には、エクソール公爵の密書とオルテンシュタイン帝国の機密文書を持ち込むことになる。
◇◇◇◇
ベルム暦726年初冬、エクソール公爵の密書が俺の手で王宮に届けられた。
王都では直ちに近衛部隊が動いてエクソール公爵及び王弟派貴族の捕縛に動いた。
際立って迅速な動きだったので、王弟派で王都に居た者はほとんど抵抗なく捕縛され、王弟派貴族の七割が捕縛された。
領内に残った王弟派貴族も抵抗の無駄を知り、領内の自宅にて自決した者がほとんどであったが、一部の者はおとなしく捕縛に応じた。
ジェスタ王国
また、ほぼ同時に王宮魔術師団次席魔術師であるジョルジュとその従者が秘密裏に捕縛されていた。
その上で飛空艇に関わる古代遺跡情報の国家機密を漏らした者として即日秘密裏に処刑された。
これ以後、王宮で機密を護るための契約魔法は狡猾な契約違反を防ぐためにかなりの条文が付け加えられたと言う。
エクソール公爵は、王家の者が関わる犯罪故に閉じ込められる西の塔に在って、悔悟の念に駆られていた。
この西の塔は、処刑のできない高貴な身分の者が
しかしながら、実体はここに閉じ込められたもので1年以上生き永らえた者は居ない。
毒殺かどうかは不明なのだが、ここに入ると言うことは死を意味しているのだ。
私は何を間違ったのだろうか。
国王の弟として生まれ、国王に万が一があった場合の世継ぎとして大事に育てられ、今に至っている。
王位継承順位は、甥御である王子よりも下がったが、第三位の王位継承者ではあるのだ。
兄王とは幼いころは良く語り合ったものだが、成人して公爵位を賜ってからは何かと疎遠になった。
私を敬い王位につけようとする者達の首魁に収まったのは何時の頃なのだろう。
何時しか、兄から王位を奪い取ることことこそが我が使命と考えるまでになった。
その原因の一つは、王位簒奪を恐れた者達が仕掛けた我が妻の暗殺だった筈。
だが、昨日兄王の口から告げられたのは意外な真実だった。
我が愛しの妻エルザを謀殺したのは、王弟派貴族の一人であったカイエン伯爵だったのだ。
カイエン伯爵は、我が妻が亡くなって間もなく流行り病で急死している。
この時、私はかけがえのない妻の他にも大事な忠臣をも失ったと思っていたのだが、カイエン伯爵こそが妻殺害の謀略の中心人物であり、私と兄王との間を割くためにわざと妻であるエリザを国王派の一派が暗躍したと見せかけて毒殺したのだった
今となっては私が確認する術も無いのだが、王家に仕える影の者の調べにより、カイエン伯爵の暗躍の証拠も残っていたらしい。
兄王がその事実を知ったのはかなり後であったらしく、その時点では私にその件を打ち明ける機会を失っていたらしい。
私が何を為せばこのようなすれ違いを避け得たのだろうかと悔しく思う。
しかしながらここに至っては最早後悔先に立たずである。
愛しのエルザよ。
間もなくそちらに行くぞ。
私を笑顔で迎えて呉れようかな?
◇◇◇◇
この日から一月後、王弟は自決して亡くなったと報じられたのである。
そのほか王弟派貴族は軒並み厳罰に処せられ、そのほとんどは処刑されたのだったが、本人以外の一族の者は、爵位を奪われた上でジェスタ王国から国外追放の処分を受けた。
本来であれば一族郎党全てが死罪となってもおかしくない事案であったが、国王陛下の温情により国外追放処分で済まされたのだった。
その際に私財没収は敢えて為されなかったので、追放者は国外にて商売などを始めることにより身を立てることもできたようだ。
◇◇◇◇
ジェスタ国において反逆の罪で多数の貴族が捕縛されたことは、オルテンシュタイン皇帝の耳にも届いていた。
その上で、皇帝は宰相に尋ねた。
「ダル・エグゾスの精鋭30名は
確か、古代遺跡の確認と内乱助長のためにジェスタ国内に潜入させたのではないのか?」
「はい、それにつきましては近衛師団長から報告がまいっておりまして、エシュラックからジェスタ国へ入ったところまでは確認できているのですが、そこから先は所在が一切不明となっております。
今もって連絡がつかないところを見ると防諜組織に気付かれて或いは全滅ということもあり得るかと・・・・。」
「馬鹿な。ダル・エグゾスの精鋭を送ったと言うに、それが全滅など考えられん話じゃ。
さほどにジェスタ国の防諜組織は手強い相手なのか?」
「いえ、これまでのところ、そのような情報には接しておりませぬが、精鋭30名の全滅が間違いなければ、そもそもの前提を見直し、今後の方策も考え直さねばならないかと存じます。」
「あと、不審なことが皇宮内で起きておる。
ジェスタ国の王弟であったエクソール公爵からの密書が我が文書庫から消えておるのだ。
あれが仮にジェスタ国の手に渡ったのであれば、エクソール公爵が反逆罪で捕縛されたのも合点が行く。
皇宮の奥まった場所にある我が文書庫の中身が盗まれる程警備の目は節穴か?
早急に皇宮内の警備体制を改めよ。
こは、朕を含む皇家の安全さえも脅かされかねない大事ぞ。」
宰相は冷や汗をかきながら皇帝の前から退去したのだった。
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