7-6 帝国の工作員?
俺とフレデリカがジェスゴルドへ戻って最初に行ったのは、一応シュルツブルド名誉領事であるハウザーさんに簡単な報告をして以後のシュルツブルド本国との連絡体制の構築をお願いしたことだ。
基本的には、フレデリカは俺の嫁となること、そのためにフレデリカの居場所はヴォアールランドの本宅になるだろうこと。
ユグドラシルからのお告げがあった場合の伝達方法の確立については、エルフに任せるとお告げにあった事を告げると、ハウザー名誉領事は困った顔をして、本国と相談しますと言っていた。
まぁ、後のことは、余程困ったことにならない限り俺は知らん。
その上でセルフォンを使ってコレットに連絡、詳細は別途説明するが、王都でのごたごたも片付いたから、これからフレデリカを連れてヴォアールランドに戻ると連絡を入れた。
フレデリカを側室に迎える件は、向こうに行ってから説明するほかない。
セルフォンだけでの説明では嫁sがやきもきして後々困ることになる。
それから家宰のジャックにシュルツブルドでの概要を説明した上で、メイド副長のサマンサ・クレッサンスを仮メイド長に任命した。
フレデリカの側室が決定した時点で「仮」は無くし、正規のメイド長にする予定だ。
それから慌ただしく、馬無し馬車でヴォアールランドに向かった。
勿論フレデリカも一緒である。
結構王都滞在が長引いたのでそれだけでも嫁sはご機嫌斜めだろうから、ご機嫌取りが難しいんだよ。
まぁ、トラブルだというのは嫁sも知っているだろうから、その点については何とか納得はしてもらえるだろうけれど・・・。
エルフの第二王女であり森の巫女となったフレデリカを側室に迎えるという件については正直なところ説得に全く自信が無かった。
◇◇◇◇
案ずるより産むがやすしとは良く言ったもので、嫁sは割と簡単に納得してくれた。
聖樹ユグドラシルのお告げで、尚且つ、相手がエルフの国の王女であれば、むしろ正室として迎える必要はないのかと逆に心配される有様だった。
結果としてフレデリカの
これはシュルツブルドから側仕えのメイド二名が派遣されて来るらしく、その到着が早くても三カ月後であるかららしい。
森の巫女就任の宴やらでバタバタしている間に、シュルツブルドの王家の中で急遽決まったことのようだ。
輿入れまでの間、フレデリカは俺の婚約者として、ヴォアールランド本宅の客人として遇され、形式的に同じエルフであるイオライアが取り敢えずの側付きメイドとして世話をすることになった。
フレデリカについては何事も自分でできるから必ずしもエルフのメイドは必要ないのだが、元王女ということもあって対外的には訪問者の取次ぎその他の雑用でメイドが居なければならないらしい。
取り敢えず、フレデリカの面倒事が片付いてほっとしたところだったが、その
俺の領地であるカラミガランダそれにランドフルトに余所者が紛れ込もうとしているのが分かったのだ。
知らせてくれたのは、俺の探索の手足となってくれているヘレナ婆さんと孫である姉弟(ハイジとランス)達だ。
王弟派に属する例のノワール・ヴィン・ダッフェル・ビクセン伯爵が領内に住む一部族を使って、山脈越しにオルテンシュタイン帝国と連絡を取り付け、その伝手で密かに飛空艇の情報を帝国に伝えたのだった。
そのために、帝国近衛師団の特殊部隊である「ダル・エグゾス」から精鋭30名を俺の領内に潜入させようとしているらしい。
既に潜入工作員は、隣国エシュラックにまで到達して体制を整えているようだ。
早速に俺も
その上で、念のため予備の定点監視衛星を稼働し、帝国の工作員の監視にあてた。
三日後、俺は潜入工作員30名の特定に漕ぎつけ、定点監視衛星の監視下に置いた。
これで、24時間彼らの動きは俺の脳内センサーで確認できるし、蟲タイプのゴーレムが一人当たり数匹張り付いて、接触する者を含めて会話を盗聴している。
その上で、俺は家宰のジャックを通じて宰相に面会を求めた。
ジャックに伝えさせたのは、ファンデンダルク伯爵よりオルテンシュタイン帝国の動向と国内の反逆分子について秘匿を要する説明と報告がありますと伝えさせたのだ。
宰相との会見予定はすぐに採れた。
翌日、俺は朝まだ暗いうちにヴォアールランドを出立、朝一番にウェイド・ベルク・フォイッスラー宰相と会見して、概要を説明した。
宰相からは情報源を問われたが、情報提供者の安全を図るために情報源を明かすことはできませんと明確に断った。
「うーん、しかしながら、情報の信ぴょう性は非常に高いな。
ベッカム卿の配下の者からの情報でもエクソール公爵の動きが実に怪しいのだ。
秘密裏に食糧の買い込みと武器の調達を始めているらしい。
今のところ、見とがめるほどの量では無いため目こぼしをしている段階だが、王弟派に属する貴族の間にも同じような動向が認められる。
王弟派だけの動きであれば何時にても制圧できると踏んでいたが・・・。
外患を誘致していたとなると反逆は明らか。
それに古代遺跡の発見と飛空艇発見の情報が漏れていたとは・・・。
一体どこから漏れた?」
「漏洩元は、王宮魔術師団次席魔術師であるジョルジュです。
彼自体は、契約魔法により情報を他言できませんが、日記にその詳細を書き記すことかできます。
日記に記載するだけでは人に秘密を漏らしたことにならないのがミソです。
そうしてその日記については彼の従者の一人が何時でも
そのことは契約魔法で宣誓を立てる以前のことなので、契約には触れないのです。
そうしてその従者は王弟派に当該情報を知らせたのです。
それがために、一月ほど前にランドフルトの領内に王弟派のとある貴族の手先が秘密裏に潜入し、遺跡の盗掘を企てました。
私の諜報部隊の目に留まり、盗掘を企てた者は全員捕らえました。
彼らの出自はわかっておりますが、国家機密を犯そうとした重罪人、一族に類が及びますので、犯人のみの罪として処断しております。
それで王弟派が諦めてくれればと思っておりましたが、残念ながら裏目に出ました。
放置すればオルテンシュタイン帝国と共謀して反乱を起こす恐れもあり、予め宰相を通じて国王陛下にもお伝えしておこうと思った次第です。」
「なるほど、状況は分かった。
オルテンシュタインが手を伸ばしてきたのは、飛空艇の古代技術が我が国に知られることを恐れての事じゃろう。
仮にそれが成るにしても相当先の事であろうに・・・・。
まぁ、実情と詳細を知らぬ者が焦るのは無理からぬことなのじゃが・・・。
それにしても、仮にも王弟たるエクソール公爵をその情報だけで罪に問うのは至難の業じゃが、なんぞ証拠はあろうかの?
このままでは処罰自体が難しい。
最悪、王弟暗殺という方法もあるが、王家の体面上できればその方法は避けたいのじゃ。」
「情報では、エクソール公爵直筆の親書が、ノワール公爵を介してオルテンシュタイン帝国のバーゼルスタン伯爵へと届けられたとか。
その密書が入手できれば或いは証拠となるかもしれません。
取り敢えず入手が簡単に成せるとは思いませんが、私の手の者に動いてもらいます。
密書が入手できた段階で宰相若しくは陛下にお届けしますが、どんなに早くともその成否がわかるまでに半月から一月はかかるものと思ってください。
正直なところあまり期待されても困りますので・・・。」
「フム、了解した。
陛下にご報告の上、ベッカム卿を始め情報を国王派幹部で共有することになろうが、そなたの情報が頼りになるかもしれぬ。
今後とも宜しく頼む。」
「はい、今後とも新たな情報がありましたならお知らせします。
なお、帝国の潜入工作員どもですが、場合によっては人知れず闇へ葬るかもしれませぬが、措置については私に任せていただけましょうか?」
「あぁ、それは構わぬ。
オルテンシュタインの特殊部隊ダル・エグゾスは、各国の諜報部隊に恐れられている存在じゃ。
或いは、そなたの手に余るやも知れぬが、手助けが必要ならば何時にても言うてくれ。
国王派の総力を挙げて可能限りの支援はする。」
「ありがとうございます。
ではこれにて失礼しますが、陛下にはよろしくお伝えください。
取り敢えず、領内での警備体制を強化せねばなりませんので。」
俺はとんぼ返りでヴォアールランドの本宅に戻った。
ラドレックの黒備え騎士団とヴォアールランドの赤備え騎士団の団長を呼び状況説明の上で領内に密かに厳戒態勢を敷いた。
一応ポーズだけで、実際には俺の方で処理をしてしまうつもりなんだが、仮に出番があれば、彼らにも相応の活躍の場を与えるつもりでいる。
その夜、俺は嫁sへの夜のご奉仕が済んでから、飛空艇に乗ってオルテンシュタインに飛んだ。
一応エレン婆さん達と蟲型ゴーレムの働きにより、エクソール公爵からの密書の在処は判明している。
今現在は、皇宮内部の皇帝の文書庫の中にある。
それを今夜盗み出す予定なのだ。
帝都上空に飛空艇を置き、そこから飛行魔法で移動するのだが、100分の一秒遅れの異時空間に潜みつつ、インヴィジブルと認識疎外をかけて、万が一俺が時空間から出た時にもバレないようにしている。
そうして30分とかからずに密書を奪った。
ついでに「ジェスタ王国侵略企画書」なるものの写しも採った。
俺の亜空間工房で複写を採れるからね。
簡単な作業だよ。
特段の事情がない限り、少し時間を置いて、一か月後には宰相にこの機密文書を届けるつもりだ。
エクソール公爵にはこのまま消えてもらうしかない。
国王である兄に反逆を意図するだけで消される運命なんだ。
恐らくは公爵の爵位を奪った上で国家反逆の罪で捕縛され、内々で毒殺されることになるだろう。
多分、監獄内で自殺したと公表されることになるんだろうね。
そのほかの王弟派の面々の行く末も悲惨な結果しか見えないな。
後はオルテンシュタイン工作員であるダル・エグゾスの連中への対処だが、他国であるエシュラックに潜入中は手を出さないでおく。
奴らがジェスタ国内に入った時点で始末をつけるつもりだ。
彼らにも家族がいるのかもしれないが、エスピオナージと云うのは至極非情な世界なんだよ。
死と常に隣り合わせの世界なんだから、そんな世界に入り込んだことを恨みなさい。
そのための舞台はしっかりと用意してあげるから。
俺はそう独り言を呟きながら、ヴォアールランドへと戻るのだった。
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