6-7 古代遺産の贈呈?
嫁のコレットが国王からの手紙の内容を教えてくれたのは、天蓋付きのベッドの中だった。
コレットも大きなおなかを抱えており後二月もすれば出産の時期だ。
最近では動くのにも一苦労しているようだ。
当然のことながら夫婦の営みは遠慮している。
まぁ、抱き合ったり、愛撫したりぐらいはするんだけどね。
「旦那様、父王から妙な相談が舞い込んでまいりました。」
「うん?
国王陛下から?
どんなこと?」
「先頃のエステルンド砦、子爵領及び男爵領での救援で魔物の侵攻を抑えたこと、それに新たな魔物滲出防止用の城塞都市と水路の造成について、その貢献が大いに認められたそうにございます。
それゆえに魔境の城塞都市防衛のための新たな騎士千人のお抱えについてもお許しが出たそうにございますが?」
「あぁ、その件については宰相より問題なしと通知が来ているよ。
それと関連するの?」
「はい、城塞都市の防衛のために必要な人員確保は当然のこととして、旦那様の此度の貢献と今後の魔境開発の可能性を鑑みて、伯爵から辺境伯への陞爵を検討中の模様なのですが、他貴族への手前もあって、今少し大きな国又は王家への貢献が欲しいそうなのです。
確かに、魔境につながる二つの領地とエステルンド砦の救援は大きな貢献なのですけれど、王都周辺に屯する貴族たちにとっては辺境の出来事故余り大きな貢献とは見做されない可能性がございます。
父王や宰相など、事情の知っている者には大変大きな貢献なのですけれど、それが通用しないところに貴族の闇があります。
で、父王の言うには、旦那様の知られざる国又は王家への貢献を、私が何か知っていたなら教えて欲しいとの仰せなのです。
私の承知している範囲では、旦那様の錬金術による魔道具の開発や、領内での新たな殖産興業がありますけれど、これは税収面での貢献としか見てはくれませぬ。
で、旦那様にご相談なのですが、何か国又は王家へ貢献できるものがございませぬか?」
「おや、また、これは随分と漠然とした話だけれど・・・。
一番わかりやすい国への貢献は戦功なのだろうけれど、戦なんて無い方がいいからね。
それに代わるようなものというと何だろうね。
うん?
そう言えば、古代遺跡から出て来た遺物なんて言うのは、どうなのかな?」
「古代遺跡からの遺物ですか?
確か、王家の宝物庫に古代魔道具(アーティファクト)がいくつかあったように思いますが、どれもまともには機能しないものだったと思います。
そんなものを旦那様はお持ちなのですか?」
「うん、・・・・。
まぁ、その在り場所を知っているというところかな?
で、その場所に古代の魔道具らしきものがあって、それを王家に献上しようと思えばできるかな?」
「あの、それって、古代遺跡の在処を知っているということですよね?
その遺跡発見を報告するだけでも大変な功績になりますよ。
古代遺跡については、サングリッド公国や、フローゼンハイム王国でしか発見されていませんが、もしや、そちらで新たな遺跡を見つけられていましたか?」
「いや、遺跡はウチの領内だよ。
ランドフルトの丘陵地にあるんだけれど、地下に埋まっていたからこれまで人目に触れなかったんだろう。」
「ランドフルトにですか?
何と言う幸運でしょう。
直ぐにお父様に申し上げて調査に入らねばなりません。」
「あっ、あっ、ちょっと待ってね。
確かに古代の遺物なんだけれど、遺跡は未だ生きていてね。
結界が張られているから普通の人は出入りできないんだよ。」
「ん?ん?
どういうことでしょう?」
「うん、遺跡自体が古代の建造物の中にあって、その建造物が結界で保護されているんだ。
だから、普通の人はその結界の中に入れない。」
「でも、そのことを知っているということは、旦那様は中に入れたということですよね?」
「あぁ、中に仕込まれたゴーレムのような存在に承認されたので、僕は入れるけれど、他の人はゴーレムの出す試練を乗り越えなければ中には入れて貰えない。
「でも、旦那様が入れたのであれば、他の人も同じようにすれば入れるのでは?」
「いや、個々の被験者に異なる試練を与えるからね。
多分、無理だろうと思う。
例えば、コレットは1万年以上も前の古代の言語を解読できるかい?」
「1万年前の言葉って・・・。
私の知っているのは精々五千年程前に栄えた文明で使われたというアラファリック文字というのがあるとは知っていても、それを解読はできませんわ。
サングリッド公国やフローゼンハイム王国には、その文字の研究者がいるとは聞いていますけれど・・・。
旦那様はご存じなのですか?」
「うーん、アラファリック文字かどうかはわからないな。
あるいは僕にも解読できるかもしれないけれど、因みに試練で使われる言語は数種類あったね。
で、いずれも今のこの世界では知られていないものだと思うよ。
僕はたまたま僕の特殊な能力が認められて内部に入ることが許され、いくつかの言葉を教えられて覚えたけれどね。
結界に入るには最初に入口で選別されるから、其処を通過できないとどうにもできないんだ。」
「じゃぁ、私が旦那様と一緒に行っても中には入れないということでしょうか?」
「多分ね。
中に入るための条件みたいなものを見たけれど、同伴者は許されるというような例外は無かった。
入口にあるゴーレムに認められなければ中には何人も入れない。
試すことはできるけれどね。」
「フーン、でもいつかは試してみたいですわね。」
「うん、でもまぁ、お腹の子が無事生まれてある程度育ってからじゃないと連れては行けないよ。
子供には母親が必要だからね。」
「あら、父親だって絶対に必要ですよ。
だから危険なことはなさらないでね。」
「うん、君を含めて養わなければならない人が増えたからね。
無茶はしないよ。」
「はい、いつでも旦那様の無事を願ってます。
でも、そうであれば、遺跡の証明ができませんねぇ。
中に入ることができなければ古代遺跡かどうか第三者に知らしめることもできません。」
「そこに在る遺物を持ち出すぐらいならできるよ。
何せ1万年以上も前の代物だから作動はしないけれど、それでも古代の遺物であることはわかるだろうね。
一部には文字も描かれているし、少なくともジェスタ国では造ることのできない代物であることは一見してわかる筈。」
「それって、どんなものなのですか?」
「コレットは、飛空艇って知っているかい?」
「飛空艇?
あ、神々の戦いの神話に出て来る空を飛ぶ乗り物の事かしら?
何でも大いなる武器を積んで街を破壊したとか・・・。」
「へぇ、そんな神話があるんだ。
その遺跡の中に飛空艇の遺物がある。
造りかけのものだし、部品が老朽化していて使い物にはならないけれど、第三者が見て空を飛ぶ乗り物じゃないかということはわかるかもしれないね。
そんなものなら持ち出せるかもしれない。
但し、この取り扱いには注意を要するよね。
仮に、ジェスタ国が神話に出てくるような伝説の武器を入手したと他国に知られれば、それを脅威と感じて敵対する国が出てくるかもしれない。
だから秘密厳守が肝要だけれど、国王陛下に知らせることは構わないよ。」
「あら、そうよねぇ。
場合によっては、この大陸での軍事バランスが崩れるかもしれない。
中でもオルテンシュタイン帝国は、我が国が力を増すことを気にするでしょうね。
今でさえ、大陸の三分の一ほどしか領有していないのに自ら覇権国家を称しているのですから。」
「野心ある国家なら誰でも有効なアーティファクトならば入手しようと付け狙うだろうね。
だから、その存在自体を知られるのが拙い。
遺跡がランドフルトにあること自体も秘密にしておきたいところだ。」
「ふーん、だから旦那様は秘密にしておいたということね。
でも、それを解禁するのは何故?」
「僕が内緒にしていたにしても、例えば次の世代とか孫の世代とか、いずれは、遺跡があることも知られるだろうからね。
それが遅いか早いかの違いだな。
遺物については、そのうち王家に献上しようと考えていたし・・・。」
「因みにその遺物、学者なんかが調べてものになりそうなのかしら?」
「それなりの人物が生涯かけて臨めば、或いは動く飛空艇ができるかもしれないね。
でも、大変だと思うよ。
部品の一つ一つを再現して行かねばならないし、そもそもどのような効果があるのかも解明して行かねばならない。
多分今の世には知られていない理論が多用されているだろうから・・・。
優秀な学者と技術者が数十人規模のチームを作って、50年でできればすごく速い方だと思うよ。」
「うーん、そんな先の話にしかならず、おまけに公表できない性質のものならば、貢献自体も公表できないかもしれないですね。
でも、一応父王にはお知らせしたいけれど、宜しいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。
但し、他国や野心ある者に知られた場合の懸念も併せて付け加えておいてね。
間違いがあっては困るから。」
数日後にコレットが王宮へ参上し、国王に面会して、書面が直接届けられた。
この時点では、ランドフルトにある古代遺跡の研究所のセーフティシステムは99%以上稼働しており、不審者の侵入を許さない体制が出来上がっていた。
勿論、俺が半年以上に渡って断続的に遺跡に通い続け、システムの修復を行った成果だよ。
この遺跡の入り口からして結界に囲まれ、事実上俺の許可なしには誰も中に入れないようにしている。
正直なところ飛空艇と関連の技術は今の世にオーバースキルだから、公開するつもりは全くない。
作りかけの遺物から新たに生み出せるほどの天才がいればそれはそれで構わないとは思うが、十分な知識もないのに玩具を与えられたなら、それを試そうという輩が出てくるのは防げない。
ましてや軍事バランスを一挙に崩しかねない遺物だけに、遺物を狙った国家間の紛争も予想されるから、情報開示はできないと判断しているのだ。
できる限り俺だけの秘密情報として守るために遺跡のセキュリティを強化したわけだ。
遺跡には従来の結界以外にも多重結界を張ってあるから少々の攻撃を受けたところで施設が壊れたりはしない。
工場の天井に当たる部分は固化の重ね掛けで補強したが、地上に至る開閉部分は土砂で埋まったままにしてある。
遺物については、必要であれば俺の亜空間倉庫を使って外に運び出すので、今後ともそこの出入り口を使うつもりはない。
いずれ王家等から検証の話が出た場合には、調査隊を入口までは案内してやるが、そこから先へは自分たちで努力してもらうつもりでいる。
俺が許可すれば、簡単に施設内にも入れるのだが、そうはしない。
建設者の明確な意図がよそ者の排除であり一定以上の知識保有者でなければ入域そのものを拒否しているのだから、俺もそれに習うだけだ。
コレットが国王陛下に報告して三日後に俺とコレットに対して王宮への呼び出しがあった。
王宮への呼び出しは滅多にあるものではないが、此度は午前中の呼び出し故に少なくとも凶事ではないことがわかる。
おそらくは遺跡のことだろうと推測はしていた。
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次回予告「王宮参内」
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