4-21 新米伯爵の課題? その二

 後はひたすら訓練の継続と装備の充実だ。

 装備の方は原材料確保の問題もあって順次整備して行くことにしている。


 見栄えを良くするために戦国時代の武田軍団を真似て赤と黒の装備(*マスカス・ボディプロテクターをホブランド風にアレンジしたイメージ?)を準備する予定だ。

 準備に時間がかかるので訓練中は機動隊の出動服に鉛の重りをつけて体力をつけさせている。


 兜代わりのヘルメットもトカレフ対応の重い奴を入手してきて訓練で使用してもらっている。

 実際に配備するのは、それよりも軽量強靭なものになるけれど、訓練で楽をすると後で困るからね。


 王都別邸の騎士連中もかなりの荷重をかけて訓練することによって地力がついたからね。

 当然のことながら準備する新たな胸部装甲には、ファンデンダルク家の家紋入りになる。


 武器の方は、付与魔法をつけた魔鋼製の剣と槍とボウガンを支給する予定だ。

 これらの装備を確保するに当たり、カラミガランダ東方の丘陵地帯に眠っている魔鋼石鉱床を見つけたので、これを採掘して使うつもりでいる。


 ためにジェスタ国とカトラザル国の国境周辺に棲むドワーフの一族に話をつけたところだ。

 ドワーフはガサツな奴が多いが、鉱山採掘と鍛冶のプロであり、仕事はできる。


 日本でロシア製の火酒ウォッカと泡盛の30年物を入手して、酒を飲みながら(俺の場合は、飲みながらアルコールを即分解しているから蟒蛇うわばみというよりある意味で底の無いバケツだな。)、懐柔したらすっかり気に入られてすんなり俺の話に乗ってくれた。


 で、ボーヴォアールの東30ケールの山地まで道を造り、ドワーフ移住先の集落を作ってやった。

 地場産業の育成のためには、領地の者を使って作るのが一番なのだが、ボーヴォアールとラドレック間の街道造り等に人手が取られているのでとてもドワーフの集落の新設までは手が回りそうにない。


 他にも灌漑設備の工事とか治水作業が予定されているしね。

 人手に余裕がないのは事実なんだ。


 従って、ドワーフの集落だけは俺が主導して道路を造り、長屋と工房を一気に作った。

 ちょっと冒険者をやってくると言って護衛やメイド達なんかはヴォアールランドに置いてきたので周囲には誰もいない状態だったから、遠慮会釈なしに魔法を使ったので建設期間は正味五日ほどだったかな。


 一方でヴォアールランドとラドレック間の街道建設の方は、文官たちに任せている。

 当面の経費として、カラミガランダに紅白金貨30枚(60億円相当)、ランドフルトに紅白金貨20枚(40億円相当)を代官に渡しているので、当座の四半期(120日)分の領地開発等には十分な経費があるはずだ。


 俺の故郷の北上市では人口9万ほどで年間予算は400億円から500億円程度。

 その半分の人口なら年間200億円から250億円程度だから、4か月分で100億円は間違いなく多い筈だが、これには初期投資も入っているのだからある程度多めにみている。


 領地の産業振興については、商人ギルドの口利きで地元のフォーレンド商会とキャセル商会を使うことにした。

 フォーレンド商会は、食料品を主として扱っているのだが、ここにワイン醸造所を作らせることにした。


 ホブランドのワインは正直なところえぐみが多くて美味くない。

 発酵、絞り、醸造、寝かしの工程に何か問題がありそうだ。


 ワインに使うブドウの品種も問題がありそうな気がする。

 で、「甲州」と「カベルネ」を移植した。

 

 生物は無理かなと思ったのだけれど、植物はコピーができちゃったんですよ。

 肉ならコピーできるけれど、何故かやっぱり生きている動物は、無理でしたね。


 「甲州」と「カベルネ」はワインづくりに必要な葡萄の品種の一つで、俺は山梨県に出向き、夜陰に紛れてブドウ畑に侵入。

 無論、隠密、不可視の魔法をかけて人知れず侵入したんだよ。


 育っているブドウの樹ごとコピー、インベントリに収納して、カラミガランダの北東側の丘陵部に植え替えてみた。

 その数は「甲州」と「カベルネ」がそれぞれ百本ずつ。


 そのブドウ畑の農場を管理する者にフォーレンド商会の三男坊を選んだ。

 この三男坊、商人としてのスキルよりも植物育成のスキルレベルが高いんだよ。


 当然醸造所もその農場近くに作ることになる。

 醸造所の方は、工房設備と醸造機器の取り扱いを含めたワイン造りのノウハウを教え、必要資金を貸し与えてフォーレンド商会の次男坊に任せた。


 この次男坊は、実は味に敏感でソムリエの素質がある上に、「熟成」という変わったスキルを持っている。

 一年、二年は試行錯誤で利益を上げるのは難しいかもしれないが、上手くすれば三年後ぐらいには上手いワインができる可能性がある。


 ワインができるようになれば、ブドウの品種を変えてブランデーやコニャックの類にまで手を伸ばすこともできるだろうが、多分10年以上先の話だな。

 一方でキャセル商会はといえば、主として雑貨を扱っている商人なのだが、此処には製紙業とガラス工房を任せるつもりだ。


 紙漉き職人とガラス職人を育て上げなければならないのだが、これは領内のアルノス神殿が経営している孤児院の成人直前の子供たちを使うことにした。

 無論その資質によって向き不向きがあるので、その辺は実際に俺が面接して決めた。


 ガラスの原材料は領内の産出品だけでは収まらず、他領からの移入に頼らねばならないものもあったが、経済交流の拡大の意味からも決して拙いわけではない。

 孤児たちへの技術移転もまた即座にできるものではない。


 まぁ、速成教育もできないわけではないのだが、傍目から見て異常と思われないように少なくとも一年以上の時間をかけてゆっくりと育てて行く。

 従って、ほぼ10日間の訪問中、半分の五日は孤児達の教育指導に当てている。


 領内にガラス職人が居ないわけではないのだが、下手に凝り固まった職人を育成しなおすよりも、未成年の無垢の若者を教える方が早道だし、闇魔法で鼓舞することで相当な伸びも期待できるのだ。

 ランドフルト西部の湿地帯については、稲作への転用を図るため徐々に浚渫、埋め立て、区画割に整地作業などを計画的に実施しているところだ。


 当面、1ケール四方の実験水田を造り、雇用した農民に任せて稲作をやってもらうつもりでいる。

 雇用した農民というのは、ソ連の集団農業を取り敢えずイメージしている。


 カラミガランダの水不足については、カラミガランダ南東部の谷間にロックフィルダムを造り、その高低差を利用して用水路を整備することにした。

 用水路を整備した後で拡張した畑地では甜菜の栽培を始めさせるつもりである。


 もちろん甜菜の品種改良を推進することと新たに製糖工房を建設しなければならないな。

 砂糖が作れるようになれば、価格を設定してフォーレンド商会で専売させる予定だ。


 無論、必要な輸送費は上乗せしても構わないが、砂糖の専売による価格は統制する予定だ。

 砂糖が高騰し或いは貴族に独占されるようでは庶民に甘味が行き渡らないからね。


 さらにはヴォアールランドとラドレックの水道整備を文官たちに推進させている。

 街中の井戸は共同井戸であり、その井戸の傍で洗濯なんぞしているから衛生管理が難しい。


 上流域に水源地を求めて、そこから水道を敷設、井戸を噴水式にすれば、水道管が破れない限り上水の衛生は保たれる。

 更に、洗濯場を設けて専用の排水設備を設ければ更に安全性が増すだろう。


 この工事も構想だけ示して文官たちに丸投げだ。

 俺が魔法でやれば簡単だが、それでは人も産業も育たない。


 何より俺がいなくなったときに後が続かないだろう。

 教育も大事だよね。


 だから領内に6歳から15歳までなら誰でも入れる学校を作るようにしている。

 貴族であろうと平民であろうと孤児であろうと無料で学べる学校だ。


 制服と昼食は無料で支給される仕組みにする。

 お金は結構かかることになるが、学校を卒業した者がいずれ領地の発展に寄与してくれるだろう。


 単なる学び舎ではなく職業訓練の場でもあり、適性に応じて12歳には分科するようにする。

 その適性を見分けるための魔道具を今俺が研究開発中だ。


 教会の司教や司祭にお願いして神聖魔法で診てもらうと、曖昧ながらもおおよその適性がわかるようだが、必ずしも正確ではないし、扱う司教や司祭の力量で結果が異なることもあるようだ。

 そうして何より重要なことは、教会で確認してもらうにはお布施が必要であり、これが結構高額なのだ。


 従って、教会で適性を見てもらうケースは、冒険者が自分の能力や適性を確認するために時折お願いしたり、富裕な商人や貴族が子弟の能力確認を行ったりする程度のものらしい。

 少なくともこの件では、教会が庶民の味方には到底なってくれそうにもない。


 むしろレベルの高い鑑定能力を持った者が、行った方が正確な判断ができる筈だ。

 俺の場合鑑定がLv10になっているんだが、俺の周囲にLv4を超える鑑定能力を持った者は見かけていないから、実際問題として、鑑定能力だけで人を雇うのも難しいようだ。


 鑑定のLv4では、細かい適性までは見えなかったように思うのだ。

 どのような職に向くのかという意味での適性は、あくまで資質であって現状の能力の大小ではないから鑑定しにくいモノなのだ。


 計測魔道具に闇属性と聖属性の付与を行えばできそうな気がしているのだが、果たして双方の性質を有する魔石で反発しあわずに稼働するかどうかが問題だろうと考えている。

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