4-20 新米伯爵の課題? その一

 コレット王女やシレーヌ嬢を含めて七人の娘とデートを繰り返している俺に焼きもち(?)を焼いた存在があった。

 アリスである。

 アリスは屋敷内では原則的に不可視の存在で、執事のトレバロン、メイドのラーナとイオライア、それにメイド長のフレデリカがその存在を知っているだけである。


 アリスについては、別棟の工房二階に居場所を作っている。

 俺の従魔の居場所と同じだが、全く違う亜空間であり、出入り口も違う。


 彼女の場合、衣食が不要の存在だから余り手間暇はかからないのだが、そんな彼女があるときにぽつりと言った。

 俺が工房で錬金術をやっている時だ。


「リューマ、最近、出掛けるのが多い。

 ラーナに訊いたらデートで忙しいという。

 誰とデートしてるの?

 それに、何か、とっかえひっかえ女の子が来てるみたいだけど・・・。」


 明らかに不満気な雰囲気が伺える。

 まさか、アリスがそんなことを言い出すとは思っていなかったので正直言って驚いた。


「あぁ、まぁ、・・・。

 とっかえひっかえと云うのは語弊があるけれど、アリスが見かけたのは多分俺の結婚相手だな。

 正式な嫁候補は一人。

 アリスも見たことが有るのだろうけれど、この国の第二王女でコレット嬢、それに側室候補のシレーヌ嬢、同じく最近側室候補になったマリア・ヘイエルワーズ嬢、ケリー・コーレッド嬢、エリーゼ・ウェイン嬢、カナリア・レイズ嬢、ケイト・バーナード嬢の全部で七人だ。」


「七人全部、リューマのお嫁さんになるの?」


「うん、まぁ、お嫁さんのようなものだね。

 商人なんかの場合は側室と言わずに妾と言っている場合もある。」


「お父さんにはお妾さんは居なかった・・・けど、そんな人を内緒で囲っている人がいるというのは聞いたことが有る。

 でも、このお屋敷に来た中に、死んだ時の私と同じぐらいの娘がいたけど・・・。

あの娘もリューマの嫁になるの?」


「うん、今のままじゃ側室にはなれないけれど、成人したなら側室になる可能性があるよね。」


「ずるい。」


 ぽつりとアリスが言った。


「私は、リューマの傍にいてもお嫁さんにはなれない。

 なんで、その娘がなれるの?」


「アリスは、今のところ幽体で存在しているだけだからね。

 そのままじゃ、俺と結婚するのは無理だ。

 でも、もしアリスが蘇生できれば結婚できるかもしれないね。」


「リューマ、言ってたよね。

 今はできないけれど、もしかしたら将来蘇生できるかもしれないから、私の骨を保管するって・・・。

 あの話、今でも有効?」


「あぁ、アリスの亡骸は今でも俺のインベントリに大事に保管している。

 実際に蘇生方法がわかれば、試そうとは思っているけれど、その前に神様にも聞かなければいけないかな?

 昔聞いた話では、アムリタとかソーマ酒とかで蘇生したり、リザレクションという復活の魔法で蘇生したりすることがあると聞いているけれど、そもそもそんな霊薬があるかどうか知らないし、今の俺に蘇生薬は作れないし、リザレクションにしても骨だけの状態から蘇生できるのかどうかは不明だね。

 そもそもアンデッドじゃなくって、エクトプラズムという形で幽体が残っているというのもすごく珍しいことらしいから・・・。

 失敗すれば今の幽体も消滅する恐れがあるから慎重にしなければいけないけど・・・。」


「リューマ・・・。

 私、出来れば生き返りたいよ。

 生き返ってリューマのお嫁さんになりたい。」


「お嫁さんって・・・。

 うーん、先ずは蘇生方法があるかどうかだよね。

 仮にあるとしても、それを何度か試してみないとすぐにはできないよ。」


「リューマ、お願い。

 その方法を探して。

 そうして私を生き返らせてほしい。」


「うーん、探し出せるかどうかはわからないけれど、出来るだけやってみるよ。

アリスのためにね。」


 当てがあるわけではないのだが、俺は改めてアリスに蘇生方法の探索若しくは研究を約束した。


 ◇◇◇◇


 さて、俺の伯爵としての日々の生活を少し紹介しておこう。

 俺の屋敷は王都に在る別邸とカラミガランダのヴォアールランドにある本宅の二つだ。


 尤もヴォアールランドの方が本宅と言いながらも、今のところ王都別邸で過ごしている方が多い。

 30日の間に王都で16日、カラミガランダ若しくはランドフルトに10日、王都~領地間の旅行日4日ぐらいが概ねの目安だ。


 このために王都別邸と本宅だけでは足りずに、ランドフルトにも別荘を建てている最中だが、まぁ、こちらはどちらかというと屋敷というより陣屋という扱いだろうな。

 ランドフルトに用事がある場合の俺専用の宿泊所で、日頃管理するのは老夫婦二人で十分だ。


 何れにしろ領地に行くときは警護の騎士と共に執事、メイド、コックを引き連れて行く。

 俺としては身軽に一人で動きたいところなんだが、家宰のジャックとメイド長のフレデリカが許してくれん。

 

 色々と説得はしてみたのだが、特例として冒険者としての活動の場合を除き、「伯爵の格式」に従うことになっちまったのだ。

 俺の王都滞在が縛られるのは、王都での集団見合いが終わり、新たに五人の側室候補が公認されたことから、俺はコレット王女やシレーヌ嬢を含めて最低でも15日程はこれらの嫁候補と逢引きを重ねなければならない羽目になっている。


 ジャックとフレデリカ曰く、貴族の場合、往々にして先ず側室が決まり、次いで嫁が決まる。

 まぁ、逆の順番も有りなのだが、何れにしろ少なくとも一度か二度の祝言を上げてから次の側室候補が選ばれるようだ。


 だから一度も祝言を上げていない俺が一挙に嫁候補と側室候補6人を抱えるのは極めて稀なことらしい。

 因みに貴族が嫁以外に多数の側室を抱えるのは格別珍しいことではない。


 現在最も側室の多い貴族は中道派のランベール侯爵で、側室は18名と聞いている。

 ランベール侯爵は御年54歳、正妻は47歳だが、側室は16歳から43歳までと範囲が広く、今も大変お盛んのようだ。(何がって?そんなことDTの俺に聞くなよ。)


 因みに過去最大の側室を抱えていたのは、四代前の国王の弟にあたる公爵で実に32名の側室を抱えていたという。

 当然、子供もたくさんできちゃったわけだが、それらの子供すべてに爵位を分け与えることは難しかったので、この時期に嫡男相続の原則化、爵位の返上、貴族であっても無給となる准男爵制度などが生まれたようだ。


 国王が男爵以上の爵位を与えると当該貴族に対して国庫から年金を与えることが必要となるのだが、当然に財源は有限である。

 ために、王家に対する貢献度を検証して貢献の少ない者は爵位を降格させられ、三代にわたって降格された者は爵位を返上しなければならないという妙な制度があるのだ。


 国王が与える爵位とは別に、王家が関与しない騎士爵なるモノがあるが、こちらは王家の直臣ではなく陪臣であり、通常領地を有する貴族が任命権者である。

 基本的に騎士爵は領地を持たないが、役職として領地の一部を管理する場合がある。


 その意味では俺の領地を預かっている文官の代官はある意味で騎士爵位に近いが、特段そのような任命はしていない。

 同様にカラミガランダとランドフルトの騎士団も騎士としての任命はしているが、形式的な爵位は与えていない。


 俺はファンデンダルク家の初代伯爵であるわけだが、俺が如何に王国や王家に貢献しようとも俺の子孫の代に一定の貢献が無ければ、子爵へ降格、次いで男爵に降格、更に降格の場合は爵位を失う(降格三代目なので准男爵にはならない。)ことになる。

 この貢献度の判定は貴族院が行っているが、ジャックのよもやま話によれば、当該評議員になった者にはかなりの賄賂が動くようで、地獄の沙汰も金次第というところか、何となく世知辛いよね。


 このほかにも重罪を犯した貴族は国王の裁断で爵位を召し上げられることが有るし、血をつなぐものがいない場合は同じく爵位返上となる。

 前カラミガランダ領主のボーヴォアール子爵は世継ぎに恵まれず爵位を返上した口である。


 実のところ、ボーヴォアール子爵には一人っ子の嫡男がいたのだが、その嫡男が不慮の事故で死亡、次いで子爵自身が病気で亡くなったのだ。

 子爵夫人は生き残っていたのだが夫人が爵位を継ぐことはできないし、子爵が危篤状態に陥った時に末期養子の縁組をすることを夫人が望まなかったのである。


 まぁ、そんな話はさておき、俺のは、30日を一月とするとその半分ほどが嫁候補や側室候補との逢引きデートになるわけで、その間は王都滞在を余儀なくされる。

 従って、俺のスケジュールは月を二つに分けてそれぞれの前半に八日ほどデートの予定を組み、後半に五日程領地へ出向くことにして、これを30日の間に二回繰り返している。


 嫁や側室を貰えば、他の貴族と同様に領地滞在が主になり、二、三年に一度王都へ顔を出せばよいことになる。

 尤も侯爵以上の爵位になると何かと政に関わる機会が増えて領地よりも王都滞在が多くなるらしいのだが、今のところ俺には関わりないことだ。


 カラミガランダやランドフルトへの出張は、原則として執事のトレバロン、メイドのラーナとイオライナの他に執事一名、メイド二名が付き、このほかに馬丁4名、コック1名、警護の騎士7名が4台の馬無し馬車に乗って移動する。

 本来であれば、ノブレス・オブリージュとして領地までの途中の宿場町等に金を落とすことが求められているのだが、(複数)を正式に貰うまでの当座は、派手な大名行列は行わないことで宰相からも了解を貰っている。


 何しろ1年(480日)に32回も領地と王都を往復していたら経費が掛かりすぎるし、既定の人数で移動すると途中の宿場町でも下手をすると宿泊所の手配ができない可能性もある。

 前述したように通常の王都参詣は三年に一度程度なのである。


 正規の王都参詣の際は、伯爵であっても警護の騎士だけで数十名規模になるようで、侯爵程度になると馬車数十台を連ねた大集団になるようだ。

 ファンデンダルク家も全員を引き連れて参詣をしたなら、お付きのメイドだけでも三十名ほどになるのは間違いない。


 実際に、王都別邸でもメイド長のフレデリカを中心に更なるメイドの補充を考えているようで、改修とともに空き地にメイド用宿舎の増設を始めている。

 通常の場合でも、正室には五名以上、側室には三名以上の専属メイドが付くことになり、最低でも一人は実家から送り込まれて来ることになるそうだ。


 当然のことながらカラミガランダの本宅の方にもその準備をするように通知している。

 そのために必要な費用をそれぞれの家宰に事前に渡しておいた。


 因みにカラミガランダの屋敷もかなり大きいのだが7人のとその専属メイドを迎えるには、若干の改修が必要とのことだった。

 一応、カラミガランダとランドフルトについては、俺も出向いて正式に領地の引継ぎを受け、現地雇員の再任用や騎士要員の補充手続きを行った。


 この結果、カラミガランダに380名、ランドフルトに220名の騎士団が編成された。

 これら騎士団も生ぬるい訓練をしていたら若手が育たないから、俺が出向いて幹部騎士たちに訓練のやり方を徹底して指導した。


 別に俺がその方面のエキスパートではないよ。

 地球に戻った際に、米国に旅行して米国陸軍特殊部隊グリーンベレーのブートキャンプ資料を入手(実際には基地に忍び込んでコピー。テヘッ。)したものを焼き直ししたり、和歌山県田辺にある某武道研究所を訪れて*師匠にご挨拶した際に握手を求めてついでにスキルを内緒で貰ったり、同じく合気柔術や極真空手の師範たちに会ってご本人には内緒でスキルを貰いました。


 そのお陰で、体術スキルは物凄く高レベルになって、相応の知識は持っているし訓練のやり方は熟知できている。

 まぁ、そうは言っても、騎士の中に俺みたいなチート能力を持っている者が居るわけではないから、騎士たちには促成で身に付くわけではないのだが、そこは闇魔法で精神的な鼓舞を図り、個々の騎士たちにやる気を生じさせてやった。


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