4-19 盗賊?集団見合い?

◇◇◇◇ 盗賊? ◇◇◇◇


 マリオレス男爵の家宰であるダールマンは少々困った事態に追い込まれていた。

 頼みにしていた王都の闇ギルドが依頼そのものを無かったことにしてくれと前金を突っ返して断ってきたのだった。


 他所に二股掛けるようなことはしないでくれと取次の者が自信満々であったから、ある意味非常に期待していたのである。

 その信頼が裏切られたならばその分落胆も大きいことになる。


 そうして男爵の命令遂行が更に遅れることが非常に大きな問題なのだ。

 ダールマンは男爵家の通常業務をサブの執事に放り投げて、盗賊ギルドへと急いだのだった。


 王都の盗賊ギルドのサブマスターはダールマンの甥っ子がやっている。

 ダールマンとしてはほかに頼れるアテが無かったのである。


 で、その甥っ子のスチムリエンだが、ダールマンの話を聞いて実に渋い顔をしている。

「叔父貴よぅ。

 うちのギルドでもその件の噂が届いているんだぜ。

 叔父貴には悪いんだが、その頼みは聞いてやれねぇ。

 俺個人としてはほかならぬ叔父貴の頼みだから何とかしてやりてぇんだが・・・。

 生憎とファンデンダルク伯爵の周辺を探る話はうちのギルドとしても受けるなという方針が今朝決まったんだ。

 更に言えば、仮に身内の頼みでもギルド員が単独で動くことも禁じられている。

 下手に動けばうちのギルド全体が潰されるかもしれねぇんだ。

 叔父貴にしろ、男爵様にしろ、うちのギルド構成員全部の家族の面倒までは流石に見切れんだろう?」


「馬鹿な、たかが伯爵風情に盗賊ギルドを潰すほどの力があるわけなかろう?」


「ところがどっこい、王都の闇ギルドってぇのはアサシンを含む始末屋だけで百人を超える一大勢力なんだぜ。

 そこがファンデンダルク伯爵の脅しに屈したんだ。

 うちのギルドはそもそも冒険者の盗賊スキル保持者の組織ってだけで、登録人数は数百名にもなるが、実働勢力は精々頑張って数十名規模だ。

 そんな組織が闇ギルドのアサシンなんかに対抗できるわけがない。

 そのアサシンが手を引いた仕事をウチができるわけもねぇし、仮に、ファンデンダルク卿が乗り込んできたらその時点でウチは何もできなくなる。

 現実に闇ギルドの頭目の一人のところに乗り込んで脅しをかけたというのが実際にあった話らしいぜ。

 うちの構成員で闇ギルドの者に親しいものがいてそこから得た情報だ。

 例えば、この俺が、単独で闇ギルドの頭目の一人に直談判なんてできるわけがないし、そんなことをしでかす奴を敵には回したくねぇな。

 で、盗賊ギルドも闇ギルドに倣って奴さんには一切干渉しないって決めたわけだ。

 叔父貴にしろ、男爵様にしろ、そんな怪物を相手にする覚悟があるなら勝手にやってくれ。

 俺らは一切手を出さねぇ。」


「そんなぁ・・・・。

 お前のところが最後の頼みの綱だったのに・・・。」


「泣き言を言われても、無理なモンは無理だぜ。」


「冷たいのぉ。

 では、お前の知っているもので誰ぞファンデンダルク卿に対抗できそうな冒険者は知らないか?」


「戦闘力って意味ならSランク冒険者の名ぐらい知っているが・・・。

 そもそもあいつら脳筋だからよ。

 情報収集とかに向いている様な奴らじゃねぇぜ。

 それにどっちかというと、曲がったことが嫌いな奴が多いからな、よっぽど正当な理由が無いと動いてくれねぇぜ。

 依頼料も高いしな。

 まぁ、最低でも紅白金貨五枚ぐらいの出費は覚悟しねえと・・・。」


「紅白金貨五枚・・・!?」


 ダールマンはそう言って絶句した。

 甥っ子への依頼もすげなく断られ、意気消沈したダールマンは男爵邸へと戻っていった。


 それから概ね20日ほどあれこれと無駄あがきを試みて、最終的に情報収集が無理と判断したマリオレス男爵は、エクソール公爵へ情報収集失敗の報告を為したのだった。


 エクソール公爵は、長丁場での情報収集に務めよと言って男爵を追い返した。

 無論、エクソール公爵の頭の中では、マリオレス男爵の格付けがかなり低下していたのは言うまでもない。


 その上で、エクソール公爵は次なる策謀を頭の中でめぐらしていた。



◇◇◇◇ 集団見合い? ◇◇◇◇


 伯爵という立場での公務は、領地からの報告の確認や決済、それに王都のファンデンダルク邸の管理に関する事項など色々とあるが、まぁ、それぞれに代理人と云うか実務をこなす有能な人物を立てているので左程の問題はない。

 領地には代官とその補佐を始めとする文官が控えているし、屋敷には家宰のジャックやメイド長のフレデリカが居るのでほとんどの事は任せてもいいのだが、流石に貴族対応ともなれば主である俺の意向確認なり指示なりを受けることが求められる。


 で、この貴族対応案件という奴が予想以上に多いので驚いてしまう。

 中でもワインやワイングラスの情報収集が多いのは勿論なのだが、貴族の娘の売り込みが非常に多いのは本当にびっくりであり、中でも領地を持たない法衣貴族からの話が異様に多いのだ。


 コレット王女を婚約者としているのだから、俺の正室は王女で決まりなのだが、貴族社会は後継者を遺すために複数の側室を持つのがこの世界の常識なのである。

 既にその側室候補の一人として伯爵令嬢のシレーヌ嬢とも結婚を前提としたおつきあいを始めているのだが、どうも側室候補一人だけではまだまだ空きがたくさんあると貴族の間では見做されているようだ。


 従って貴族の娘の売り込みというのは、その側室候補にどうかという体の良い押し売りなわけである。

 俺も別に聖人君子という訳じゃないから、綺麗な娘を見たり、侍らせたりするのはやぶさかじゃないけれど、妻が複数ってのは、どうも先々不安要素が多くって心配なのだよ。


 従って、原則として国王派以外は門前払いにしている。

 まぁ、門前払いとは言いながら、そこは一応の礼儀が有って、家宰のジャックが相手の機嫌を損ねないよう貴族独特の言い回しでお断りするのである。


 尤も中道派からの申し入れがあった場合には、寄り親であるカリラナ・フルト・マクレナン侯爵にお伺いを立てねばならない。

 幸いなことに、今のところ中道派貴族からそのような申し入れはないのだが・・・。


 そんな折に、寄り親のマクレナン侯爵から、コレット王女主催の茶会への出席を要請された。

 婚約者である王女の茶会に、王女からではなく侯爵から出席が要請されるというのも妙な話だと思ったのだが、その茶会と云うのが実はお見合いの席だったのだ。


 マクレナン侯爵など国王派幹部が談合の上、厳選した国王派貴族の娘などを集団見合いさせようということのようだ。

 残念ながら俺にはほとんど拒否権が無い。

 

 むしろ拒否権や選択権を持っているのは、どうも正室予定のコレット王女らしい。

 つまりは、候補者一人一人をコレット王女が見定めて、側室に相応しい娘を選ぶということのようで、俺の立場はどちらかというと人寄せパンダに近い。


 まぁ、その人となりを見定めるための試金石として俺も顔を出しなさいと云うことだ。

 こんな場合、元の世界の俺の常識なんぞ有って無きが如しだよね。


 俺は単なる種馬としか見られていないんじゃないだろうかと常々疑問におもうのだが・・・?

 それに複数の嫁を貰って、そのナイトライフに俺の身体が保つかどうかだよな?


 いや、俺も童貞だったからさぁ。

 多少エッチなDVDでセックスの仕方を知っている程度で、正直なところナイトライフがどうなのかは良くは知らんのだが、義理だけでできるもんだとは到底思えないんだよなぁ。


 まぁ、何だかんだと言いながら、召喚前の日本人としての俺の想いも他所に放っとかれ、王宮の一室でお見合いがありました。

 参加者は、男は俺だけで、コレット王女、シレーヌ嬢の二人に加えて、綺麗に着飾ったご令嬢が5人。


 但し、どう見ても小学生か中学生ぐらいのちびっ子も居るんだけれど・・・。

 確かこっちの世界では16歳以上が成人だったよね?


 まぁ、元の世界では16歳でもちょっと問題なのにそれ以下ってどうなんだろう。

 これって倫理規定に反しない?


 まぁ、俺のこの世界の年齢も17歳ってことになっているから、小学校から高校までの女子生徒の中に男子高生が一人って状況だよね。

 見合いという裏事情さえなければそうおかしな状況でもなさそうな気もするな。


 何れにしろ自己紹介が始まりました。

 俺と王女は省略され、シレーヌ嬢から自己紹介が始まりました。


 その結果、コレット王女とシレーヌ嬢を除き年齢順に言えば、リンダース侯爵の寄子であるヘイエルワーズ男爵の次女であるマリア・ヘイエルワーズ嬢が16歳、クレグランス侯爵の寄子であるコーレッド伯爵の四女のケリー・コーレッド嬢も16歳、フォイッスラー宰相の寄子であるウェイン子爵の次女のエリーゼ・ウェイン嬢は15歳、ベッカム侯爵の寄子であるレイズ子爵が三女のカナリア・レイズ嬢は14才、中道派リグレス伯爵の寄子であるバーナード男爵の五女のケイト・バーナード嬢は12歳だったよ。

 うーん、これが異世界の嫁候補の基準なんだよなと改めて思ったね。


 みんな可愛いよ。

 でもね、年上の子で精々高校一年生か二年生だよ。


 一番下は小学校6年生ぐらいじゃん。

 確かに俺は見た目17歳かもしんないけど、実は23歳を超えてるからね。

 

 彼女らから見ればお兄さんというよりは叔父さんに近い存在だろうね。

 シレーヌ嬢が陰で売れ残りと指さされるというのが何となくわかってしまったよ。


 日本じゃ成人したばかりの年齢で未だ大学辺りに通っている年齢なのに・・・。

 19歳で年増って、日本の江戸時代か明治時代の話なんだよね。


 まぁ、でもそれがこの世界の常識なんだから止むを得ないか・・・。

 自己紹介が終わると、そこでコレット王女から声がかかった。


「皆さん。

 既にご承知でしょうけれど、私がファンデンダルク卿の婚約者であり、いずれ正室になります。

 また、ここにいるシレーヌ嬢も既に側室候補としてファンデンダルク卿と結婚を前提としたおつきあいを始めております。

 重々承知とは思いますが、この場は、ファンデンダルク卿の側室として相応しい人物かどうかを見極めるための場なのです。

 未成年のエリーゼ嬢、カナリア嬢、ケイト嬢のお三方は、例えファンデンダルク卿と正式に婚約されたとしても成人なさるまでは、側室として嫁ぐことはできません。

 それと婚約者候補としての立場であっても何らかの不都合があれば正式な婚約に至らないことがあるかもしれませんので注意してください。

 皆さんがファンデンダルク卿に相応しい人物であるかは、不肖私とシレーヌ嬢で見極めます。

 ファンデンダルク卿のご意見も当然にお聞きしますが、その結果は後日改めてお知らせすることになろうかと存じます。

 さて、では、見極めのために色々とこちらからお伺いしますね。

 貴族令嬢として或いは上位貴族の側室として身に着けているべき常識の類ですから、固くならずに気楽にお答えいただければ幸いです。

 では、始めます。

 まずは第一問から・・・・。」


 お茶会と云いながら、目の前では(永久?)就職の面接という口頭試問が始まったのである。

 俺なら何と言えばよいのか迷ってしまう様な質問に次々と答えて行く年少の才女たちに正直言って感心したねぇ。


 日本じゃ、小学6年生に使用人の扱い方を聞いてもまともに答えは返ってこないだろうけれど、ケイト嬢はしっかりと答えていたよ。

 質問するコレット王女も、常識問題では一人一人に別の質問を投げかけ、考え方やモノの見方については全員に尋ねるなど用意周到だった。


 多分時間にすれば3時間ほどだったと思うが、昼過ぎに始まった茶会と云う名の集団お見合いは夕刻前に無事に終わった。

 候補者たちが全員帰った後で、コレット王女が俺に言った。


「流石に国王派の重鎮が推薦してきただけのことはありますね。

 年少のケイト嬢ですら何の不足もありません。

 リューマ殿にご不満が無ければ全員を側室候補としたいのですが如何でしょう?」


「あの、・・・。

 全員ですか?」


「はい、国王派の結束を高めるためにも全員を側室として娶ることを私は推薦いたします。

 シレーヌ嬢を含めて側室6名程度の数は伯爵の地位に相応しいと存じます。」


 多分、俺の拒否権は無いのだろうし、今日出会った娘たちに特段の不満は無いのだが、やっぱり先行き不安だよねぇ。

 そうは思いながらも、結局は流されて行く俺だった。


 後日、俺の側室候補として、既に公表されているシレーヌ嬢以外に正式に5名が加わったのだ。

 結果として、俺は30日の間に八回以上のデートを繰り返す羽目になった。


 七人で八回というのは、正室候補であるコレット王女との逢瀬を他の娘たちと同じくするわけには行かないと俺の家宰とメイド長に強く言われたからである。

 元々婚約者との逢瀬が30日に一度では少なすぎるというのがジャックとフレデリカの持つ常識らしい。


 そんなわけで俺のデートは頻繁である。

 これまでも、コレット王女とシレーヌ嬢のために五日から七日に一度程度の逢瀬を繰り返していた。

 デートは、原則的に二人同時にとはいかないらしい。


 コレット王女の場合はシレーヌ嬢が警護のために傍にいるのである意味で二人一緒のようなものだが、そうかといってシレーヌ嬢とのデートを省いてはいけないのだ。

 従って家宰を通じて各家と予定の調整を行い、デートの日が決まるわけである。


 まぁ、人数も多いことから、概ね30日のうちの半分ほどにしてもらっているので左程忙しいという訳ではないのだが、デートで顔を突き合わせて無言という訳にも行かないので、実は話題提供のためのタネ探しが結構大変なのだ。

 残念ながらこの世界に映画は無い。


 観劇や音楽鑑賞は多少あるようだが、劇場が無いので楽団や演劇団を呼んで屋敷で催すのが普通のようだ。

 ために、俺の屋敷に婚約者や側室候補を招くときは楽団なんぞも呼ぶことがある。


 前回も述べた様な気がするに、相手は深窓の令嬢だから気軽に外に連れ出すということができない。

 婚約前ならば多少は許されるのだが、婚約を前提としたおつきあいや婚約後は外での出逢いが難しいのだ。


 従って、デートは相手の屋敷若しくは俺の屋敷と云うのが普通になる。


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 都合により、リューマの寄り親である「カリラナ侯爵」の呼称を「マクレナン侯爵」に変更しました。

 正式名をカリラナ・フルト・マクレナン侯爵とし、マクレナンを家名としたのです。

 変更に伴い読んでいて下さる方に混乱が生じる恐れもありますが、どうかお許しください。


 2021年2月2日  By @Sakura-shougen


 

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