4-9 カラミガランダの使用人と騎士団
<< マイケルトン視線 >>
領主館は歴代のボーヴォアール子爵が改装を重ねた大きな屋敷であり、華麗さには劣るが王都の公爵邸にも負けない規模を誇る。
そのホールに使用人一同が集められた。
伯爵様は噂通りで、非常にお若い。
が、明瞭な言葉で使用人たちに言い渡した。
「私が、此度カラミガランダとランドフルトの領地を任されたファンデンダルク伯爵である。
貴方達は、故ボーヴォアール子爵の使用人だったと聞いている。
そこで貴方方全員を私の使用人として今後とも採用することを取り敢えず伝えておこう。
取り敢えずの仕事はこれまで行ってきた仕事を続けなさい。
俸給は前例に倣うが、貢献度により報酬を上げる可能性もある。
家宰はマイケルトンが、そのまま続けなさい。
メイド長は、王都から連れてきたクレアが務めるほか、これまでのメイド長であるシンディーヌをメイド副長としてクレアの補佐役に任ずる。
シンディーヌの報酬は、これまでのメイド長の報酬と同額とする。
更に、クレアが連れてきたメイドは当分メイド見習いとして処遇するが、こちらでの生活に慣れ次第クレアがそれぞれの担当を決めることになる。
マイケルトンには、白輪金貨50枚を預けて当面の費用に充てさせる。
そのほかに必要な経費があれば部門別にマイケルトンを通じて私に要請しなさい。
私は、王都でのお披露目が済むまでは、こちらには来られないと思っていた方がいいだろう。
大まかな予定としては、お披露目が済んだ段階で、必要に応じて領内の改革を行うために、暫しヴォアールランドに滞在することになるだろう。
早くて二月後、遅ければ四月後になるかもしれない。
それまで、けんごに暮らせ。
今日は、この館に一泊するが明朝にはラドレックに向けて立つ。
贅沢は言わないから、私と従者達の夕食と明日の朝食のみの手配を頼む。
これから騎士団の連中に会ってくる。」
言うだけ言うと、ファンデンダルク伯爵は風のように去っていった。
少なくとも領主館の使用人の職は安堵された。
シンディーヌ元メイド長、いや、メイド副長か・・・。
彼女も降格はしても元の報酬が担保されたので相応に満足そうだ。
後は新任のメイド長と彼女が連れてきたメイド達と古参の使用人たちの関係だが、新任のメイド長は中々のやり手らしいからおそらくは上手いことまとめ上げるだろう。
仮に不穏分子が居ればおそらくは排除される。
シンディーヌもそれを十分承知のはずだ。
私(マイケルトン)も取り敢えずは職が安泰となったので、新たな領主のために何ができるかを考えようと思う。
そのためには伯爵様の性格を知る必要があるのだが、今日の挨拶で少なくとも上司としては切れ者であることは知れた。
これまで会ったこともない筈なのに私の名も、シンディーヌの名前も承知していたし、顔も知っていたようである。
自己紹介もしていないのに呼びかけるときに間違いなく私やシンディーヌの方を見ていたから間違いないと思うのだ。
どうも新たな領主様の元ではこれまでのように、のほほんとした田舎者を演じては居られないようだ。
伯爵様は、未だ領内を良く見ておられないうちから改革を口にされた。
なれば、既に何をするかも決めておられるということ、これは内政を預かる者が苦労をしそうだ。
内政を預かる文官は、おそらくは派閥の長がどなたかを推薦して来られるのだろうけれど、余程優秀でなければ伯爵の期待には応えられないかもしれない。
知らず知らずの内に、私はまだ見ぬ、領内の内政担当者の未来を気遣っていた。
<< トボレスク視線 >>
私は、カラミガランダ騎士団団長のトボレスクだ。
事前にあった代官からの通知で、領内巡回警備に出ている30名ほどを除いて、今日は練兵場に騎士団全員を集めている。
幸いにして病欠の者は居ない。
その練兵場に、馬無し馬車で現れた伯爵はまだ若く、そうして身軽だった。
執事が一名、馬丁二名と騎士5名が付いている。
騎士団全員が揃う中で練兵場のお立ち台に上がった伯爵が声高らかに言った。
「私が、此度カラミガランダとランドフルトの領地を任されたファンデンダルク伯爵である。
貴方達は、故ボーヴォアール子爵お抱えの騎士団だったと聞いている。
今後とも貴方方全員をファンデンダルク家家臣として採用することを取り敢えず伝えておこう。
取り敢えずの仕事はこれまで行ってきた仕事を続けなさい。
俸給は前例に倣うが、貢献度により報酬を上げ若しくは下げる可能性もある。
団長はトボレスクが、そのまま続けなさい。
副団長以下の職制も今はそのままとしておく。
いずれ、騎士団の軍制改革と共に新たな訓練を課すことになる。
騎士としては相応の訓練内容ではあるが、これまで自己鍛錬に励んでいなかった者にとっては少々つらい訓練になるかもしれない。
その辺は、自分自身でできることとできないことの見切りをきちんとつけなさい。
貴方方の身柄は私が預かった。
預かった以上は、貴方方が動けなくなるまで相応の面倒を見よう。
また、将来老齢になったなら、退団と共に年金を与えることを約束しておこう。
但し、年金とは言いながら必ずしも高額になる保証は今のところできないな。
領内の改革が済んで、相応の実入りが入ることがわからなければ、当面金額は少ないものになるだろう。
また、支給する年金額は、ファンデンダルク家の騎士団として勤め上げた年数に比例し、職の重要性にも連動する。
貢献があったならば、その都度、報酬も引き上げることを約束しておこう。
いずれにしろトボレスク団長を筆頭にファンデンダルク家を盛り立ててくれ。
騎士団は、いずれ、ベルゼルト地方への遠征も視野に入れておかねばならないだろう。
予め言っておくが、私の家臣である限り、私の目の届く範囲で誰一人として死なすようなことはさせないつもりだ。
ベルゼルト地方への遠征に際しては私自身が直接指揮を執る。
トボレスク団長には、白輪金貨50枚を預けて当面の俸給以外の費用に満てさせる。
そのほかに必要な経費や要望があれば部門別に団長、副団長を通じて私まで要請しなさい。
断っておくが無駄な経費は使うな。
私が出す費用は、領民が汗水たらして稼いだモノの一部だと思え。
それをないがしろにするならば騎士団を辞めてもらうことになる。
貴方方騎士団はファンデンダルク家を守護するとともに、ファンデンダルク家が治める領域の領民全ての守護者であらねばならない。
言い換えればあなた方は、領民から雇われている様なモノだ。
私は、王都でのお披露目が済むまでは、こちらには来られないと思っていた方がいい。
お披露目が済んだ段階で、必要に応じて領内の改革を行うために暫しヴォアールランドに滞在することになるだろう。
その時期は早くて二月後、遅ければ四月後になるかもしれない。
それまで健勝に暮らせ。
今日は、このヴォアールランドの領主館に一泊するが明朝にはラドレックに向けて立つ。
トボレスク騎士団長、私の留守中、騎士団を頼む。
いずれランドフルトにあるか若しくは新たに編成することになる騎士団と合流して、将来的には少なくとも500名規模の騎士団とする予定だ。
足りなければ人手を集めるし、領内に騎士養成学校も作るつもりでいる。
今日は私の顔見世だけだ。
騎士団の諸君、いずれまた会おう。」
伯爵は言うだけ言うと練兵場から姿を消した。
色々なことを言われたが、かなり内政面でのことを言われたな。
それに白輪金貨50枚を俺に預けるって?
そんな大金、一体何に使うんだ?
まぁ、騎士団で本当に必要な物には使えるんだろうが、無駄に使えばきっと叱られ、下手をすればクビになる。
こいつは副団長やこれまで経理担当をしていた、ヘンドリックあたりとよくよく相談しなけりゃいけないなと俺はそう思った。
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