4-10 ランドフルト

 ヴォアールランドを早朝に出発した俺達は、昼過ぎにはランドフルトの中心地ラドレックに到着した。

 やや時間が掛かったのは、道が悪い所為せいだ。


 王都からカラミガランダやランドフルトへの道は比較的に整備されていたが、ヴォアールランドからラドレックに至る道は整備状態が悪いのである。

 比較対象が良くないかもしれないが、前者は一桁の一級国道のごとくよく整備されているが、後者は山間部の林道並みに余り整備されていないのだ。


 馬車が通行できるだけましという程度の道路なのだから酷いものだ。

 カラミガランダとランドフルトは隣接しておりこの道路も俺の領地になるのだからこれは整備せざるを得ないよね。


 これも俺が土属性魔法でやってしまうか、公共事業として経費を領民に落とすかが悩みの種になりそうだ。

 前者は早いし、間違いが無いのに比べ、後者は遅いし、下手をすると手抜き工事があり得る。


 それを含めて、新たに雇うことになるだろう官吏連中の試金石にしようと思っている俺だった。

 途中の旅窓から眺める俺の領地は、カラミガランダが高原風の土地柄であるのに比して、ランドフルトはどちらかと言うと低地である。


 ランドフルトの場合、特に王都寄りの北側の低い丘陵地帯に耕作地が集中し、南側はかなり大きな湿地帯となっている。

 俺には俯瞰マップの作成能力はあるが、それは目で見える範囲に限られる。


 だから今回の視察に合わせてドローンを作ってみた。

 俺の従魔と明確な意思疎通ができるようになれば或いはポッポちゃんやマロンの目を通して上空から地表の全体把握ができるかもしれないが、今のところまだそこまでには至っていない。


 ポッポちゃんもマロンも俺の言うことはよく聞いてくれるものの、生憎と彼らの意向について俺がおおよそがわかる程度で、明確な意思疎通が必ずしもできていない。

 いずれ出来るのじゃないかとは思っているのだが、従魔にかける時間がとにかく少ないのが原因だろうと思う。

 

 で、魔石を動力にした小型ドローンをちゃちゃっと作り、同じくカメラ紛いの魔道具を作って搭載した。

 取り敢えずの試作機は、動画カメラではなく静止画カメラの映像を俺のPCに転送できるタイプだ。


 魔石を動力としているために日の出から日没までの間十分稼働できるだけの滞空能力を持っている。

 不安材料は空飛ぶ魔物の標的になりやすいかもしれないと言うことだ。


 因みにマロンに攻撃させたら簡単に撃墜されちゃったよ。

 で、俺の馬無し馬車で移動中、警戒を含めて上空に飛ばしているわけだ。


 二千メートルほどにまで上昇させると地上の様子が手に取るようにわかり、俺の脳内マップもかなり精度が上がった。

 但し、上空から陰になる部分や水中なんかは見えないから詳細な把握はできないが、将来的には動画カメラや必要なセンサーを開発して偵察衛星並みの能力を持たせようかとも考えている。


 地形から読み取れることは、カラミガランダでは農業用水に苦労しそうだし、ランドフルトは逆に治水に苦労しそうだ。

 更には、カラミガランダもランドフルトも土の力が弱まっている。


 可能性があるのは連作障害である。

 カラミガランダは土地も広いので、三圃農法により耕地を変え、或いは転作するなどの手法も採れるが、ランドフルトは湿地帯がある分だけ耕作地が狭く、余り余裕がない。

 特にランドフルトについては、仮に連作障害があるとしたなら、これまで一体どうやって農業をしていたのかと疑問にもなるほどだ。


 王都でこれまでの収穫状況を調べたところ、ランドフルトの場合ここ5年ほどは徐々に収穫量が下がり、同時に品質も下がっているようだ。

 それ以前も調べると何となく相関図が浮かび上がった。


 ランドフルトで大規模な洪水が起きた場合、その翌年以降の収穫量が上がっているのである。

 うーん、これはどうも洪水によって運ばれてきた土壌頼りの農業のようだ。


 地球の大昔の四大文明圏で行われていた農法だ。

 これだと洪水が無いと収穫量が落ちるから治水をしてしまうとこれまでの農業ができなくなるパターンだよね。


 ランドフルトの洪水は波があって必ずしも毎年発生するようなものではないようだ。

 ランドフルトの代官は一応屋敷を構えてはいるが領主ではないのでそこそこの規模である。


 敷地も左程広くはないが、新たな文官をそこに住まわせるには十分な余裕がありそうだ。

 代官所は王都から派遣されてきた人員だけでは足りずに、現地雇員を当てている。


 これは、カラミガランダでも同様であった。

 これら現地雇員も基本的には引き続き雇う方向でいるが、簡単な鑑定の結果では問題のある人物も一人二人いた。


 収賄をして便宜を図っているようだ。

 鑑定で見ると「収賄の官吏」という称号が付けられているのがわかっている。


 取り敢えず今のところは王宮派遣の代官の縄張りなので放置するが、俺が雇う代官とその随員には予め注意をしておくつもりである。

 これまで同様に収賄行為に走るならば即座にクビにしてしまえと指示するつもりだ。


 ランドフルトの騎士団の半数は、王都から派遣されてきたものであるが、下級騎士の大半は既にこの地に根付いており、代官が事前に調べた所では、出来るならばこの地の騎士団として雇って欲しいとの希望があるようだ。

 流石に騎士団長や副団長辺りの上級騎士は簡単に王国騎士団から抜け出せないようだが、下級騎士の場合、王国騎士団から地方貴族騎士団への配置換えは慣例上でも可能なようだ。


 尤もそのための手続きとしてお役所仕事がたくさんあるようではあるが・・・。

 土地に根付いた騎士たちのために俺が何らかの力添えをするのはやぶさかではないな。


 尤もそうした仕事をするのは新たに俺が任官するランドフルト代官の仕事になるのだが・・・。

 そうしてそれとは別に現地で雇われた騎士団員が居る。

 

 これら現地雇用の騎士団員のうち、元々が冒険者などで定住を望む者が地方騎士団の入隊試験に合格して雇われた者が居るが、これらの者は一般的に年齢が高いものが多い。

 また、これらとは別に王国直轄領であったランドフルトには騎士養成学校があって、そこの卒業生が騎士団員となっている場合が多い。


 騎士学校ができてから既に50年余りも経っており、卒業生がかなり多く、騎士団の構成メンバーのうち幹部以外の主要メンバーは卒業生が占めているのであり、これらが引き続きランドフルトへの定住を望む者達の中核になっているらしい。

 ある意味土地への愛着であって、ファンデンダルク家への忠誠心に影響するものではないのだが、今後のランドフルトの治世や隆盛次第によっては忠誠心に変わり得るものだろうと観てもいる。


 ここでは旧子爵領と異なり、俺がいずれ引き継ぐにしても騎士や文官たちは未だに王家の指揮下にあるから、騎士団の招集も行わず、ランドフルト代官と騎士団長を通じて、希望者にはファンデンダルク家の騎士団等への採用の道を遺すと伝えてもらった。

 正式には新任の代官が着任し、代官業務の引継ぎの過程で所要の手続きがなされることになるだろう。


 ランドフルトでは領主邸も無いし、当面騎士団の指揮権も無いので訓示も必要が無かった。

 代官の了承を得て、領内を一回りして領民の暮らしぶりを確認してから王都へ戻った。


 今回のカラミガランダとランドフルトの視察で、地政学的な情報を仕入れることができたのは有益だった。

 領域全体から見ると、南方域になるカラミガランダの南側は鬱蒼とした山岳地帯であり、中道派のベーリング子爵領と隣接しているが狭隘な山道があるだけで大軍を動かすのには至って不向きの地形である。


 領地の東側については、王都からカラミガランダ、王都からランドフルトにそれぞれ至る主往還があり、王都から西方域へ至る主要街道の中継地を担っている。

 カラミガランダ東側に接するのは中道派リグレス伯爵領で、ランドフルト東側には国王派シャーリング子爵領が接している。


 東側は多少の凹凸はあっても概ね平原を呈しており、大軍の移動には支障がないが主往還以外の間道は狭く大軍の移動は制限を受けることになる。

 特に、リグレス伯爵領、シャーリング子爵領と俺の領地が接する地域はその一部が未開の丘陵地帯であり、魔物が棲んでいるらしい。


 ランドフルトの北側は、傾斜の緩い山地を境に国王派のリンダース侯爵の飛び地である。

 一方西側は、王弟派メルエスト子爵領であり、ある意味で一番警戒を要する領地でもある。


 そうして更に西側にいくつかの領地があって、最果てにベルゼルト魔境があるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る