4-2 取り敢えず準備? その二

 いやぁ、メイド長候補のエルフ嬢、色々突っ込みどころ満載なんだけれど、なんでこんな人がメイドやってんの?

 できるなら、このエルフ嬢にしたいけれど、もう一人サマンサさんもスキルが高いので雇いたいところだが、二人って雇えるのかねぇ。


 取り敢えず鑑定結果から判断すると、家宰ではジャック・ブレインさん、メイド長ではフレデリカ・バイデンさん、次点でサマンサ・クレッサンスさんと言うところか。

 フレデリカさんは、エルフの特徴である耳を偽装しているみたいだから、エルフであることを隠しているのだろうけれど、そこは俺もここでの質問では避けておく必要があるのかな?


 で、質問を三つ投げかけた。

 最初に家宰候補には、紙とペンを渡して回答を記述してもらうことにした。


家宰候補一つ目の質問:

 王都での屋敷は、一応、元ダンケルガー辺境伯の屋敷を買いとる手はずを整えている。

 当該屋敷に関して知っている情報を簡潔に記載するとともに思うところを記しなさい。


家宰候補二つ目の質問:

 現在屋敷は56年間無人であったことから荒れ果てていてそのままでは居住は不可能。特に全体の三割から四割に達する木材建設部分は修理不能のため新築を要する。庭園部は密林と見間違うほど荒れ果てている。

 紅白金貨50枚を与えた場合、当該屋敷で何を真っ先に整備すべきか記せ。

 また、当該屋敷で陞爵によるお披露目会を開催することになるが、明日から必要な業者を頼んで整備を開始した場合、最も短期間で開催できると思われる期日を述べよ。

 但し、執事、メイドその他の屋敷での用人の雇用経費、お披露目会で必要な食器、糧食、衣類等屋敷の整備に関する費用以外の経費は別勘定とする。


家宰候補三つ目の質問:

 当家の家宰を引き受けるに辺り、当主に申しおいておくべきことあらば箇条書きで記せ。


 メイド長候補には口頭で質問をした。


メイド長一つ目の質問

 伯爵家に嫁を迎えることになる場合、当該嫁には如何なる要件が課されるか?


メイド長二つ目の質問

 伯爵家の正妻の他に側室を設けることが望まれているが、貴族以外の側室を設ける場合の問題点は何か?


メイド長三つ目の質問

 得意な料理を三つ上げなさい。

 また、そのうちで最も好きな料理は何か?


 メイド長候補と口頭試問をしている間に、家宰候補たちは懸命に答えを書いていた。

 口頭試問の結果でも三人のメイド長候補の能力はいずれも高いと思われるが、やはりフレデリカ・バイデンさん、次点でサマンサ・クレッサンスさんの順である。


 そこで本人達を前にして先に結論を言った。

 サマンサさんとクレアさんの落ち込みぶりはかなりのモノだった。


 その上で、サマンサさんとクレアさんに告げた。


「サマンサさんについては、可能であれば領地である本宅の方のメイド長をお願いしたいと考えているのだが、都合はいかがだろうか。

 仮にご家族がいるなら同道しても構わないし、住宅は別途用意する。

 また、クレアさんについてはメイド副長と言う立場であるなら、王都別宅でも領地本宅でも採用できるが如何なものだろうか?」


 すると二人とも狂喜して食いついてきた。

 結局話し合いの結果、クレアさんについてはメイド副長と言う立場でフレデリカさんの補佐をしてもらい、サマンサさんについては領地の本宅のメイド長をお願いすることにした。


 一方、家宰候補の方は、事務処理能力と文章の起案能力を見るために質問を為したのだが、最初っからダンケルガー辺境伯邸を買うのはおやめになった方がいいと言うビットリー・ウィルキンズさん、色々と情報収集能力があり、忠誠心も旺盛なのはわかりますけれど、主を誹謗するような書き方をするのは拙いですね。

 その意味ではむしろ、テルガー・ヤングさんの記載ぶりの方が受け入れられやすい。


 そうしてジャック・ブレインさん、家宰候補の中では一番知力が高かった所為でしょうか、俺が意図したこと、既に除霊を行い、これから住むに支障がなくなったので課題にしたことを推測ですが見事に言い当てていました。

 その上で適切な整備計画を盛り込んでいます。時間が短かった割にかなり細かいところまで整備計画を立ててくれたのには驚きです。


 この人物ならば王都別邸の家宰を任せても大丈夫でしょう。

 家宰の複数採用も考えてはみたのですが、今回は見送りました。


 別途必要がある場合にはまたギルドにお邪魔しましょう。

 別室で採用者4名の雇用条件を話しました。


 王都での家宰とメイド長の報酬の相場は知っていますが、俺の場合はその1.2倍を支給することにしました。

 家宰のジャックには白輪金貨10枚、同じくメイド長のフレデリカとサマンサも白輪金貨10枚、クレアさんは副長なので白輪金貨8枚としました。


 同時に彼らには支度金として白輪金貨4枚を手渡しました。

 その上で以下のような指示を出しました。


 彼らの住まいは、当面各自適当な宿を手配してもらうこと。

 王都別邸に必要な使用人は、早急にジャックとフレデリカで集めて欲しいこと。


 採用は二人に任せること。

 採用人員は総勢で30名以上とすること、当座、集められない場合は最低限度の16名程度でも構わないこと。


 報酬は、能力及び年功に応じて年額で白輪金貨3枚から6枚程度を考えているが、ジャックとフレデリカの判断で報酬の上下はできること。

 仮にクレアが抱えている予備軍のメイド達がいるならば更に4名までの加算を認めるが、屋敷内での派閥形成は禁ずること。


 厨房要員は少なくとも3名以上が望ましいこと。

 使用人総数は騎士を除いて最大で50名まで可能と判断しているが、必要の都度相談してほしいこと。

 邸の整備方針は取り敢えずさっきジャックが提出したモノを基本として、現実に邸を見たうえで再度の見積もりを出してほしいこと。


 以上の条件を付した説明を聞いて、宿での仮住まいに関して、ジャックとフレデリカから屋敷の整備が整うまで暫定的に賃貸の屋敷を借りることを提案してきた。

 マッケンジー不動産は割高に過ぎるが、商業ギルドから比較的整備の行き届いた男爵クラスの屋敷を借りて当面の仮の拠点としてはどうかと提案されたのだ。


 その案に乗って、ジャックに白金貨十枚を渡して、その手配を任せた。

 その日のうちに仮住まいが決まり、執事3名、庭師2名、メイド12名、コック4名、馬丁2名が雇われ、同時に冒険者ギルドから警備員8名の派遣を受けて、仮住まいの清掃整備を始めた。


 ジャックの進言により馬車も二台を準備することにした。

 新車は作るまでに時間がかかるので当座中古車であるが、納車された段階(ジャックが進言してから三日目だった。)で俺がいじり倒した。


 サスペンションの改良、車軸周りにボールベアリングの採用、車体の軽量化と強化、馬車内部の椅子のクッションの改良などでとても乗り心地の良い馬車になり、乗っていても疲労が少なくなったはず。

 馬車とは長時間乗ると腰や尻が痛くなるものなのだが、俺が魔改造した馬車はそうではなくなったので馬丁二人が随分と喜んでいる。


 ついでに俺の家紋を作らねばいけないらしかったので、俺のPCのデータベース(単なるメモリーカード)から欧州の家紋を引っ張り出してパクった。

 ここは異世界だもん。


 地球の特許権や意匠権なんか及ばない。

 パクリで選んだのは、ハプスブルグ家の双頭の鷲だ。


 中央の盾だけ何か気に入らなかったので、コバルトブルーの下地に金色つる草模様の入った盾に変えた。

 ちょっと作るのに面倒かもしれないけれど、真似しにくいし、こっちでは斬新なデザインだったみたいで家宰とメイド長の評価も上々。


 早速に中古の馬車の両側面に付けたよ。

 ジャックはすぐに執事の中でも絵の得意なものに写させて、指物屋にオーダーを掛けていたようだ。


 家紋の入ったフラッグを作るためだ。

 中世感バリバリだよね。


 甲冑姿の騎士が揃えば満点ですが、こちらの騎士は滅多にフルプレートアーマーは着用する方は居ないようだ。


 あ、そうそう、馬車が準備できていなかった間、元辺境伯邸だった新たな屋敷にはレンタルした馬車に乗って移動、ジャックやフレデリカを連れて確認しに行った。

 俺が歩いて行こうとしたらジャックとフレデリカに止められてしまった。


 伯爵が徒歩で街中を歩くのは問題なのだそうだ。

 専用の馬車がいいのだが無ければレンタルの馬車での移動でもやむを得ないとのこと。


 本当ホントッ、貴族って面倒メンドいね。

 散歩もおちおちできやしない。


 件のお屋敷の方なんだが、未だに隣接地境界に聖魔法の結界はかけられたままだけれど、アーマレイド不動産が結界の維持のための魔力供給を止めたのでいずれ結界は効力を失うと聞いている。

 屋敷内に入ると前回のように樹木が襲撃してくるようなことは無いのだが、数匹の魔物らしき反応があるので念のため調べることにした。


 実は正門部分の結界は外したままなので、魔物化した動物でも逃げた奴は居るようだ。

 前回は少なくとも二十ほど数えた魔物らしきモノが数匹しかいない。


 別にこの近辺で住民が襲われたとは聞いていないので左程危険な魔物では無かったのだと思う。

 少々無責任かもしれないけれど、そう思いたい・・・。


 俺の聖魔法の行使で狂暴な魔物から大人しいモノに変化した可能性もあるしネェー。

 そんなこんなで屋敷そのものの検分は、ジャックとフレデリカに任せ、俺は敷地内に残る魔物の確認作業に回った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る