第三章 第八日目以降のホブランド
3-1 ワルとの交渉事
その後もフレゴルドの街中の雑用と街外の依頼を交互に受ける生活が続いている。
街中の雑用時も外での依頼時も一生懸命素材拾いもやっている。
たとえ石ころでも使い道はある。
俺様の優秀なインベントリが、使い道に応じて綺麗に整理整頓してくれるので俺は必要な時にインベントリを開いて取り出すだけなんだよ。
すんごい便利。
インベントリって優秀な秘書並みだわ。ホント。
それにインベントリに屑籠指定した場所なんだけれど、置いてあった物がいつの間にか消えてました。
間違いなく置いてあった要らない書籍が消えているから俺の勘違いじゃないし、インベントリの内容物リストからも外れています。
どうやらインベントリが進化して不要物の消去ができるみたいだ。
便利そうなので屑籠はそのまま置いておくことにした。
そんな平穏な時を送っていたら、ハンナさんから不動産の件で連絡が来た。
ハンナさんにお願いしてから6日目のこと。
で、今、商業ギルドの二階にいるわけですけれど、ビックリした。
ハンナさんしっかりと妊娠してましたよ。
これはあの日からやりまくり?
一応、ハンナさんには伝えたけれど実感が湧くのはまだまだ先の話。
少なくとも次の生理が無くって、更にその次の生理が来なければ妊娠と確認できるでしょう。
で、その日の午後に俺はグレマンと会うことになった。
場所は、市内の某カフェです。
取り敢えずハンナさんも同行して、お互いに紹介された後、打ち合わせ通りに彼女はギルドに戻って行った。
周囲のテーブルにも客はいないが、俺は声を潜めて彼に言った。
「単刀直入に申しましょう。
グラデス街の屋敷町にある屋敷の件なんですが、私にお売りくださいませんか。
今なら白金貨1枚で買いますが?」
「フン、話にならんな。
あの屋敷は、手入れすれば紅白金貨5枚分の価値があるんだぞ。
値引き交渉するのにも限度があるだろうが。」
グレマンがふんぞり返ってそう言った。
「おや、そうなんですか?
現状では誰も入れない呪いの邸、銅貨一枚の価値もない筈ですが。
まあ、いいでしょう。
あなたが強気に出られなくなる情報をお伝えしましょうか。」
「何の話だ。
つまらん話ならわしはもう引き上げるぞ。」
「つまらなくはないでしょうな。
少なくともあなたの命がかかってます。」
「何?
どういうことだ?」
「アリス・エーベンリッヒ嬢はご存知ですよね?」
名前を聞いた途端、右の目元がぴくっと動きましたが、流石に悪党、しらを切りました。
「ふん、知らんな。
それがどうした?」
「アリス嬢の父上であるハイル・エーベンリッヒ殿も貴方はよくご承知の筈。」
「ハイル?
知らんな。
儂は会ったことのない人物だ。」
「おやそうですか?
ではテッドリー・カッソラーというヒトなら知っている筈ですが?」
多少青ざめながらもグレマンが言った。
「誰だ、そいつは?
そんな詐欺師は知らん。」
俺は闇魔法で相手を概ねコントロールしている。
「おや、私は、詐欺師と言った覚えはないのですが、よくご存知ですね。
まぁ、それはともかく、アリス嬢は、詐欺師のテッドリー・カッソラーに会ったことはないようですね。
で、今度私が屋敷に赴いて、アリス嬢にお話をしようと思ってます。
この街の西部に詐欺師のテッドリー・カッソラーが生きているということと、今現在はグレマン・オイゲンと名乗っているが、両方とも偽名であること、ついでに住所もしゃべってしまうつもりなんですが、アリス嬢はどう思うでしょうね?」
「おまっ・・・、お前は一体何なんだ。
何でそんなことをする。」
「そうですね、他人を騙し、その騙した人を不幸に
そんな
俺が白金貨一枚を提示するのはせめてもの情けです。
早めにこのフレゴルドを立ち去る方がいいだろうね。
アリス嬢は邸を奪おうとする者には誰であれ容赦しなかった。
貴方が、メイドのクラリスと企んで邸の所有権を示す書類を盗んだと知れば、地の果てまで追いかけるのは間違いないでしょうね。
あ、俺を消そうとしても無駄ですよ。
俺が死ねばすぐにも情報がまき散らされ、同時に邸にはいくつかの手紙が投げ込まれる。
アリス嬢ならきっとそれを読めるでしょうね。
それに手紙にはあなたの幾つかの似顔絵を付けてあります。
変装時のものもね。
さて、話を戻しましょうか?
今なら、私は、あの屋敷を現状のまま白輪金貨8枚で買い受けますが如何ですか。」
真っ青になりながらもグレマンは言った。
「何だ?
さっきは白金貨1枚と言っていた筈だろう。
何で買い入れ価格が下がったんだ?」
「そりゃぁ、あんたが条件を飲めないと拒否し、しらばっくれたからでしょうが。
これで、うんと言わないのであれば、まだまだ下がりますよ。
決裂すれば、貴方は終わりだ。
で、どうします?」
「うっ、・・・。
白輪金貨八枚で売ったとして、お前がアリスに喋らないと言う保証はどこにある。」
「そんなものある訳ないじゃないですか。
保証が必要なら貴方が金を積まなければならんでしょうが?」
「値切った上にまだ金を出せと?」
「いえ、売値を下げればその保証代わりになるかも?」
「うーっ、・・・。
なら白輪金貨五枚で手を打とう。
白輪金貨三枚が口止め料だ。」
闇魔法の効果は絶大です。
とうとうグレマンは自ら罪を認めるようなことを口にしてしまいましたが、本人はほとんど無意識で気づいていません。
「いいでしょう。
でも、早急にこの近辺から立ち去ることをお勧めしますよ。
少なくともジェスタ国からは居なくなるのが一番良いのじゃないでしょうか?」
その後急速に軟化したグレマンは、商業ギルドに行って売買契約書を作ってもらい、現状のまま白輪金貨5枚で売却することに同意した。
俺の方は商業ギルドに白輪金貨5枚を預けておくので、契約書にサインし、必要書類をグレマンがギルドに引き渡せば、その金がグレマンに渡るように手配することにした。
グレマンは翌日には契約書を商業ギルドに持ち込み、関連書類をギルドに引き渡し、白輪金貨五枚を受け取ってそそくさと出て行ったようだ。
その二日後には、西部にあった屋敷も二束三文で叩き売って、フレゴルドからグレマンの姿は消えた。
こうして俺は白輪金貨五枚でお化け屋敷を手に入れたわけだが、ハンナさんにはしっかりと呆れられてしまった。
「詐欺師を
土地だけでも紅白金貨3枚は下らない価値なのに、お屋敷込みで白輪金貨五枚だなんて絶対にあり得ません。
代官所から突っ込まれますよ。」
そう言いながらもハンナさんは所定の書類を俺に渡してくれた。
「いやぁ、敷地に入るだけでも命がけなんでしょう?
白輪金貨五枚ならむしろ上々ですよ。」
後はこの書類を持って行って代官所に届け出れば、例の家は完全に俺の所有物になる。
その上で、アリス嬢とのご対面を図らねばならないわけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます