2-16 喜捨とリューマの体形?

 幼女神が消えて、俺は教会で跪いていた。

 それから少し時間を置いて立ち上がり、シスター(多分、この人がナンシアさんなのだろうけれど)に礼を述べた。


 その上で、教会に金貨五枚を喜捨きしゃすることにした。

 金額の大きさに驚きの表情を見せたシスターだが、丁寧にお礼を言いながら喜んで受け取ってくれた。


「この教会は、孤児院を併設しているとか、何かお困りのことはありませんか?」


「はい、この孤児院では28名ほどの孤児たちを預かっております。

 代官所からも少ないながら維持のための予算は分けて頂いているし、街の皆さんにも色々気を使って頂いているのですが、育ち盛りの子たちはいつもおなかをすかせている状態なのです。

 でも、このお金があればしばらくはひもじい思いをさせなくとも済むかと存じます。」


「そうですか。

 では、オークの肉を少しばかり持っているのでお分けしましょう。

 まかないはどちらでしょうか?」


 荷物など何も持っていそうに無い俺を見て不審に思ったのだろう、シスターが問いかける。


「は?あの、・・・。

 今でございますか?」


「ええ、是非内密にお願いしますが、俺はマジックバッグを持っています。」


 老女は手を口に当てて驚いていた。

 インベントリだけではなくマジックバッグ持ちも本当に珍しいのだろう。


 老女の案内で賄いに行き、空いている棚に、肉を置いて行く。

 多めに見て一人分300グラムとしても、27人分で約8キロ、シスターたちを含めても多分一食当たり10キロで足りるだろう。


 冷蔵庫内の肉の熟成を考えると豚肉で通常三日から五日ぐらいなのだが、室温ならば早くなる。

 おそらく2日か3日程度だろう。


 俺は1日分で20キロ、二日分40キロと想定して、5キロずつの小分けにした肉を、樹木の繊維で織り上げた目の細かい袋に入れて棚に置いた。

 こうすれば虫も寄りつけないはずだ。


「この肉は、明後日あさって明々後日しあさってぐらいが一番美味しい時期になると思いますが、今日から食べ始めても何の問題もありません。

 逆に4日経過以降は徐々に肉が悪くなりますので、できれば今日から4日以内に食べきるようにしてください。

 子供達とシスター達の分もあると思います。」


 彼女は、丁寧に礼を述べ自らの名を言い、同時に俺の名を尋ねた、

 彼女は、やはりシスター長のナンシアさんだった。


 うん、鑑定で分かってはいたけれどね。

 俺も自分の名と冒険者であることを伝えておいた。


 オークの肉は俺の持っている中では普通のものだが、それでも売れば、100グラムで300円から500円ぐらい、こっちで言えば、大銅貨三枚から5枚程度で売れるはず。

 だから合計40キロのお肉であれば、最低でも大銀貨6枚ほどの価値にはなる筈だ。


 最後まで何度も頭を下げつつ俺を見送ってくれたナンシアさんだった。

 これ以降もできる限り5日に一度は孤児院を尋ね、喜捨代わりのお肉を寄付するようにした。


 二月ふたつきに一度は金貨5枚程度の喜捨もするようにした。

 その後半年ほどの間に、孤児院の子供達に俺は「肉のお兄ちゃん」とあだ名されるようになっていた。


 教会を出て俺は雑貨屋と道具屋巡りをした。

 目的は、治癒魔法の書籍と万一の場合のキャンプ装備である。


 日本にいる頃はインベントリも無かったからバックパックに入れていたのは本当に最低限度と思われるものだけを厳選していたが、おそらくは収蔵能力無限大のインベントリがある以上、何の遠慮も要らない。

 俺は、必要と思われるものを次々に補充していった。


 食器及び鍋釜などの什器、まな板、包丁などの台所用具。

 食品を保管しておく箱、ケース、袋の類。


 調味料に食料。

 テントの類と寝具。


 そうしていろいろと探し回ってついに見つけましたよ。

 治癒魔法の書籍二冊。


 外れじゃなければいいのだけれどね。

 こればかりは中身を見てみないとわからない。


 購入して、バックパックならぬインベントリに入れた途端にわかりました。

 一つははずれ、もう一つは当たりでした。


 外れの方は自叙伝で、具体的なことはほとんど書いていないのに自分の成果だけを自我自賛しているヤツ。

 捨てても良かったんだけれど、道端に捨てるわけにも行かない。


 これはインベントリの屑籠くずかごエリアに入れるしかないだろう。

 それらに加えて、空間魔法を使ったテントについては、魔核の魔力がもう切れていて、作動不良に陥っているヤツを見つけました。


 魔核に記されている魔法陣を鑑定で解析した限りでは、内部は6つに仕切られており、空間拡張を使っているので一人用のサイズなのに中に入ると寝室4つ、キッチン付きの居間それに風呂場、トイレなどの水場の二区画があるようだ。

 このテントを買って新たな魔核で改良魔法陣を描けば立派なキャンプ用のテントができそうだ。


 何せ結界も張れるヤツなんだけどね。

 魔法陣が分からないというか、もう使えないと思っている人たちにとっては全くの無価値。


 テント入り口の扉も空けられない欠陥商品として捨て値で店の隅に放置されていた。

 銀貨二枚という格安値だったので俺は喜んで購入しましたよ。


 コンパクトにまとめられたテントは、俺の本来のバックパックの容量でも十分入る大きさだった。

 買い物を済ませて俺は、最寄りの食堂に入って軽めの昼食をった。


 食事中、知り合いの人たちをマップで見ると、シレーヌ達は相変わらず、代官所の中で動き回っているようだ。

 ギルド職員は全員それぞれのギルドの中、ナンシアさんは多分孤児院の子供達に囲まれて何かをしている状態。


 俺は念のために、ナンシアさんの周辺にいる人達(子供?)をマーキングしておいた。

 誰かはわからなくても、その動きは追尾できる。

 

 それから念のため、錬金術・薬師ギルドを訪ね、明日の予定である携帯型照明魔道具の製作に支障がないことを確認し、冒険者ギルドに立ち寄って依頼の掲示板に目を通した。

 仮に依頼を受けるにしても明日になることになるだろう。


 冒険者ギルドは、この時間は端境期はざかいきのようなもので冒険者の姿はほとんどいない。

 それもあってか、受付嬢のレイナが気軽に声をかけて来た。


「リューマ、今日は依頼を受けないの?」


「うん、別のところに用事があったんでね。

 来るのが遅くなった。

 仮に受けるとしても明日だね。」


「今のうちに選んでおく?」


「いや、取り敢えず、目ぼしいものだけ確認して、明日来た時に決めるよ。」


「そう。

 リューマはフレゴルド期待の新人だからね、私達も応援してるよ。」


「ありがとう、期待に応えられるよう頑張るよ。」

 

 Fランクの依頼はGランクよりも多少ましな程度である。

 やはり街中の雑用、薬草採取、それにスライム狩などが多いのだ。


 極端な話、スライム狩なんかは、成人前の子供でもできるような依頼である。

 まぁ、一応は魔物だし、スライムのレベルによっては、D以上の高ランク冒険者でなければ対応できないスライムも稀に存在するのだけれどね。


 特にスライムでも色の濃い黒っぽいのは冒険者でも危険であるとレイナ嬢に教わっている。

 そう言えば魔物図鑑とかあれば便利だよな。


  相手の特性とか事前に分かれば対処しやすい。

 俺の場合、鑑定で相手のステータスを見てから対処するけれど、鑑定をかけなくても事前に知識がある方がいいのは当たり前だ。


 依頼の方だが特に目立つ依頼はない。

 比較的高額の依頼で目ぼしいのはおそらく午前の早いうちに別の冒険者が受けたはずだ。


 残っているのはクズと言うに近いほどのけ依頼だろう。

 因みにFランクで受けられる依頼は、Eランク対象までである。


 討伐系はスライムを含めて無かった。

 街中まちなかの依頼で気になったのは一件だけ。


 問題の呪いの館に隣接するお屋敷で庭の雑草を処理するお仕事。

 本来であれば自分でできるぐらいの仕事の筈だが、何か事情があるのかもしれない。


 件の邸の情報を含めて明日も目ぼしい依頼が無ければ、この雑草処理の依頼を受けようかと思っている。

 報酬は、銀貨二枚だ。

 少なくとも冒険者からすれば小遣い稼ぎにもならない報酬に違いない。

 

 俺は冒険者ギルドを後にすると、これまであまり行ったことのない、街の北東部を散策し始めた。

 フレゴルドの街は、代官所を中心に概ね半径3キロ程度に収まっている。


 その周囲を城壁のような壁が巡らせてあり、魔物や魔獣の侵入を拒んでいるのだ。

 街の北東部は、工房が結構多数あるようだ。


 鍛冶工房、ガラス工房、木材加工工房などが散在している。

 そうしてこの区域には、所謂小人族なのだろうかドワーフぜんとしたオッサンたちが多い。


 身長が精々140センチかそこらなのだが、横幅が広い。

 胸回りは間違いなく俺より大きいと思う。


 これでも俺の胸囲は、106センチほどはあったんだけれど、正直なところやや改造されたらしい17歳の俺の胸囲は計ったことが無いのでわからん。

 と思っている内に、ステータスが化けたよ。


 『何じゃ?これ?』の出番だよ。

 ウーン、身長179.4センチは、日本に居た時の俺よりも4センチほど高いな。


 体重68キロは、まぁまぁそんなものだろうが、筋肉労働者ならば少し痩せ過ぎているかもしれない。

 正直言って、ここに来る直前の俺は運動不足で少しメタボりかけていて75キロ超えていたりした。


 で、胸囲は108センチ、うん、少し増えたかな。

 ウエストは、おっとぉ、かなり細くなってるぞ。


 73センチは、中学三年から高校一年生の頃のジーンズが穿けるぞい。

 最近は計ってなかったけど、間違いなく5センチ以上は細くなってる。


 股下?

 正確に計ったことなんて無いんだが・・・・。



 92センチ?

 嘘ぉっ‼

 身長の半分以上あるって、ひょっとして俺って脚長あしながおじさんか?


 そんな丈のズボンなんて買ったことないぞ。

 よくわからんが、幼女神様ひょっとして自分の好みで俺の体型変えただろう。


 絶対そうに違いない

 いや、別に嫌がってるわけじゃないよ。


 格好かっこよくなって嫌だなんて言ったら罰が当たるからね。

 でも、それだと何か落ち込むんだよね。

 以前の俺って随分と格好悪かったんだなって思うとさぁ、何となく寂しくなるじゃない?


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 7月20日、一部の字句修正を行いました。

  By @Sakura-shougen

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