2-15 幼女神とお化け屋敷の曰く因縁
色々情報を集めて今後の対応を考えなければならないわけだが、住む処どうしようか?
いずれは、家獲得のために動くとしても、当面は今の宿に厄介になろう。
一月に大銀貨60枚(金貨6枚)程度かかるのだが、いまさら、安い方の宿に行くのがちょっと怖いのだ。
俺のポッケ(インベントリ)には、金貨に換算して190枚以上の現金がある。
単純に計算して、30カ月以上は宿に泊まることはできる。
それに一月に一度金貨25枚のアルバイトをすれば、資産は増えても減ることはない。
あ、因みにホブランドでは月がとっても早い周回運動をしているし、一日に四回とは言いながらかなりの時間的ずれがある。
従ってこの世界では月という概念がない。
で、くくりとして120日毎に春夏秋冬の季節の区切りがあり、それぞれ初春、中春、晩春の様に区分されている。
便宜上俺は一つの区切りを
従って一年は480日、季節の変化はほぼ正確で狂いが無い様だ。
時間の話は置いといて、実際に良さげな不動産物件がない以上は 仕方がないからこのまま宿屋暮らしを続けざるを得ないだろう。
まぁ、そうは言いながらも、気になる物件の確認だけはしておくつもりである。
気になる物件とは、もちろん幽霊屋敷だよ。
商業ギルドを出た俺は、懸案だった聖アルナス教会を尋ねることにした。
聖アルナス教会は、俺の定宿(?)から200mほどの距離にあり、商業ギルドからもさほど遠くはない。
欧州にあるような立派な石造りの教会をイメージしていたが、木造の清貧な協会だった。
敷地は二千坪ほどもあるだろうか。
教会の所謂祈祷所とも思われる建物が約四分の一、その脇にひっそりとたたずむ聖職者の二階建て住宅が二棟、そうして孤児院と思われる二階建ての建物が敷地の半分近くほども占めている。
おそらく祭壇が置かれているであろう教会の扉を開けると、シスターと思われる老女がキリスト教の修道女に似た衣装で近づいてきた。
衣装の色が青であるところを除いて、修道服によく似ていた。
俺がアルノス神に祈りを捧げたいのだがと言うと老女は驚きの表情を見せた。
「貴方のような若い方が教会にいらっしゃること自体が珍しいのに・・・。
お祈りを捧げるなんて、今日はとてもいいことがありそうですね。」
そう言って微笑んだ。
老女は俺を祭壇の前まで導いてくれた。
俺は、お祈りの仕方を知らなかったが、その場で両膝をついて、頭を垂れ、両手を組み合わせて瞑目しながら心の中で話しかけた。
『アルノス様、貴女の加護を受けし者がお礼に参上しました。
もしお話ができるならば、お願いいたします。』
驚いたことにすぐに返事があった。
『よう参ったのじゃ。目を開けても良いぞよ。』
目を開けると、眼前にニパッと笑いながら幼女神様が立っていた。
あれ?
老女の修道女がいるはずなんだけど・・・・って。
老女さん凍りついていた。
身じろぎどころか瞬きすらしていない。
『ああ、妾の姿はお主だけにしか見えぬのじゃ。
妾もここに顕現したわけではない。
実体は別のところに在るのだが、まぁ、幻を見せているようなものじゃな。
他の者はそれを見られぬように暫し時を止めている。』
なんともやりたい放題の幼女神様である。
『で、元気にしておったか。
特に問題はなさそうに見えるが・・・。』
『はい、お陰様で、支障なくこの世界で生きております。
アルノス様にお会いしたなら聞こうと思っていたのですが、・・・。
俺のインベントリが少しおかしいんです。
それにマップも途中で出て来たんですけれど、やっぱり少しおかしい。
悪い方じゃなくっていい方に動いているから別に問題がある訳じゃないけれど。
アルノス様、何か介入していませんか?』
『ン、何のことじゃ?
妾はお主を送り出して以来、下界には一切干渉しておらぬぞ。
まぁ、召喚された勇者共の素行が気になったで、あっちの方はよく見ていたが、お主なら大丈夫じゃろうと思って監視の目も付けておらん。
で、何が起きた?』
俺はインベントリと、マップの奇妙な自主的成長の現象を説明した。
『ほう、そんなことが・・・・。
それはちと面白いのぉ。』
そう言って暫く考え込んでいたようだったが、やがて俺に言った。
『うん、今少し調べた限りでは、それは天界の者が干渉したのではなく、お主の力が無意識に発動してインベントリを改造し、また、マップを改造しているように思えるのう。
原因となりそうなものは、妾の加護とお主の魔法創造じゃ。
二つの力が複合的に働いて持ち手にとって使いやすいように変化したのじゃと思う。
じゃから、これからもこの二つに限らず色々と改良がなされるのではないかな?
また別にそんな事象が発生すれば教えてくれい。』
『わかりました。
ではまたこの次に来た折にお話しさせていただきます。
後は、文句ではないのですが、アルノス様、与えてくれた初期ステータスが少し高過ぎではないでしょうか。
普通の人と比べて随分と高い数値を示しておりましたが?』
『ン、そうであったかな?
あれは確か、召喚された勇者共の基礎値に倣ったものでさほど高いとは思えんのじゃが。』
『あ、例の川上理論の能力の高さですか?』
『そうじゃ、お主らはそもそも基礎の能力値が高いのじゃ。
そこは妾が逆にいじるべきとも思えない。』
『じゃぁ、後、異常な数値の上がり方もですか?』
『お主には勇者の称号が無いでな、代わりの妾の加護がついているのじゃが、まぁ確かに勇者の称号の二、三倍は効果が高いかもしれぬな。
それは、加護をつけた以上もう仕方がないことなのじゃ。
それとも称号を外すか?』
『いいえ、それはご勘弁ください。
折角もらったいいものなんですから、今更外されては困ります。
あと、たまたま今日聞いた話なんですが、俺の今いるフレゴルドの街の一画に呪われた家があって幽霊屋敷とか怨霊の館とか言われているらしいですが、本当に怨霊とか幽霊とかいるんですか?』
『怨霊に幽霊か・・・。
いないわけではないが、極めて稀じゃな。
普通は、リッチやゾンビそれにスケルトンなどの魔物の形をとるので、幽霊とか怨霊とかにはならぬのじゃが、・・・。
多分、それはアリスの
そう言ってアルノス幼女神様が語ってくれた。
アリスは5年ほど前までは実際に生きていた12歳の娘であった。
富裕な商家の娘として何不自由なく育ったアリスには聖魔法の属性があり、魔力も常人の倍ほどもあったので、周囲からはその成長が期待されていた。
だが、7年前のある時父親が詐欺にかかり、財政が破綻した。
ために両親はアリスを残して自殺したのである。
屋敷は人手に渡りかけたが、父の友人が何とか支えてくれたおかげでアリスは引き続き邸で暮らすようになったようだ。
だが、その暮らしも信用していたメイドが詐欺を働いた男とグルになってアリスを毒殺しようと計ったことで破綻した。
おまけにメイドは邸の所有権を証明する書類を盗み出していた。
アリスは以後一切の他人を信用しようとせずに引きこもりになり、それから一カ月ほどで餓死したのだ。
その遺骸は、今でも地下室にあるらしい。
彼女はリッチなどアンデッドの魔物にはならなかった。
聖なる魔力を宿したまま魂となって残り続けているらしい。
彼女の魂は邸を守ろうとしてかなりの抵抗を見せるようであり、聖職者の聖魔法では力が及ばなかった。
普通の者が侵入しようとした場合、最悪殺害も辞さないほど凝り固まっているようだ。
彼女にとって愛する両親が過ごした邸こそが絶対に守るべき最後の砦であるようだ。
アルノス神様はそれを知っていながら下界には干渉できずに手をこまねいていたらしい。
『のう、リューマよ。
妾がこんなことを言ってはいけないのだが、魂の牢獄に囚われているアリスを助けてやってはくれまいか。
彼女の想いを知っているだけに救ってやりたいのじゃが、妾には何もしてはやれぬ。
お主ならば、彼女を助けてくれるような気がするのじゃ。』
『俺がですか?
だって聖職者でさえ敵わなかったのでしょう?
俺じゃ無理じゃないですか?』
『お主には将来性がある。
何よりも妾の加護と魔法創造それに錬金術は、どうやら相性が凄く良いようじゃ。
それらを組み合わせれば、アリスの呪いというか魔力というか、それを封じ或いは説得することができるやもしれぬ。』
『まぁ、ほかならぬアルノス様のお願いですから努力はしますけれど、あまり期待はしないでくださいね。』
『ふむ、よろしく頼むのじゃ。
ついでに情報を与えておこう。
アリスの父親を詐欺にかけたのは、屋敷の所有者となっておるグレマンじゃ。
アリスはそのことを知らぬ。』
『グレマン?
そうですか・・・。
やはり商業ギルドが信用のおけない人物と言うだけのことはありますね。
何れにしろ、何とかするべく動いてはみます。
そうして今の内に申し上げておきます。
俺がこの世界で生きていられるのはアルノス様のお陰です。
本当にありがとうございました。
日々貴方には感謝を捧げるようにしますし、折を見て教会にも頻繁に顔を出すようにします。』
『そうじゃな、お主が顔を出すと、シスター長のナンシアも喜びそうじゃ。
労わってやってくれ。
ナンシアもいろいろ苦労しているでな。
時間が参ったようじゃ。
元気でな。
リューマ。』
その言葉を最後に、笑みを見せながら幼女神様は消えた。
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