2-11 ホブランド第三日目 豚ゴリラの群れ?

 翌日、俺が冒険者ギルドに行くと、オークの生息域調査依頼が張り出されていた。

 生憎とDランク以上の冒険者でなければ依頼を受けられないのだが、俺の場合は特殊なマップがある。


 マッピングも何だか性能がアップして、索敵ができるようになっているのだ。

 そのうちに索敵術とかのスキルができそうな気もする。


 あくまで勘でしかないのだが、現状で半径2キロメートル程度の索敵はできそうなのだ。

 この範囲で害意があるモノの索敵ができるのは、不意打ちを避けられるので非常に便利なのだ。


 要すれば、ライフルもどきで遠距離からの攻撃も出来るだろう。

 そのライフルの射程距離の見極めのためにも、俺はフィールドでの仕事を引き受けることにした。


 仮登録に過ぎないGランクの俺に受けられる依頼は、街の中の掃除や修理などの雑用か薬草探しと相場が決まっている。

 で、俺が選んだのは薬草探しだ。


 各種初級ポーションを造るための素材である薬草が常時依頼の形で張り出されているのである。

 MPポーションの素材として、ネグルマ草の葉肉とダリチンゲン草の花弁


 HPポーションの素材として、ワイオンヌの根及び茎、サビカラタチ草

 STRポーションの素材として、ボルゼンの実、ヴィットリアレンゲソウ

が挙げられている。


 これらはいずれも道端に生えているような薬草であり、本来は採って来るのも左程難しくはないのだが、冒険者たちが街の外に出たついでに得物が無いときなどは小遣い銭稼ぎで採取してしまう嫌いがある。

 従って、街の近くにはこれらの薬草が余り無いこともあり、低ランクでありながらやや危険な地域である街から離れた場所に赴かねばならないこともあって、実のところ低ランク冒険者からは余り引き受け手がないのだ。


 もう少し上級者が低級ランクの者に気遣ってくれればそんなことはないのだろうが、初級ランクであるG・Fクラスから這い上がったE・Dクラスの中級冒険者の走りにそのような者が多いらしい。

 冒険者ギルドのレイナ嬢がそう言ってぼやいていた。

 そうして、俺がギルドを出る前に、レイナ嬢が、


「薬草採取は結構危険が伴うから余り街から遠く離れないようにしてね。」


と優しい言葉をかけてくれた。


 まぁ、そんなわけで、俺は街の西門から出て、西の原野に向かっている。

 実のところ、闇ギルドの彼らがオークの集団の一部をして来たのは、フレゴルドの西側であったらしい。


 この最新情報を知っている者は至極限られている。

 例の闇ギルドを取り調べた関係者だけが知る情報であり、横領の事件がらみで調査中であるために未だ公表されてはいないのだ。


 冒険者ギルドが承知しているオークの集団は、街の外の北側で見つけられ、俺や近衛騎士によって討伐されたものであって、王女達一行が街に辿り着いてすぐに代官所経由で冒険者ギルドに情報が入り、翌日にはDランク以上の調査隊が出張ったが、街道周辺に多数のオークの遺骸はあったものの、そのほとんどが魔物又は魔獣に食い荒らされ、目ぼしい収穫物はなかったようだし、周辺を捜索してもオークの集落などが存在する形跡は認められなかったらしい。

 それでもオークの集団が近郊に存在する可能性は否定できず、当面七日間ほどの予定で調査が続行中だったのだ。


 で、俺はそれら調査隊が未だ目を付けていない西側領域を歩いているのだが、最初に、対象の薬草を特定すると後は実に簡単な作業だった。

 それら薬草を思念で意識すると、途端にマップ上にその存在位置が示されるのである。


 根こそぎ採っちゃうと、後々困るので、概ね全体の2割程度の採取にとどめているのだが、午前中だけでもかなりの数を採取していた。

 お昼は、街を出る前に屋台で買って来たお手軽ランチである。


 トルティーヤによく似た薄皮に野菜やお肉を挟み込んだ食べ物で、一個当たり大銅貨3枚、日本円換算で言えば600円ぐらいなのだが、結構ボリュームがあって、二個も食べれば間違いなく満腹になる代物だ。

 因みに、俺はそいつを10個も買ってインベントリに放り込んでいる。


 中で時間は止まっているからいつ取り出しても食べ頃、熱々の料理が出て来るわけだ。

 別の機会に買ってあった串焼きも8本ほどは残っている。

 ほかに飲料水はこっちの世界の水筒代わりの皮袋に10袋ほど、多分20ℓポリタンクで換算して三個分ほどもあるから、飲むだけならば水には困らないはずだ。


 で、朽ちて倒れた枯れ木の幹に腰を降ろして絶賛昼飯中なのであるが、その最中にも害意あるモノを見つけてしまったようだ。

 敵性であるオレンジ色を呈しているが、今のところ俺に敵意を抱いているわけではない。


 ま、向こうが俺の存在に気づいていないのだから当然でもある。

 これが俺に気づいて奴らに襲撃の意思が生ずれば、赤色を呈するようになる。


 方向は、マップで見る限り、現在位置から西南西約2キロを超えるあたりか。

 原野だから道もない。


 一応確認のためにそちらに向かうつもりだが、その前に念のため、ライフルモドキの射程距離を確認することにした。

 前回は凡そ100mの距離だったから、今回は樹木を相手に200m、300mと徐々に遠くを狙ったが、500mを超えても命中率は落ちなかった。


 500m先の的が見えるのかって?

 これが見えちゃうんですよぉ( ^)o(^ )。


 実は魔法創造で照星と照門の間に、魔眼スコープなるものを作ってみた。

 これが実に便利、倍率をどんどん変えられる。


 普通の狙撃銃だと8倍程度らしいが、魔眼スコープは30倍でも40倍でも行けちゃうんだ。

 しかもレンズではなく魔法で作り上げた光の収束空間だからサイト(スコープ内の見える範囲)は何の歪みも濁りも無くってとても鮮明な画像なんだ。


 尤も、狙う方がしっかり固定していないと照準がぶれちゃうけれど、ステータスが上がった所為せいか約千mの距離でも手持ちで大丈夫だったよ。

 この調子なら二脚若しくは三脚の銃架を取り付ければ2000m超えも十分可能だと思ってる。

 準備が整ったので、隠ぺい術と隠密術を駆使しながら、目標と思しき集団に向かった。


 動き始めてから10分経過後、見えた。

 木陰越しながらスコープ内にオークどもの集落。


 俺の知っている範囲ではオークは繁殖力が強い魔物で、撃ち漏らすと一年も経たずに大集落ができちゃうので殲滅を期すことが必要。

 で、念のため、数を数えてみました。


 マップ上で数えていたら急にデジタル表示がマップ枠外に出て来た。

 何じゃァ⁉これは⁉


 久しぶりのいつものビックリ表現です。

 察するにどうやらマップ内に存在するオークの数らしい。


 オレンジ色と黒っぽい灰色のマークが枠外に表示され、オレンジ色のマークには187、黒っぽい灰色のマークには今のところ0の数値が表示されている。

 何を意味しているかというと、多分俺がこれからオークを殺戮することを予想して、死んだ奴の数を表示するためのモノではないかと思うのだが、或いは間違っているかもしれない。


 だが、何となく合っているような気がする。

 幼女神様、ひょっとして俺を見張りながらあれこれとやらかしているんじゃないのかなと疑っているところだよ。


 何か、下界には手を出せんと言葉では言いつつも、本当は出せるのかもと本気で俺は疑ってる。

 それはともかく、殺戮ショーを始めるとしよっか。


 因みに射程距離を確認している間にも、ステータスをちょこっと確認したなら射撃術はLV6にまでアップしていました。

 訓練でさえ上がるんですから、実戦で撃ったらもっと上がるんだろうなと思う俺だった。


 距離は約千m、木陰に隠れ尚且つ太い枝に銃身を置いての射撃だから、精度が高い。

 隠ぺい術を行使しているから多分豚ゴリラどもの視界内に入っても、俺の姿は見えないはずだ。


 そうして射撃を開始した。

 3秒に一発程度の発射が徐々に早くなってきて、終わりころには1秒半に一発程度の発射だった。


 しかも全弾命中。

 肉が美味いらしいので、今回は遺骸も回収する予定。


 因みに今回は同じ頭部でも頸部に照準を当てて狙った。

 頭の中心を狙って吹き飛ばすと、討伐の証である耳が採れなくなる可能性が高い。


 で、首を狙って正解だった。

 首がちぎれて頭も跳ぶが、少なくとも内部からはじけたメロンやスイカのような酷いことにはならなかった。


 実際、強力な弾丸を頭部にぶち込むと、射入口はさほど大きくはならずとも、射出口では大きく広がってザクロが弾けるように頭蓋骨が粉砕されて飛び散ってしまうらしい。

 何れにしろ、撃ち始めてから10分とかからずに殲滅が終了した。


 その後は、ひたすらお肉の回収と耳剥ぎである。

 耳は、右の耳だけで良いらしい。


 射撃よりも耳剥ぎに多大な時間を要した。

 マップには黒っぽい灰色パターンで表示されるので、大きな首なし遺骸は直ぐに見つかるのだが、頭部が転がって茂みの中に有ったりするとマップ表示もないために中々に見つからないのでちょこっと苦労した。


 それでも夕暮れ近くには何とか作業を終えて、帰途に就くことができた。

 因みにインベントリの収容能力が凄い。


 体高2.5m~3m、体重300キロから600キロの豚ゴリラ、頭部が無いとは言え187体全部を収容できちゃった。

 平均重量400キロにしても軽く70トンを超えてる筈だけど、俺のバックパックの重さは精々二、三キロと普段通りで変わらない。

 このバックパックの重量であれば、下手すると強風でも飛ばされそうな雰囲気なのに・・・。


 時間が無くなりそうだったので懸命にマラソンをした俺は日没ちょうどぐらいに街の西門に駆け込んだ。

 実は、街の門は、日没から30分程度で閉められてしまうんだ。


 今のところ俺は野宿をするつもりはないが、いずれその準備もせざるを得まいと思っている。

 携行物品の中には日本で購入した新型のワンタッチ拡張テントも入っているが、あのままではちと心もとない。

 魔物や魔獣に襲撃されたら爪の一振りでお釈迦になる。


 こっちの世界では多分もっと強度を高めたいいものがある筈。

 インベントリの容量がほぼ無限大とわかった今なら少々大きなものでも携帯して歩けるから、テントのいい奴、若しくはログハウスぐらいを非常用に持っておくべきだと思う。


 俺は、宵の時間ではあったが、冒険者ギルドに行って、Gランク冒険者としては正規の依頼分である薬草を買い取ってもらうようレイナ嬢ではない別のお姉さんにお願いすることにした。

 冒険者ギルドは、日没前から1時間ほどは結構混雑する時間なのだ。


 朝は、三の時を挟んで1時間ぐらいがやはり混雑する様だ。

 従ってその混雑時期を外せば待機時間を少なくできる。


 だが、討伐部位や生の肉なんぞを持って帰って来た冒険者は、待っている間にも鮮度が落ちると困る者もいるようで我勝ちに先を争い、時折喧嘩になる場合もあるようだ。

 肉ってのは、血抜きをしてから結構な時間を置かないと熟成しない筈なんだが、こっちの世界の冒険者たちは死んで直ぐのが一番美味いとちょっと誤解しているようだ。



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 12月12日、一部字句修正を行いました。

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