2-12 ギルドマスターとのご対面
冒険者ギルド受付のレイナ嬢の前は特に多数の人が並んでいたので、俺は、少し待ってもできるだけ空いていそうな受付嬢を狙って、列に並んだのだ。
年増で左程の綺麗処ではないご婦人(お嬢さんかどうかは不明)の前は、どうしても列が少ない様だ。
差別ではないのだが、やはり相手をしてもらうのは綺麗なお嬢さんがいいのだろう。
と言いつつも、冒険者は男ばかりじゃない。
女性の冒険者も少なからずいる。
俺の直前に居る人が女性冒険者だ。
聞くともなしに耳に入って来た話では、「胡蝶乱舞」という女性冒険者だけのパーティで、前に並んでいたお姉さんはそのリーダーであるようだ。
鑑定をかけると、お名前はジェリオン・イスタ、21歳、冒険者のランクもCランクと中堅どころである。
Bランクにまで達すると上級冒険者と呼ばれるらしい。
レベルも32と結構高い。
尤も俺は、今回のオーク殲滅で、28から52上がって80になってしまったから、レベル的には彼女の上になるだろうが、実戦の場数では彼女の方が上だから、近接戦闘で張り合ったなら多分負けるんじゃないかと思うのだ。
彼女らも、北側のオーク調査に携わったらしいのだが何の成果も無かったようだ。
その報告をしながら、ああでもないこうでもないと受付のご婦人と長話をしている。
隣のカウンターでは既に四人も人が入れ替わっていると言うのに、或いはこのカウンターに並んだのは間違いだったかと後悔し始めた頃ようやく話が終わったようだ。
「お次の方ご用件をどうぞ。」
始めて会っただろう冒険者に自己紹介もなしにいきなり仕事モードで始まった。
まぁ、この辺も煙たがられる理由の一つかなと思いながら、ため息をついて俺が用件を伝える。
「薬草採取の依頼をしてきました。
どちらに行けば宜しいですかね?」
目の前の年増のご婦人、何とも言えない渋い顔で言いましたよ。
「右の隅に、買取カウンターがあるから、そちらに行って頂戴ね。
初心者はこれだから困る。」
最後にぶすっと小さな声で付け加えたのを聞いて、ちょっと切れましたね。
「わかりました。
後、薬草採取をしているうちにオークの集団を見つけたけれど、その件はどちらに報告すればいいのかな?」
年増のご婦人びっくりした顔で、若干顔が引きつりながら甲高い声で言った。
「あんた、何でそれを早く言わないの。
一体何処でオークを見つけたの?」
その声で一瞬、ギルドの受付カウンターの周辺が静まり返った。
そうして背後からがっしりと肩を掴まれた。
首をギギギと回すと先ほどまで俺の前に居た胡蝶乱舞のジェリオンさんだった。
流石にレベル32の熟練者の握力は伊達じゃない。
レベル80になり立ての俺でも丈夫さは今のところ57ほど。
肩が痛いです。
ジェリオンさん。
「何処で観た。言え。」
結構な強面の脅迫言動に近いですよね。
比較的若い女性に脅されている俺ってちょっと情けないかも。
年上だけどそれなりに美人だから許すか。
半身で俺は言った。
「西門から西南西方向に、凡そ8ケールほどのなだらかな斜面だった。
全部で187匹いた。」
因みに8ケールは日本では12キロほどに相当する。
すると、ジェリオンさんが吐き出すように言う。
「まさか、・・・。デマか?
何で、そんなに正確なオークの生息数がわかる?」
「その場で数えたから間違いない。」
益々、渋い顔をしながらジェリオンさんが言った。
「お前、阿保か。
オークが百匹以上も集まりゃ、ジェネラルか或いはキングが率いている。
見張りに見つからずに全部が数えられるわけがないだろう。」
「そりゃぁ、まぁ、普通はそうかな?
でも討伐してから数えたら187匹だったから間違いないよ。」
呆気にとられたようにジェリオンさんが言った。
「お前、何処のパーティだ。
単独でオークの群れを討伐できるようなパーティはここらにはいなかった筈だ。」
「パーティですか?
俺、何処にも入ってないよ。
ソロだから。」
「まさか一人で?嘘だろう?」
まぁ止むを得ないけれど、俺の言葉を疑って信じてもらえないジュリオンさんは、この際放置して、受付の年増ご婦人に尋ねることにする。
「受付のお姉さん、教えてくれる?
討伐部位も買い取りの処?
それともこちら?」
それこそ、恐る恐る年増の御婦人が聞いてきた。
「あんた、本当に187匹分の右耳持ってるの?」
俺が頷くと、若干青くなりながら言った。
「ちょっと待ってて、オークの件はギルマスへの最優先報告事項なんで、それをしてから指示するから。
絶対にここから動いちゃだめよ。いいわね。」
そう言い置いて年増のご婦人はバタバタと音を立てて奥の方へ駆けて行った。
残された俺はそこで待つしかないことになった。
で、ジェリオンさんが話しかけて来た。
傍ではちょっと距離を開けてはいるがむくつけき男どもがしっかりと聞き耳を立てているようだ。
「私は、パーティ胡蝶乱舞のリーダーをやっているジェリオン、Cランクだ。
君の名を教えてくれるかい?」
「俺は、リューマ、ソロでやっている駆け出しのGランクだ。」
「Gランク?
何で、それでオークの討伐ができる?」
「普通はできないんだろうね?
でも、できたんだから仕方がない。
数日前にも街の北側でオーク23匹が出たけど、たまたま俺もその場にいて何匹か討伐したことがあるんだよ。
その時は事情があって討伐部位を集めることなく去ったけどね。
今回は薬草採取のために出張ったところで、オークの集落にぶつかってしまい、仕方がないので討伐して来たんだ。」
「仕方がないって・・・。
そんな簡単に討伐できるもんじゃないぞ。
特にジェネラルや、キングともなれば、Aランク冒険者でもてこずる筈だ。
それを何でGランクのお前ができるんだ?」
「うーんそれは内緒だね。
俺のスキルに関することだから、他人には簡単に教えられないよ。」
「ン?うん、・・・・。まぁ、そうだろうな。
それにしても討伐部位だけで187だ。
集めるだけでも大変だし、どっかで拾ってきたにしては多すぎるな。
それにカードには討伐記録が残るから出まかせを言ってもすぐにばれる。」
「そうなんだよね。
本当はあまり騒がれたくもないのだけど、記録が残るから、逆に仕方がないんでギルドには報告するしかないんだ。」
そんなことを話している間に、件の年増のご婦人が息せき切って戻って来た。
「ギルマスのところに行くから一緒に来て。で、その前に、あんたのカードを貸して。」
俺がカードを出すと、ひったくるようにして手に取り、そのカードを机の上の白い石板に押し当てる。
そうして呟いた。
「あんれまぁ、ほんとうだわ。キング以下187匹を討伐してる。
って、あんたGランクなの?」
そう言って呆れたような表情を見せながら改めて俺の顔をまじまじと見ている年上の受付嬢である。
「まぁ、いいわ。いらっしゃい。」
そうして彼女は速足で俺の手を引きながら奥の階段を上り、二階のとある一室の前に立った。
それからドアを軽く二度叩いて言った。
「マスター、討伐は本物でしたので、彼を連れてきました。」
「入ってくれ。」
そう言う野太い声が聞こえた。
未だ名前も知らない年増のご婦人の後をついて室内に入った俺である。
大きな机を前に座っているガタイの大きなオッサンがギルドマスター、略してギルマスだろう。
「わざわざ、此処まで来てもらってすまんな。
俺はフレゴルド冒険者ギルド支部のギルマスをやっているリドビッチ・レンコフだ。
見かけない顔だが、ランクと名前を教えてくれんか?」
「名前は、リューマ・アグティ、Gランクだよ。」
俺がそう言うと、傍で年増のご婦人がフォローする。
「この子。一昨日に登録したばかりです。受け付け担当は、レイナでした。」
リドビッチは机の上の石板を弄ってデータを読んでいるようだった。
「なるほど、確かに二日前に登録したばかりのGランクだし、カードの討伐記録には間違いなくオーク187匹がカウントされているな。
で、Gランクの力量でどうして討伐できるんだ?
そもそもオークはDランク以上でなければ討伐依頼は受けられないはずだ。」
「登録をした時にレイナさんから色々と注意事項を受けたので知っている。
今回、俺が西方面に向かったのも、薬草採取が目的であって、最初からオークの調査や討伐に向かったわけではないよ。
朝出かける時には、レイナさんにその旨言ってある。」
「オークの群れを見つけた時点で報告するのが下級冒険者の義務だろう。
それを怠って無茶をすれば届くべき報告がないために被害が増大する恐れがある。」
「ウン、それも重々承知だ。
ただ、オークの集落に近い場所、多分1ケールほどかと思うが、街道が伸びていた。
放置すれば三日前のように行き交う人が襲撃される可能性も高いよね。
だから、やむを得ない緊急の措置としてオークの討伐を行った。
その判断が誤っていると言うならば処罰は甘んじて受けるよ。
ただ、言い訳が許されるならば、三日前に襲撃された一行の近衛騎士の中には、かなりのケガをされた方も居たし、馬四頭ほども回復できない怪我を負って安楽死させられていた。
僅かに23匹で鍛えられた複数の近衛騎士を圧倒するような魔物だ。
その場にいた俺としては、別の人たちが襲撃される危険を見過ごすわけにはいかなかったんだよ。」
「ほう、ではシレーヌ分隊長から書面で報告にあったリューマなる人物は君のことだったのだな?
何でも不可思議な魔法で18匹のオークどもの頭部を次々と吹っ飛ばしたとか・・。
王女殿下並びに王子殿下のお二人がご無事であったのは
なるほど、それが君なのであれば、100匹以上のオーク
で、今度も頭部を粉砕したのかね?
何でも討伐部位が採取できないほどの被害を与えたと聞いているが・・・。」
「あ、あの時は、警護すべき王女殿下と王子殿下がいたこと、更には23匹の集団が襲撃したとなると近くに集落があるかも知れないと隊長さんが考え、
その際に騎士の方から討伐証明となる部位は右耳だと教わったから、今回は、徹底して首の部分を狙った。
首から上は吹っ飛ぶけど、耳は左程に被害を受けていないと思うよ。
一応187匹分の右耳は集めてきた。」
「ふーん、君が
もしかして、そいつはマジックバッグか?」
リューマはできれば隠しておきたかったが、何れ証拠である耳を出せばわかることだったので苦笑しながら小さく頷いた。
ただし、マジックバッグとインベントリでは全く物が違う。
ある意味でギルドマスターが勘違いしてくれて助かっているところだ。
「普通は中々に手に入らんものだし、非常に高価なものだが、・・・。
何処で入手したね?」
幼女神様からもらいましたとは言えないから、止むを得ず俺は嘘をついた。
「父からもらった。
俺の曾爺さんの形見だったらしい。」
「そうか、曾お爺さんはきっと名のある人物だったのだろうな。
ところで、マジックバッグ持ちならひょっとしてオーク・キングや、オーク・ジェネラルの肉を持ち帰っているんじゃないのか?
もしあるのなら分けてくれるとありがたい。
王都やフレゴルド周辺に領地がある貴族連中からも、もし入手できればという注文が山ほど来ているんでね。
本当は、魔核もあれば供出してほしいところなんだが、まぁ、今回はそこまでは言わない。」
ギルドマスターにお願いされた以上断るわけには行かない。
さてどこまで出すかが問題だが、そもそもギルドに全く降ろさないというわけには行かないだろう。
そこで、こちらから提供する代わりに条件を付けた。
「いいですよ。
キングの肉とジェネラルの肉、それぞれ200ボレムほどなら融通できます。
(1ボレムとは、日本での凡そ700グラムに相当する。)
但し、俺がマジックバッグ持ちと言うのは内緒にしてもらえますかね。
それが高じて命まで狙われてはかなわないですから。」
にやりと笑いながらギルマスが頷いた。
キングの体重は凡そ600キロほどだが、そのうち所謂肉は360キロほどになる。
従って、140キロほど渡しても、残りは220キロほどになる筈だ。
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