2-2 テンプレか?

 腕時計の時間で50分ほども歩いたところで、何やら獣の唸り声と人の叫び声が前方から聞こえて来た。

 前方は少しなだらかな登り坂になっていて、30mぐらい前から先が見えないのだ。


 俺は用心をしつつ、左腰の剣を抑えながらも、駆け足で坂道を駆け上がった。

慣れないと腰の剣は本当に邪魔だ。

 今のところは単なる重しにしか過ぎない。


 坂道のほぼ頂上に達して立ち止まった。

 あれ、やっぱりテンプレかな?


 100mほど離れたところで、二頭きの馬車(?いているのは多分馬だろうとは思うのだが、六本脚のように見える。)が毛のないゴリラみたいな体形をした豚顔の怪物に襲われている。

 馬車の周囲に剣を持った簡易アーマーの騎士が複数いて戦っているが、豚ゴリラの数が多くて明らかに押されている。


 既に二人ほども地面に倒れている状況だ。

 こいつは何とかせねばならないとは思うのだが、俺の力で果たしてあの豚ゴリラを倒すことができるのだろうか?


 ステータスでは俺のレベルが最低の1である上に、剣術はLV1だけだから、これではおそらく倒れている騎士以下だろう。

 であれば、魔法で何とかするしかない。


 騎士と豚ゴリラが入り乱れている中では仮に広域殲滅魔法を知っていたにしても使えないだろうから、ここは、対人戦闘用に弓か小銃でも作ってみるか?

 俺は早速魔法創造で、狙撃用ライフルの紛い物を造り出すことにした。


 (あれ?これって、魔法それとも錬金術?)


 魔法創造なのか錬金術かは明確にはわからないが、全くの無から銃を産み出すわけではないだろうから多分素材が必要だろう。

 俺は周囲にあるモノから素材を選ぶことにした


 また、魔法を産み出す方法もよくわからなかったのだが、とにかくライフルのイメージを強く念じてみたら何とかなったみたい。

 但し、弾丸は手元に無い。


 そもそも平和ボケした日本で育ったのだから火薬の成分なんぞ俺は知らんし、今からパソコン開いていたんじゃ、この急場には絶対に間に合わない。

 だからイメージではライフル銃のまがいモノで石ころを発射できるようにしてみたのだ。


 ライフルの銃身の代わりに、近くに生えていた樹木の素材を使い、「木」魔法で裁断、さらに中心部及び外側を削って筒状にし、その一方の筒先に「土」魔法で固めた土塊つちくれの弾丸を置いて、「風」魔法を用いて内筒内で加速して飛ばすのだ。

 「木」魔法で筒そのものを圧縮硬化させることも忘れない。


 単に弾を風で押すようにするのでは、おそらく速度が足りない。

 だから俺は「風」魔法で圧縮空気を使うことにした。


 弾を込めた筒の入り口周辺の空気を圧縮し、溜めに溜めた50気圧ほどの圧力を一気に開放した上で「風」魔法による加速をかければ、高速で弾が発射されるはずだ。

 まぁ、外見上は単なる木製の細長い筒に銃床をつけたものにしか過ぎないので、尾栓びせんやチャンバーのない砲の紛いモノではあるがな。


 尾栓の代わりは「無」魔法で作ったコップ状の空間になる。

 銃に付属させるが、銃そのものに固定はしていないので、反動は空間が吸収してしまい、銃身若しくは銃床に一切の反動が掛からない。


 筒状の銃身には狙いをつけるための照星と照門を付け、肩当て用の銃床も付けてあるので、取りあえず両手でそれらしく構え、騎士から少し離れている豚ゴリラの頭部めがけてぶっ放してみた。

 ブシュッと軽い音を立てながら土塊の弾丸が飛び出していった。


 我ながら驚いたことに狙い違わず、豚ゴリラに命中、一瞬にして頭部が消し飛ぶ威力を見せた。

 しかも、消音機能付きでありながら、その威力は50口径の12.7ミリ対物ライフルに匹敵するのじゃないかと思う。


 ブシュッと空気を切り裂く音はしても、銃のような破裂音が無いし、反動も無い。

 これってしっかりと暗殺に使えるほどの代物じゃね?


 俺の視界の中では、ほとんどお辞儀をせずに弾がすっ飛んで行ったから射程距離はかなり長いようだ。

 銃口を出た後も「風」魔法で半自動的に加速してはいるものの、おそらく弾丸の飛翔速度は音速未満ではないかと思うのだ。


 何故なら、最初の圧縮空気による「風」魔法でも、加速用の「風」魔法でも、その原理上音速以上の加速はできないと思うからだ。

 何れにしろ、運動エネルギーは「質量×速度の二乗」なので、質量の大小、若しくは速度の大小で殺傷能力が異なる。


 普通のライフルでは、射出速度は音速の二倍から三倍程度なのだが、それでも300mも離れると弾丸は30センチから60センチほどもお辞儀することになる。

 そのためにライフルなどでは、クリック等で距離に応じた射線のゼロ点調整をする必要があるのだ。


 俺の発射した土塊でできた弾は、発射速度も飛行速度も遅いのだが音速に近い速度で飛翔し、しかも質量が大きいのである。

 拳銃であれば100mも離れた距離では確実に音速以下のレベルの筈だし、対物ライフルでも1000mを超えれば音速を下回っている筈だ。


 だが、俺のライフルから出た弾は何も障害が無ければ確実に千メートル先でも音速に近い運動量を保っている。

 因みに弾頭重量は、対物ライフルの重い方で50グラム前後だが、俺の造った土塊は直径25ミリ、長さが60ミリで、先端は丸いものの円筒状の形状。


 ほぼ岩石の最大密度であるから、重量にして100グラムを超える質量の筈だ。

 従って、音速に近い毎秒330mの速度の場合の運動エネルギーは、7千ジュールを超える。


 一方で普通の拳銃では300ジュール前後、特殊な対物ライフルでは、100mだと多分1万~1万5千程度のエネルギーになるだろう。

 これがどのぐらいのエネルギーかと言うと、俺の造った弾の場合は体重110キログラムの巨漢短距離ランナーが100mを10秒で走る速度で壁にぶちあたった衝撃と同じである。


 そのエネルギーがわずかに、直径25ミリ程度の円形範囲に集中して槍の様に当たることを想像すれば、その効果はおのずとわかるだろう。

 しかも土塊は、圧縮して硬度を増しているものの脆いので、その衝突エネルギーには耐えられずに爆散する。


 従って、豚ゴリラの頭部はザクロの様にはじけて、吹き飛んでいるのだ。

 何れにしろ、ここは豚ゴリラの殲滅が優先だ。


 俺は土塊弾丸を次々と製造しつつ、三秒に一発ほどの速さで連続して撃ち出し、射撃開始から1分ほど経過した時点では、豚ゴリラで生き残っている奴は居なかった。

 正確な数は数えていないが、少なくとも15匹以上はヤッタように思うし、土塊で頭部を吹き飛ばされた奴を後で数えればわかるだろう。


 馬車の傍に倒れていた負傷者も何とか生き残っていたようで、仲間から手当てを受け始めていた。

 俺としては、この後予想される面倒事を避けるためにさっさとこの場を離れたいところなのだが、生憎と幼女神様の示した俺の行く先は馬車の向こうだから反対側に逃げるわけにも行かない。


 色々と聞かれることを覚悟しつつ馬車のある方向へゆっくりと近づいて行く。

 あ、勿論だが、狙撃ライフルの紛いモノはインベントリに収納しておいたよ。

 そんなものを目立つように持ち歩いていたら相手に警戒されるだけだからね。

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