第二章 ホブランド

2-1 ホブランド第一日目

 白い霧が床を埋め尽くす天井の無い世界に立っていたはずなのに、次の瞬間には、陽光降り注ぐ緑野の街道脇に俺は佇んでいた。

 驚いたことに、まず俺の着ている服装が違っていた。


 つい先ほどまでワイシャツにネクタイ、紺系スーツにビジネスシューズだったものが、皮の編み上げ靴、カウボーイが履くような革のパンツにデニム生地のような厚手のシャツ、レザーベストを着て、フード付きのマントを羽織っている。

 また、刃渡り40センチほどのショートソードとでもいうべき武器が剣帯で左腰に下がっていて、結構な重量を感じているところだ。


 外気は爽やかであり、涼しくはあっても寒くはない。

 俺の田舎である岩手県北上市で言えば、5月初旬 若しくは10月中旬ころの気候だと思うが、周囲の緑は色鮮やかで新緑の時期に近いように思う。


 但し、そこかしこに見える比較的背丈の低い樹木の肉厚の葉はどちらかと言うと亜熱帯の植物を思い起こさせる。


 背中に背負ったバックパックが妙に軽いので中身を確認すると、俺のバックパックが所謂いわゆるラノベのインベントリに変わっていた。

 重量で軽く15キロを超えているはずが、ほとんど2キロから3キロほどの重さしか感じていなかったのだ。


 だが、俺がバックパックに入れていた物は全て収容されていたし、俺が着ていたスーツ、ワイシャツ、靴下、革靴など身に着けていた物もきちんと収納されていた。

 そうしてアルノス幼女神様が入れてくれたと思われる結構な数の魔核と宝石が皮袋に入っていた。


 それとステータスのことをたまたまアルノス幼女神が言及していたので、ダメ元と頭の中で『ステータス』と念じてみると途端に視界内に自分のステータスがホログラムのように現れた。


 名前:リューマ・アグティ

 種族:ヒト族

 年齢:17歳(23歳)

 性別:男

 職業:------

 レベル:1

 HP(生命力):100

 MP(魔力):100

 STR/Strength(筋力):10

 DEX/Dexterity(器用さ):10

 VIT/Vitality(丈夫さ、持久力):10

 INT/Intelligence(知性):100

 MND/Mind(精神力):10

 LUK(運):10

 AGI/Agility(敏捷性):30

 CHA/Charisma(カリスマ、魅力):10

 言語理解:5(ホブランド統一言語ほか)

【スキル】

 剣術:LV1

 槍術:LV1

 棒術:LV1

 格闘術:LV1

 弓術:LV1

 生活魔法:LV1

 鑑定術:LV1

 隠ぺい術:LV5


【ユニークスキル】

 錬金術:LV1

 魔法創造:LV1

 インベントリ:LV1


【魔法属性】

 火:LV1

 水:LV1

 木:LV1

 金:LV1

 土:LV1

 風:LV1

 光:LV1

 雷:LV1

 聖:LV1

 闇:LV1

 無:LV1


【加護】

 アルノス神の加護(アップ率上昇)


【称号】

 -------


 何やら一杯出てきたが、学生時代によくやったVRMMO(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)と類似しているならば大体中身はわかる。

 それとその画面上で各項目を思念で確認するように意識すると、すぐさまポップアップ表示で説明が出て来る優れものである。


 パソコンで言うヘルプ機能なのだろうな。

 因みにインベントリは、内容品が目録として表示できるし、念じるだけで物が出し入れできることも分かった。


 しかもバッグの口の大きさに関わらず、かなり容量の大きなものや長尺物も簡単に出し入れすることができるので超便利である。

 試しに道端に転がっていた二抱え程もある大石をインベントリに取り込んでみたが、何の支障もなく出し入れできてしまった。


 重量にしたら間違いなく数トンはありそうな大石だ。

 そうして、目録表示のポップアップ表示では、インベントリには時間停止機能がついているので腐敗しないこと、温度変化も無いことの説明書きが表示された。


 収容量については説明がないのでわからないが、或いは無制限なのかもしれない。

 ラノベのテンプレ展開ならば、そう言うチートも許される。


 まぁ、有限であったにしても神様が付けてくれたんだから、結構な量は入る筈だろう。

 今のところはそう思っておくしかない。


 いずれそのうち確かめてみるつもりではいる。

 容量の大小にかかわらず、時間停止機能のあるインベントリは、随分とチート過ぎるような気がするので可能な限り他人には内緒にしておくつもりだ。


 何気にステータス上の俺の名前がちょっと変えられているけれど、これはホブランド風の発音なのかねぇ?

 それに何で俺の年齢17歳なんだろう?


 括弧書きで実年齢が書いてあるのも妙に気になる。

 日本人の顔は若く見られがちだからそれの偏差修正のため?

よくわからん。


 今度機会があったならアルノス幼女神に聞いてみよう。

 それにしてもこのぐらいの能力持ちがこの世界の普通人なのだろうか?


 アルノス幼女神は、自分でも初めてだと言っていたから、何かやらかしているような気がするよなぁ。

 俺は取り敢えずステータス全般に隠ぺいをかけることにした。


 人里に着いたならよく他の人を確認してから、隠ぺいを解除するなり適切な措置をなそうと思う俺である。

 そうして「隠ぺい」を強く念じたら、ステータス画面の文字がいきなり白から灰色っぽくなって弱くブリンクするようになった。


 スキルに隠ぺい術なるものがあるのだから、隠ぺい魔法を俺の能力で造ったものなのかそもそもそうした能力があったモノなのかの区別がつかないでいる。

 多分、弱くブリンクしている状態が隠ぺい中を表しているのだろうと思うが、正直よくわからん。


 こんなあやふやなものでいいのだろうかと思いつつも、アルノス幼女神の言った通り、日差しが来る方向へと俺は足を向けた。

 因みに太陽と思しき光球は俺のほぼ正面上方にあって45度くらいの角度で空に浮かんでいる。


 地球の太陽と異なり、視直径が少し小さい上に青白いような気がした。

 俺が左手に付けているソーラー電波時計は午前1時半ごろを示しているが勿論あてにはならない。


 いくら何でも昼日中に午前一時半はないだろう。

 まぁ、ここが地球と同じような球形の惑星であれば異なる経度線上で午前1時半の場所もあるのだろうが、少なくとも俺が現在居る場所ではない。


 当然に元の世界の電波自体がここには届かないのだろうから、今後はこの腕時計のメカ精度だけに期待するしかないのだが、そもそもこの世界が1日24時間とは限らないのだ。

 アルノス幼女神自体が俺の世界のことをほとんど知らないのだから、俺に教えようもないのだろう。


 彼女が言った通り、以後は俺の才覚で何とかするしかない。

 道は小石と土で押し固めた路面であり、それなりに整備されてはいるのだろうが、凸凹している上にわだちや穴もあって慣れないと中々に歩きにくい。

昔の日本の道路も舗装前はでこぼこで結構歩きにくかったものだと92歳で大往生した曾婆様ひいばあさまからは聞いたことがある。

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