ストップウォッチ

唯野キュウ

ストップウォッチ

「なあ佐竹! 暇だから、このストップウォッチで5秒ぴったりに止めようぜ!」


「さては天才か山井。よし、先行はどうする」


「先に5秒ぴったりに止めたやつが勝ちな!」


「理解した」


「じゃあ俺からな!」


「承知したぞ山井」


「行くぞ……せーの!」



カチッ


……


……


「――ストップ!!」


“ 4,72”


「うわー早かったかー!」


「その程度か山井。一笑にもならん値よ」


「まだまだだったか。次佐竹やってみろよ! ここ置いとくぞ!」


「勿論だ。いくぞ……せーの」


カチッ


……


……


……


「――ここだ!!」


「どうだ?」


“ 5,23”


「ん、ちょっと遅めだったみたいだな」


「ぴったりのつもりなんだがなあ……」


「貰うぞ佐竹!今度こそ俺が5秒ぴったりを出してやる」


「ほざいてろ。山井には死んでも無理だ」


「行くぜ……せーの!」


……


……


……


「――ここ!! ……あれ」


“ 0,00”


「押せてなかった……」


「哀れだな山井、しかし1回は1回だろ?」


「いや……これは流石に無かったことにしてくれるよな?」


「これはプライドをかけた真剣勝負。真剣勝負の場に待ったがあるのか?」


「……ダメっぽいな。仕方無い。大人しく置いとくか」


「それでいいんだ。今度こそ俺が5秒ぴったりを叩き出してやる!!」


「行くぞ……せーの!」


カチッ


……


……


……


「――よっ」


“ 5,12”


「ふむ。ミスだが着実に5秒ぴったりに近付いている」


「終わったか? どれどれ…お、5,12だ」


「だいぶ近付いたろう、山井」


「まだチャンスはあるな。俺が次で決めてやるさ」


「行くぞ……よっ」


カチッ


……


……


……


「――っと」


“ 5,00”


「おお! 5秒ぴったりだ! 俺の勝ちだな! やったぜ! 見えるよな!」



「悔しいが、ここは山井を褒める他あるまい。ナイスだ」


「あーくそ。こんな時お前はなんて言ってんだ? なんて返せばいいんだ? 褒めてくれてそうだし、ありがとう。とかか? 暫くお前の声を聞いてないと寂しいぜ……」


「ドンピシャだよ。よく分かってんじゃねえか。山井。お前はストップウォッチだけじゃなく死者のセリフまでぴったりなのか?」


 山井は杓で佐竹の墓標に水をかけて言った。



「姿が見えなくて声が聞こえないだけで、俺たち、まだ、友達だよな?」



 カチッ。と、ひとりでにストップウォッチが押された。

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ストップウォッチ 唯野キュウ @kyu

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