第13話◆初花

 ――・・・この暖かみのある『居心地の良さ』を何で例えればいいのだろう・・・?


 《色》で言うなら春っぽい感じ?

明るい陽射しに包み込まれているようで・・・あぁ、見守られてるんだなぁ―・・・っていう『安心感』。

 ・・・だけど、

その《色》が急にくすみ始めてどんどん暗くなって行くと、

 『寒さ』なんて感じた事も無かったのに冷たく感じて来る・・・。

 『不安』なんてそんな《感情》さえ知らないのに、どんどん怖くなって来るんだ・・・。


 《母様(かかさま)》に何かが起こってるんだと判っているのに、ボクは声が出ない。

 ・・・どうしたの⁉️―・・・って、

呼び掛けたいのに気付いて貰えない・・・。

 そうしている内に、だんだん息苦しくなって来る。

 一生懸命、呼吸(いき)がしたいのに・・・出来なくて、苦しくて――・・・。


 パッと・・・真っ黒な《闇》の中へ一気に引き摺り込まれて行くように沈んで――・・・。

 堪らずボクは泣き叫んだ。


「母様(かかさま)っ‼️‼️」


 ・・・〈サトル〉は、そんな自分の声で目を覚まし飛び起きた。



『・・・夢―・・・⁉️』


 「ハァ、ハァ・・・」と息を荒く乱し、

《寝汗》で身体が冷たく感じる上に・・・涙も溢れて止まらない。


 「・・・――っ・・・《母様(かかさま)》・・・っ」

 

 まるで《幼児》みたいに泣きじゃくり、何度も《母》を探し求めるように呼び続けた。

 ・・・《日本》に来て一人暮らしも馴染んだ頃辺りから、〈サトル〉は度々『同じ夢』を見るようになる。

 だが、それは正確には《夢》では無く自らの『実体験』――・・・。

 自分が《母親》の身体(なか)に居た《胎児》の頃の『記憶』だった・・・。


『本当に、ボクには何も出来なかったの?』


 そして毎回・・・この『自問自答』を繰り返す。出来なかったからこそ『総て』が始まり今の〈サトル(自分)〉が居る事を・・・知っていながら。

 虚しい『問答』でしかなくても――・・・。




 『逢いたい』と願う『探し人』であるこの《母親》は、夫であり〈サトル〉の《父》でもある《男性》に命を断たれてしまったらしい・・・。

 何度も逢えそうで逢えないでいるその《男性(父)》はもう一人の『探し人』で、

 己れの《罪》の赦しを乞う為に《妻(母)》を探し求めて―・・・この果てしない『贖罪の転生(たび)』を続けているようだった。

 その事を、必然とその人の後を追い・・・幾度となく生まれ変わって来たからこそ〈サトル〉は知り得たが、

 《母》はきっと知らないままに違いない。


 ・・・『逢えない』でいるのは《父》を怨んでいるからだろうか?と勘繰りもする。


 自分の『存在』すら知らない《母》に、

《父》同様に『贖罪の転生(たび)』を繰り返している自身の『存在(想い)』を、

 一体どうすれば気付いて貰えるのだろう―・・・そう思えば思う程、途方に暮れるしかなかった。


『・・・逢いたい・・・‼️』


 と、〈サトル〉はいつも強く願っている。

『・・・《父様(ととさま)》にも《母様(かかさま)》にもっ❗️――・・・ボクの事に気付いて知って欲しいのにっ‼️‼️』

 その時、


 ――・・・気付いて欲しい――・・・。


 自分がそう強く願う『感情』が、

いつかの〈亮〉の《想い》とも同じだと気が付いた。

 《我が父》が目立って『認めて欲しい』と願うように〈サトル〉自らの《容姿(ルックス)》が人目に触れてしまうのも、

 単に『生きる術』の為だけでは無く―・・・存在すら知られていない『探し人達』に、


『気付いて欲しい』


 ―・・・という己れの『願望』の表れでは無いかという事にも・・・。


『・・・ヤだなぁ・・・ボク達、本当に《似た者同士(おやこ)》だね・・・』


 〈サトル〉は遠く離れた《父》を思い、

自分の《宿命》に〈亮〉も『必要不可欠な存在』である事を認識しては、

 また涙を滲ませていた――・・・。






 数日後、学校の帰りに〈サトル〉は例の《ダイバーズショップ》へ立ち寄っている。


 この間は〈亮〉にただ連れて来られただけで良く見る事もしなかったが、

 《商店街》の外れにある角のガラス張りの店は、一目でその《店》だと判る。

 その『理由』は――・・・


「・・・キレイな《写真》でしょう?🎵

〈木崎亮〉って有名な《写真家》の作品なのよ❤️」


 《店》の通りに面したガラスには、

〈亮〉の《写真》が無数に飾られてある。

 それを見ていた時に〈サトル〉は不意に《女性》に声を掛けられた。


「・・・《写真》の『チョイス』が素敵ですね🎵ボクも好きな《作品(モノ)》ばかりだ・・・」

「ヤだ❤️・・・キミ〈木崎亮〉を知ってるの⁉️」

 やけに熱心に見ていた《少年》に思わず声を掛けてしまったが、

 満面の微笑(えみ)で『予想外(笑)』な言葉が返って来た事に驚きつつ、

『知っている』と聞けば・・・もう勢いが止まらない(笑)。

「ね?❤️ね?❤️《海》って本当にキレイだと思うでしょ⁉️❤️

『潜ってみたいなぁ~』って思わない⁉️❤️」

 良く見れば愛らしい顔立ちの《少年》に、

畳み掛けるように『セールス(笑)』をする《女性》に、


「バカっ‼️💢〈サトル〉君に、何モーション掛けてんだ‼️💢」


 店の外に居る二人に気付いた〈英二〉が、

〈サトル〉を熱心に(笑)『勧誘』する《女性》の頭を軽く小突くと、

 呆れた口調で叱った。

「・・・エッ⁉️・・・〈サトル〉君⁉️💦エエッ⁉️💦――・・・じゃあ木崎さんの・・・」

 その《女性》が顔を赤らめながら呆然とする中、

「・・・木崎サトルです💦

先日、《父》にこのお店を紹介されました。

今日はちゃんと一人で道を覚えているか『確認』する為に来てみただけなんですが・・・」

 キチンと挨拶をする〈サトル〉に《女性》は優しく微笑むと、

「初めまして❤️・・・パパ・・・《オーナー》から話を聞いて残念がってたのよ?

私は〈伊藤知夏〉❤️キミの《お父さん》の大fanなの❤️」

 そう言って右手を差し出した。

「《写真》の『チョイス』をサトル君にホメて貰えて光栄よっ❤️

これからも『よろしく』お願いしたいわ❤️」

「・・・こちらこそ、よろしくお願いします💧」


 〈英二〉とは似ても似つかぬ茶髪でショートカットの〈知夏〉は、

 やはり《海》へ良く行くのか《小麦色》に焼けた肌で『健康的』かつ、眩しい位に明るい性格のようだ(笑)。

 薄く化粧もしているから二十歳前後の『お姉さん』かと思い、つい緊張してしまっていたが歳は未だ16で《高二》だという。


 〈知夏〉としっかりと握手をした―・・・

その手の『感触』が柔らかくて、〈サトル〉は思わずドキドキする心臓の音を気付かれやしまいかと、気が気で無かった(笑)。


「せっかく来たんだ。

時間があるならゆっくりして行かないかい?

何なら《晩飯》も食ってってもイイぞ?・・・一人で食うより、その方がいいだろ🎵」

 〈英二〉は〈サトル〉の頭を優しく撫でて微笑みながら訊ねる。

「・・・じゃあ・・・お言葉に甘えてもいいですか?💦」

「もちろん🎵」

「うわぁ❤️じゃあさ❤️木崎さんの色んなお話聞かせてっ‼️‼️」


 ―・・・この日を境に〈英二〉の店に頻繁に通うようになったのは、

ただ『海に潜れる』というだけでは無く・・・今までに味わった事の無い『くすぐったい』ような『暖かい』、

〈伊藤〉父娘の雰囲気が気持ち良かったのと―・・・〈サトル〉にとって〈知夏〉の存在が一番大きかったのかも知れない。






 〈知夏〉は驚く程〈亮〉のコトに詳しかった。

 中でも《水中カメラマン》になった『経緯(いきさつ)』やその『苦悩』云々は、

《息子》の自分でさえ初耳だったし(敢えて〈亮〉が話してくれるとも思えない内容)、

 《作品》に対する物の捉え方や〈亮〉の拘る『ポリシー』の見解も実に的確で、

 いかに〈知夏〉が〈木崎亮〉を敬い、好きなのかが―・・・〈サトル〉には手に取るように判った。

 だからこそ、その語り(笑)を聞いているだけで嬉しくて・・・顔を綻(ほころ)ばし『幸せ』な気分になる。


 また〈知夏〉も、

今や《父》でさえも相手にしてくれなくなった自分の『想い』を、毎回ニコニコと嬉しそうに飽きもせずに聞いてくれる〈サトル〉が可愛くて仕方が無くて、

 ついつい饒舌に語ってしまうのだった。

「・・・サトル君💧何も無理をして《娘》の話に付き合う必要ないからね💧」

 さすがに気の毒になり〈英二〉が〈サトル〉に言うも、

「―・・・?」

 不思議そうにキョトンとした表情(かお)をした後に、にこやかに微笑み、

「ボク、こんな風に《父さん》を思ってくれている人に初めて出逢って、嬉しいです🎵

・・・それに知夏さんのお話しは楽しいし、ちっとも飽きませんよ?」

 と答え、〈知夏〉を歓ばせる。

「ホラね?『判る』人には判るのよ❤️

《パパ》は身近にいたから木崎さんの『良さ』を知らないだけよ❗️」

「・・・お前・・・💧それは違うだろう💧

オレはだなぁ――・・・」

 そう言い掛けて『言い訳がましい(笑)』と気付いたのか口を噤(つぐ)んだ。



「ねぇ《パパ》、サトル君借りていい?」


 何度目かのある時に、

〈知夏〉にそう聞かれ『遂に来たか』と〈サトル〉を憐れむように見た。

 そして申し訳なさそうに〈英二〉が謝る。

「・・・スマンが、開いた口が塞がらなくても我慢してやってくれないか?」

「・・・???」

 〈英二〉が何を理由に謝っているのか判らなかったが、〈知夏〉に案内され階段を上がった先の《廊下》が見えた時点で〈サトル〉は驚嘆した。


「わぁ‼️・・・コレ《父さん》にも見せてあげたいなぁ~っ‼️‼️」


 〈知夏〉の部屋だというドアの横の壁一面には〈亮〉の《作品》が飾られているだけでなく、畳一枚分はあろう大きな《パネル》が一際目を惹く。

 いつか〈亮〉自身も『一番のお気に入り』だと言っていた《写真》が、見た事も無い(笑)大きさで――・・・

 より『迫力』を増した《作品》となっていたのだ。

「私の部屋の中は、こんなもんじゃナイわよ?🎵(笑)」

 ある程度は『想定』をしてたにしても〈サトル〉の『反応』は誰にホメられるよりも嬉しい〈知夏〉は、

 早速、自分の《部屋》へと招き入れる。


「――・・・スゴい・・・何だか《資料館(笑)》みたい・・・」


 立派な本棚には、

初期に出されたであろう《ビデオ》から《写真集》をはじめ、

 現在シリーズで刊行されている《DVD》まで全巻が全て買い揃えられていた。


『コレを見たらどんな顔するんだろう・・・』


 〈亮〉なら・・・と〈サトル〉は想像してしまう。

 きっと呆気に取られて閉口する―・・・、

そんな表情(かお)を思い浮かべた。だが、それが『本心』で無い事も判っている。

 本当は凄く嬉しくて・・・懐かしそうに初期の《写真集》とか手に取ると、

 《息子(自分)》に『コレは、あぁだったこうだった(笑)』と解説を始めるに違いない。

 

「・・・――・・・なの?」


 思わず想い更ける〈サトル〉は〈知夏〉の声に我に返った。

「・・・えっ⁉️💦」

「だからぁ、やっぱりサトル君も《お父さん》みたいな《水中カメラマン》になりたいのかな?って・・・」

「・・・ボクは・・・」

 〈知夏〉にそう訊ねられ、

初めて自分の『将来(未来)』を意識した。

 己れに課せられた《宿命》が無事『達成』出来たとしたら――・・・その先の自分は一体どうなるのだろう?

 何時の時代だって翻弄されて『終わる』だけでしか無かった自分に『未来(その先)』があるのかなんて、

 考えた事すら無かったのだから・・・。


「・・・ボクは・・・《父さん》の『相棒(バディ)』で居たいとは思うケド―・・・。

同じ道には進めない気がするな・・・」

 〈サトル〉は今思う素直な気持ちを口にした。

 本当の血の繋がった《父子(おやこ)》で無いのだから、あの〈亮〉の『才能』を受け継ぐ事は不可能だし、

 仮に『見よう見まね』でやったとしても遠く足許にも及ばないだろう。


「知夏さんの方こそ、こんなに〈木崎亮〉に憧れているなら・・・やっぱり《水中カメラマン》に?」

 逆に〈サトル〉の方がそう訊ねると、〈知夏〉は淋しそうに微笑んだ。

「・・・そうだなぁ~なれるなら『なりたい』かも。・・・だけど、私も無理なんだ💦

《パパ》が『相棒(バディ)』でないと潜れないし―・・・」

「・・・?どうして?💧」

 自分の胸がザワついてるのを感じていながらも聞いてしまう。

「私、《持病》持ちなの💦

『発作』を起こし兼ねないから《パパ》に付いてて貰わないとダメなんだぁ💧」

「・・・―発作―・・・」

 〈知夏〉の言葉を、ほぼ無意識に〈サトル〉はそのまま呟いた。

「そう💧・・・《パニック障害》って聞いたコトある?アレなんだぁ💧

・・・急に息が出来なくなる『過呼吸』になるの。普段なら命に別状は無いケド、『潜る』となるとね(苦笑)。

だから《お医者さん》には『辞めろ』って言われてるし、多分―・・・ホントは《パパ》も気が気でナイ(笑)と思うんだ💦」

 〈知夏〉は切ない胸の内を正直に明るく振る舞い、話してはくれているが・・・

〈サトル〉には、その笑顔はあまりにも悲しく見える。


「・・・でも、潜りたいんでしょ・・・?」


 痛い程、〈知夏〉の『想い』が伝わって来て息をするのもツラくなるが、

 〈サトル〉は小さく微笑(えみ)を返して言葉を続けた。


「きっとボクだって、同じようにそう思う」


 それを聞き、

〈知夏〉は思わず押さえ込んでいた感情が一気に溢れ出してしまいそうで、

 泣きたくなるのを―・・・瞬(まばた)きを何度もして堪えてみせた・・・。

 4つも年下の《男の子》の前で女々しく泣くのが恥ずかしいのもある、が。それ以上に

自分の憧れる、あの〈木崎亮〉が信頼する『息子(バディ)』である〈サトル〉に、

弱い自分を見せたく無いと思う気持ちが強かった。


しかし、そういう『雰囲気』をきっと察したのかも知れない。

 〈サトル〉はニッコリ微笑(わら)うと、

「・・・今度ボクが《オーナー》の代わりになるから、一緒に潜ろうよ🎵」

 と、〈知夏〉を誘う。

 それが例え『社交辞令』であっても、そんな風に声を掛けて貰えるのが本当に嬉しかったのか、

〈知夏〉は躊躇する事なく「喜んで・・・❤️」と笑顔で応えた―・・・。







 《中学》になって初めての『中間テスト』が終わり、もうすぐこの『期末テスト』も終えれば、

 いよいよ《夏休み》に突入する。

 一学期の成績は『それなり(笑)』のモノで〈サトル〉はひと安心した。


 《クラス》が離れてしまった〈原田〉は、

この夏は『野球三昧』だという。

 〈ユキ〉とは―・・・アレ以来、以前のように〈サトル〉に絡んで来る事は無かったが、

それは『他の《女子》達の手前』もあったみたいで、

 〈サトル〉が〈英二〉の店に顔を出さない日は、偶然を装うようなカタチで一緒に帰ったりしていた。


 この日も『たまたま』そうなった(笑)。

 毎回、何となく『ぎこちない』二人の空気を変える『キッカケ(笑)』に〈サトル〉は苦労する。


「ユキも《夏休み》は『部活三昧』なの?」


 今回は《夏休み》が近くて救われた気がした・・・。

「う~ん💧そうでもないケド、

8月に入れば《お祖母ちゃん》トコに帰るから・・・。サトルは?《お父さん》のトコロに行くの?」

「・・・ボクは行きたいケド・・・💧

きっと『邪魔』になるだけだと思うから、この夏は《日本》で『海三昧(笑)』だね💦」

「《磯クラブ》―・・・だっけ?」

「えっ⁉️・・・あぁ‼️(笑)」

 〈ユキ〉からその《名前》を聞くまで、自分で立ち上げた《同好会》の『存在』をすっかり失念していた〈サトル〉は笑い出す。

「そうだね💦《あっち》も放りっぱなしじゃいけないよね(笑)。

だけど、ボクがやりたいのは《スキューバダイビング》の方(笑)。いい《ショップ》を教えて貰ったから、今年の夏はずっとそれ三昧したいんだ🎵」


「・・・ふぅ~ん」

 《海》の話となると、途端に生き生きした表情(かお)になる〈サトル〉にドキドキしつつ・・・〈ユキ〉は口を尖らせた。

「そんなに《海》が好き?

・・・何かサトルって、いつもそのコトしかアタマにない気がする」

「・・・―そうだね・・・。そうかも知れない💧」

 〈ユキ〉の言葉をすんなりと認めてしまう

辺りが『憎らしい』と思うと、

ついまた『憎まれ口(笑)』が吐いて出る。

「せっかく色の黒いのが取れて来たのに、また『真っ黒』になるじゃない‼️💦

その内、《大人》になったら『シミだらけ』になって後悔するよ⁉️💢」

「アハハ。本当だね(苦笑)」

 しかし、〈サトル〉には『憎まれ口』が通用しない《天然(笑)》だった事を思い出した〈ユキ〉は、

普通に〈サトル〉に笑われてしまい益々ふて腐れてしまう。

「・・・サトルのバカっ‼️💢」

「えっ・・・⁉️💧」

 拗ねて、スタスタと一人先を歩いて行く〈ユキ〉の『女心(笑)』が〈サトル〉に判る訳も無く―・・・

 当の本人は、呆然と間の抜けた顔をしながら(笑)、ただその〈ユキ〉の後ろ姿を見送っているだけだった・・・。






「今日はよろしくお願いしますっ‼️」


 少し緊張した面持ちで〈サトル〉が元気な声で〈英二〉に頭を下げた。

「・・・そんなに『緊張(笑)』する必要は無いだろう(笑)。よし❗️行こうか🎵」

 この日、初めて〈英二〉の運転する車で、

《ダイバースクール》の授業を『見学』させて貰う事になり、参加生徒とは『現地集合』だというその場所へと向かった。

 〈知夏〉は今日の為に『早起き』をして、わざわざ《お弁当》を作って来たらしい。

「ちょっとだけ『気合い(笑)』入れてみちゃった❤️」

 そう言って照れる姿が、

いつもとまた感じが違って見え〈サトル〉は妙にドキドキした。

「サトル君、《海》に行くの久し振りなんでしょ?」

 〈知夏〉に訊ねられるも、そんなドキドキしている自分を悟られまいとして(笑)、

「・・・うん・・・」

 と、素っ気ない返事で走る窓の景色を見ていたが〈知夏〉には『久し振りの《ダイブ》に緊張している』風に思われたらしい。

 その愛らしさに思わず微笑む姿を〈サトル〉は視線の端で感じるだけで精一杯だった―・・・。




 《ダイビングライセンス》には色々あるが世界では40近くもの『指導団体』が存在し《日本》にも約30以上あるそうだ。

 その中でも数ヶ所有名な『団体組織』が発行している《Cカード》があれば、まず潜れる。正式には《Certification Card》つまりは『認定証』である。

 各団体によって『呼び名』は違うが、《初級》取得には――・・・

◆学科講習(《VTR》及び《テキスト》による『筆記講習』)

◆限定水域講習(ダイブ専用の《プール》及び海の《浅瀬》等にて行う『実施講習』)

◆海洋実習――・・・の、

 この3つを『クリア』しなければならないのだが、その内容と費用は《スクール》を主催する《ショップ》によって違う為、真剣に選ぶ方がいい。

 その点で〈英二〉の店の《スクール》は、しっかりとした『講習内容』が好評で人気があるのだと、

 〈知夏〉が誇らしげに〈サトル〉に説明をした。


 今日の『海洋実習』も、

《学科》と《限定水域講習》共に充分学んだ人のみに受けさせるのだという。

 その『海洋実習』も《二日間》利用し、

4回の『スキューバダイブ』と1回の『シュノーケリング』を実技とし、

 最大12メートル近い水深まで潜ったりするそうだ。


「・・・とても親切だから『安心』ですね」


 『講習内容』を聞いた〈サトル〉は素直に

感心した。

「始めの《基礎》がしっかりしてないと、下手な《知識》が付いて段々『いい加減』になってくのが怖いんだ。

・・・それでなくても、慣れてくりゃあ『自己流』で大概、済ませてしまうだろ?」

 〈英二〉の言葉は、確かに耳の痛いハナシだと思う。

 現に〈サトル〉自身も、

《基本》は《スクール》ではなく〈亮〉から学んで得たものだから『亜流』だと言われても仕方が無い。


「・・・だけどサトル君は『悔しい』だろ?

《免許》の交付の『年齢制限』何てモンがあるから―・・・」

 〈英二〉は気の毒そうに後部座席の〈サトル〉に言うが、

「あ・・・💧別に気にしてませんでした(苦笑)」

 と、意外な答えが返って来て驚いた。

「本当は『ダメ』なんでしょうが《ガイド》や《インストラクター》をする訳じゃなく、《父さん》の『相棒(バディ)』がボクの『仕事』でしたから、やれと言われたらやってましたし・・・。

《船舶(ふね)》に関しても、

《父さん》をはじめ《スタッフ》は皆『免許』を持ってましたから💦

誰かしら(笑)が常に同乗してる事に託(かこ)つけて、ボクも普通に『操縦』するのが『当たり前(笑)』になってました・・・💧」


「・・・まぁ💧そんな『環境(笑)』じゃあ、そうなるだろうねぇ・・・💧

木崎(アイツ)にとっても―・・・『免許』なんてモノは『後付け』でしか無いだろうしなぁ(苦笑)」

 学生時代から本当に、何一つ変わってはいなかった《旧友》を〈英二〉は思い浮かべながら苦笑する。

「《父さん》曰く『海の真ん中で、いちいち「免許を見せろ」なんて言うヤツは居ないんだから、何かあれば全部オレの全責任で済むハナシなんだから安心しろ』って(笑)。

・・・ボクもそう言われて素直に『安心』してました💦」

「アハハ‼️・・・そりゃ木崎らしいわ(笑)」

 〈サトル〉の話に遂には〈英二〉も大笑いした。


「・・・だけど、ココは《日本》だしな💧やっぱり取りたいだろう?」

 そう問われると〈サトル〉も真顔になって「もちろん。『必ず』取ります」

 と、ハッキリと断言し〈英二〉もホッとすると同時に〈亮〉にとって〈サトル〉が単に《息子》というだけで無く、

 本気で『相棒(バディ)』として頼りにしていた事を実感する。


 そんな二人のやり取りを〈知夏〉はただ黙って聞いているだけだったが、

 いつもなら『年下』だと判る『あどけなさ』のある〈サトル〉が《英二(ちち)》と話している時の生き生きとした表情(かお)は、

隣で見ていても羨ましい位―・・・

 眩しくて凛々しい《青年》に思えてくる。

それは・・・きっと〈木崎亮〉と共に世界中の《海》を渡り歩いた『自信』そのものなのだろう。

 その《少年》が自分の横に居る不思議。

 ――・・・そう意識した途端、

〈知夏〉は全身から汗が噴き出してしまいそうになる程、身体が熱くなって行くのに気付いた。

 きっと顔さえ火照るように真っ赤になっているに違いないと、慌てて反対側を向き窓を開けて風を浴びる。


 その〈知夏〉の仕草に〈サトル〉はチラリと視線をやるが、

 《車窓》の眩しい景色の陽射しが〈知夏〉の髪を揺らしながら、キラキラ照らしているだけなのに・・・『艶っぽい』と感じた瞬間、また心臓がドキドキと大きく鳴り始め思わず赤面してしまった。


 互いが、こんな風に意識する気持ちを持っているコトも知らず、車は爽快に夏の《海》へと二人の気持ちも運ぶのである――・・・。

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