第10話◆別離(わかれ)

「なぁ、〈シゲル〉。残念だよなぁ~💧

もっと早くに『転校』してくりゃあ、オレ達と一緒に《修学旅行》に行けたのによぉ💧」


 メジャーリーグの帽子を被り〈サトル〉よりも頭一つ分大きい《少年》が、

 白い《給食袋》を振り回しながら言うと、

「・・・原田はバカね💧

木崎クンは『帰国子女』で、しかも《世界中》を旅してたのよ?

《京都》や《大阪》なんかに行っても楽しい訳ナイじゃない‼️」

 綺麗な黒髪を《ツインテール》にした気の強そうな《少女》は、更に続けて

「それにっ‼️木崎クンに〈シゲル〉って辞めてくんない⁉️『センス』無いし💢

だからアンタは《女子》から相手にされないのよ?判ってるぅ~?」

 そう言って、手にしている《カバン》を軽く〈原田〉と呼んだ《少年》にぶつけ、

 〈サトル〉に対しては可愛く微笑んで見せる。


「・・・木崎クンも、人が良すぎだよ?💧

どうして『こんな奴ら』の付けた《アダ名》を甘んじて受けて、ヘラヘラしてんの⁉️💧

《ジャニーズ》ばりにイケてるんだから、

コイツらなんか『鼻で』笑っちゃえばいいのよっ‼️💢」


 案外可愛い顔をして、結構キツい(笑)。


 その『雰囲気』に〈サトル〉は〈ルイス〉を思い出した。

「―・・・いや💧・・・別に『鼻で』笑わなくても・・・💧それに、ボクはそんなに気にしてる訳じゃあ―・・・」

「だぁ~よなぁ⁉️」

 〈サトル〉の言葉に間髪を入れず、

〈原田〉は『どや顔(笑)』で〈サトル〉の肩を抱くと《ツインテール》の《少女》に、

「大体。三宅らお前達、《女子》が勝手にキャーキャー騒いでるだけで、

〈シゲル〉はそんな『スカした』嫌な野郎じゃねぇ~んだよぉ~‼️」

 と、勝ち誇ったかのように告げるも、


「・・・木崎クン💧

《中学》上がる前に《友達》、ちゃんと選んどいた方がいいよ?」


 その《少女》はサラッと〈原田〉をガン無視(笑)し〈サトル〉にそう言葉を残すと・・・『いつもの角』で別れた。




「・・・何なんだよ‼️アイツ💢

黙ってりゃあ結構可愛いクセに酷くね⁉️💧」

 《少女》の後ろ姿を見送りながら、グチる〈原田〉に「・・・そうだね・・・💧」と乗っかった〈サトル〉に目を丸くすると、


「・・・お前・・・ああいうの《タイプ》?💧」


 そう何気に『小声(笑)』で囁かれ、

〈サトル〉は思わず取り繕うようなぎこちない微笑(えみ)を返す。

 そんな答えに窮する様相に、

〈原田〉は嬉しそうに〈サトル〉の背中をバンバンと叩くと、

「お前ってホント‼️《いいヤツ》だよなぁ❤️」

 と、ご機嫌で笑った。


 《少女》と別れた十字路で〈原田〉とも別れるが、その〈原田〉は《少女》とは反対側の角を曲がり帰って行く。

 ・・・そして〈サトル〉は二人をそれぞれに見送った後に、そのまま直進して帰るのだ。




 《日本》に帰って来て、

通学路が殆ど同じのあの二人と一番最初に仲良くなった。

 しかし〈原田〉曰く、

 それまで《少女》とは行き帰りで一緒に通った事も無かったらしく、

「・・・アイツ、絶対お前に『気がある』んだと思うわ(笑)」

 と、つい先日聞かされた。

 ―・・・けれど、

〈サトル〉はそう言われてもピンと来ないのが正直な感想だった。


 向こうでは〈ルイス〉に積極的に『アピール』されていても、

 ひたすら『困惑(笑)』するだけだったのだから《レディ》を扱う術だけは・・・『至難の技』だと自覚する。

 そう思う程、

《前世(過去)》を振り返ってみても『恋愛』をした記憶が見当たらなかった・・・。


『・・・ボクはどんな《女性》が好きなのかなぁ―・・・』


 そんなコトを考えている内に家に着く。


 セキュリティ万全のいかにも『高級』な《高層マンション》の27階が〈サトル〉の《新居》だ。

 《都心》から近く、

 『最上階』になる33階には《プール》や《スパ》を備えた住民専用の《ジム》の他に《バー》も併設されている。

 頻繁に〈亮〉が帰って来る訳でも無いのに〈サトル〉が一人で暮らすには『贅沢』だが

24時間有人管理の『安全性』と――・・・


「きっと気に入るゾ🎵」


 と、《父》が嬉しそうに言った27階の部屋(リビング)の、壁一面の《窓ガラス》からの『眺望』は確かに素晴らしいモノだった。


「・・・オレは常に《世界》の何処かの海に居る。海は必ず繋がってるんだ。

・・・これならお前も淋しくないだろ?」


 そう言った景色の向こうには《東京湾》が

見えた―・・・。

 「・・・ただいま、亮」

 《部屋》に入れば、必ず〈サトル〉はその景色に声を掛けるのが『日課』になっている。

 勿論、今日もそう声を掛けた後に《留守番電話》のランプが点滅しているのに気が付いた。


『亮からだっ‼️』


 急いでその《ボタン》を押すと『用件』は一件のみ。

 懐かしい声が聞こえて来た。

「・・・元気か?

・・・次の仕事が終わったら『帰る』」

 相変わらず『ぶっきらぼう』で言葉数の少なさに、思わず微笑(えみ)が溢れる。

 でも、それが嬉しくて〈サトル〉は気の済むまで何度も繰り返しては・・・その声を聞いていた――・・・。






「―・・・何か『いいコト』でもあったの?」

 朝、登校して挨拶した早々に《少女》に訊ねられ〈サトル〉は素直に、はにかむ。

「うん🎵・・・りょ・・・《父さん》が、近い内に帰って来るって―・・・」

「ふうん」

 そこに二人の会話を聞いていた〈原田〉が話に割り込んで来た。

「ナニ⁉️〈シゲル〉の《父ちゃん》帰って来んの⁉️・・・いつ⁉️ 」

「・・・う~ん💧そうだなぁ💧

・・・多分『三ヶ月』以内には帰って来ると思うケド―・・・」

 そう答えた〈サトル〉に、

「何それ⁉️(笑)・・・未だ先のハナシじゃない‼️」

 と《少女》は思わず非難めいた声を出してしまうのを〈サトル〉は気にする風でも無く

「・・・そうだね💧」と肯定して苦笑した。


 そこでその話は終わったが、

〈サトル〉が離れたのを見た隙に〈原田〉は《少女》に近付き、聞こえよがしに呟いた。


「・・・お前って、つくづく『思い遣り』ねぇのな?💧」

「・・・‼️💢」

 《少女》は目を三角にして〈原田〉を睨み付けたが本人は気にもせずに〈サトル〉に駆け寄り、

「なぁ🎵今度〈シゲル〉ん家、遊びに行ってもいい?」

 と、いつもの調子でじゃれているのを見て《少女》は益々怒りを覚える。


『何よ‼️💢エラそうに―・・・‼️』


 そう思いつつ、

〈サトル〉に対しては確かに悪かったかも知れないと、少し『後悔』した・・・。




「・・・三宅さん、どうかした?」


 一時限目の《授業》が終わり、

次の《音楽》の授業の為に教室を移動する際〈サトル〉は《少女》に声を掛けた。

「・・・別に。」

 そう、素っ気なく答えた後に、

「―・・・ねぇ、その『三宅さん』って呼ぶの辞めてくんない?💧

他の男子みたく〈三宅〉って『呼び捨て』にするか、《女子》みたく〈ユキ〉って《名前》呼びにするか、どっちかにしてよ。

・・・何か余所余所しくて、イヤなんだけど」

 と、言った後でまた『後悔』する。


 こんなコトを言いたい訳じゃない。

――・・・判ってる。

 〈サトル〉に心配して貰えて嬉しいし、

本当は今朝のコトだって謝りたいのに・・・。

 〈ユキ〉は自分の口から出て来た言葉に泣きそうになった。

 ところが、

「・・・あぁ❗️そうか。

そうだね💧《友達》なのに余所余所しいのって、イヤだよね?💧

・・・ゴメン💧今まで気付かなくって・・・💧」

 逆に〈サトル〉に謝られ〈ユキ〉はア然とした。


「・・・木崎くんって、もしかして《天然》?」

 ・・・コレもまた『失礼(笑)』な《言葉》には違いが無いが、

「・・・『天然』⁉️💦ボク『天然』なの・・・⁉️💧」

 どうやら言われている《意味》がイマイチ判っていないらしく、

 素で聞いてくる〈サトル〉に遂に笑い出してしまった。


 するとすかさず、

「良かった。微笑(わら)ってくれて(笑)」

 と満面の笑みを〈ユキ〉に向け、

「・・・《名前》の呼び方、どっちの方がいい?

―・・・それと。だったらボクの『呼び方』も皆みたいに〈シゲル〉って呼ぶか〈サトル〉でいいよ」

 その〈サトル〉の『破壊力(笑)』に、不覚にも赤面してしまい・・・慌てて俯く。

「〈シゲル〉なんて呼べる訳ナイじゃない💦・・・私のは――・・・」

 恥ずかしさに、徐々にトーンダウンしていく〈ユキ〉の声を聞き逃さないように耳を近付けて行くと、


「・・・ユキ、でいい・・・」


 今にも消え去りそうな小声で言った後に続けて、

「・・・サトル・・・今朝は酷いコト言ってゴメンね――・・・」

 涙声で謝った。

「なぁんだ、そんなコト気にしてたのかぁ。

・・・あんな『小さな事』で傷付かなくていいよ💦・・・ボクは全然、気にして無いんだから―・・・」

 そう言うと〈ユキ〉の頭をポンっと軽く撫で、


「ハイ❗️涙の止まる『おまじない』❗️」


 と、さっきから必死に何度も目を擦り・・・涙を誤魔化していた〈ユキ〉の顔を覗き込み『したり顔(笑)』で微笑んだ。

「・・・ユキって『ちゃんと』女の子なんだね」

「・・・何よ💢それっ‼️」

 思わず〈ユキ〉が口を尖らせると、


「コレで『おあいこ』(笑)」


 そう嬉しそうにもう一度微笑む〈サトル〉に、『ヤバい―・・・💦本気で好きになっちゃうかも・・・💧』と、

 〈三宅ユキ〉―・・・12歳にして初めての《恋》を知る瞬間だった。


 ・・・そして――・・・。


 《初恋》とは『実らぬ恋』だと知るのも、

やはり12歳が終わる頃なのである・・・。






 年が明けてから『転校』して来た〈サトル〉にとって、

 『卒業』と言われても実感が湧いてこないが―・・・《学年》は勿論、《クラス》の皆は

 もうそれ一色で盛り上がっていた。


「・・・なぁ、今日〈シゲル〉ん家、遊びに行っていい?」


 〈原田〉が〈サトル〉に声を掛けた。

「今日は《委員会》はいいの?」

 この時期―・・・〈原田〉は《クラス》代表で『卒業アルバム制作委員』として毎日、

《放課後》学校に残っていた為、このところ一緒に帰ってはいなかった。

「今日は無いんだ❤️

・・・だぁ~からぁ~🎵今のうちに(笑)お前ん家『お宅訪問』しとかないとさぁ❤️」

「ヤダ、何それ⁉️・・・意味判んない💢」

 〈サトル〉の横に居た〈ユキ〉が露骨に怪訝な顔をして言う。

「三宅ぇ💧お前にゃあ関係ねぇんだよ‼️

《女子》ん中でお前だけ『名前呼び』されて〈シゲル〉と『仲良しアピール』出来てるからって、浮かれてんじゃねぇ~の?」

「はぁ⁉️・・・ヤぁねぇ~💧

それって『嫉妬』⁉️・・・最近、私達だけで帰って『仲間ハズレ』にされてるから悔しくて仕方がないんでしょ~ぉ?」

「バァ~カ💢

お前の方こそ、オレみたいに気軽に『家に行きたい❤️』って言えねぇから、

妬いてんだろう💢」


 ・・・端から聞くと『異様(笑)』でしか無いこの《口ゲンカ》に呆れた〈サトル〉が待ったを掛けた。

「・・・あのさぁ💧

二人共、変な《ケンカ》しなくても家に一緒に来ればいいんじゃないの?

・・・ボクは別に構わないよ・・・?💧」

 すると、二人して同時に、

「お邪魔しまぁ~す❤️」

 と、まるでさっきの様子がウソのように見事な『シンクロ(笑)』で笑顔で答える。

 そんな二人に〈サトル〉は可笑しくて笑いを堪えようとするも、

 顔がニヤけてどうしようも無かった――・・・。

 


 

「・・・エッ・・・💧

―・・・お前ん家・・・ココなの⁉️💧」

「ココって《億ション》だって、《ママ》が言ってたケド・・・✨」

 〈サトル〉に案内されて来た《マンション》の前で二人は絶句する。

 〈サトル〉自身の《容姿(ルックス)》だけでも充分に《芸能人》っぽいのに、

 更に『帰国子女』という響きさえ『庶民離れ』している所に、コレは《とどめ》を刺しているとしか思えない。


「・・・お前ん家・・・《金持ち》なんだな💧」

「もう❤️・・・非の打ち処が無さ過ぎじゃないの✨」

 二人の反応が対照的で面白く、

〈サトル〉は笑いを堪えるのに必死だが、

「ボクはボクなんだから、あんまりこういうの・・・気にしないで💧」

 そう恐縮して見せ、二人を押し込むように中へと入って行った・・・。


 《高速エレベーター》で27階の《自宅》へ招き入れると、

 二人は初めて見るモノだらけに興奮して大騒ぎ状態だった。

 ・・・まず《玄関》前の《ポーチ》の広さに驚き、その玄関を入った直ぐ横の《納戸》が《シューズインクローゼット》だと教えられても、

 現在〈サトル〉しか住んでいないと並べる靴も無く、ちょっとした《倉庫》にしか見えなかった。

 更に《廊下》の角にある〈サトル〉の部屋の《ウォークインクローゼット》も、

 TVでしか見た事が無い。

 ・・・やはり、ココも〈サトル〉一人じゃあ埋まる事もなくガランとしていた・・・。


 そして二人が声を揃えて感動したのが、

曲がった《廊下》の先のドアを開けた瞬間。

 広々とした《リビングダイニング》には、

《カウンターキッチン》と―・・・その周りのの窓から見える、

《東京湾》を望む見事な『景色』に釘付けになってしまった。


「スゲェ~・・・っ‼️」

「・・・素敵ぃ~❤️」


 こんな風に感動して貰えると、

何だか自分のコトのように嬉しくなる。

「―・・・あの《東京湾(うみ)》は必ず世界のあらゆる《海》と繋がってるから、

ボクが淋しくないように―・・・ってココに決めたんだって」

「・・・〈シゲル〉の《父ちゃん》って、確か」

「《水中カメラマン》やってるんだ」

「・・・素敵な《お父さん》ね❤️」

「うんっ‼️・・・ありがとう🎵」

 満面の笑みでそう答える〈サトル〉に、

〈ユキ〉は思わず見惚(みと)れてしまい慌てて我に返った。


 不意な《客人》を饗(もてな)そうにも、普段から用意している訳でも無い事に気付き、〈サトル〉は二人に声を掛ける。

「・・・どうしよう💧

何か食べる?―・・・って言っても、ボクが作れるモノって《フレンチトースト》か《パンケーキ》ぐらいしか無いケド・・・💧」

「スゴぉ~い❤️『料理』も出来るんだ❤️」

 感心する〈ユキ〉に、

「・・・《海外(向こう)》では交替で作ってたんだケド・・・今は、ボク一人だからね・・・」

 そう少し淋しげに〈サトル〉が答えるのを聞き、


「よしっ‼️・・・じゃあ、皆で作ろうゼェ🎵」


 と、〈原田〉が『腕捲くり』をしながら言った。

「《小学校》の『思い出』作ろう‼️」

「・・・思い出・・・?」

「あぁ‼️・・・だって〈シゲル〉が『転校』して来た時って、もう《学校行事》終わっててオレ達との『思い出』何もねぇ~じゃん?

・・・だからぁ、今から作ろうっての‼️

《小学生》最後のヤ・ツ❤️」


 その〈原田〉の意見に珍しく〈ユキ〉も賛同する。

「・・・アンタも、たまには『いいコト』言うじゃない🎵

――・・・それでは〈サトル先生〉❤️

《お料理》私達にも作らせて下さぁ~い❤️」


「・・・みんな―・・・」


 〈サトル〉は思わず鼻の奥がツンとして、

泣きそうになるのを必死で我慢した。

「・・・じゃあ、《フレンチトースト》作ろうか❗️💦」

 ――・・・今まで味わった事の無い『感動』が沸々と込み上げて来て・・・

 皆で作っている間中〈サトル〉は、

自分が何だか上手く笑えていないような気がしていた―・・・。




 ・・・初めてじゃないかと言えるくらいの《キッチン》の『散らかりよう』と、

その『出来上がり』の見栄えの悪さ(笑)は別として、

 三人で初めて作った《フレンチトースト》の味は『最高』に美味かった・・・。


「じゃあ、『片付け』はボクに任せて、ゆっくり寛いでてよ🎵」

 〈サトル〉はそう言うが早いか、テキパキと《主婦》のように手際よく片付けて行く。

 その素晴らしさに、

「・・・ホントにスゲェ~なぁ〈シゲル〉💧」

 そう〈原田〉が感心して呟いたのと同時に突然、《リビング》のドアが開き、

 三人は《心臓》が飛び出るかと思う程驚いた。


 ・・・が、その瞬間。


「・・・‼️――亮っ‼️‼️」


 二人が唖然として言葉を失くしているのも『お構い無し』に、

 〈サトル〉は突然現れた《父》へ一目散に

駆け寄るや、思い切り抱き着いた。


「・・・ただいま―・・・サトル」


 《カメラ》や機材の入った大きめの《ジェラルミンケース》に《ショルダーバッグ》を掛けた《父》は、

 そんな《息子》をしっかりと優しく抱き止めるが、他二人の『存在』に気付き思わず苦笑する。


「・・・サトル。あの子達はお前の《友達》?」


 耳許の〈亮〉の声で、

二人が一緒に居た事を思い出し(笑)、顔から

火が出る勢いで『赤面』したまま〈サトル〉は無言で頷いた。

「おっ・・・お邪魔してますっ‼️💦・・・は・・・原田裕章(ひろあき)って、いいます‼️」

 緊張して噛み捲りの〈原田〉に対して、

流石は〈ユキ〉だ。

「・・・初めまして、三宅ユキです🎵」

 二人同時に立ち上がり、それぞれに『自己紹介』をすると、


「・・・サトルの《父》です。初めまして」


 至って『シンプル(笑)』な〈亮〉らしい挨拶だが、

 聞いた事も無いような甘く穏やかなその《口調》に〈サトル〉は目を丸くする。


「・・・〈シゲル〉の《父ちゃん》も、やっぱカッコいいなぁ・・・✨」


 何気に呟いた〈原田〉の言葉に〈亮〉が反応した。

「・・・何?お前〈シゲル〉って呼ばれてんのか⁉️」

「・・・―・・・うん・・・💧」

 《息子》は何ともバツの悪そうな顔をして上目遣いで《父》を見る。

 それを見た〈ユキ〉は慌てて『フォロー』した。

「あのっ💦皆がそう呼んでる訳じゃ無いんです‼️・・・《クラス》の男子がサトルの日焼けを茶化して、面白がってるだけなんです💦

・・・サトル・・・人がいいから、

ちっとも嫌がらなくて――・・・」


「・・・ふうん・・・で?〈シゲル〉って―・・・」


 真っ黒に『日焼け』した〈サトル〉をそう呼ぶ《理由(わけ)》を、

 おおよそで『想像』が付くのか《父》の口許が弛んでいるのが見て判る。

 それに気付いているだけに〈サトル〉も自分の口から言い出すのが、恥ずかしくて仕方がない。


「――・・・《芸能人》に居るんだって・・・💧

ボクみたいに焼けて真っ黒な人が・・・💧」

 と、渋々打ち明ける《息子》に〈亮〉が珍しく小さく噴き出すと、

「やっぱり、あの〈しげる〉かぁっ‼️」

 そう言って大笑いした。


 〈亮〉がそんな風に『爆笑』するとは夢にも思わず、〈サトル〉はあまりの恥ずかしさに耳まで真っ赤になって、

 まるで『半べそ』みたいな表情(かお)をしているが、

 久々に逢うそんな《息子》に愛しさが溢れる〈亮〉は〈サトル〉の肩を引き寄せると、

「じゃあオレ達🎵《Wしげる》だナ✨」

 と、やんちゃな顔をして笑顔を向けた。


『・・・亮・・・』


 以前、一緒に居た時には見せた事もない《父》のその表情(かお)に、〈サトル〉も自然と笑顔になる。

 そんな『超』が付く程の《仲良し父子(おやこ)》のイチャイチャっぷり(笑)に、

 〈原田〉は羨み・・・〈ユキ〉は少し『嫉妬』した―・・・。




 その帰り道。

「いいよなぁ~✨あんな《父ちゃん》✨

若くてカッコ良くて、めちゃくちゃフレンドリーで・・・しかも『お金持ち』で‼️✨」

 テンションの高い〈原田〉が〈サトル〉親子を『絶賛』するのに対し、

〈ユキ〉は不機嫌そのものだった。

「・・・私は何かイヤ。

まるで《親バカ》じゃない?〈サトル〉も私達なんか『眼中にありませぇ~ん』みたいなカンジで《父親》にベッタリだし‼️」

「だって仕方ねぇじゃん❗️

いつもは『離ればなれ』で暮らしてんだから・・・」

 そう言いながらいつもの《十字路》の別れ際に〈原田〉は、


「・・・お前が『また』アイツにひでぇコト言わねぇ内に言っとくケド。

アイツの本当の《両親》・・・居ないから。

あの《父ちゃん》が〈シゲル〉引き取って面倒見てんだ。・・・お前、知らなかっただろ?

―・・・知ってたら、さっきみたいなコト言わねぇモンな?💧」


 真顔で〈ユキ〉に釘を刺す。


「―・・・アイツの事。

本気で『好き』なら自己チューで考えない方がイイぜ?💧

・・・お前、《思い遣り》ねぇんだから」

 そう言って、〈ユキ〉に背中を向けて帰って行った。

「・・・ナニ?💢あの、エラそぶった言い方‼️

アンタが私に《思い遣り》が無いっちゅうのっ‼️💢💢」

 その〈原田〉の帰って行く後ろ姿に〈ユキ〉は舌を出す。


 今まで、あんな〈サトル〉の顔を見た事が無かったのが『悔しい』と思った。


「この気持ちのどこが悪いのよっ‼️

・・・私だって、あの《お父さん》と同じくらい―・・・〈サトル〉のコト『好き』なんだからねっ‼️💢」

 まるで《宣戦布告》のように言い切ると、

ズンズンという音が聞こえそうな勢いで、家路へと歩き始めた――・・・。






「亮って、『子供好き』だったんだね(笑)」

 二人が帰った後片付けをしながら、〈サトル〉が嬉しそうに言うと、

「・・・おい💧

今更になって気付くのは『ナイ』だろう💧」

 《ソファー》では無く《窓台》に腰を掛け、《父》がいつ帰って来てもいいようにと《我が子》が用意してあった《缶ビール》を飲みながら、

〈亮〉は憮然とするも、

「・・・淋しくなかったか?

―・・・未だこの家に『生活感』が無いから、一人じゃどうだろうかと心配してたんだ💧」

 その気遣いが嬉しい。

「・・・うん。この《景色》が無かったら・・・💧『ホームシック』になってたかも知れないかな?💧」

 〈サトル〉は片付けを終えると、

〈亮〉と向かい合うように《ソファー》の背凭れに腰を掛けた。

「・・・何時まで《日本(こっち)》に居られるの・・・?」

 急にトーンダウンし、淋しげに訊く。

「あぁ。お前の《卒業式》と《中学》の《入学式》には顔を出せるように調整して来たから、しばらくは一緒に過ごせる」

「本当にっ⁉️✨」

 〈サトル〉は素直に喜ぶが、

ふと《父》の酒を呷(あお)るペースが早いのが気になった。

「・・・亮・・・ちょっと―・・・」

 そんな《息子》の心配する声を遮るように

〈亮〉は胸元のポケットから、

 折り畳まれた《白い封筒》を差し出す。


「・・・何・・・?」

「・・・ケリーからだ。

《お前》に渡してくれと頼まれた」

「わぁ🎵ありがとう❗️元気にしてた?」

 その問いに少しの間が空くと、


「――・・・一週間ほど前に亡くなった」


 〈亮〉の言葉が、

『耳鳴り』みたいに〈サトル〉の頭を貫いた――・・・。

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