第8話◆父子(おやこ)

「いやあぁぁぁ~っんんんっ‼️‼️💦」


 夜中12時を回ると寝ていた〈サトル〉の身体がビクンと痙攣する。

 それが夜泣きの《合図》だった。


 今まで小さな子供をあやした経験の無かった〈亮〉も、

 この《北欧》の地に来た時から始まった〈サトル〉の連日連夜の『夜泣き』ですっかりあやし方が板に付き、

 泣きじゃくる《我が子》を抱き上げると優しく頭を撫で―・・・静かに背中をトントンと叩き、宥めてやる。


「―・・・どうした?・・・また《怖い夢》見たのか?・・・ホラ、もう大丈夫だ。

オレがココにちゃんと、サトルの傍にいるだろう―・・・?」


 〈サトル〉が泣き疲れて眠り込む迄、〈亮〉は何度も繰り返しては・・・そう囁く。

 そして、

「悪い奴らがお前に近付いて来たら、オレがそいつらをやっつけてやるから安心しろ」

 と、毎回言い聞かせていた。


 ―・・・にしても、

『子供の見る《怖い夢》』とはどんなモノなのか〈亮〉には見当も付かず、

 正直・・・困り果てていたのも事実だった。

 だだの《怖い夢》にしては、この〈サトル〉 の毎夜の『夜泣き』は異様に感じる。


『――・・・一体、『何に』対して怖がったり、嫌がったりしてるんだ・・・?』



 ・・・嫌がるといえば、

〈サトル〉を預かって以降、一緒に《風呂》に入るのをやたらに『グズる』のも気になっていた。

 一人で任せておける年齢なら別に構わないが、未だ6歳かそこいらでは流石に心配で放っておけず、

 毎回・・・あの手この手(笑)と気を引かせては一緒に入浴する。


 端から見れば随分と『子煩悩な父親』にしか思われないだろう。

 現に《スタッフ》からは『雰囲気』が変わったと、誂(からか)われる事が多くなった。


 その日々の『奮闘ぶり(笑)』が《我が子》にも伝わったのか、

 『入浴』に関してはそう抵抗する事は無くなったが、 チラチラと常に様子を窺う仕種をする。

 それが〈サトル〉の『癖』なのかと思っていた矢先、

 本人の口から出て来た言葉に〈亮〉は衝撃を受けた。


「・・・ねぇ?・・・りょうも、ボクの《からだ》をさわるの『すき』・・・?」


「・・・‼️⁉️」


 〈サトル〉の縋るような上目遣いの瞳で見つめられ言葉を失くしていると、

「・・・りょうは『やさしい』から・・・さわられても、ボク『ガマン』できるよ?

――・・・でも・・・。『イタイ』のはいやだから、しないでほしいんだ・・・」


「――・・・待て・・・💧」


 そう一言言うのがやっとで、

目の前にいる《子供》から発せられた《言葉》だと理解するのに時間が掛かった。


「・・・今、自分で言った『意味』は判ってるんだよナ・・・?」

「・・・?」

 逆に〈亮〉に質問され〈サトル〉はキョトンとした顔をする。


 『痛い』というだけなら《虐待》の『可能性』もあるが『触る・触らない』となると《違う虐待》になって来るだけじゃない。

 『痛い』の《意味合い》すら変わってくる。


「・・・そういう事を『誰に』されたんだ・・・⁉️

まさか・・・お前の《お母さん》や《お父さん》にでも――・・・」

 〈亮〉が言い終わる前に「ちがうよっ‼️」と〈サトル〉が遮る。

「《おかあさん》たちはぜったいにしないよ‼️💢」

「・・・じゃあ誰に―・・・」

 〈サトル〉の《両親》が亡くなった後に心無い《親戚》の誰かにでも―・・・と、

 良からぬ『想像』しか浮かばない〈亮〉に対して、

「・・・ボク、いつも《ひとりぼっち》になるっていったじゃないか・・・」


 そう淋しそうに呟いた。


 ・・・確かに、

《日本》を離れる《飛行機》の中で〈サトル〉がそんなコトを言っていたのを思い出す。


「・・・ボクはひとりじゃいきていけないから、いろんなひとがボクをたすけてくれたケド

いつだって―・・・みんな、おんなじコトをいうんだ。

ボクの《かお》と《からだ》に『かんしゃ』しなさいって・・・。

イヤなんだけど・・・だけど―・・・」

 そう言葉を詰まらせて涙ぐむ〈サトル〉が居た堪れない。

 

「・・・お前は、そんなに『いつも』独りぼっちになるのか・・・?」


「―・・・ボクは《わるいこ》だから、

《かみさま》が『ごめんなさい』ができるまで・・・ダメなんだって💧」

「・・・じゃあ、誰に『ご免なさい』をしなきゃ駄目なんだヨ・・・」

 そんな風に訊かれても、

未だ幼い〈サトル〉にはそれをどう答えていいのか判らず、困ったように首を振る。


 〈亮〉は堪らず〈サトル〉を抱き締めた。


「・・・お前は《悪い子》なんかじゃ無いゾ‼️‼️

――・・・だから‼️

これからは《独りぼっち》にはならないし、オレがさせない。

お前の《身体》だって『好き勝手』に弄ぶヤツはオレが、絶対にやっつけてやる‼️」






「・・・アイツは―・・・オレが引き取った時から

おかしな言動が多かった。

最初はさっぱり『その意味』すら判らなかったが、《北欧》での件でオレは『確信』したんだ―・・・‼️」


 〈亮〉の話す《内容》全てを『受け入れろ』と言われても〈ケリー〉には到底無理なハナシには違いない。

 だが『有り得ない事では無い』と何処かで『納得』出来る気持ちにもなるのは、

 やはり―・・・あの《少年(サトル)》の人を魅了させる『雰囲気』の他無いだろう。


「―・・・亮(お前)は、いつも『孤独』を感じていたよナ・・・?俺が傍に居た時でさえ。

なのに・・・《あの子》はどうだい⁉️

すんなりとお前を虜にして『孤独の闇』から連れ出したじゃないか・・・」


 〈ケリー〉は視線を外し、顔を背ける。


「・・・悔しかったんだ――・・・。

大人げナイのは承知の上で、俺はサトルに『嫉妬』したんだヨ・・・」


 その言葉を聞き、

〈亮〉は馬乗りになった自分の身体を退かそうとしたが・・・〈ケリー〉がその手を掴み拒んだ。 

「未だだ。・・・もっと俺を殴ってくれないとっ‼️‼️」

 だが〈亮〉はそれを振り払い立ち上がる。


「甘ったれんナっ‼️‼️💢

アイツがお前から受けた『傷』と、その『痛み』を・・・こんなモンで済ますつもりか⁉️💢」

 そう言って〈ケリー〉を一喝した。

 そして、こうも続ける。

「・・・安心しろ。このオレだって『同罪』だ。――・・・お前だけを《悪者》にする気は無い」


 それだけを言い残し・・・振り返る事も無く去って行った――・・・。




 ・・・こういう事に――・・・。

 いつか、こうなるかも知れないと判っていながら・・・それでも『傍に』置いておきたかった―・・・。


『・・・コレが《限界》だ―・・・』


 自分の『父親失格』というその《烙印》に今更ながら自責の念に駆られ、己れが腹立たく憎かった。

 ・・・何時までも止まぬ『後悔』に胸が押し潰されてしまいそうで、

 〈サトル〉の事を想うと涙が止まらなかった――・・・。






・・・結局、朝まで〈ケリー〉は《部屋》には戻って来なかった。


 〈サトル〉は深い溜め息を吐くと、

この国の《地図》と《ガイドブック》を手にして《部屋》を出る。


『・・・亮も、昨日の《打ち上げ》で酔い潰れて寝てたら―・・・ボク一人で行ってみよう』


 そう思いつつ、

〈亮〉が一人で泊まる《ログハウス》のチャイムを一回だけ鳴らしてみた。

 すると、待っていたかのように直ぐに開いたドアに驚く。

「・・・おはよう。・・・何だ?その顔(笑)。

出掛けるんだろ?」


「・・・うん・・・」


 嬉しくて―・・・〈サトル〉はそれ以上何も言葉に出来なかった・・・。




 《電車》を乗り継ぎ、

〈亮〉でさえも聞いた事も無いという・・・その《地名》を、

 手持ちの《地図》や《ガイドブック》を頼りに向かう。

 《車窓》の景色が徐々に長閑(のどか)になって行く様は、見ていて面白い。


 〈亮〉も〈サトル〉も互いに大した会話もする事なく二人して景色を見入っていたが、

 不意に〈亮〉が懐かしそうに呟いた。

「・・・お前が小さかった頃は、随分とこんな風に連れ回されたナ・・・」

「―・・・あ・・・💧」

 〈サトル〉は恥ずかしくて、下を向く。

「・・・アレは・・・💧『あの頃』は、未だよく判って無くて・・・💧

自分の中にある『イイ思い出』の《場所》をただ〈亮〉に見せたくて―・・・💧」


「――・・・これから行く《場所》も、か?」


 年々〈サトル〉が大きくなって行くにつれ――・・・『過去』の話をしなくなり、

 そんな《場所》にも連れて行かされる事が無くなったのは、

 その抱えた『記憶』が成長するに従って薄れていったか・・・逆に、

 より『鮮明(リアル)』に蘇(よみがえ)り・・・口に出来なくなったかのどちらかだ。


 ―・・・もし、

《後者》だとしたら・・・これから行くその《場所》は〈サトル〉にとってどんな思い出があり、

 何の為に自分を連れて行き、見せる『必要』があるのか・・・知りたかった。

 そんな〈亮〉の問い掛けに、

〈サトル〉は少し考え・・・言葉を選ぶようにして答える。


「・・・今から行く《場所》は――・・・。

ボクにとっての『確認』と『自覚』をする為・・・かな・・・」


「・・・何故、オレを・・・?」


「・・・亮は、ボクにとって・・・唯一の《家族》だから一緒に見て欲しかったんだ・・・」

 と、はにかむように照れて続ける。

「・・・それに・・・。

何か、ボク一人じゃ怖くて・・・(笑)」

「・・・そうか」



 この《息子》の抱える、

幾つもの《前世(過去)》の記憶なんて歳を追えば、やがて消えて失くなり・・・

 その『呪縛』から解放されるであろう事を《父》として願っていたが――・・・。


 『確認』と『自覚』。


 今の〈サトル〉の中で、その『呪縛』はどう息づいているのか――・・・。


 《父》として・・・結局は無力であり、

しかも『マイノリティ』という存在であったが為に、この《現世》でも辛い思いをさせてしまった『己れの罪』が―・・・。

 これらも全て『必然』であったというのなら、この《少年(サトル)》に課せられた《宿命》とは、

 一体・・・如何ほどのモノだと言うのだろう

――・・・?


 〈亮〉には、もう想像の域を超えていてその《答え》すらなし得ない。

「・・・次の駅で降りたら、今度は《バス》に乗り換えるんだけど、いい?」

 〈サトル〉の思った以上に明るい声に、我に返る。

 自分が《父親》として『最後』に何をしてやれるのかを、

 懸命に模索しつつ微笑み頷いた・・・。




 見るからに《片田舎》の駅を降り、

今度は《バス》に揺られて小一時間。

 二人が降りた先は、意外にも古い《城下町》で小さな港もありながら・・・一帯を森に囲まれた風情のある《村》だった。


 その地に足を着けた瞬間から〈サトル〉の表情が変わる。

「・・・大丈夫か・・・?」

「・・・うん・・・」

 《眉間》に軽いシワを寄せ憂いを帯びた《息子》の顔は、

もはや《少年》では無く『別人』にさえ見えて来る。

 〈サトル〉は『古い記憶』を手繰り寄せるようにその《村》を見渡すと、

 大きな森のある方へと歩き出した。


「・・・この森の向こうに・・・大きな《お城》があるハズなんだ・・・」

「・・・《城》⁉️」

 まるで『囈言(うわごと)』のように呟く〈サトル〉は、

 自分の半歩後ろから黙って付いて来る〈亮〉を案内して行く。

「・・・『あの頃』は―・・・ココは随分と大きな《国》で――・・・。

この国でなら、ボクの《探し人》にも会えると思って遠い場所から旅して来たんだ・・・」


 幼少の頃とは違い、

その《前世(過去)》の『記憶』の鮮明さに〈亮〉は驚いた。

「・・・だけど・・・。

ボクには、もう辛くて『生きる気力』も無くて―・・・貧しくて、

何も食べるモノも無くて・・・。『このまま死んじゃうのかな』って思ってたんだ・・・」

 そう呟きながら森を抜けると、

確かに場違いな程・・・見事な《古城》が、

そこにあった。


「・・・初めてだナ・・・。お前に連れられて《モノ》があったのは―・・・」


 〈亮〉は素直に感動したが〈サトル〉は大きく目を見開いて息を飲む。

「・・・本当にあるんだ・・・。

《夢》なんかじゃ無かったんだ―・・・」

 ふと、何かに導かれるのか・・・突然、踵を返すと駆け出すように歩く速度を速めた。


「おいっ‼️・・・何処に行くんだ⁉️💦」


 〈亮〉は慌てて、その〈サトル〉を追う。


「この《お城》の裏手にキレイな湖があってその先の小高い丘からの眺めが―・・・ボク、

『大好き』だったんだ・・・‼️」


 ――・・・そして立ち止まった目の前には。


 『あの頃』と殆ど変わらず現在(いま)も《古城》を映し佇む《湖》と――・・・

 その先にあるであろう小高い丘の姿も見えた。


「・・・見事だナ・・・」


 〈亮〉はその美しさに驚嘆の声を上げたが〈サトル〉は無言で、

 尚も小高い丘を目指して歩く。

 ――・・・『あの頃』の自分とシンクロして行く感覚が判る。

 息をするのも辛く・・・段々、踏み出す一歩が重く感じるも〈サトル〉は歩みを止めなかった。

 

「―・・・あぁ・・・」


 聞いた事も無い《我が子》のその吐息のような声に〈亮〉が気付く。

 小高い丘の上には――・・・その長い年月を物語るであろう、雨風に晒されすっかり朽ち果てた一つの《石碑》がポツンとあった。


「・・・まさ・・・か――・・・」


 〈サトル〉はそれを見付けるや、

狼狽しながらも覚束(おぼつか)ない足取りで

近付くと、

 刻まれた文字さえ読み取れない苔生(こけむ)した、その朽ちた《石碑》に触れ―・・・、

 ポロポロと大粒の涙を溢した。

「・・・どうした?・・・それは一体―・・・」

 今までのとは違う《息子》の異様な様子に心配する〈亮〉の言葉を待たずに、

 〈サトル〉は震える涙声でか弱く呟いた。


「―・・・きっと・・・ボクの《お墓》だよ・・・」




 ――・・・《王様》はどうして、

あの時泣いていたんだろう――・・・。


 その『理由(こたえ)』が知りたかった。


「・・・お前は『愛されてた』んだナ。

ココはお前が一番好きな《場所》だったんだろ・・・?」

 〈亮〉は振り返り、

その眼下に拡がる景色を眺め微笑むが、


「違うっ‼️‼️・・・そんなハズある訳ナイっ‼️‼️」


 珍しく詰るような強い口調で否定した。

「・・・『愛される』って、どういう事を言うの⁉️―・・・アレが《愛》なのっ⁉️」

 〈サトル〉は唇を噛み締め、涙を溢れさせた瞳(め)で〈亮〉をキツく睨み付ける。

 しかし、

《父》は優しい眼差しを湛え微笑み《息子》に答えてみせた。


「・・・それを確かめたくて『此処へ』来たんだろう―・・・?違うのか?」


 途端に、溢れた涙が止処なく流れ―・・・。


 悔しそうに顔を歪めて〈サトル〉は訴えるように気持ちをぶつけた。

「・・・ボクはいつも《お人形》みたいに扱われて、玩(あそ)ばれて――・・・でも『イヤ』って言えなかった・・・‼️

・・・だって、それよりも大切な『人探し』があったから―・・・。

そうやってかないと、ボク一人じゃ生きて行けなかったんだモンっ・・・‼️‼️」

 そう言って号泣する《我が子》を、

〈亮〉は強く抱き締めてやる事しか出来なかった。


 ただ。


 ・・・これだけは――・・・《父》として。

 《現世》で出逢えた者として、どうしても言っておきたかった。

「・・・ずっと『独り』だと思っていたのは、何もお前だけじゃ無かったハズだゾ?

・・・この墓を建てた人物(ひと)も、それ以前に出会った人達も・・・多分。

・・・《お前(サトル)》と出逢い、傍に居てくれただけで――・・・きっと皆は『幸せ』だったハズだ。

―・・・それが《愛》かどうかは・・・ホラ、

この《石碑(はか)》を見れば―・・・お前にだって判るだろう・・・?」


 〈亮〉のその優しい声に、

〈サトル〉は何も言わずに何度も頷く。


「・・・苦しかった――・・・。

・・・ボクの《容姿(見た目)》は一人で生きていく為の『武器』だと刷り込まれて、自分でも散々『利用』して生きて来たクセにっ‼️

ボクはそれを認めたく無かったから、いつも周りのせいにしてた―・・・。

・・・だけど、もう・・・それが辛くて、そんな自分が大っ嫌いでっ‼️‼️

何度も同じ事を繰り返してる《ボク》が赦せなくて――・・・」


「・・・ずっと、ずっと――・・・。死んでしまいたかったんだ――・・・」


 〈亮〉にしがみつき、

最後は声にならない吐息のような〈サトル〉のその言葉を聞き、

 あの初めて出逢った時の・・・何もかもを悟り『絶望』しきった、幼い《我が子》の表情(かお)を思い出した・・・。


「・・・それでも・・・お前は『生きて』いかなきゃならんのだろ・・・?」


 〈亮〉は屈み、泣き腫らしグシャグシャになった〈サトル〉の顔を愛しそうに見つめ、

 指で溢れる涙を祓い・・・

掌では濡れた頬を優しく拭ってやると、

 更に言葉を続ける。

「・・・生きて。《探し人》に逢って、

お前の抱えている『想い』を伝えなきゃいけないんだよナ・・・?」

 無言で頷く〈サトル〉の瞳(め)からは、

また涙が溢れ零れ落ちた。

 ・・・己れの《宿命》に抗(あらが)う事は出来ないという気持ちが、

 真一文字に噛み締められた口許に表れている。

 そんな《息子》の姿があまりにも幼気(いたいけ)で、思わず『貰い泣き』しながら・・・


「―・・・だったら、この《現世》で何が何でも探し出して逢って来い‼️

・・・《前世(過去)》の自分が大嫌いで赦せなくても《現世(いま)》のお前は何一つ恥じる事も、悔やむ事もナイんだ。

苦しい思いをしてまで探し続けて来たんだ―・・・今度こそ、『逢って』今のお前(サトル)を見せてやれっ‼️‼️」


 いつの間に、こんなに涙脆くなったのかと呆れる程・・・《我が子》を前にして泣いてしまう自分に苦笑している《父》の言葉に、

「・・・逢えると思う・・・?」

 と、弱気に訊ねた〈サトル〉を、

 真摯に見つめ励ました。


「――・・・その為にお前は《現世(この世)》に生まれて来たんだから。・・・逢えるサ」


 さも『当然』と言わんばかりの口調で言い切る、そんな〈亮〉に思わず〈サトル〉も笑顔になる。

「・・・やっと微笑(わら)ったナ。

それでいい―・・・《現世(いま)》のお前は間違いなく、このオレ自慢の《息子》なんだから―・・・」

「・・・ありがとう・・・亮」




『《かみさま》が、きっとボクに『ごほうび』をくれたんだ』


『――・・・『ご褒美』⁉️💦

・・・オレが?・・・お前の・・・⁉️』




 ・・・この『出逢い』が『必然』であったというのなら―・・・。

 自分には、一体何が出来るというのだろう


『・・・これ以上は傍には置けない――・・・』


 《父》として《息子》に話すべき思いは、

未だ〈亮〉の胸の中にあるままだった・・・。

 一度、心に決めておきながら、

躊躇し・・・『秒単位』で揺れ動いているのが情けない。


『・・・《前世(過去)》にコイツと出逢った人達も、傷付けたその『行為』は赦されはしないが、こんな思いをしていたんだろうか?』


 ・・・手にした《幸せ》を手放す事を惜しむ自分を、そんな風に考えてしまう。

「・・・亮?」

 〈サトル〉の不安げな声に気付き、反省し

「何でもナイ」

 そう返すと、「・・・帰るか」と促し《我が子》の頭を優しく撫でた――・・・。

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