第7話◆告白

 ――・・・変な《夢》だった。


 ・・・『いつかの自分(ボク)』は、ただの《王様》の『慰めモノ』でしか無いハズだったのに・・・。

 その《王様》は、眠る自分(ボク)を前にして泣いている《夢》だった。


『・・・《王様》は何が悲しかったんだろう』




 ・・・目を覚ました〈サトル〉は、

ふと隣の《ベッド》に全く使われた形跡の無い事に気付く。

「・・・ケリー、《リビング》で寝ちゃったのかな?」


 気になり《リビング》へ降りて行くと、

ダイニングの《テーブル》には《ウイスキー》やら《缶ビール》が飲み散らかされた状態のままで、

 〈ケリー〉は―・・・・というと、泥酔し豪快なイビキを掻いて《ソファー》で寝ていた。


『・・・どうしちゃったんだよっ⁉️💦』


 今までに見た事も無い、その姿に唖然としつつ〈ケリー〉を起こそうと近付いた際、

 足元に飲み終えて捨てられている数々の《薬》のゴミも『散乱』しているのを見付けた〈サトル〉は、顔面蒼白になる。


 《薬》の種類によっては『飲み合わせ』だってあるし、

 まさか《アルコール》と一緒に摂取したとなれば命に関わる。

 そう考えた時に、

〈ケリー〉がこんなに『大イビキ』している状態だって『命の危険』に晒されているのでは無いか――・・・。


『ケリー‼️・・・ケリーっ‼️💦』


 〈サトル〉は途端に恐ろしくなり、

慌てて〈ケリー〉の身体を揺り起こした。


「・・・う~・・・ん・・・」


 ひとまず、その《意識》があった事にホッと胸を撫で下ろす。

「・・・ケリー‼️・・・朝だよ?起きて‼️💦」

「――・・・ん・・・?・・・もう、朝・・・か?💧」

 そのあまりの酒臭さに〈サトル〉は顔を顰(しか)めるも、

「・・・一体どうしちゃったのさ⁉️💦

こんなんじゃあ、今日の仕事出来ないよ💦」

「・・・あ~・・・?」

 未だ完全に《酒》が抜け切っていないのか、大量の《薬》のせいなのか・・・、

〈サトル〉の呼び掛けにも面倒臭そうな気怠い返事を返す。


「ねぇ‼️ケリー‼️・・・ちゃんと起きて‼️

何で、こんなに酔い潰れるまで《お酒》飲んだりしたのさ⁉️💦

―・・・一体、何があったの⁉️💦」


 その『質問責め』にウンザリした顔を露骨にし〈ケリー〉は怠そうに身体を起こし始めたが、

「こんなに沢山の《薬》だって・・・‼️

《お酒》と一緒に飲んじゃいないよね⁉️💦

・・・どこか身体の具合でも悪いの⁉️大丈夫?」


 〈サトル〉のこの言葉を聞いた瞬間、


『・・・しまった‼️』


 〈ケリー〉の《意識》が瞬時にして冴え、

矢継ぎ早に声を掛け続ける〈サトル〉の口を封じたいが為に、

 小さなその肩を引き寄せ《キス》をした。


「――・・・‼️‼️」


 〈サトル〉は今、自分が何をされているのか――・・・考える『思考』さえ止められてしまったように、

 身体を硬直させたままになる。

 〈ケリー〉はそっと〈サトル〉を放すと、自分の頭を抱え込んだ。 


「―・・・頼む。この《薬》のコトだけは―・・・亮(アイツ)に言わないで欲しいんだ・・・」


 そう声を絞り出すように懇願するが、当の〈サトル〉は未だに茫然自失のままだ。

 その様子に小さく嗤うと〈サトル〉の頬に手をやり―・・・

 親指で柔らかい唇をなぞりながら、

「・・・コレが《ファーストキス》?――・・・じゃあ無いよナ?(笑)」


 ・・・《昨晩》の落胆した感情を思い出す。

それを〈サトル〉本人にぶつけるように、《酒》に酔った勢いに任せて悪態を付いた。

 挙げ句に―・・・耳許でこう囁く。


「・・・コレ、『秘密』にしなきゃナ?

――・・・でなきゃ《パパ》が傷付く・・・」


 その言葉に〈サトル〉は我に返ったが、

息をするのが精一杯で・・・声を出す事もせず

ただ一筋の涙を流した――・・・。






 仕事が始まる時間には、

《酒》の臭いは残ってはいるモノの『酔い』を覚まし、限り無く普段に近い状態で《現場》に入った〈ケリー〉に対し、

 〈サトル〉は普段を装いつつも誰とも目線を合わせようとせず、

 まるで『覇気』が無かった。


 それでも、順調に行けば今日でこの仕事も終わるとあって皆のテンションが高く、

 誰もそれに『違和感』すら持たない。


 ・・・ただ一人を覗いては――・・・。




「・・・今回の《仕事》は楽しく無かったか?」


 お昼の休憩時に、

一人離れて《海》を眺めていた〈サトル〉に〈亮〉から声を掛けて来た。

「・・・そんなコト無いよ・・・『楽しくない』なんて思った《仕事》、

今まで、一つだって無かったモン・・・」

「・・・そうか」

 〈亮〉の顔を見ようともせず、

何時までも《海》を見ていた〈サトル〉は、

「―・・・《海》の始まりはドコにあるのかなぁ・・・」

 そうポツリと呟いた。


「・・・亮と一緒にいれば―・・・いつか、

その『始まり』の《海》が見れると思ったんだけど・・・」

「見れるサ。お前が『見たい』と言うなら、

オレが探し出して・・・必ず見せてやる」


 その言葉が嬉しくて胸一杯になる。


 ありとあらゆる『感情』が身体の奥から込み上げて来て、

 今にも涙と一緒に溢れ出してしまいそうになり・・・〈サトル〉は慌てて俯いた。

 ―・・・そして、

 呼吸を落ち着かせると〈亮〉に振り向き微笑んで言った。

「・・・明日、『オフ』になったら―・・・行きたい所があるんだけど・・・」

「・・・⁉️」

「―・・・一緒に・・・行ってくれる・・・?」

 ・・・引き取ったばかりの、あの幼い〈サトル〉と姿が被る。


「――・・・あぁ、勿論」


 自然と弛む、その〈亮〉の口許は・・・

〈サトル〉だけに見せる《父》としての顔だった。




 午後からのその《仕事》の順調な進み具合は、《スタッフ》の頑張り以上に〈亮〉自身にあった事は言うまでも無い。


『・・・何を隠してる・・・?』


 明らかに《息子》の様子がおかしいと判っていながら・・・、

 それを素直に訊ねられないのは、昨日の件にしろ『些細なコト』で我が子に気を遣わせてしまう腑甲斐無い自分が情けなく―・・・、

 《父》として面と向かって合わせる顔が無いと『自覚』しているが所以である。


 この仕事が終われば《打ち上げ》に入る。


 その時に、久し振りに膝を付き合わせて色々話が出来れば・・・と考えていた。


 明日、一緒に出掛けられるにせよ――・・・

 何故か妙な『胸騒ぎ』がしてならなかったのだ。

 ――・・・そして、それは『的中』する。


 それも、


〈亮〉にとって一番最悪の『カタチ』となって・・・。






「今日の『詫び』だ💧

この《打ち上げ》代は全部、俺の奢りだ‼️」


 仕事が上がるや否や、

〈ケリー〉の景気のいい一言で《スタッフ》達は大いに盛り上がった。


「・・・いいのか?本当に」

 その突然の申し入れに〈亮〉も気遣って声を掛ける。

「いいサ🎵たまには。

――・・・それに下手すりゃあ、本当に仕事に穴を開けちまうトコだったんだ💧

お前の《息子》のお陰で助かったヨ❤️」

「・・・サトルの・・・?」


 〈ケリー〉の、その『言い回し』も気になるが・・・会話の最中でも、自分に向く事の無い見つめる視線の先にあるのが『心ココに在らず』な〈サトル〉だった事の方が気になった。

 ―・・・すると、

 貧血でも起こしたのか突然〈サトル〉が小さく蹲(うずくま)るのに気付き〈亮〉が慌てて駆け寄った。


「どうした⁉️サトル‼️」


 あまりの『タイミング』で現れた《父》に驚き、無理に微笑(わら)った〈サトル〉は、

「・・・ゴメン・・・亮💧

ボク、気分悪いから・・・《部屋》に先に帰ってもいい・・・?💧」

 と、気の毒な程に蒼白い顔をして言う。


「具合が悪いなら《病院》へ行こう❗️」


 そう言って直ぐ様〈サトル〉を抱き抱えようとした瞬間、

 その手を払い除けられ〈亮〉は思わず言葉を失くした。


「・・・そっ・・・そこまでしなくても、平気💦

・・・一人で、ちゃんと《部屋》まで戻れるから――・・・」



 ・・・気が付けば、いつも〈ケリー〉の視線が突き刺さり、まるで『監視』されているような『気味悪さ』すら感じていた。

 そこに、こと自分に関しては『鼻が利く』〈亮〉に、あの『秘密』を悟られはしまいかと思うだけで・・・怖くて怖くて仕方が無い。


『――・・・もう、傷付けたくない。気遣われたくないっ‼️』


 そう胸が張り裂けんばかりの『想い』に振り回されて―・・・〈サトル〉はつい、

 〈亮〉の手を払い除けてしまっていた。

 そんな事をすれば、間違いなく『傷付く』と判っているのに――・・・。


 《父》を思い遣る『余裕』すら無い自分が悔しくて、涙がどんどん溢れ出す。

 グシャグシャの情けない泣き顔を見られぬように、

 〈サトル〉はその場から逃げ出したい一心で走り去って行った――・・・。




「・・・コリャまた、随分な『フラれ方(笑)』をしたモンだなぁ~💧」


 何時までも《息子》の走り去った後を見つめていた〈亮〉の肩を抱き鼻で嗤う〈ケリー〉に対し、

「・・・お前の、その《酒》の原因は何だ?」

 と、〈亮〉は棘のある言葉を投げた。


「まぁ・・・強いて言うなら『ヤケ酒』か?

―・・・ショックだったんだゼ?」


 〈ケリー〉は肩を抱いたままの姿勢で〈亮〉と鼻先が付く距離まで顔を近付け、自嘲する。

「・・・俺も大概『賤(いや)しい』人間だが(笑)想い焦がれて《相手》にもされなかった『元恋人』も―・・・。

実は『同族』で賤(いや)しい人間だったと知りゃあ、オレは《酒》を呷(あお)るしか無いだろう~?」


「―・・・何のハナシだ?」


 それが単に〈亮〉自身に対する過去の『恨み節』だけには聞こえず、

 思わず眉間に皺を寄せ怪訝な顔をした。

 ・・・しかし、その態度が〈ケリー〉には白々しく惚(とぼ)けているようにしか見えない。

「・・・おいおい💧もう今更惚けんなって(笑)。

お前の《息子》への『愛情』は、ピュアなんだと信じてた俺がバカだったヨ・・・」


「・・・お前――・・・まさか・・・」


 〈ケリー〉が何を言わんとしているのか

――・・・その信じ難い『想像』をしただけで

全身の血が一気に下がり流れ出てしまったかのような錯覚に陥る程、目の前が真っ暗になる大きな眩暈(めまい)に襲われた。


「・・・アイツに・・・何を、した――・・・?」


「《無意識》の子供(ガキ)のクセに、あんな『反応』されちゃあ~よぉ💧

・・・逆にコッチが萎えちまったケドさ💧」


 己れの感情を押し殺すだけで精一杯の〈亮〉が、ただ震える声で一言そう言った事に対し、

 いつもの口調で『あっさり』平然と語るそれこそが、

 『冗談(ハッタリ)』では無い《事実》だと〈ケリー〉はわざとに知らしめる。


 プツンと音が聞こえたかのように〈亮〉の意識が飛んだ。




 ・・・誰よりも付き合いが長く『それ以上』の関係だった時もあった《相手》のコトだ。

 瞬時にして《スイッチ》が入ったと気付いた〈ケリー〉は、

 周囲の《スタッフ》達に《打ち上げ》会場の店を素早く指定し、早々に撤収させた。



「―・・・さぁ~、コレで途中で止めに入る《邪魔者》も居ないゼ?・・・殺すか?俺を(笑)」


 そんな〈ケリー〉の挑発に乗り、

〈亮〉は思い切り《横っ面》を一発殴るも〈ケリー〉は倒れずに踏ん張る。が、

 空かさずその胸ぐらを掴み首を締め上げて

「サトル(アレ)は未だ、10かそこいらの《子供》なんだゾ⁉️💢

・・・珍しく《他人》のお前には懐いていたがまさかその『意味』を履き違えた訳じゃあるまいっ⁉️💢」

 そう言って、渾身の力で二発目も殴り付けた。

 ・・・流石によろけそうになるが、それでも倒れずに踏み止まる〈ケリー〉は遂に、

「・・・その《子供(ガキ)》にあんな『躾』をしやがったのは一体、何処の《バカ親》なんだヨっ‼️‼️💢」

 ―・・・と、その『怒り』をぶつけるように〈亮〉を殴り返した。

 しかし、『怒り』の度合いが違い過ぎた。

 〈亮〉は体当たりで〈ケリー〉にタックルをすると―・・・押し倒したその身体に馬乗りになり、再度胸ぐらを掴んで表情(かお)を歪ませて叫ぶ。


「・・・『アレ』はっ‼️

オレでも、ヤツの父親の真輝(まき)でもナイ‼️‼️――・・・アイツの持って生まれた・・・生涯、消せない『傷』そのものなんだヨっ‼️‼️」


「ハァ⁉️・・・アレが『生まれ付き』だと⁉️💢」


 『言い訳』にしては突拍子もなさ過ぎるし況してや〈亮〉に限って吐く『嘘』とは到底思えない。

 

 何より――・・・。


 それに呆れる以前に、

今まで自分に見せた事も無い・・・唇から血が滲まんばかりに噛み締めた、その『苦渋』に満ちる〈亮〉の表情(かお)を見て―・・・

 〈ケリー〉は激しく動揺してしまう。


 同時に、そこで気が付いた。


 〈亮〉のあの〈サトル〉に対する異常なまでもの『過保護』っぷりが、

 単なる可愛がりだけでは無く―・・・そんな《息子》を必死に護る為にある行為だったのだと。


「・・・『嘘』じゃ無いのか―・・・」


「―・・・お前が信じるかどうかは知らんが、

少なくとも・・・アイツを見てればお前にだって『判る』だろ・・・」


 それが《全て》だった。


 〈ケリー〉は絶句し、全身の力が抜ける。

それでも〈亮〉は胸ぐらを掴んだ力は緩めずに、今まで誰にも打ち明けられずに閉じ込めていた『感情』を今ここで、

 全てぶつけようとしていた――・・・。 

 

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