第6話◆疑団

 朝、目覚めたのが《ベッド》の上だったのにも驚いたが、

 その目覚めの『スッキリさ』に〈サトル〉は〈ケリー〉に感謝の気持ちが一杯で、

 歓び勇んで《リビング》に駆け降りるとその後ろ姿に抱き着いた。


「おはよう‼️ケリー❤️朝、起きて・・・ボク驚いたんだっ――・・・」

 ・・・と人の気配に気付き、言葉を飲んだ。


「―・・・おはよう。

その様子なら、今日は『大丈夫』そうだナ」


「・・・亮・・・っ⁉️💦」

 

 〈サトル〉は慌てて〈ケリー〉から離れ、後退りをしながら小さな声で「おはよう・・・」

と、〈亮〉に挨拶をした。

「オハヨウ、サトル❤️・・・何も恐縮する必要ナイだろ?(笑)

今、《学校》で流行ってるんだってお前の《パパ》にも教えてやんなヨ🎵」

 ・・・〈ケリー〉は気付かない『フリ』をしているが、

 〈サトル〉には〈亮〉が今の自分に対して怒っているのが判る。


「・・・お前が、そんな下劣な『流行り』に乗っかるとは思わなかったナ・・・」


「―・・・ゴメンなさい・・・💧」


 〈亮〉は、やたら過敏に〈サトル〉が無闇に人と『ボディタッチ』をするような《コミュニケーション》を取らないよう禁じていた。

 それは同時に〈サトル〉自身の身を護る為だとも・・・

 小さい頃から再三言われて来た事だった。


「おいおい💧たかが《子供》のジャレ合い行為に、そんな『目くじら』立てる事ぁナイだろ・・・?💧」


 〈ケリー〉は二人の様子を見、呆れるように溜め息を吐くと、

 場の空気を変えたい気持ちで茶化し気味につい、口を挟んだが・・・

 〈亮〉は今にも胸ぐらを掴む勢いで、睨み付けて言い返す。

「コイツの《人生》を、そんな『簡単に』見るナ‼️💢・・・何の為にお前に預けてると思ってるんだ‼️💢」

「・・・コリャまた『光栄』だねぇ~。『旧知の仲』とは良く言ったモンだ(笑)」

 〈ケリー〉は動じず惚けて見せたが、最後に一言、低い声で呟き睨み返す。


「・・・お前は、俺の『何を』知ってんの?」

「何っ⁉️💢」


 《大人》の一発触発のような険悪な《雰囲気》は正直怖い。

 しかし、堪り兼ねた〈サトル〉が割って入った。

「もう、いいよ‼️💦

・・・ボクが軽率だったんだ・・・ゴメンなさい‼️―・・・《喧嘩》は止めて・・・」

「・・・サトル―・・・」


 泣くまいと涙を必死に堪えているその《表情(かお)》を見て、

 先に折れたのは〈ケリー〉だった。


「・・・キミが謝る必要はナイよ。朝っぱらから嫌な思いをさせて悪かったナ・・・」


 素直にそう詫び〈サトル〉の頭を軽く撫でたのに対して、

 〈亮〉はただ出発時間だけを告げて去ってしまった――・・・。




『コイツの《人生》を、そんな『簡単に』見るナ‼️』


「――・・・亮・・・」


 ・・・誰よりも一番に。

 我が《息子》を案じてくれている《父》が今、きっと―・・・

 一番傷付いているのを知っている。

 そして、その『原因』が自分にあるという事も〈サトル〉には判っていた。


 だから、絶対に泣けなかった。


『・・・ボクは亮を苦しめてばかりじゃ無いか――・・・』


 ・・・自分に定められた《宿命》の渦に、

〈亮〉も捲き込んでいるとしたら―・・・?


 自分の『未来』が、

その《宿命》としてどんなに辛いモノだとしてもそれなら構わない。

 だが〈亮〉にまで・・・共に、そんな思いをさせてしまうとすれば――・・・、

〈サトル〉にはもっとその方が『辛い』。

 

 ・・・過去、どの自分と比べても、

亡くなった《両親》を始め・・・〈亮〉に護られて、今日まで『幸せ』だったのだから。


『・・・ゴメンね、亮。

もう少しだけ貴方の《息子》で居させて下さい――・・・』






 流石は《大人》というべきか。

《旧知の仲》だからこそなのか――・・・。


 〈亮〉と〈ケリー〉は、

まるで何事も無かったように滞りなく仕事を進めて行く。

 ・・・しかし、〈サトル〉には・・・

〈亮〉は目を合わせる事すらしなかった。


「・・・キミの《パパ》は、

つくづく『大人げのナイ』男だね💧」


 〈ケリー〉は呆れ口調で言うが〈サトル〉は少し淋しげに微笑んで、

「・・・仕方がナイよ。ボクが悪いんだから」

 そう言った後は一転し、その表情(かお)を引き締め、続ける。


「だから、今日の仕事でその分挽回しなきゃ」


 と、小さく深呼吸をすると〈亮〉の元へ元気に駆けて行った。



『――・・・サトル・・・キミって子は・・・』


 ・・・昨日よりも今日。


 その表情の変化に驚く。

 

 ―・・・子供の成長が早いのは、

自身にも子供が居るだけに判ってはいるが、

 〈サトル〉の『成長(それ)』は明らかに違うと〈ケリー〉は感じた。

 《子供》であっても、それを感じさせないのが〈サトル〉の『魅力』なのか――・・・。


「・・・キミの、その『強さ』が俺にもあれば―・・・何かが違っていたかも知れないナ・・・」


 自身の呟きが、

ただの『後悔』だったとしても・・・。

 そう口にしてしまいたくなる程に羨ましいと、〈ケリー〉は何時までも〈サトル〉の姿を眩しそうに見つめていた――・・・。






 《シャワー》を終えて《リビング》で寛いでいた〈サトル〉に、

 〈ケリー〉は《マグカップ》を差し出した。


「我が家『秘伝』の《魔法のミルク》🎵」


「―・・・《ホットミルク》❤️?」

 受け取った《カップ》を覗いて訊ねる〈サトル〉に、

 〈ケリー〉は念を押すように《魔法のミルク》だと言い張った(笑)。


「・・・眠れない時は、コイツに限る❤️」

「ありがとう・・・」


 ・・・自身の、この先が見えない『将来』や必ず訪れるであろう《宿命》への『恐怖』や『不安』を―・・・

 全て《夢》の中に閉じ込めて『封印』する事が出来ればいいのに・・・と、

 叶わぬ『願い』を込めながら〈サトル〉はそれを一気に飲み干した・・・。




 〈ケリー〉が《寝室》に入った時には、

〈サトル〉は可愛い寝息を立ててグッスリと眠っていた。


「・・・ホラね?

《魔法のミルク》の威力は抜群だろ・・・?」


 そう囁くと、隣の自分の《ベッド》ではなく〈サトル〉の寝ている横に腰を掛ける。


 ・・・見れば見る程に『愛らしい』と思う。

 

 〈ケリー〉は〈サトル〉の前髪を掬い上げると、おでこに軽くキスをした。

 そして・・・そのまま口へとキスをする。


 《ミルク》の効果をしっかりと確かめ、

起きない事が判ると――・・・

 掛けていた毛布をそっと矧がし〈サトル〉の《パジャマ》のボタンに手を掛け始めた。


 ・・・今まで一緒に仕事をして来て見慣れているハズのその《裸体》も、

 これから自分が『汚して』行くのかと思うと気分が昂り思わず息が荒くなる。

 〈ケリー〉は再度、

今度はその小さな柔らかい唇を吸うようにキスをすると、

 そこから耳許・・・首筋へと舌を這わせて愛撫して行く。


 幼い未熟な胸元も、

自身の武骨な指で撫で始めた時―・・・。

 微かながらその《身体》が反応し、驚く程に艶のある《吐息》を洩らす〈サトル〉に愕然とした。


『―・・・どういう事なんだ・・・⁉️』


 確かに――・・・。

今の〈サトル〉の《意識》は深い眠りの中にある。

 《無意識》にしては、その『感度の良さ』に〈ケリー〉は嫌な予感しかしなかった。


『―――・・・まさかっ‼️・・・亮のヤツが⁉️』




 ・・・己れの醜い穢れた《感情》を、

純真無垢な〈サトル〉にぶつけてこそ〈亮〉への『復讐』が成り立つハズだった。

 ――・・・幼い・・・我が子とそう変わらぬ、

この《少年》に、大の《大人》が本気で『嫉妬』し、その『魅力』に翻弄され―・・・

 本気で『手中』に修めたいとも考えた。


――・・・が。


 誰かが既に汚して《手垢》を着けていたとなれば、ハナシが変わる。

 しかも、それが〈亮〉だというならば尚更だ。


 〈ケリー〉は、持って行き場の無い怒りを

覚え―・・・すっかり気が萎えてしまう。

 〈サトル〉の《パジャマ》を着せ直し、毛布を掛けて元に戻すと、

 静かに《寝室》を出たまま此処へは戻らなかった――・・・。

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