一平、保育所デビューする

 期末試験の結果は散々だった。



 引き始めで快方に向かったはずの風邪は、テスト勉強のストレスと睡眠不足によってぶり返し、なんとか赤点を免れたものの、ほとんどの教科が赤点のような点数だった。

 それを見兼ねた担任が、声を掛けてきた。


「佐藤さん、あなたちょっと子育てで無理をしているんじゃない?」

「え、はい……はじめてのことばかりなんで、戸惑ってはいます」

「今ね、うちの校内保育の枠に空きがあるから、赤ちゃん、申し込んでみたらどう? このままだと成績もそうだけど、体を壊してしまうわ」


「はい、私もそう思っていたんです……」


 担任の二宮先生は優しく微笑んでいる。


「じゃあ、申し込みの手筈、進めてみましょう、まずはおうちの人にも相談してみて」

「はい、ありがとうございます」


 二宮先生はそれからすぐに入園の申し込み用紙としおりを持ってきてくれた。

 私はそれを受け取り、内容に目を通してみた。



 ママも、一平くんを保育園へ入れることには賛成だったから、これを機にママを解放してあげるのはいいことだと思う。ママだって、日中一人で一平くんの子守りは大変だろう。

 それに、私、一平くんを中学校に連れていけるっていうのが嬉しい。一緒に登校して、授業が終わったらまた一緒に下校する。

 以前に経験した登下校とはちょっと違うけど、一平くんにとっても良いことなんじゃないのかな。赤ちゃんになった一平くんは、前に通っていたこの学び舎にどんな反応を示すんだろう。やっぱり何もわからないだろうか……赤ちゃんだしね……今は。









 それから、ほどなくして一平くんの保育園生活の手筈はトントン拍子で進み、いよいよ保育所デビューの日がやってきた。




「うぎゃーーーー!!」




 何かを察したのか、一平くんは今日も元気に吠えている。



「一平くん、今日から日中は学校で過ごせるんだよ、どう?」

「ひっくひっく、ううううう」


 一平くんは引き付けを起こす寸前まで泣き続けた。大変だったのはこれからで、いよいよ保育所の先生へ受け渡すときになり、一平くんは獣のように暴れ出した。


「ほらほら、ママが困っちゃうでしょ。いってらっしゃいしようねー」

「うわーーーーーーーん」

「はは、すみません。よろしくお願いします」

「いってらっしゃい」


 野生児の扱いには慣れたように、ベテラン保育士さんはものの数秒で私から一平くんを引き剥がし、にこやかに手を振っている。先生に手首を掴まれ一平くんも一緒に手を振っている……ぶすっとした顔で。


 一平くん、お互い頑張ろうね。

 試験も終わったし、私なりに一平くんを元に戻る方法を一生懸命探すから。

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彼氏が赤ちゃんになっちゃった中学生の育児日記 小鳥 薊 @k_azami

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