【零章】終幕
それもまた突然だった。アーキン様はその日から再び【センドライズ】の為に任務へ出向いた。いつもならボクにルーク様への伝言を頼むのだが、屋敷がなくなってしまった結果として当時レーア様の側仕えであるスゥに伝言が頼まれた。その時から少しだけ違和感を覚えていた。あの言葉が変に印象に残っているせいかと思ったけれど、違う。
スゥ曰く、しばらく帰れないらしいが、アーキン様は数日で帰ってきた。同じく任務に出ていたレーア様の親御様と共に――裏切り者、襲撃者として。
訳が分からなかった。理解したのはその日から数日後だった。
「親父ィ!! 何が目的だッ!!」
「…………」
アーキン様は、あの時誰にも一言も言葉を交わさなかった。徹底的で本気で、アーキン様、そしてレーア様の親御様はボクをルーク様を、レーア様を、スゥ様を殺しに来ていた。
混乱したままボクもスゥの片腕や片足を吹き飛ばし、そしてレーア様の側仕えも殺した。ボクとスゥがかろうじて生きているのは本当に運が良かっただけだ。あの時のアーキン様は誰であろうとも殺す、【センドライズ】においての任務の時の目をしていた。
「…………」
「チッ、前々から思ってたんだよ、親父の訓練は本気だった。殺しに来てるって思ってた。もしかしてこの時の為だったんだな」
魔術防壁の展開。展開する度に砕かれ、致命的な一撃を貰う。そんな防衛一方の戦いを繰り広げられていた。右目を潰され、当時はまだあったルーク様の腕は折れ曲がっていた。レーア様の足も変な方向に曲がっていた。
ルーク様はそうつぶやく。片腕を失った状態でそれでもボクが全然まともに生きていたのは、中にいる狼のおかげであり狼のせいなのだろう。かの者の生命力が凄まじいという話だ。
「…………。分かった。殺せってことだな。なら、全力で行くさ。……レーア、生きてるか?」
「んー、かろうじてね。戦えて数分って感じ」
「なら最大でも一時間で決着着けるぞ」
「話聞いてた」
「覚悟はいいか」
「うん、いいよ。どうやって殺す?」
「その場の勢いで」
「りょーかい」
などと話ながら、曲がった腕や脚をよいしょと言いながら元に無理矢理戻す。痛覚遮断の魔術などを駆使して、その場で戦える状態に調整していく。
「ったく、そろそろ持ってたんだ。代替わりの時期だってな。覚悟しろよ親父ィッ!!」
ルーク様の無挙動から音速を超えた突撃。しかしそれをアーキン様は身動ぎすらせずに止めた。魔術防壁の連続展開によってその勢いを完全に殺したのだ。
腕につけている魔術省略器具――通称、魔具の魔石が紅く光っていることから、あれから展開されているらしい――を用いたのだろう。光り方は連続して代わり、つまり一つの魔具で複数の魔術を展開できる最高級魔具だ。それ一つで五世代先までが贅沢暮らして食っていけるとまで言われている程の器具。同じような器具をアーキン様はいくつも持っている。
ルーク様の突撃を打ち消したと同時にアーキン様は濃縮された火炎魔術を放つ。火とは、全体的に熱を与える攻撃だ。だがそれを濃縮したことで万物を溶かす光線となる。ルーク様の心臓を的確に狙ったそれは、しかし正しく心臓を貫かなかった。心臓の少し上の肺を貫く。
「ッ、ああ、クソが」
上書きするように熱消毒、熱治癒で焼かれた部分を焼き繋ぎ、ルーク様は突撃を繰り返す。繰り返し、繰り返し、焼かれ、凍らされ、雷撃を喰らい、圧縮され、潰され、捻じられ、ちぎられた。それら全てを強制的で臨時的で手遅れ的な治癒を繰り返しながら、ルーク様は突撃を繰り返す。
どうして、と思う。ルーク様は何故、ただ同じ攻撃を繰り返すのだろうか。完全に見切られ、ただただ致命的な攻撃を食らい続けるだけだ。
「ッ、どうして、ルーク様ァッ!! どうしてッ!」
大量の出血によって言葉が出ないボクに、ふいに現れたレーア様が治癒の魔術をかける。その隣には完全に治癒し、脚の再生したスゥがいた。視界の端には死したレーア様の両親がいた。倒れ、そして同時に唐突に朽ちたかのように既に骸骨になっていた。燃えて骨が残ったとは思えない状態だった。そしてその遺骨に違和感を覚えた。何が違うといった感じだ。
レーア様は既に親御様を殺し終えたらしい。
「……レーア様、どうして、止めないのですかッ!! このままじゃ、このままじゃあッ!!」
「安心して。あいつはバカだからあんな無茶苦茶な方法でしかないけどさ、でも勝てないことはしないのよ」
と笑う。
「親父、お前はわざとだな。……いいぜ、じゃあ、これで最後だ」
言葉と同時の一撃。ただただ、純粋なる突撃。だがアーキン様は魔術の展開ができず、その攻撃を直撃した。その表情は純粋に驚き、そして笑みを浮かべていた。
「『魔素毒』。魔術を使う際、当然相手は魔素を循環させる。肉体と魔術公式そのものにね。だからそこに毒を流し込む。展開すれば展開するだけ毒は浸透する。魔素っていうのは万物の流れを司る。そこに毒を忍ばれても相手は気付かない。世界で最低の小細工で確約的な毒殺方法、だからこそ他の余計な小細工で偽装すれば気付かれるだろうと踏んだ。そして、……魔素毒でもなければアーキン様は、倒せない」
首を飛ばし、バラバラに砕き、そうしてアーキン様はこの世から消えた。
同時に、ルーク様が右腕から朽ちて消え始める。咄嗟に右腕を千切ることで消滅から免れた。
「……そういうことか。チッ、やっぱ突発でやるもんじゃねぇな、こういう毒は。再生した途端に、多分同じように朽ちるだろうな」
「あーあ、失敗しちゃったか。可哀想に、これからは隻腕かぁ」
「だな。まぁ、勲章として甘んずることにするよ。そうか、魔素毒も魔術だもんな、そりゃあ、俺と親父の間にも接点を持っちまう訳だ。失念してたぜ……」
あくまでも平然としている二人にボクも、スゥも畏怖した。彼らは親殺しをしたのだ。その上で彼らは笑い合っていた。殺した相手に対して何の感傷もなく。
「……ルーク様、レーア様、……この後はどうするんですか」
「ああ、もう決めているさ。俺達は婚約し、ルーク・エンパイア家はレーア・ナーストレア家に統合される。まぁ、家の統合だ。互いに屋敷を失い重役だった領主が死んだ訳だからな。今からは貧乏貴族だ。……恐らくは〈ライドリアの学舎〉に誘われ、俺達は学徒となるはずだ。んで、富を名声を稼ぎ、その後にまぁ元に戻る。――と」
言うや否や、まるでタイミングを見計らっていたかのように一枚の手紙がレーアとルークの前に出現した。
〈ライドリアの学舎〉からの招待状だ。
「――チャンスを確実に逃さない辺り、いい性格をしているなぁ、ったく」
これがルークとレーアが学徒入りを果たした理由。そして、右腕を失った理由、そしてルゥとスゥの抱える、彼らへの恐怖心の理由。
ぼくの かんがえた いせかい! 不皿雨鮮 @cup_in_rain
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