実はSFの御伽噺・桃太郎

 昔昔、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

 おじいさんは山に柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

 おばあさんが川で洗濯をしていると。

 どんぶらこ、どんぶらこ、と川を桃が流れてきました。

 人の頭ほどもある大きな桃で、きれいな桃色からも新鮮なのがわかりました。

 おばあさんは大喜びで桃を拾い上げて洗濯を急いで終わらせると家に持ち帰りました。

 そして、枯れ葉や枝と釜戸にくべる燃料を持って柴刈りから帰ってきたおじいさんに見せました。おじいさんも大喜びで。


「こんな大きな桃みたことねえだ。きっと神様からのご褒美かもしれねえ」


 おばあさんと一緒に桃を食べました。

 包丁でわった桃は荷重が溢れ瑞々しく、体中が潤されるようでした。

 お腹いっぱいになっておじいさんとおばあさんは眠くなったので寝てしまいました。

 次の日目を覚ますとおじいさんおばあさんは驚くことに若返っていました。


「やっぱりあの桃さ。神様からのご褒美だったんだ」


 両手を合わせて拝み。神様に感謝しました。


 そうして若返った二人の間に一人の男の子が生まれました。

 若い頃貧乏で働くことに必至で子宝にも恵まれなかった二人は大層喜び。

 神様の粋な計らいで生まれたその子に始まりの桃から因んで『桃太郎』と名づけました。


 桃太郎は大事に育てられました。

 不思議なことに桃太郎は成長が早く、すくすくと育ち、一年ほどであっという間に 十代の若者になってしまいました。

 しかも不思議なことに桃太郎は賢く、普通の子供よりも物知りでした。

 奇妙な出来事でしたが、神様がくれた桃で自分たちも若返りました。

 きっと桃太郎も神様が授けてくれた特別な子供なのだろうと思いました。

 何よりも腹を痛めて産んだかわいい我が子です。ちっとも気にもなりませんでした。

 そうして幸せな毎日を過ごしていたころ。

 風の噂で鬼が現れて暴れまわっている話が聞こえたころ。

 愛してくれる両親に桃太郎はとある秘密を打ち明けました。


「おじいさん、おばあさん。ここまで育てていただきありがとうございました。育てていただいた恩を仇で返すようで心苦しいのですが、僕は鬼退治に行かなければなりません」

「桃太郎や。おめえが鬼と戦う必要ね」

「んだんだ。お殿様たち、お侍様に任せときゃいいんだ」

「そうはいかないのです。あの鬼たちを放っておけばこの星は滅んでしまいます」

「鬼はそっだつええだか?」

「なんで桃太郎さ。そんなことさ知ってるだ?」

「それは私も鬼も遠い星から来た異星人だからです」


 桃太郎は首を傾げる二人に事の起こりを一生懸命噛み砕いて説明しました。


 それは一年以上前。

 桃太郎がおじいさんとおばあさんの子供として生まれるよりももっと前のことでした。

 たくさんの星が煌く夜空の宇宙。

 広く広大な宇宙には地球以外にも生命の住む星がいくつもありました。

 その中に桃太郎の生まれたモダン星がありました。

 モダン星の住人はとても温厚な種族で、他の星々とも仲良くしながら平和に暮らしていました。しかし様々な星の数だけ様々な星人がいるようにすべての星の住人が同じとは限りません。

 あるときモダン星に他の星からの侵略者が攻めてきました。それが鬼だったのです。

 モダン星人たちは抵抗しましたが、鬼たちは強く、残念ながらモダン星は滅ぼされてしまいました。

 しかしモダン星人が滅んだわけではありませんでした。彼らの中には星からの脱出に成功した者たちがいました。生き延びた彼らのほとんどは争いを好まない性格から復讐など誓わずに新たな新天地を求めて宇宙を旅する道を選びました。そして桃太郎も三人の仲間とともにからくも星から脱出に成功したそんなモダン星人の一人でした。

 桃太郎たち三人は長い宇宙の旅の果てに辺境の宇宙でやっと移住に適した生命の住む星――地球を見つけました。

しかし地球まで後一歩というところで運悪く残党狩りをしていた鬼たちに運悪く見つかってしまったのです。

 船は攻撃破壊され、桃太郎たちは沈み行く船の中でとある賭けに出ました。

 それは遺伝子解体融合装置ジーンディマミクスマシンに自分たちを分解させて生命のない果物になることで地球に逃げ延びるというものでした。

この遺伝子解体融合装置ジーンディマミクスマシンは桃太郎たちが辿り着いた星で星の生態系を崩さないように自分たちを星に恭順させるためのものでした。

 装置でその人の情報を残しながら解体し、別存在の果物という物に変換。そして生物に食されることで食した生物の遺伝子を取り込んで、その子供として生まれ変わることで別の生物と融合することができるのです。

 桃太郎たちは地球に辿り着くとその装置を使い自分たちを果物に変えて、りたいと思った星の生物に生まれ変わるつもりでした。

 しかし予定は狂ってしまい。生きたまま地球には辿り着けず、どの生物に食されるのか、はたまた誰にも食されず腐り散る可能性だってある中で、桃太郎たちは自分たちを果物に変えて地球に発射したのです。

 爆発四散した船と飛び散った残骸に生命反応無。

 侵略者の鬼たちの目を見事に欺いた四人は散り散りに地球へと流れ星となって流れ落ちていきました。


「そうしてこの星で桃と呼ばれる果物になっていたところを私はお二人に拾われて食べられることで人として生まれ変わることが出来ました。お二人にはどれだけ感謝してもし足りません。こうして生きていられるのもお二人が桃を拾い食していただいたおかげなのですから」

「は~よくわかんねけども。桃太郎がおらたちの子供だってのはわがっただ」

「んだんだ。わが腹痛めで生んだ子だもの。桃太郎は桃太郎だ」


 壮大なスケールの話は難しすぎて二人にはまったく解りませんでしたが、桃太郎が自分たちの子供であるということだけはわかりました。そんな両親を桃太郎は嬉しく思いつつも説得を続けます。


「しかし鬼たちはそのまま引き返すことなくこの星に降りました。鬼たちをこの辺境の星まで連れてきてしまったのは私たちです。私は彼らを退治する責任があります」

「だがら。そんなことはおめえがしなくていい。お侍さまたぢさ任せときゃいいんだ」

「んだんだ」

「しかし私には責任が・・・」

「それは生まれ変わる前の。前世の桃太郎の責任だ。桃太郎の責任でね。死んだらすべてが許されるわけでねえ。だども。死んだ先まで何もかもを持っていけるわけでね」

「んだんだ。どっかさ落どしてきたがもしんねえな」


 はっはっはっと二人はすべてを吹き飛ばすように笑いました。

 しかし鬼の脅威を知る桃太郎は笑うことが出来ませんでした。手の甲が白になるほど拳を強く握り締めて声を絞り出して訴えます。


「この星の文明レベルが低いことに油断している今がチャンスなのです。彼らが仲間を呼ぶ前に倒してしまえばこの辺境の星に鬼がそうそう来ることはありません。稼げた時間の分だけこの星の文明レベルも上がり、対抗できるだけの力を持つことが出来るかもしれません」


 力強く言い張る桃太郎。その意志の強さに説得は無理なのだと二人とも心のどこかでわかっていました。しかし理解と心は別なのです。おじいさんは未練たらしくうつむき黙って渋りましたが、やがておばあさんが立ち上がりました。


「わかっだ」


 そういって部屋の奥から小さな小箱を取ってきました。

箱を開けると折りたたまれた布がはいっていました。

 布を取り出して畳まれた布を開くと干からびたピンク色の桃皮と種が出てきました。


「それはまさか」


 おばあさんが頷きました。


「桃太郎の桃だ」


 それは前世の桃太郎が姿を変えた桃の残骸でした。


「桃さ食べて若返ったとき、この桃は神様の落し物だと思っだ。だから残った皮や種の欠片も大事にしねばならねと思って取っといだ。もしかしたら薬がわりさなるかもしんねえしな」


 そういって笑うおばあさんの考えはあながち間違いではありませんでした。

 生まれ変わるためには果物を食べた生物が交配に適した状態になければいけません。そのため生物を若返らせたり体の異常を治療したりする効果が変換された果物にはあり、その残骸である皮と種にも薬としての力がありました。


「これで黍団子作ってやる。鬼退治さ持ってげ」


 送り出そうとするおばあさんの姿におじいさんも折れて桃太郎は旅立てることになりました。

 覚悟を決めると両親は桃太郎のために旅の準備をしてくれました。

 こうして桃太郎は両親の説得を終えておばあさんが作った黍団子を持って鬼退治に出かけました。


 桃太郎は道すがらどうやって鬼を退治しようか考えます。一人では厳しいことは解っていました。それでも逃げるわけには行きません。鬼の情報を集めながら、鬼がいるという鬼が島に向かって進んでいきました。


「やあ、君は何処に行くの?」


 桃太郎は旅の途中で白い犬に話かけられました。

 人の腰ほどの高さもある大きな犬です。

 実はモダン星人から人に生まれ変わった桃太郎は動物と話すことができました。

 前世のモダン星人は精神感応能力の高い種族で脳に精神感応フィールドを発生させる領域を持っていました。これによりフィールド圏内にいる生物の精神と感応することで、五感を通して生物の意思を言葉として受け取り、また返すことが出来たのです。その能力でモダン星人は星が滅びる前は星間の通訳の仕事をしていました。

もしかしたら鬼たちがモダン星人を真っ先に滅ぼしたのは星間の言葉の壁をなくす彼らを脅威に感じたからなのかもしれません。


「私は鬼退治に行くところです」

「一人で行くのかい?」

「・・・はい」


 桃太郎は表情を曇らせて答えました。

 すると犬はハッハッハッと笑いました。尻尾を激しく振ってとても嬉しそうです。

 何がそんなに嬉しいのかと疑問に思っていると犬が答えました。


「君は生まれ変わっても変わらないんだね」


 桃太郎はその言葉にハッとして犬を凝視しました。信じられないものを目の前にして目は大きく見開かれています。


「四人の中で一番幼かった君はとても正義感の強い優しい子だった。だから一年前私たち三人は君に生き残って欲しくて、真っ先に君を果物に替えてこの星に逃がしたんだ」

「あなたはまさか・・・」


 桃太郎は理解しました。目の前にいるこの犬はモダン星人の生まれ代わりで、苦楽をともにした三人のうちの一人なのだと。


「久しぶりだね。元気だった?」

「はい。いい親に食されました」

「そっか。僕の親もいい犬だよ。今世では兄弟もいるんだ」


 ふさふさの尻尾が激しく揺れます。前世の頃と比べてとても感情豊かで楽しげな姿に桃太郎も嬉しくなって思わず微笑んでしまいました。


「いまは白という名前だなんだ。お互いもう生まれ変わったんだ。今世の名前で呼び合おうか」

「そうですね。私は桃太郎です」

「よろしく桃太郎」

「白さんもよろしくお願いします」


 鬼退治という人生の一大事に気を張っていた桃太郎も仲間との再会にホッとしました。


「ところで桃太郎。腰につけているものを分けてくれないか?」

「これですか?」


 腰に下げた黍団子入りの袋を持ち上げます。


「そうそれ。甘い匂いがするそれを僕に一つ分けてもらえないだろうか?」


 桃太郎は手のひらに乗せた黍団子を白に差し出しました。白は手のひらの黍団子を咥えて空を見上げてハグハグと食べました。


「ふう。やっぱりか。これは君の果物の一部を使って作られたものだね?」

「はい。私のなった桃の果物の皮と種を粉にして混ぜてあります」

「おかげで助かったよ」

「助かった?」

「実は僕ら三人が果物になるには時間が足りなくてね。所要時間を三でいくら割っても二人分しかなかったんだ。なんとか三人とも果物になってこの星には来たものの。中途半端な状態だったからモダン成分が足りなくてね。遺伝子構築に欠陥があったんだ。でも君の遺伝子を取り込むことで不足分を補うことが出来た。ありがとう」


 桃太郎は黍団子を作ってくれたおばあさんに感謝しました。そして自分を真っ先に逃がすために三人が無茶をしていたことを知って嬉し悲しと複雑な気持ちになりました。残り二人の安否が気になります。


「大丈夫だよ桃太郎」

「白さん?」

「この先に懐かしい匂いを二つ感じたんだ」


 前世の白の精神感応能力は匂いに紐付いていました。感情や危険を鼻でかぎ分けてモダン星から無事脱出できたのも白の鼻のおかげでした。

 思わず、桃太郎も白の視線の先を眺めます。


「生まれ変わったせいで姿形は違うかもしれない。でも薄っすらと匂うんだ」


 二つの影が近づいてくるのが見えました。

 一つは犬の白よりも長い四本の手足を伸ばし、大地を掴み蹴って駆けて来ます。

 もう一つは空にいました。中央の楕円から左右に生えた曲線が上下して空を舞っています。

 そうして桃太郎と白の前に姿を現したのは日本猿と雉でした。そして一緒にモダン星から脱出した二人でした。

 猿は柿助。雉はキコ。という名前でした。

 柿助とキコも鬼が島に行く途中でした。白と同じように黍団子を貰いました。


 四人は無事に再会できた喜びを分かち合いました。

 それとともにこの星のためにも四人で鬼退治を成し遂げようと一致団結しました。

 みんなで鬼が島へ向かいます。

 途中互いに生まれ変わってからの一年間を話しました。


「僕は生まれたときは三本足だったんだ」


 四本足の白が言います。


「でも白は足が四本あるよな?」

「うん。僕は旅に出るときに父親から足を一本貰ったんだ」

「足を貰った?」

「そう。貰ったんだ」

「足が付け外しできるのか?」

「そもそも何で三本足だったんだ?」


 不思議そうな顔をする面々がおかしくて白はくすくすと笑います。


「あのね。僕の父親の遠い昔のご先祖様はね。神様の国で生まれた最初の犬だったんだって。それで創造されたとき三本足で生まれたんだ。だから最初の犬は三本足だったのさ。それでね。あるとき神様が不憫に思って、四本足の五徳から邪魔な一本を取ってご先祖様に付けてくれたんだ。それから犬はみんな四本足になったんだ。でもね。直系の犬にはたまに三本足が生まれるから、そのたびに後から付けた五徳の足を親が子に渡して引き継いできたんだって」

「なるほど。義手の足を代々子孫に引き継いでるってことか」


「でも渡しちゃったらまた三本足になっちゃうんだよな」

「うん。でもお母さんや僕の兄弟が側にいるからいいんだってくれたんだ」

「なんつうか。いい親だな」

「柿助はどうだったの?」


 白の問いにうらやましがる柿助の猿顔がしわくちゃの渋いものになります。


「実はさ。俺は猿の群れから追い出されて放浪していたんだ」

「なんでまた?」

「俺の父親はやんちゃというか酷い父親でな。蟹に渋柿をぶつけて殺して。しまいには復讐されて蟹に首を切り落とされちまったんだ」


 子は親を選べません。三人とも言葉に詰まります。


「それでよ。その息子である俺も居心地が悪くなって群れを出て行くしかなかったのさ。ほんと言うと寂しくてお前らをずっと捜してた・・・」

『・・・・・』


 沈んだ雰囲気に話を変えようと今度はキコが話し始めました。キコは桃太郎の肩の上で思い出を見るように空を見上げます。


「実は自分も親とは死に別れで早くから転々と旅していた」

「キコさんも?」

「俺のところのバカ親父みたいな親だったのか?」

「いいや違う。むしろいい親過ぎた。恩返しのための死んでしまった」

「恩返しか~。そりゃあ、いい親だけど。でも死んじゃうのはな・・・」

「なんでも木こりに蛇から助けてもらったらしい。ただそれが原因で怨み辛みで蛇は呪いの蛇になり、その後木こりが呪蛇に捕まってしまった。呪蛇は木こりと賭けをした。廃寺の釣鐘が夜明けまでに鳴れば木こりの勝ち。鳴らなければ木こりの命を貰うというものだった」

「はあ!?誰もいない廃寺の鐘が鳴るわけねえじゃんか」

「ああ。賭けにもなっていなかった。ただ一匹。それを母親が見ていた。母親は恩返しとばかりに鐘に全力で体当たりして鐘を鳴らすことに成功して。木こりは助かった。だが母親は首が折れて死んでしまったというわけさ」

「木こりが蛇に捕まんなきゃな~」

「文句を言うことなんてできない。自分はそのとき卵として生まれてはいたが、親が死んだら死んでいた。親子揃って木こりに命を助けられた。それに木こりはやっぱりいい人でわざわざ廃寺まで来て母親を見つけると墓を作って弔ってくれた。感謝の念しかない」


 それぞれにそれぞれの新しい昔話がありました。

 そうして天文学的な確率で奇跡的に再開できた四人は互いの近況報告が終わると次に鬼退治について話し始めます。

 星を侵略されて逃げてきた四人は鬼の強さを嫌というほど知っていました。しかも宇宙船は小島ほどの大きさがあって人数も多いです。

 四人はあくまでこの星で生きる生物に生まれ変わっただけです。この星の枠組みの中。星規模の存在でしかありません。侵略者として星間を渡り歩き生き抜く鬼は宇宙規模の存在です。 真正面から乗り込んで行って倒せるとは思えませんでした。

 だからこそ少しでも情報を集めて秘策を練る必要がありました。


「ここまで来る間に鬼に遭遇したやつはいるか?」


 柿助の問いに桃太郎、白が首を左右に振ります。噂話は聞きました。ここまでに鬼に滅ぼされた廃村跡を通りました。しかし鬼とはまだ一度も遭遇していませんでした。

 雉で鳥のキコだけが唯一村の襲撃に遭遇していました。


「空から見ていたが、鬼たちは星戦や宇宙船襲撃時と同じ戦闘服に身を包んでいた」

「そういえば聞いた噂も鬼たちは似通った姿をしていたとありましたね」

「上から見たらなかなかカラフルだった」

「ああ。赤、青、緑と色違いの鬼がいたって聞いてる。兵科でスーツの配色が違うから部隊で動いてるんだろうな」


 星戦や宇宙船の襲撃を思い出しました。ヘルメットの頭頂部に通信用の小さな突起のアンテナが付いた適応環境外での活動を考慮して作られた全身を覆う密閉タイプの宇宙服を兼ねた戦闘服。他星から見た目から鬼服と呼ばれた姿の鬼たちは衛生兵や砲兵、歩兵と兵科で赤、青、緑と色分けされていました。

 鬼は侵略者と謂われるだけあって戦闘に特化した進化を遂げた種族でした。最適化された肉体は力強く強靭で平均的に戦闘力の高い兵士を生み出していました。


「こっちは人犬雉猿の少人数。対する鬼は宇宙船が小島くらい大きいことから考えても三十人以上の中規模の部隊の人数がいることは確かだ」

「ただでさえ数の差があるのに個人の戦闘力にも差があるか」

「知恵を絞るしかないということだね」

「皆さんは何かいい考えはありますか?」

『う~ん』


 みんな悩む声を上げます。

 うつむいていると白が思いついたとばかりに声を上げました。


「僕らに有って鬼にないものを利用するのがいいんじゃないかと思うんだ」

「鬼に無いものですか?」

「その有利が見つからなくて困ってるんじゃねえか」

「まあまて柿助。白の考えをもう少し聞いてみよう」


 提案する白に苦言を呈する柿助を嗜めるキコと前世でみたやり取り。生まれ変わっても人の性は変わらないようです。そうするとリーダーの白が提案して柿助が苦言を呈してキコが間を取り持つ先には決まってなぜか一番年下の桃太郎に選択が委ねられるのでした。

 案の定お前の意見はどうなんだ?と視線が桃太郎に向けられます。


「僕も白さんの意見をもう少し詳しく聞きたいです」

「というわけだ。白。もう少し詳しく話してもらえるか?」

「そ~だそ~だ。お前は頭がいいくせにいつも言葉が足りないんだよ」

「う~んんとね。僕らはこの星に帰順しているから三人とも気づいていないけれども。モダン星と比較するとこ星の重力は四倍だ。星の重力の違いは星での肉体維持や生存の観点からも星人の肉体の強さにも比例するだろ。つまり僕らは以前のモダン星人のときよりも四倍強いんだ」

「なるほど。鬼は確かにモダン星人よりも強かった。でも倍強いわけじゃない。それなら数の差を埋められるかもしれない」


 しかしそうなると負に落ちない点が出てきます。

 なぜ四倍強いはずの人の村は鬼に滅ぼされたのでしょうか?

 同じ疑問点に気づいた柿助が反論します。


「でもまてよ?じゃあなんでこの星の住人は負けたんだ?」

「そこは兵器の差だね。鬼だって素手で戦うわけじゃない。武器を使ってるだろ」

「おいおい。それじゃあ結局肉体的有利があっても勝てないじゃないか」

「うううん。勝てるよ」


 白はなんとでもないと首を左右に振ります。


「どういうことだ?」

「君たちは鬼が滅ぼした星をどうするか知ってるかい?」

「はあ?星を滅ぼすのがあいつらの目的だろ?」

「うううん。違うよ」

「確か鬼の住みやすい星にテラフォーミングするんだったか」

「そう。鬼が住める星に作り変えて使うんだ」

「で?それとこれと何が関係あるってんだ?」

「何で鬼は星をテラフォーミングしなければいけないんだと思う?」

『それは・・・』


 柿助もキコも言葉に詰まります。

 住むため。答えは先にも出ていたそれに違いありません。でもそれは大雑把な答えであってきっとその中に今求めている答え(正解)があるのだと思います。


「なんで鬼は鬼服を着ているのかな?」


 白がヒントを口にします。

 何で鬼服を着ているのか?そもそも鬼服とは何でしょうか?戦闘服・・・兼宇宙服です。そういえば鬼たちがモダン星や桃太郎たちの宇宙船で鬼服を脱いだ姿を見たことがありません。桃太郎たちは情報として鬼服を脱いだ鬼の姿を知っています。ですが、実際に鬼服を脱いだ鬼を見たことが無いのです。

 それはなぜか?

 桃太郎は思い立ったことを口にします。


「鬼服はもともと宇宙服で適応環境外で活動するためにあるものだから?」

「桃太郎正解」

「はあ?そんなの当たり前じゃねえか。宇宙服は宇宙で生物が活動するために作ったもんなんだからよ」

「そう。外部と内部を遮断するんだ。鬼は鬼服を着ている限り安全だ」

「それはつまり鬼服を着ていなければ危険ということか」

「キコも正解」

「鬼はね。最高の戦士の肉体を得るために最適化された肉体を持つ存在なんだ。でもそのせいでその最高のバランスを崩せなくなった存在でもあるんだ」

「崩せなくなった?」

「うん。生き物は毒物や病原菌から生き延びるためには耐性が必要だ。耐性は元にあったものの変質。言い換えれば進化で得ることができる。でもそれは最適化された遺伝子情報が崩される恐れがあることなんだ。最適化の末に最高の戦士を生み出した鬼にとっては毒や病原菌の耐性を得ることは戦士の強さを維持する上で死活問題なのさ。弱体化に繋がらないことがわかれば変質を受け入れることはできるけど。実験は長くかかるものだ。なら時間をかけずに済ませられる手を使うのが手っ取り早い。だから鬼たちが常に鬼服を着ているのは遺伝子変化が起きないようにしているからなんだ」


 鬼たちは戦闘に特化した進化を遂げた強い種族でした。しかしそれゆえに最適化された強さを捨てられない鬼は、遺伝子情報を作り変えての星への適用が出来ませんでした。桃太郎たちのように星に帰順することが出来なかったのです。

 なので侵略した星は彼らが住みやすいようにテラフォーミングをしていました。

 テラフォーミングされていないこの星地球では彼らは何の病原で死ぬか解りません。


「つまりこの星に帰順した僕らと違って鬼たちには病原菌の耐性がない」

「ん?てことは俺たち病原菌鬼が島宇宙船にいるだけで鬼を全滅できるってことか?」

「そういうこと。柿助もやっとわかったようだね」

「それでも宇宙服の活動期限を越えるくらいの修理時間が必要なほど船の環境設備をめちゃくちゃに破壊しなきゃならんし。自分らが鬼が島でどれだけ長く生き残って暴れ回っていられるかで病原菌の拡散率も変わるわけだ。このメンバーでそれがなせるかだろうか?」

「わかりづらい先手をうてばいいのではないでしょうか?」

「わかりづらいね~。桃太郎にはいい何でもあるのか?」

「いい案かはわかりませんが、空を飛べるキコさんや身軽な柿助さんがいればなんとかなると思います」


 三人は桃太郎の作戦を聞くことにしました。


「まずキコさんが柿助さんを乗せて空を飛んで鬼が島に潜入します。そして二人とも手近なエアーダクトに進入します。船内の環境装置は必ずエアーダクトと繋がっています。辿れば環境装置近くまで辿り着けるでしょう。ただ二人には合図があるまで環境装置の排気付近で待機していて欲しいいんです」

「なるほど。環境装置を破壊せずうまく利用するんだな。環境装置で浄化されたばかりの空気のは行き場所に俺らがいることで、病原菌を宇宙船内に拡散するのか。それなら装置が機能していても十分に病原菌を船内に拡散することができる。環境設備が整った宇宙船内ならさすがに鬼も鬼服を脱いでいるはず。効果はでかいだろうな」

「はい。とにかく鬼たちが違和感を持つまで長い時間待機していてもらいたいです」

「確かにそうなると身体の小さい俺らが適任だな。白も狼並みにでかいし、人間の桃太郎は俺らの倍の身長があるもんな」


 柿助やキコは桃太郎の膝下程の身長でした。手足や羽、首を伸ばしたりすればもっとあるかもしれませんが常時の姿勢では小さいです。宇宙船のダクトに楽に進入できる大きさでした。何よりも猿の柿助は手先が器用で排気口を外したりなどでき、キコは空を飛んでの移動ができます。


「僕と白さんは船で鬼が島に渡り、鬼たちが騒がしくなったのを見計らって攻撃を仕掛けます。柿助さんとキコさんはそのタイミングで手薄になった船内で環境装置を破壊して脱出してください」

「まてまて。それじゃあ桃太郎と白が危険すぎないか?」


 桃太郎は頭を左右に振って否定します。


鬼が島に潜入する敵のど真ん中お二人に比べたら海という逃げ道があるだけ安全です。むしろ鬼が島からの脱出を考えるとお二人のほうが大変かと」

「な~にダクトを使えば楽勝さ。それに俺には親父ゆずりの投擲の腕がある」

「自分も母親譲りの鐘をつけるほどの速度で飛べる羽がある」

「僕らも大丈夫さ。重力四倍は伊達じゃない。僕らのほうが力持ちだ。それに僕には牙と爪が。桃太郎には刀の武器がある。鬼服に穴を開けるだけで勝てるんだ。無茶な戦いはしないさ」

「僕たちでこの星を守りましょう」


 こうして桃太郎の締めくくりの言葉に四人は頷き鬼退治が始まりました。

 キコに乗った柿助は鬼が島に跳んで渡り、隙を突いて小型哨戒機のハッチから侵入。廊下のダクトを柿助が開けてキコと入り、ダクトで船内を移動しました。

 数時間経ったころ、鬼たちの中に発熱目眩を催して苦しみながら倒れるものが出始めました。

 焦って鬼たちが船内に戻ると手薄になった入り口に桃太郎と白が奇襲を仕掛けます。

 入り口での奇襲に船外に戻る鬼たち。タイミングから見ても襲撃者が何かを知っていることは確かです。解決のためにも襲撃者を殺さずに捕まえる必要があります。

 しかしヒット・アンド・ウェイで鬼服を傷つけては逃げる二人に業を煮やします。

 桃太郎と白は重傷さえ負わなければ大丈夫ですが、鬼たちはそうもいきません。

 鬼服に軽傷を負うたびに服の修繕が必要です。

 鬼服の修繕に時間がかかることから次々と新手の鬼が出てきます。

 手薄になった船内で柿助とキコが動き出しました。

 環境装置部に残っていた数人の鬼に襲い掛かり、柿助が飛びついては視界を塞いで叩きまくり、キコが鬼服を足の爪で切り刻みました。

 鬼を鎮圧すると環境装置のケーブルをキコが爪で切り刻みました。柿助は鬼の武器でパネルやコンソール部、アナログ通信用のコネクタ部を丁寧に破壊しました。

 十分な破壊を行うと二人はダクトへ飛び込み。入ってきたハッチまで移動します。外に脱出して桃太郎と白と合流しました。

 四人は船に乗って逃げました。

 船内が大変なことになっていることもあり、鬼は追うに追えず四人は逃げ切ることに成功しました。

 そうして一夜明けた朝にもう一度鬼が島に行きました。

 船内は死屍累々の鬼たちで埋め尽くされていました。

 まだ息のある鬼には耐性を付けて生き残られても困るので止めを刺しました。

 やがて勝利を確認すると桃太郎たちは宇宙船から通信設備など必要なものや襲った村から拝借されただろう戦利品を拝借して宇宙船を海に沈めました。


 沈む宇宙船を見て白は思いを口にします。


「今回の脅威は去ったかもしれないけど。いつかまた鬼が来るかもしれないね」

「そんときゃ。また集まって退治しようぜ」

「バカ。自分らだって寿命があるだろ」

「なら俺らの子孫が集まって退治するさ」

「そうだね。語り継いでいかなきゃいけないね」


 四人は鬼がいつかまた現れたとき戦う約束をしました。

それは子孫にも引き継いでいくつもりです。

そしてそれぞれの新しい姿での生を謳歌するために分かれました。


 桃太郎はおじいさんとおばあさんの元に帰りました。

二人は桃太郎の無事を大層喜びました。そして鬼が島から持ち帰った戦利品を見て驚き、本当に鬼を倒してきたことを知った後、周りの村々にその話を伝えました。それは人伝いに御伽噺として広がっていき、やがて日本に『桃太郎』の御伽噺が生まれました。



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――二〇XX年


「つまり君はその桃太郎の子孫なんだ」

「え~と。僕はそのジャパンのピーチボーイという童話の主人公の子孫?で、君らはその仲間の犬さん雉さん猿さんたちの子孫?だから私は動物と話す力がある?」

「そうそう」


 サングラスをかけた犬雉猿が頷いて肯定します。

 狐につままれた顔をしたアメリカ人の黒人男性の獣医師は首をかしげました。


「ちまたじゃ私のことを動物と話せるお医者さんだという人たちがいるけど。そうか。それは私が別の星から来た宇宙人の子孫だからなのか」

「そうだよ」


 尻尾をぶんぶんと振る犬。白くて大きな犬は怖いどこか愛嬌があってとてもかわいらしい。


「超能力かと思ってたよ」

「脳領域に精神感応能力の発達した部位があるわけだからある意味間違いじゃないよ」

「ああ、うん。教えてくれてありがとう」


 教えてくれた犬にお礼を言って話を最初に戻す。


「それで?その子孫だから俺には使命があるってわけか?」

「そうだよ。君はこの宇宙の危機に戦う必要があるんだ」

「さあ、このサングラスをかけて黒いスーツを着るんだ」

「はははは。なんだろう。まるで映画で見たMIBみたいだな」

「みたいだじゃなくてまさにそれなんだけどね」

「俺らは他の惑星と戦うために同じ目的を持つ仲間で集まって組織を作った。それがこれさ」

「でもこの鬼退治は僕らが始まりの物語だからね。僕らが動くのセオリー理屈さ」


 犬に同意して雉猿がうんうん頷きます。


「さあいこう。宇宙は広い」

「今日からきみは桃太郎Pだ」

「レッツ鬼退治!」

「ああ。物語の主人公の子孫ってわりと大変そうだ・・・」


 ちょっと愚痴ってサングラスをかけると桃太郎Pは犬雉猿と鬼退治に歩き出しました。

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