第3話 俺にできること

 曇り。その中途半端な天気の日は、どうにもやる気が湧かない。何事に対してもやる気が失せてしまう。

 だから俺は曇りの日が嫌いだ。晴れの日よりも、雨の日よりも、嫌いだ。


「こんな天気だと頭まで痛い気がしてきちまうぜ」

「ほんとそれなぁ……」


 おまけに今日は湿度が高く、じめじめしている。倦怠感に苛まれるのも仕方がないと言えるだろう。

 俺と速見が怠そうにしているからか、いつもは寄ってくるキョロ充たちも今日はクラス中に散らばっている。


「それでも結は教室の隅、か……」


 そんな元通りになったような雰囲気の中でも、やっぱり酒井結は戻ってきてくれない。そこには、元とは違う箇所があるから。

 俺と莉紗が付き合っているという、何よりも大きな違いが。


「酒井さん、心配だよな……本当にどうしちまったんだろうな」


 鈍い速見はやはり気が付いていないらしい。


 結は前、ひよりたちと例の一件があった際に聞いた話によると、俺のことが好きらしい。だから、彼女は俺を莉紗に取られて、寂しさを感じているのだろう。

 その気持ちは俺にも分かる。俺も似たような経験があった。


「ぷっ……あははっ! 自意識過剰じゃん」


 楽しそうにころころ笑うのは椎名。まあこんなにナチュラルに人の心を読んでくるのって椎名くらいしかいないよね。

 なんて、そんなことを考える傍ら、じゃあ椎名は何が原因だと考えているのかが気になった。


「恭介は何が原因だと思ってるんだ?」

「さあね、俺にも乙女心は分からないよ。でも俺たちだけでどうこうできる問題じゃないのだけはたしかだよ」


 流石の椎名にも複雑な乙女心は分からないらしい。

 俺たちだけでどうにかできる問題じゃないって、どういうことだよ。なら諦めろって言うのかよ。喉の手前まで出かけた言葉を飲み込んだ。

 椎名は、俺たちだけでどうこうできる問題じゃない、と言った。


「俺たちにもできることはあるのか?」

「莉紗のサポートをすることだ。酒井さんはいつも莉紗の方を見ているからね」


 だから結がああなった原因は莉紗さんにあるということだろう。

 ならば、莉紗のサポートとは何をすればいいのだろうか。


「それは自分で考えなよ」

「だからナチュラルに心を読むなや」


 俺がジト目で睨みつけると椎名はあははと爽やかにイケメンスマイルを振りまいた。ほお、すげえイラつく反応じゃねえか。

 とはいえ、椎名の言うことはもっともだ。それは最低限、俺で考えなきゃいけないことだ。


「ところで、椎名は何かしようとしてるのか?」

「俺はもう実行してるよ。酒井さんに直接ね」


 ウィンクと共にそういう椎名に溜息を吐く。

 本当にこいつは行動が早くて、きっと今回の件も俺が何もしなくても一人で解決してしまうのだろう。

 でも、それじゃいけない。


 だって、俺らは相棒だから。

 いくら俺が椎名に劣っていたとしても、だからといって俺が何もしない理由にはならない。


 

 さて、じゃあ俺は俺にできることを精一杯やるとしよう。

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きっと俺らの青春陽キャ生活 真田そう@異世界もの執筆中 @sanadakyanon

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