第2話 私の乾いていて寂しい、美しい季節
私——酒井結は最近孤独感を感じることがよくあった。
私は元々よく喋る方じゃないし、友達だって一人もいなくて、寂しい学校生活を自分の席で本と共に過ごしていた。
莉紗ちゃんは、昔、そんな私と友達になってくれた大親友。
だからもちろん嫌いじゃないし、たとえ恋敵だとしても大好きだ。
でも必ずしもその声が、想いが届くわけじゃないんだよね。
私の思いは私の思い。莉紗ちゃんの思いは莉紗ちゃんの思い。
私が彼女を恩人に感じ、親友と信じ、仲間だと思い込んでも、莉紗ちゃんの思いが私と同じであるとは限らない。
寧ろその声は届かないことの方が多いのかもしれない。
完全に波長の合う人間なんているわけないから完全な友達はできない。
興味は人から人へと移っていき、友達とはきっと、学校が、あるいはクラスが離れただけで疎遠になっていってしまう。
関わりがなくなって、友達はだんだんと他人になっていく。関係は変わり、元の白紙の状態に戻される。今までの全ては、消えてなくなる。
それはとても寂しいことのように感じるけれど、私には止めることができない。
私は引っ込み思案な方だし、友達である前に恩人である莉紗ちゃんに、こっちを向いてなんて頼めるわけがない。
だって、今の莉紗ちゃんには、奏斗がいる。大切な人がいる。
「もー、嫌になっちゃうなあ。何で私、泣いてるんだろ」
泣いたのは久しぶりかもしれない。昔は毎日のように泣いたものだったが、中学の途中で友達ができてからは泣いていない。
懐かしく頰を伝う感触を拭い、手袋をつけた手で自動販売機で買ったホットココアを転がす。
最近は寒さもましになり始めたものの、それでもまだ冬は終わりそうにない。きっとこれからも、乾いていて寂しい季節は続いてゆく。
「何してるの、こんなところで」
「ッ……何だ、椎名くんじゃん」
「何だって酷いなあ。あと椎名くんじゃなくて恭介でいいのに」
私は少し、この人が苦手。とても優しいけれど掴みどころがなくて、そしていつも馴れ馴れしく話しかけてくる。
私はこの人と友達になった覚えなんてないのに幼馴染の奏斗や莉紗と同じくらい、私に話しかけてくる。
「……椎名くんこそ、何でこんなところにいるの」
私の質問に、椎名君は答えてくれない。
放射冷却によって冷やされた空気の中に、白く息を溶かすだけ。静かな空間の中で街灯に照らされた息はダイヤモンドダストのように煌いている。
彼の整った容姿と相まって、絵画のようですらあった。
黙り込む私を見て、と言うか彼が質問に答えてくれないだけなのだが、答えの代わりに私の心を見透かしてくる。
「君はまた、元に戻りたいんだね」
彼の優しく微笑んだ顔が、そのまま優しく見えたのは初めてかもしれない。
いつもいつも何か企んでいるんじゃないかって疑っていたくせに、こんな時だけ優しく見えて、私は本当に虫のいい女だ。
どうやら乾いていて寂しい、そして美しい冬はまだまだ続きそうだ。
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