終章 十二月 その28
関東中部エリアトライアルの初戦で敗退した僕らは、大会二日目オフ日はとなっていた。
その間、他のチームの試合を見ながら僕は各チームのドローウェイトの時間や、変わり行くシートの様子を記録し続けた。
「わへいさん、どうですか?勝つ算段出来ましたかぁ?」
僕とペアを組む秋さんが覗き込む。
「なんとか、上手くはまれば、だけどね」
「それは聞捨てならないわね」
反対側からリューリが覗き込む。
「どんな作戦で私達に勝つのかしら?」
「前にも言ったけど企業(?)秘密です」
リューリ達も残念ながら先ほど準々決勝で敗退していた。
上には上がいるものだと思い知らされる。
「私に隠し事なんて…本当に憎たらしいわ」
吐息が掛かる程リューリの顔が近付き、僕の頬を軽くつねる。
「あの、お二人って何かありました!?なんだか雰囲気が変わったような…って、わわわ、私、これは聞いちゃいけない事でしたよね!?仲が深まった男女が辿り着く事なんて一つだけ…。月明かりに重なるシルエット…ああ、乙女の本懐…」
うっとりしている。
「まぁあながち間違ってはいないわ。これからはより強く私が所有権を主張するから、気をつけてね」
「わわわ、やっぱり!?やっぱりですかぁ?大人ななったんですねぇ。わへいさん。もちろんですよぅ。お二人の邪魔はしませんて」
秋さんが頬を赤らめながら言う。
僕はそんな二人のやり取りを横目に試合に目を戻す。
やはり勝機があるとすれば僕らの使い慣れているシートで試合が行われる事。
これが大前提になりそうだった。
もちろんその前にリューリ達に辿り着く為に、他のチームとの試合を勝ち上がらなければならない。
すでに発表されている対戦表ではお互いが一つ勝ち上がれば、二回戦でリューリ達と当たる事が出来る。
こんな特定の人と、それも個人的な目的で戦う為に、大会に参加する事が許されるのだろうか?
改めて疑問に思ってしまう。
以前、参加申込書を提出する際に、そんな疑問を野山先輩にぶつけてみた。
「理由はどうあれ、それでお互いの技術が向上するならいいだろ?皆が皆優勝して青森行きを狙ってると思うか?参加する理由は人それぞれ。繰り返すけどまずはカーリングを楽しめよ?」
との事だった。
試合は進み、決勝戦、表彰式が終わる。
優勝者以外が全て敗者。
いつか野山先輩が言っていた。
でも、その敗北は無意味なんかじゃないのだ、と。
その敗北に意味を見出だすのは自分なのだと。
「それじゃあ秋さん、また明日」
「はい!よろしくお願いしますぅ!」
軽くジャンプをし(胸も大きく揺らしながら)秋さんが手を振り帰路に着く。
僕はリューリを彼女の自宅まで送って行く。
「うちに寄っていく?」
「…すごく魅力的な提案だけど、止めておくわ。お互い万全のコンディションで臨みましょう?」
彼女の自宅に着く頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
今日は玄関までは行かず、門の所で足を止める。
「また、明日ね」
「うん、また明日」
周囲を伺い誰もいないのを確認してから僕らは唇を合わせる。
彼女の舌が少し迷うように僕の唇をつつき…結局引っ込められる。
リューリなりに気持ちを抑えたのだろう。
「明日のクリスマスは取って置きの敗北をプレゼントしてあげる」
僕の周りの空気だけ気温が下がったように感じ、僕の背中をゾクリとさせる。
「喜んで。受けて立つよ。おやすみなさい」
僕の集大成とも言える試合が、始まろうとしていた。
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