終章 十二月 その25

十二月下旬。


関東中部エリア選手権大会を迎える。


すでに学校は二学期の終業式を終えており、平日から試合がある。


今回はトーナメント形式のため、負けたらそこで終了となる。


まずは二日間かけてチーム戦を行い、その後でミックスダブルスが二日間。




僕ら“チーム黒崎”は受付を済ませた後カーリングホールでウォーミングアップを始める。


「負けられない戦いが、ここにある」


旭先輩がいつもとは全く異なる緊張感で呟く。


「そりゃあ、まぁ負けたくはないですが…そんなに緊張しなくてよいのでは?」


僕が旭先輩の肩をポンポン叩きながら緊張を解そうとする。


「いや、それが事態は深刻なんだ」


黒崎が腕組みしながら答える。


その視線の先にはコーチ席。


カーリングホールにはそれぞれ両端にコーチ席と観客席がある。


コーチ席にはそのチームのコーチやマネージャーが座り試合を記録したり、タイムアウトの際は相談にのったりする。


僕らの試合にコーチが付くことなどないのだが…。


「旭!負けるんじゃないよ!」


そこには野山先輩と部長の二人。


野山先輩がしきりにはやし立てている。


「俺は…とんでもないものを賭けてしまった…」


ガタガタ震えている旭先輩。


「何を…この試合に賭けたんですか…?」


なんだか嫌な予感がする。


「わへい君はその場にいなかったんですねぇ…」


「友利は事情しってるのか?」


「はい。あ~つまり、部長との交際を賭けてるわけですね。旭先輩は」


「ふぁっ?」


僕の口から素っ頓狂な声が出た。


「なんでそんな事に?」


「ハナさんのな、お節介なんだけど」


黒崎の説明では部長は以前から旭先輩の事は好きだったようだ。


そして野山先輩にその事を相談していたらしい。


旭先輩と部長はミックスダブルスでペアを組んでいて、お似合いには見えていた。


しかし旭先輩の性格からして、自分から部長に言うとは考えにくい。


二人の仲は進展せず…。


「ハナさんがぶちギレた…」


「なんで野山先輩がキレるんだ!?」


「良くも悪くも姐御肌なんだよ。ハナさんは」


「…それで?勝ったら交際する、と?」


「…うちのチームが勝ったら旭先輩から告白する」


「うん。うん?…それ、負けたらどうなるんだ?」


「次の試合まで告白はお預けになる」


「…僕らの責任重大じゃないか。って今回はトーナメント形式だろ?負けたら次の機会っていつだよ?」


「間違いなく来年、だな」


「僕らはどうする…?」


「いつも通りに、する」


「…その…そういう事をカーリングに持ち込むってのは黒崎的にはいいのか?」


「二人がそれで良いなら、いいさ。そういう事がきっかけで付き合えるなら…それも羨ましいかも、な」


…確かに。


野山先輩も人の世話を焼いている場合ではないよな、と僕も思ってしまう。


「それじゃあ行きましょうか?旭先輩」


またポンポンと旭先輩の肩を叩く。


旭先輩は…。


「愛ゆえに人は苦しまねばならぬ、愛ゆえに…!」


…拳を天に突き出していた。






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