終章 十二月 その21

リューリと二人でバスに乗り、まずはコーヒーショップへ。


一度二人で来たいと思っていたお店だった。


いくつかの支店があるが今日は森の中にひっそりと佇む本店へ。


店内に入るとコーヒーの香りと暖炉の薪の燃える香り。


「君と、来たいと思っていたんだ。何か飲んでいこう」


「…良いお店ね。知っていたならもっと早くに誘いなさい?」


「面目ない。今度から見つけたものは片っ端から君に報告して…誘うよ」


「そう、しなさいな」


「それで何飲む?いや、何を食べる?それに合わせて何か飲もうか」


「私はチョコレートケーキにしようかしら」


「ここのチョコレートケーキは美味しいよ。でも今は別のものがいいんじゃないかな?むしろケーキから離れてもいいかもね」


「その露骨な誘導。さてはまた何か隠しているわね?」


「はい。隠しております。そしてまだ言うつもりはありませんね」


「仕方ないわね。今回は見逃してあげるわ。…と思ったけど気付いてしまったわ。今日はクリスマスの代わり…という事はこの後あなたが何を用意しているか?いえ、気付かないフリをしているのがこの場合正解かしら?」


「うん。君の心の声がすべて聞こえてしまっているね。今は気付かないフリしていて欲しいかな」


結局二人でココアと焼き菓子を注文する。


その後、隣にあるショップスペースで購入するコーヒー豆を選ぶ。


「やっぱり深煎りがいいかな?カフェインレスでも結構種類があるから、他のもいいね」


リューリの動きがコーヒー豆を見ながら止まっていた。


「…どうかしたの?」


「うん、ごめんなさい。なんだか嬉しくってね。あなたの日常に私がいて、二人で過ごすことが日常になっていく。なんだか良いわね」


聞いていて照れる事をサラリと言ってくる。


「今度は、君の日常に僕を混ぜてもらおうかな」


「喜んで。Yes。でも私の日常って…カーリングなのよね」


「それなら二人で新しい日常を作ろうか」


「そうね。あら、顔が真っ赤だわ。お店の中暑い?」


「う…うん。ちょっと暑いね」


「ウソ。照れたんでしょ」


「うむ。自分で言って照れました」


「…可愛い」


…より一層顔が赤くなってしまった。




その後二人で駅前のアウトレットへ向かう。


僕が以前に居た都内のような派手なものではないが、クリスマス用のイルミネーションがされており、華やいだ雰囲気だった。


二人で申し合わせたようにスポーツショップへと向かう。


お互いがお互いにクリスマスプレゼントを購入する。


何をプレゼントするかは、後でのお楽しみという事にする。


二人で手早く食事を済ませる。




「少し時間が余ったかな。まだ帰るには早いけど…」


言いながら僕の目にゲームセンターが目にとまる。


「もう少し遊んで行かない?」


ゲームセンターを指差す。


「?良いわよ。私あまり行ったことないけど」


…予想通り。


何処にでもあるエアホッケーで勝負を挑む。


「良いわ。というのが気に入らないけど受けて立つわ」


ほとんどやった事がないという割にリューリは上手で予想外の苦戦を強いられる。


しかし、最終的に僕は辛くも勝利する。


「良いわ。この仮は一週間後に。返すから。見てらっしゃい?」


…これは本気だ。


ゲームセンターを出ると日が傾き始めていた。


「そろそろあなたの家に行かない?」


リューリが容赦なく腕を絡めてくる。


そして僕の腕を彼女の身体に惜しみなく押し当てる。


瞳が潤み、ぷっくりした唇からほぅっ…と熱い吐息が漏れる、


「う…ん。それじゃ帰ろうか」


冬の夕日を浴びながら、僕らは帰路に着いた。


リューリの腕に力がこもる。


…彼女の身体を支えながらバスに乗り込んだ。




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