終章 十二月 その20

僕は朝一番で予約していたケーキを受け取りに行く。


そのままケーキは一度自宅の冷蔵庫へ入れておく。


一度部屋を見回し“よし”誰にともなく頷く。


そして今度こそリューリの自宅へ向かう。




以前にここを訪れたときは夕方で完全に日が落ちていた。


今日はまだ朝霧が立ち込めリューリの自宅はより一層幻想的だった。


インターホンを押そうと思ったが・・・。


前はリューリに従って来ただけだったから分からなかったが


この家にはインターホンがなかった。


木製のドアにはライオンのドアノッカー。


今時手に入れようとしても恐らく購入することは出来ないだろう代物だ。


こん、こん。


木々の中に乾いた音が木霊こだました。


まさかとは思うが、この建物を設計した人はこの音までも拘こだわっていたのではないかと思ってしまう。


中からパタパタと音がしてドアが開く。


出来ればリューリ本人が出てきてほしいと願う。


…何となくではあるが今、リューリのお母さんと顔を合わせるのは気まずい。


リューリの話では今日の外泊はお母さんの許可が下りていて、つまり僕らがすることについても黙認するということなのだ。


出てきたのはリューリとお母さんの二人。


「わへいさん、リリーちゃんをお願いね」


にっこりとお母さんが微笑む。


瞬間背筋を伸ばしてしまう、僕。


「それじゃ、ママ行ってくるわ」


「行ってらっしゃい。リリーちゃん。な一日を」


二人でほっぺにキスを交わしていた。




二人で朝霧の中を歩きだす。


どこかで啄木鳥きつつきが虫でも探しているのだろう。


こここここ…。


細かな気をつつく音が反響していた。


歩きながら横目でリューリを見る。


彼女は全体的に落ち着いた紺色の色でまとめていた。


金色のボタンがついた紺色のハーフコートは襟を立て、首には黒いマフラー。


スラリとした彼女の足にタイトなジーンズとハーフブーツがよく似合っていた。


いつもより一際大人っぽく見えて僕は果たして自分が釣り合っているのだろうかと心配になる。


…服をほめるべきなのかな?


「服について触れるべきかどうか悩んでいるわね?」


…先に言われてしまった。


本当に勘が鋭い…。


「うん。本当はもっとじっくり眺めたいのだけれど。まじまじみられるのも嫌でしょう?」


「あなたに見られるなら構わないけど。…後でいくらでも見せてあげる。それで?今日のプランを聞こうかしら」


「ではご説明致します」


僕は恭しく説明を始める。


今日の予定として考えていたのは午前中に僕の良く行くコーヒーショップで豆を買いその後は普段ほとんど行かないが駅前のアウトレットへ。


その後は僕の家に帰宅。食事…という流れだった。


ろくにデートなどしたことがない僕のプランだが果たして大丈夫だろうか?


「O.Kだわ。それじゃ、行きましょう?」


そう言って僕の腕に腕を絡めてくる。


「…誰かに見られたら…なんて言わないでね。覚悟して頂戴」


そして妖艶に微笑むのだった。

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