終章 十二月 その18

国際カーリング選手権大会が終わり、僕らはカーリングを再開していた。


家でのトレーニング、部活、自主練習と、僕は年末の関東中部エリアトライアルに向け、練習を積み重ねていた。


そんな中でも期末試験はやってくる。


試験期間中は原則として部活が禁止となり、ただでさえ少ない練習時間が削られていく。


大会期間中練習出来なかった事への焦りが募る。




「わへい、わへい」


肩を揺さぶる感覚。


はっとなって頭を起こす。


そして自分がうたた寝をしていたのだと気付く。


一瞬自分がどこで何をしているのか分からなくなる。


周りを見ると机の上に教科書と参考書。


向かいにはリューリ。


場所は…。


「図書館…?」


「しっかりと寝ていたわ。疲れているの?」


思い出した。


学校帰りに駅の中にある図書館でリューリと勉強をしていたのだった。


「…いやぁ。最近夜によく眠・れ・て・さ・。熟睡、爆睡」


「あなた、大変な時は冗談で誤魔化す癖があるわ。私が見抜けないとでも?」


「うん。でもそれでも牡牛座の僕は真っ直ぐに突き進むだけなんだ。モゥ~ってね」


おどけて指で頭につのを作ってみせる。


「…無理はしないでね、とは言わないわ。勝ちたいなら努力しなさい」


「もちろん」


「それなら、目の覚める話でもしましょうか」


「何なりと」


「今度の土曜日だけど」


今度の土曜日。


期末試験も終わり、部活もない。


それは私立学園のリューリも同じで。


僕達が初めて身体を重ねる日。


一日予定が空いているから…。


そこで僕はリューリがこれから何を言い出すか、思い当たる。


再三デートに連れて行くように言われていたのだった。


「一日あるよね。よければ…どこか行こうか」


カーリングの試合のように、先手を打ってリューリを誘う。


「ようやく誘ってくれたわね。それでどちらへ?」


ハウス内のストーンにぴったりフリーズされたような感触。


「どこか買い物へ」


フリーズされたストーンを少しずらすショット。


「具体的に?」


またもやフリーズされた。


「う~ん」


「まだまだプランが甘いわね。きちんと得点までイメージしなさい?」


「努力します。それでは君のプランを聞こうか」


「買い物に行くという案は悪くないわね。何か買いたい物はないの?」


「一つはコーヒー豆を買いたいけど…。そんな買い物でいいの?」


「良いわよ」


あっさりOKが出た。


「あなたの日常を私にも分けてくれるんでしょう?」


「そうだね」


…そういう考え方もあるのかと感心する。


何でもない日常に当たり前のように彼女がいる。


その想像は僕を温かい気持ちにさせてくれた。


「あ、それともう一つ買いたい物がある」


「お互いのクリスマスプレゼントね?」


「勘の良すぎる恋人を持つと苦労がないね」


「私も考えていたもの。クリスマス当日はミックスダブルスの試合が重なるから。少し早いけどプレゼント交換しちゃいましょ?」


「土曜日は時間、何時まで大丈夫なの?」


「あなたは我が家の公認だもの。…外泊許可ももらっているわ」


「…」


リューリのお母さんの顔が思い浮かぶ。


「分かるでしょう?ママは私とあなたがも認めているの」


「……」


親の公認でのセックスってなんだか重くないか?


…というか未成年の娘にそこまで認めていいものだろうか…。


「あなた、ママから本当に信用されているのよ。もう結婚するしかないかもね?」


次に会うときはリューリのお母さんにどういう顔で会えばいいのか…。


「なんというか、本当に良いのかな?僕は君にそういう事をして」


「あなたの年頃ならもっと衝動に駆られて行動するのではなくて?」


…同じ事を松山にも言われたな。


「本当にあなたは真面目すぎるわ。どうしても理由が欲しいなら。そうね。女性と男性の儀式だと思えば良いわ」


「儀式?」


「そう。私達の関係を強くするための、儀式。本来は男女の間には結婚という目に見える形の儀式があるわ。でもその前に関係を強くするために。自分の所有だって主張するための、儀式。納得した?」


自分の中でリューリの言葉を噛み締める。


そして消化をする。


「うん。納得したよ。分かった。じゃあその日はずっと一緒にいよう。当日は夕飯作るから、僕の家で取ろう。次の日の朝まで…ずっと一緒にいよう」


「今から楽しみ。あなたのプランに期待しているわ。エンドが終わった後の複数得点はね」


…さりげなく最後にハードルが上がったような。


これは気合い入れてプランを練る必要がありそうだった。




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