終章 十二月 その17

国際カーリング選手権大会最終日。


午前中は男子の決勝が行われ、午後は女子の決勝が行われる。


僕は今日もカーリング部のメンバーとボランティアをしていた。




試合の間、バックヤードで皆と食事をする。


ありがたい事に運営からお弁当が支給されていた。


「あ~スウェーデンの男子チームカッコいいですねぇ~」


秋さんがお弁当の鮭を摘まみながらため息をつく。


「いや、アメリカチームの髭がたまらぬ」


野山先輩も鮭をつつきながら口を挟む。


「ロシアチーム…美人でしたねぇ…」


友利がうっとりとした表情で話す。


男性陣側でも同じように選手の話題に花が咲く。


「北欧系の女性は素晴らしく美人だね。あの青い瞳にブロンド。たまらないね。是非ともお近づきになりたいものだ」


夏彦先輩もお弁当を食べながら話に加わる。


「先輩は今この場にいる女性陣全てを敵に回しましたですよぅ」


秋さんがじとりと夏彦先輩を睨む。


本当ホントー。日本人女性の敵」


「日本人の黒髪だっていいじゃない」


「女ったらし」


「そうだそうだ。リューリに近付くな」


僕も女性陣に混じってヤジを飛ばしてみる。


「ちょっと待ちたまえ!女性からの文句は甘んじて受けるが、最後のはなんだ?最後のは!?」


「先輩が女性にだらしないからですよ」


「いつ、僕が女性にだらしない態度を取った!?むしろ蔑まれているまである」


「正解ですね。鮭残すなら頂きます」


「僕は好きな物は最後に食べる主義なんだ!って本当に取ったな!?」


「鮭一匹で騒がないで下さいよ」


「鮭弁当から鮭を取ったら何が残るというのだ!?」


「うるさいですね。ホラ、しば漬けあげますから」


「うむ。しば漬けなら許そう」


…許すんだ?


やっぱり意外と面白い人だな。


この人。




午後の女子の決勝戦。


ロシアチームとカナダのチームが対戦する。


僕らも観客席で誘導を終えた後、試合を観戦する。


さすがに世界トップクラスの試合だけあり、これでもか、という程に正確なショットが決まる。


「凄い。本当に上手」


僕達は固唾かたずを飲んで見守っていた。


「知っているか?カナダはカーリングのプロリーグがあるんだ」


隣の野山先輩が試合を見ながら呟く。


「カーリングのプロ…つまり日本で言う野球とか、サッカーみたいにカーリングをしていれば給料がもらえるって事ですか」


「そうだ」


「ちなみに日本のカーラーはどう生活してるんですか」


「ほとんどは他に仕事をしながらだ。チームに所属している選手は給料もらえるようだが、それだってチーム内でジュニア向けのコーチやったりしてるな」


…勝てないはずだと思う。


環境が全く違うのだ。


「日本のカーラーは何人くらいか知っているか?」


「…一万人くらいですか」


「…約三千人だそうだ」


…少ない。やはりまだまだマイナーな競技なのだろうか。


「カナダのカーラーはどれくらいですか?」


「七十万人はいるみたいだな。日本の何倍だ?」


「約二百倍ですかね」


「そうだな。それでも最近はオリンピックでメダル取ったり、ジュニアの世界選手権で上位に入賞したりしてる。凄いよな。頑張ってるよな。日本人は」


「そうですね」


横を見るとリューリ、野山先輩、黒崎、旭先輩、友利、秋さん、部長。ついでに夏彦先輩。


他にも多数のカーラー達が観戦している。


恐らく松山や新田さんもネット動画を見ているだろう。


日本のカーラーは約三千人。


その三千人の一部なのだ、僕達は。


僕などは底辺のカーラーだが、それでも日本のカーリングを支えていると思うと、とても誇らしい気持ちになる。


そして同じ競技をし、同じ時間を共有する仲間達。


僕はなんとも言えない満足感に包まれた。




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