終章 十二月 その13
秋さんとの話の後、自宅で僕は今の自分の状況を整理する。
秋さんとペアを組み年末の関東中部エリアトライアルに出場する事が決定。
そしてチーム黒崎としてはフォース・バイススキップとしてプレーをしていく。
目標は青森。
本大会出場…ではあるがこれはハードルが高すぎる。
それでもどこまで通用するかやってみる。
ミックスダブルスでは何としてでもリューリ、夏彦先輩のペアを倒す。
倒して僕は彼女に相応しいカーラーになる事。
そう決めた時から周りの景色が変わって見えてきた。
自分には何が足りないだろう?
足りない事だらけだが、それでも一つ一つクリアしなければならない。
色々考えるより、思い込みでも、自分の目の前に現れ道を全力で突っ走る。
そうして走った先にはきっと次の景色が見えるはず。
思えば去年の僕は剣道への道が閉ざされていた。
そして東京から軽井沢への移住。
友人達との別れ。
父親に連れて行かれたカーリング場で出会ったカーリング。
カーリングを通じて出会えた様々な人達。
その中でも特別な存在、リューリ。
これも思い込みで見えた道を突っ走った結果だった。
どうすれば、上手になれるだろう?
次の日。
部活の後、僕は野山先輩に時間をもらって相談をした。
「リューリと座間を倒す…か。相変わらず
「茶化さないで下さいよ。僕は真剣なんです」
「茶化してなんかないさ。私の弟子は真っ直ぐで、熱くて。嬉しい限りさ」
「僕は何から取り組むべきでしょうか」
「カーリングに真っ直ぐ取り組んでるヤツの、真っ直ぐな良い質問だな…。カーリングはな、なかなか教えてくれる人がいない。コーチがついてくれるなんて、滅多にない環境だ…。だから自己流でも前に進まなきゃいけない…と私は思う」
首もとのマフラーに顎を
当然先輩の眼鏡も白く曇る。
それを二、三回繰り返した後。
「そうだな。私が自分を客観的に見るときにやるんだが…こんな考え方はどうだ?」
先輩はタブレットPCに文字を描いていく。
◼️デリバリー:ドローショット、テイクアウト、ウィッグ、ピール、ヒットロール
◼️スイープ:スイープ力
◼️戦術:四人制、ミックスダブルス
◼️フィジカル:上半身、下半身
「細かく分ければもっと分けられるけど。今はこんなもんだろ?はい。五段階評価で最高は五点。自己採点してみな?私も評価を付けてやる」
言われるがままに自己採点をしてみる。
◼️デリバリー:ドローショット1、テイクアウト3、ウィッグ1、ピール1、ヒットロール2
◼️スイープ:スイープ力3
◼️戦術:四人制1、ミックスダブルス1
◼️フィジカル:上半身3、下半身3
「ちょwwおま、自分に
先輩が素早く棒グラフにして表す。
「フィジカルはあるけど技術と戦術がない初心者、だな。どうだ?…落ち込むか?」
「落ち込みませんよ。だって初心者ですから」
「そうだ。落ち込むヤツは自信があるから落ち込む訳だ。今のお前には落ち込む要素はないわな。それにフィジカルもない、技術もない、戦術もない、そんな初心者よりははるかにましってことだな。次に大前提、四人制とミックスダブルスは別の競技だ。もちろん同じカーリングだが、四人制で強いカーラーがミックスダブルスでも同じく強いかと言うと、必ずしもそうじゃない。いいか?ミックスダブルスを四人制のついででやるつもりなら辞めろよ?」
眼鏡越しに睨まれる。
「やりませんよ。黒崎達には悪いけど…一番結果を出したいのはミックスダブルスです」
「うん。そうするとミックスダブルスでも四人制のフォースとしても手っ取り早く結果を出すためには…やっぱりドローショットを磨く事かな」
「ドローですか」
「うん。まぁ数字にしなくてもお前の場合ドローが課題っていうのは分かっていたんだけどな?」
「それならこんな回りくどい事しないで最初から教えて下さいよ」
「他人から与えられるのと自分で課題意識持って挑むのとでは違うだろ?」
…確かに。
いきなりお前はこれをやれ、と言われたら自分で考える事をしなかっただろう。
野山先輩は自分で考えろ、と言いたいのだろう。
「では、ドローショットを構成する要素は何ぞや?」
「…難しい質問ですね」
「“難しい”という言葉で考える事を諦めるなよ」
…耳に痛い言葉だった。
「えっと…狙いの正確さ、フォームの安定、ウェイトジャッジ…ですかね」
「そうだな。それに付け加えるなら氷の特性、アイスリーディングってとこか。この要素を徹底して練習するんだ」
「他の要素は分かりますが、アイスリーディングってどう練習するんですか」
「アイスリーディングはシートごとの特徴を掴む事から始めたらどうだ?練習ごと、感じた特徴わメモを取っておけ。他のヤツが試合していたら絶好の機会と思え。このカーリング場を練習で使えている、その強みを活かせ。それからお前の苦手な戦術面だが。今度行われる国際カーリング選手権大会、これが良い機会になるんじゃないか?世界最高クラスの試合が見られるからな。前にも言ったがボランティアとして参加しろ」
矢継ぎ早に言われて面食らったが…。
やれる事はやると僕は決めていた。
「分かりました。参加します」
「よし。決定。申し込み用紙、これな」
先輩が鞄から用紙を取り出し、僕はサインをした。
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