終章 十二月 その12

「で、わへいはミックスダブルス出るのか?」


「うん。出るつもり。松山とも約束したし」


「リューリさんとだろ?」


「いや…リューリとは組まないよ」


僕が言うと黒崎が驚いた顔をする。


「じゃあ誰と組むんだ?」


「うん。それをこれから誘いに行くのだ」


「おう。誰だか分からないが頑張れよ」


僕は黒崎に親指を立てて見せる。




「秋さん、この後話がしたいのだけどいいかな」


黒崎との話が終わった後、友達と話している秋さんを掴まえる。


十一月の合宿で僕と二日間ペアを組んでくれた娘だった。


「をを!?わへいさん!私にですかぁ?良いですよぅ。ひょっとして愛の告白でもしてくれますか…ってリューリ先輩の視線がおっそろしいので冗談じょーだんはここまでにして…」


表情がころころ変わるし、動く度に大きな胸が派手に揺れるしで見ていて本当に飽きない娘だと思う。


「時間は大丈夫なんで良いですよぅ。二階のラウンジですかぁ?」


「そうだね。先に行って待ってるよ」


「あ、そうですね。私、あのシャワー浴びてから行きますので」


秋さんの友達らしき娘達にもぺこりと頭を下げ、僕はその場を後にする。


後ろから


「アキなんで声掛けられたの?まさか夏彦先輩の件?」


だの、


「分からないわよぅ。けど、そうかも!?」


「すごい女の子に尽くすし、優しいって噂だよね。リューリ先輩、羨ましいー。なになに?アキも尽くされちゃうの?」


「そ、そんなわけないわよぅ」


だの…聞こえてくる。


つくづく女の子って噂好きだなぁと思う。


何を話すか、ではなく、話をする事自体が女の子にとっての目的になっているのだと、最近ようやく理解した。


まだまだ女の子に対する知識が足りない…痛感する事がある。


ただ、女の子達の話を聞いていると、少なくとも僕の行いは“女の子に尽くしている”と認められているようだ。




二階のラウンジでトマトジュースを飲みながら秋さんを待つ。


いつもであればリューリを待ち、リューリと話し、リューリをマッサージし…。


僕の生活リューリを中心に回っているなと苦笑する。


「お待たせしましたぁ」


暴力的な(?)胸をゆさゆさ揺らしながら秋さんが近付き、席に座る。


秋さんはシャワーを浴びた後のシャンプーや石鹸の香りを身にまとっていた。


使っているシャンプーの違いからか、リューリの香りとは異なる香りがする。


先程までのジャージからTシャツにパーカーというラフな格好。


二階のラウンジは暖房が効いているからこその薄着。


普段抑圧されている胸が今は開放的で、暴力的なまでの暴力を見せ付ける(?)


そして僕は極力直視しないよう、視線を逸らす。


「それで、改まって話しっていうと。リューリ先輩の事ですか?」


いきなり秋さんから切り出してくる。


「えっ…と。正解」


ちょっと嫌な予感。


以前にも彼女達の間では事実とはかなり異なった噂が広まっていた。


「やっぱり!夏彦先輩がリューリ先輩を無理矢理ペアにしたって聞きましたよぅ!!許せませんよぅ!二人の熱い熱い仲を引き裂くなんて!!でも障害で燃え上がる二人の愛情!!想いを寄せる二人が戦わなければならない現実っ!!切ない想いをストーンに乗せ、恋人にぶつける氷上の熱き戦い!乙女の本懐ここにあり!!」


秋さんは手を合わせてうっとりとしている。


うん、予想通りよく分からない噂になっていた。


恋人にぶつけるストーンって…。


怪我じゃ済まないぞ?


しかしこれじゃ夏彦先輩が可哀相だが…。


どうやらリューリはすでに夏彦先輩とペアを組んだようだ。


それがわずか一日でここまで話が膨らんでいるとは。


恐るべし。


女の子トーク。


「夏彦先輩からリューリ先輩を取り戻すために、挑戦状を叩き付けたって話しですよね!?分かります分かります!良いですよぅ。私でよければお手伝いします!立ち向かいましょう!それでその間に私に浮気なんかしてもいいんですよぅ?」


「うん。最後はともかくそんな事情なんだ。関東中部エリアトライアル、一緒に出てくれるかな?」


よっろこんで!!」


秋さんはがっちりと僕の腕を掴んだ。


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