終章 十二月 その10

リューリとの話が終わった後、僕らは並んで座り、開け放たれた天窓から夜空を眺めていた。


さすがに窓を開けると寒く、二人で毛布にくるまっていた。


「ねぇ、わへい。あなた関東中部エリアトライアル出てみない?」


僕の肩にもたれ掛かりながらリューリが口を開く。


関東中部エリアトライアル。


以前に松山から誘われた全国高等学校カーリング選手権大会の予選。


関東から中部地方のチームで争われる大会。


年末に行われるその大会を勝ち上がる事が、年明けの青森で開催される本大会へと続いて行く。


正直なところ並み居る強豪を抑えて勝てるはずはない。


だが。


松山とは約束してしまった。


そして今、無理だと感じているなら?


いつなら挑めるのか。


一年後か?


二年後か?


多分、松山ならそう僕に言うんじゃないかなと思う。


「…出るよ。トライアル。四人制とミックスダブルスと両方大会があるの?」


「そう。両方。日程は重ならないからチームメイトがOKなら両方出なさいな」


「…分かったよ。そこで、僕は君達を倒してみせるよ」


「あら?頼もしい。でも…」


ぐっと顔を近付ける、リューリ。


「もう私に勝つつもり?そう簡単には、いかないわよ」


凄い圧を感じる。


「それでも。現状のスペックでやるだけやってみるさ。お手柔らかに、なんて言わないよ。全力で、来て」


「良いわ。またぐうの音も出ない程、負かせてあげるわ。そして、意気消沈してるあなたを慰めてあげる」


「…リューリさん。ちょいと愛情の方向が歪んで来てやしませんか?」


「そうね。私も知らなかったわ。でもこれが本当の私なのね」


「…物理的には痛め付けないでね?」


「……大丈夫よ。たぶん」


「その間が怖いんですが」


「…いつかやったらごめんなさい。先に謝っておくわ」


リューリがペロリと舌を出す。


「リリーちゃん?そろそろわへい君帰る時間じゃない?」


廊下からリューリのお母さんの声。


「いまいくわ。…時間ね」


「うん。楽しかった。リューリの部屋、素敵だね。また来たい」


「もちろん。私もママも歓迎よ。あなたはもうママの公認だわ。いつでも、どうぞ」


軽く唇を重ねる。


「…続きはまた、今度。月末に、ね?」


「…うん」


そして僕はリューリとリューリのお母さんに見送られ、リューリの家を後にする。


火照った身体に夜の冷気が心地良い…のは最初だけで耳や指先など外気に触れている部分が冷気で急激に痛くなる。


でも見上げるとそのまま宇宙につながっていそうな夜空と星の海。


リューリに話したい事を言い終え、緊張感から解放された僕は、踊り出したい程の高揚感に包まれる。


“男”になる日も決まった。


…今日はなんという日だろう。


僕は満点の星空の下、我が家へと帰路に着いた。


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