終章 十二月 その9

「ひとつめの話はこれで終わり?ふたつめは何かしら?」


「ふたつめは…」


「ふたつめは?」


リューリがぐいっと顔を近付ける。


「あの日を…決めたい」


「あの日ってなんの日?」


リューリが意地悪な微笑みで覗き込んでくる。


「アレ…する日」


「アレってなぁに?」


本当に、本当にこの愛おしい方は…。


最近僕をいじめて楽しんでいる節があるが…。


気のせいではないだろう。


「君と…セックスする、日」


「はい。よく言えました」


僕の頭を撫でる。


「今日、しちゃう?」


「いや、君、生理中でしょう?」


「さすがだわ。よく把握してるわね」


「…普通彼氏が彼女の生理周期把握していたら引くだろうけどね?」


「どうしてかしら?私は嬉しいわよ?それだけ関心持ってくれているって事でしょう?」


「…そう思ってくれるなら僕も嬉しいかな。それで僕なりに日程を考えたのだけど」


「…あなたそういうところ、本当に好きだわ。真面目に考えてくれたのね」


「…うん。その流れに任せてっていうのが良いのかもしれないけど。どこでするのかとか、考える必要あるし。僕は初めてだし。準備もしなきゃいけないのかな…とか」


しどろもどろで話す僕。


猛烈に恥ずかしい。


すでに顔は真っ赤だろう。


「よろしい。では、発言を許可する。君の計画を聞かせてくれたまえ。森島少尉」


リューリはとても楽しそうだ。


何故か軍人さんっぽい口調になる。


「はい。森島。意見具申致します」


僕もリューリの口調に合わせてみる。


「結論から言うと、日程的には第三週目の土曜日がいいかな、と」


「理由は?」


「第一に君の体調。その、生理が終わって一週間程経っているから君…がその…そういう日だ。…分かるでしょう?」


ここまで頑張って話してきたが限界。


恥ずかしくて顔が爆発しそう。


それなのにこの僕の愛おしい彼女ときたら、僕の恥ずかしがっている姿を見て心底楽しんでいる様子で。


「分からないわ。私のどういう日なのかしら」


「…君が、性的に興奮しやすい日です」


仕方なく僕もはっきりと言う。


「なるほど、ね。納得だわ。それで場所は?どこで?」


「場所…は僕の部屋。理由は親父がこの日はいないから。…しかも一晩中」


「聞けば聞くほど完璧なプランね。森島少尉、君の作戦は採用だわ」


…あっさり採用された。


「ありがたき幸せ」


デートのプランを立てているみたいだけど…。


僕らが話しているのは二人で身体を重ねる日の事で…。


「でもこういう話を計画立てる僕ってどうなんだろう?」


そのままリューリに聞いてみる。


「あなたが真面目に考えてくれて、私が否定するわけないでしょう?しかも筋が通ってるわ。これからデートのプランはあなたに全部任せようかしら」


言われて僕らはまともにデートすらしていない事に気付く。


いや、二人で出掛ける事はあった。


しかし必ずカーリングの練習が絡んでいたから果たしてデートと言えるだろうか。


遠回りに計画しろって言われてるかな。


「…今度きちんとしたデート計画するよ」


「期待してるわ。それにしても…」


リューリがすっと立ちあがる。


行灯あんどん風の灯りがぼんやりと彼女を照らし出す。


「…あと三週間。…楽しみだわ。こんなに何かが待ち遠しいなんて。子供の時の遠足やクリスマスみたい、ね」


そして妖艶に微笑んだ。


その微笑みに改めて心を奪われる。


あと三週間。


そわそわして何も手に付かないかもしれない。




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