終章 十二月 その7

僕達は食事を終え片付けを始める。


僕も自然と片付けに加わり、リューリもリューリのお母さんもそれを止める事はない。


お客様扱いをされないという事がとても特別な事と思えた。


「洗い物、拭きますよ」


「さすがにそれは良いわ」


リューリのお母さんがにっこり笑いながら言う。


「わへい、私の部屋、行く?」


「…うん。行きたい」


「ママ、部屋に行っているからね」


「はい。あまり遅くならないように、ね?わへい君も帰る時間があるでしょうから」


僕とリューリはキッチンを出て玄関へ。


吹き抜けの脇にある階段を上り、二階の廊下を右に折れる。


ちょうどキッチンの真上辺りにリューリの部屋はあるようだ。


「どうぞ」


「…お邪魔します?」


「どうして疑問系?」


「…女の子の部屋って入るの初めてで。何て言っていたいいか分からなくて」


「嬉しい。あなたの初めて、また頂いちゃったわね」


リューリの部屋に入る。


入った瞬間に僕は二昔前の時代にタイムスリップしたような錯覚に襲われる。


リューリの部屋は八畳程。


室内の家具は木製の年期の入った家具ばかりだった。


窓はステンドグラスで彩られている。


そのステンドグラスもすりガラスとなっていて、見ようによってはまるでカラフルな障子だ。


そして中央には琉球畳のような置き畳で一段高くなっている。


その置き畳の上に赤い絨毯、それにベッドと座椅子、座椅子と同じ高さの机。


机の脇にはサイドテーブル。


サイドテーブルの上には行灯あんどんのような照明がぼんやりと光を放っている。


天井にはやはりステンドグラスの天窓と、シャンデリアを模した照明。


ベッドの掛け布団も座椅子の座布団も、赤い梅の花の模様で統一されている。


昔の和風だけではない、現代の洋風ではない、和と洋が複雑に織り込まれたその部屋は、いまの日本という国が忘れてしまった時代をひっそりと僕に教えてくれていた。


…なんという素敵な部屋だろう。


見ていて自然と鳥肌がたった。


リューリに倣って置き畳の手前でスリッパを脱ぐ。


ほのかに部屋からリューリと同じ香りがする。


「どうぞ。座って頂戴」


畳の上の座布団をぽんぽんとリューリが叩く。


僕は座布団の上に腰を下ろす。


「私の部屋に入るのは男の子ではあなたが初めてね」


座布団に座り周りをぐるっと一周見渡す。


ため息が出るほど、素敵だった。


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