終章 十二月 その5

「私のパパとママ、カーラーだったの」


リューリがポツリポツリと話し始める。


「ママはフィンランドのカーラーで軽井沢でパパと出会った…というわけ。私は、ママの祖国には行ったことないけどね」


彼女がハーフだということは薄々分かっていたけど、きちんと聞くのは初めてだった。


初めて言葉を交わした時、リューリは言っていた。


私は、日本人だ、と。


そこには彼女なりの何か体験が絡んだ言葉だったのだろう。


「きちんと、話した事、なかったわね。でもね、私は…」


「僕は、リューリがどこの誰でも関係ないよ」


同じ事を言おうとしたリューリの言葉をさえぎる。


「そのまま…、その、好きだから」


「ふふ、知ってるわ。ちょっと弱気なところを見せてそう言って欲しかっただけよ」


「言って欲しければいくらでも」


「本当かしら?あなた照れて言わないでしょう?」


それは確かにそうかも。


少しの沈黙。


「リリーちゃん、お手伝い頼めるかしら?」


「はい。ちょっと待っててね、わへい」


リューリがキッチンに向かう。


しばらく一人になり、僕は辺りをなんとなく見回しながら、彼女達を待つ。


ただ、やはり待つだけというのは性に合わず僕もキッチンに向かう。


「お手伝い、します」


リューリとリューリのお母さんに声を掛ける。


“お客様は座ってなさい”という言葉を予想していたのだが。


「…わへいの性格だと、手伝わずにいられないわよね。じゃあ一緒に準備する?」


「ありがとう、分かってくれて」


そして僕も食器や料理を一緒に運ぶ。


一緒に準備することで、僕達は本当の家族のように一体感を得ることが出来た。


「それじゃ、頂きましょう。乾杯」


リューリのお母さんがグラスを差し出し僕達もそれに合わせる。


グラスに入っている紺色の液体を飲み干す。


…おそらくブルーベリーのジュースかな?


酸っぱすぎず思っていたよりも飲みやすかった。


「失敗したくないから、得意な料理にしちゃったの。口に合うといいのだけど」


リューリのお母さんが小首を傾げながら言う。


その表情はとてもチャーミングだった。


…歳はいくつだろう。


さすがに聞くことは出来ないが。


並べられた料理はおそらくお母さんの母国の料理なのだろう。


それがなんという料理か、僕には分からないが野菜とサーモンを使ったシチューらしきものやミートボール状の物、ピクルス…はさすがに理解出来た。


その他ライ麦パンなど。


きっと日本人が食べやすい料理を選んで出してくれたのだろう。


僕にも食べやすい物が多かった。


出された料理は残すわけにはいかないというのが僕のポリシーなので、極力全て頂く事にした。


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