第六章 十一月 その31

交流会後の夜。


今日もリューリや部長、野山先輩など昨日宿泊組は本日も引き続き宿泊している。


今日は黒崎も宿泊する事になっていた。


僕らくらいの男女が集まると自然と恋愛の話しに花が咲く。


「松山ってさ、ひょっとして結構モテる?」


僕は気になっていた事を聞いてみる。


「ああ、まぁそうだな。割りとモテるよ」


松山が新田さんを気にしながら言う。


「特に歳上の女子からは昔からモテたよ」


やっぱり。


松山には中性的な魅力がある。


下手をしたら、男女からそれぞれモテるだろう。


「でもよ。俺は同性愛者じゃない」


松山の言葉にハッとする。


松山は精神的に男子だ。


女子から好かれたとしても、男として見られていなければ…。


それこそ、興味本位でが好きな歳上の女子が手を出してきたら。


松山は今までどんな風に傷ついてきたのだろう。


そして同じようにが好みの男子が近付いてきたら。


自分の身に置き換えて僕はゾッとする。


新田さんは、松山を男として見て支えてくれてるのだろう。


「で、森島はリューリさんとどうなの?もうヤっちゃった?」


…この辺は本当に高校生男子だ。


「…まだだよ。昨日女子が話してただろう?」


「直接本人に聞きたいだろ?」


その後松山が何か物言いたげだったが、結局何も言わなかった。




食堂で一通り騒いだ後、僕達は自分の部屋に戻る。


黒崎は旭先輩と友利の部屋に泊まる事になっていた。


部屋で松山が明日に備えて荷物の片付けを始める。


ふ、と手を止めて松山が僕を見る。


「リューリさん、てさ。その…男性経験あるんだろ」


「…あるよ」


「お前は?」


「…ない」


「お前達の雰囲気でまだ何もヤってないんだ?」


「うん。それは…まだ早いかなと」


「リューリさんがそう言ってる?」


「……」


僕は考え込む。


「…それは…ない」


「ならお前がそう考えてる?」


「そう…だな」


「リューリさんをどうこうしたいとか、抱きたいとか、考えないのか?」


「…考えるよ」


「なら何で?タイミングが合わないとか」


「…それも違うかな。合わせようと思えば、出来るはず」


「わっかんねぇなぁ。お前性欲ないの?」


「あるよ。もちろん。でも、その彼女の事を考えると…手を出しちゃいけないって…」


そこでまた僕は言い訳をしている自分に気付く。


以前にもそれで野山先輩に叱られたっけ。


「リューリさんが拒んでるとか?」


「…違う。雰囲気にはなった。でも僕が…」


そして僕は、情けない自分を認める。


「…僕に覚悟がない」


「それだな。お前○○○付いてるのか。いやむしろ使わないなら俺に寄越せよ。俺が佳乃に使うから」


「……」


松山が言っているのは。


物理的に無理だろ、とかそういう次元の話ではない。


「お前、なぁ。何歳まで生きるつもり?」


この松山の質問も一般的な答えを求めていない事も僕は理解する。


「明日お前確実に生きてるの?十日後は?一年後は?」


…松山は後悔するな、後悔させるなと言っているのだ。


「俺達の年代で勢い、感情に任せて行動しなくてどーするんだよ?お前枯れきった爺さんか」


松山の言葉は荒っぽいが僕の胸に響いた。


つまり、松山は松山の心から僕の心に呼び掛けている。


「思い込みでも突っ走って、壁に思い切りぶつかって、ケガして失敗して、それでもまた突っ走る。コレだろ?俺達は。どういう壁か…厚いかな?高いかな…とかずっと遠くから見てるより一回ぶつかれよ。好きなんだろ」


「…好きだ」


「彼女、待ってるんじゃないのか?待たせるなよ。女にだって…」


松山は言葉を区切り、目を閉じる。


この時ばかりは自分を隠すように。


「女だって性欲は…ある


松山はふぅっのため息をついて目を開ける。


その時には松山だった。


「あ、でも」


松山が真顔になる。


「避妊はしろよ。あとどんなだったか後で教えてくれ」


「…最後のがなければすごく良い話だったな」


本当ホント、それな」


僕らは笑いあった。


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