第六章 十一月 その28

練習の後、今日も僕の家の食堂で交流会が開かれる。


ただし今日は僕らがおもてなしするのではなく。


試合で優勝したチームの高校がメインで行う。


野山先輩いわく、元々カーリングでは試合後に勝ったチームが一杯奢るという風習があるようだ。


ミックスダブルスでの優勝はリューリ達私立学園。


チーム戦では接戦の末KF高校だった。


キッチンでは僕も手伝ってはいるが、配膳などはKF高校のメンバーが行っていた。


「いやぁ、明日でお別れとなると寂しいですなぁ」


「杉村先生も北海道までお越しになればよろしいじゃないですか」


「是非、またお会いしたいですな」


「年末になれば東北各地でカーリングの催しがありますから、それに参加しながら北海道まで。どうですか」


「あはは…牧村先生は冗談がお上手で」


「いえ、私は逆のルートで参加しますけどね」


「……」


杉村先生が牧村先生を誘っているが脈は薄いようだ。


「ホント、すごいわ。バカーラーっていうのは」


野山先輩がカウンター席でワイングラスを傾けながら呟く。


ちなみに中味はトマトジュースだったりする。


「…今日はこてんぱんだったな」


「リューリと夏彦先輩、強かったですよ。野山先輩達も?」


「負けだ、負け。悔しいが強かったぞ、あいつら」


「…ペア、代わるのがリューリの為になりますかね」


「…やっぱり。そんな事考えてたか」


「…分かります?」


「私はお前の師匠だぞ。弟子が暗黒面ダークサイドに堕ちそうになってたらわかるさ」


そう言えばリューリに告白しようかどうか、迷っていた時も野山先輩は背中を押してくれたっけ。


「どうするべきですかね」


「それは聞き方が違うだろ。聞くならお前がどうしたいか、それに対して客観的な意見を求める事だ」


野山先輩はいつも的確なアドバイスをくれる。


「そうですね。自分が悪くありました」


「なんだそりゃ、自衛隊か」


「失礼しました。リューリとのペア、解消すべきか悩んでます。…解消して夏彦先輩とリューリでペアを組むのが彼女の為になるんじゃないか…そう考えてます」


「本当にリューリの為だけ?」


「…違います。自分で辛くなってきたんです。リューリと組んでいる事が」


「森ノ宮…だっけ?彼女と組むのはどうだった?」


「楽しかったです。久しぶりに。カーリングってこうだよなって、楽しむスポーツだよなって…思い出しました」


「確認しておくが…“ざまぁ夏彦”に何か言われて、悩んでる訳じゃないよな?アイツが余計なコト言ったのなら私がアイツぶん殴ってくるけど」


真っ直ぐな野山先輩らしい。


僕はこの師匠の事を頼もしく思う。


「違います。ペアを代われとは言われましたが。その前から僕の中でくすぶっていたのは事実です。夏彦先輩に言われて悩んでる訳ではないです」


「なら良い。私から言える事は、リューリと二人で話す事。一人で決めるなよ」


「…はい」


その時二人でどういう結論を出すのだろう。


でも、それでぶつかっても、二人で考えて結果を出す。


ぶつかって、お互いがお互いに合わせていこう。


そう、僕は心に決める。


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