第六章 十一月 その27
その後も全て先手を打たれ、着実に敗北へと導かれていく。
「君が味方で良かったよ」
「私の味方はわへいだけだわ。あなたはただのチームメイト。私と組んだことは後悔するわよ」
「…」
何事かリューリと夏彦先輩が話しているが、僕には聞こえてこなかった。
「わへいさん、大丈夫です?」
「うん。ダイジョブ。元々勝てる相手ではなかったし、ね。負け試合を楽しもう。自分の納得がいくショットが一つあれば、それでヨシ、としようよ」
「はい!」
リューリの隣にいるのが僕だったら?
おそらくこんな風には出来ないだろう。
最近感じていた自分とリューリの力量差。
本当に悔しいが、リューリは夏彦先輩と組んでいるのが良いのかもしれない。
「ありがとうございました」
結局、第三エンドでこちらから握手を求める事となる。
これは“コンシード”と言い、つまるところのギブアップ。
ただ、自分の敗北を認めるだけではなく、相手の勝利を讃えるため、カーリングでは“コンシード”という言葉が用いられる。
「こちらこそありがとう」
リューリが僕の手を握り返す。
「全力でやってくれて、ありがとう。リューリ」
「何か得るものがあったかしら?」
「…訳も分からない内に負けてた…というのが全てだけれど。でも先の展開を読まれているのは分かった。完敗」
「戦術面での勉強が課題かしらね」
「そうだね。夏彦先輩もありがとうございました」
「まぁ、当然の結果だね。例の件、考えておいてくれたまえ」
「嫌ですけどね」
「ちょっとは考えたまえよ」
「秋さんも、ありがとう。楽しかったよ。本当に」
「私も貴重な経験が積めました。よろしければ、また組んでもらえますか」
「それは…」
ちらりとリューリを見る。
「…考えておくよ。後半の試合は息が合っていたと思う」
秋さんの顔がパアッと明るくなる。
「はいっ。またお願いします!」
リューリが何か言いたそうにしているが…これは僕の本心だった。
まずはカーリングを楽しむこと。
それを思い出させてくれたのは秋さんだった。
このペアなら僕も自分を嫌いにならずに上達出来るかもしれない。
そう、僕には思えた。
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