第六章 十一月 その26

リューリ、夏彦先輩とのチームとの試合が始まる。


決勝戦のみ第四エンドまで行う変則ルール。


パワープレーは各チーム一回ずつ。


第一エンド。


僕らは後攻となる。


今回は秋さんが一投目と、五投目、僕がそれ以外投げる事としていた。


これは秋さんのドローショットと僕のテイクアウトの組み合わせを考えた結果だ。


ミックスダブルスの場合中盤までハウス内にストーンが溜まる展開が多い。


そのため、どこかでテイクアウトをする必要が出てくる。


僕の役目はハウス内を綺麗にして、秋さんのラストロックに備えること。


リューリ、夏彦先輩のチームは一投目は夏彦先輩。


ハウスの中の僕らのストーンをわずかに後ろにずらしてくる。


やはり夏彦先輩は上手い。


秋さんの一投はティーラインを超えてしまう。


リューリのストーンは夏彦先輩のストーンをわずかに押しさらに僕らのストーンを後ろに下げていく。


僕はテイクアウトをするチャンスを伺うが…。


自分達のストーンがティーラインより後ろにあるから受け皿みたいだ…。


リューリ達のストーンをテイクアウトすると自分達のストーンが後方で受け皿となり、リューリ達のストーンを守る形になっている。


…今は我慢か…。


僕はリューリ達のストーンを前から押して下げようとするが。


上手く下げることが出来ない。


次のリューリの番となる。


向こうのハウス内でリューリと夏彦先輩が相談をしている。


「どうする?また同じコースで溜めていこうか?」


「いいえ、手前のガードを外すわ」


「ここでガード外すのかい?何のために?」


「わへいは…彼は手前のガードから飛ばしてくるわ。その芽を潰すために」


「なら、ヒット・ステイで?」


「この角度でヒット・ステイは無理だから…ピールして横に並ぶように二つ残せればいいわ。ウェイトジャッジよろしく?」


「OK」


「角度この辺り。…失敗しないでね?」


「りょ…了解」


リューリの次の一投。


ガードをずらしていく。


あのショットの意味は…なんだろう。


僕はハウスを見て愕然とする。


飛ばすストーンが、ない。


しかも手前にストーンが平行に並んでおり真ん中にストーンを通すことすら出来ない。


僕がある程度ハウス内が溜まった段階で前からガードストーンを飛ばすことが読まれている。


つまりは僕の好みのようなものだが。


ちらりとリューリを見る。


僕がリューリを見ることすらも、分かっていたのだろう。


目が合う。


目を細めて微笑んでいる。


…ヒヤリとした。


完全に手の平の上で踊らされている。


「わへいさん、どうですか?」


心配そうな、秋さんの声で我に帰る。


「うん、いっそガードを二つ外してみようか」


「ん、OKです」


僕の一投。


しかし、二つのガードを外す事に成功はするが、結局自分のストーンがその場でガードとして残る。


リューリの次の一投はまたしてもガードをずらすピール。


先程と全く同じ盤面になってしまった。


ストーンを無駄に使わされた…。


一つ一つ希望の芽が潰されていく。


『私の手の中でもがきなさい…』


そう、リューリが言っているのが聞こえた気がした。

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